第63話 11 エピローグ
幽霊の姿は再び薄れ、消えていった。
ニックスは深く息を吸い、現実へ意識を戻す。
――答えは単純だった。
重大な問題が発生したせいで、幽霊の力を今は正確に扱えない。
あの“半身共有”による戦闘も、現在は不可能。
つまり――大幅な弱体化だ。
「仕方ない……この部分は幽霊に任せるしかない。俺がやるべき事は変わらない。」
ニックスは眠る星に視線を落とす。
優しく、囁くように呼びかけた。
「起きて、星。そろそろ起きる時間だよ。」
星はぼんやりと目を開き、猫のように伸びをする。
「夜……?もう朝なの?あぁ、早いなぁ……昨日、夢見たんだよ……」
ニックスは苦い笑みを浮かべる。
「残念だが、違う。問題が起きた。襲撃だ。そして俺の能力が少し不安定だ。だから、君はこのテントの中で“隠れて”いて。」
煙火型の信号棒を手渡す。
「もし何か起きたら、これを撃って。すぐ戻る。幸い、敵の数は多くない。君は絶対に無事でいろ。」
星は強く頷く。
ニックスはテントを出て、念のため外側に紫色の防壁を一枚張った。
「……力が戻ってきてる。フィード側は片がついたか。幻術はシャアとエリッサに任せる。そして俺がやるべきは――」
視線は、戦闘の光が揺れる“回復陣地”の方へ向いた。
次の瞬間、ニックスはそこへ駆け出した。
――やはり魔物がいた。
人数の少ない兵士たちは必死に抗戦しており、状況はすでに臨界。血の匂いと砂埃が混じり、夜気を焼く。
その時――
紫の斬光が降り注ぐ。
巨大な魔力剣気が地を薙ぎ、あと少しで兵士にも当たるところだった。
ニックスが天から落ちる。
「――悪い。今は威力の制御が上手くいかない。時々、異常に出力が暴走する。」
ニックスは兵士へ視線を向ける。
「ここは俺に任せろ。お前らは傷者を運べ。」
兵士達は一瞬目を見開いたが、すぐに頷き、動き出す。
ニックスは魔力剣を構えた。
「――さあ。この不意の戦いに、俺が幕を下ろそう。」
紫の魔力が、渦を巻く。
円舞曲・連撃。




