第63話 12 救出?
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最後の一体の魔物が倒れた瞬間、この戦いは完全に幕を閉じた。
ニックスは剣を収めると、すぐさまテントへと駆け戻り、星の無事を確認した。
星が何事もなく眠っているのを見て、ニックスはようやく安堵の息をついた。
そのとき、彼の視線の先に、戻ってきたシャーとエリーサ、そしてどこか見覚えのある男の姿があった。
その男は両手両足を縛られ、エリサの魔法によって宙に浮かされたまま引きずられている。
「お前か……幻術を使ったのは。なるほど、だから俺を幻術の中に入れなかったのか。わざと俺だけを引き離したんだな。」
ニックスが睨みつけるその男こそ、以前ニックスたちに“終わらない一日”の幻術をかけた張本人だった。
「久しぶりだね、ニックス君。正直なところ、ずっと会いたかったんだよ。とっても、とってもねぇ……」
男は以前と同じく、妙に抑揚のある気味の悪い声で語りかけてくる。
「お前も魔王軍に入ったのか? まあ、お前の性格なら不思議じゃないけどな。でもな――俺たちを甘く見たな。」
「そうそう!」とエリーサがすぐに頷く。
「私たちはもう前とは違うの。今の私たちなら、あんたなんて一瞬で倒せるわ!」
エリーサは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん、それは私が幻術であいつの幻術を打ち破ったからでしょ?」
横でシャーが呆れたように言う。
だが、男は二人の言葉をまるで聞いていないかのように、うっとりとした表情でニックスを見つめた。
「そんな冷たいこと言わないでよ、ニックス君。僕たち、いい友達じゃないか。
君が見せてくれた、あの“美しく混沌とした光景”、僕、今でも忘れられないんだよ。」
「……お前と話してると頭が痛くなるな。」
ニックスはこめかみを押さえ、深くため息をついた。
「まあまあ、そんなこと言わないで。僕、君たちにすごく大きな“助け”をしてあげたんだよ?
今回の襲撃、実は僕が計画したんだ。魔王軍に入ったのも、それが理由さ。
でもね、いずれ君たちは僕に感謝することになる――ふふ、いや、きっと“話がしたくなる”んだよ。
その時を、楽しみにしてるよ。ニックス君……ふふふふ、あははははっ!」
男の狂った笑い声が、静まり返った戦場に不気味に響き渡った。
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