第9話09戦争の終わり
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「どうした?これが君の必殺技か?」
ニックスは冷笑を浮かべ、。
「もっと続けてみろよ。何発でも試してみな。」
だが、その余裕とは裏腹に、死のコンクリートの内心は焦りで渦巻いていた。
(…クソッ、俺の最強の一撃をまともに受けたはずなのに、まだ立っているとは…。あの二人、しぶとい…!)
心の中で呟きながら、死のコンクリートは自分の残りの魔力を静かに計算した。もう四分の一も残っていない。必殺技を繰り出す余力は、とうに尽きていた。
(この残りの魔力で二人を仕留められるか…?下手に攻めて逆襲されるより、今は慎重にいくべきだ。)
死のコンクリートは奥歯を噛みしめ、拳を震わせた。その怒りと屈辱が顔を歪める。
「お前たち二人…今日の恥辱は絶対に忘れないぞ。」
そう吐き捨てると、彼は足元のコンクリートを歪ませ、まるで黒い泥のように変え、それを即席のスケートボードに変えて飛び乗った。
「この借りは、必ず返してやる…!」
その声が夜風に溶け、彼の姿は闇の中へと消えていった。
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「奴は…もう行ったか、ニックス。」
フィードが、血の滲んだ唇をかすかに動かして尋ねた。
「ああ…逃げたよ。」
ニックスは荒い息をつきながら答えた。
やがて煙が晴れ、二人の姿がはっきりと現れた。
全身傷だらけで、血にまみれ、瓦礫の中に横たわる二人。まるで戦場に打ち捨てられた敗残兵のようだった。
「もし…あいつが俺たちの虚張声勢に騙されなかったら、俺たちは確実に死んでいたよ…」
フィードの声には、安堵と絶望が入り混じっていた。
「今…俺はもう…動けない。」
ニックスは呻くように言い、瞼が重く落ちそうになる。視界はぼやけ、世界が遠のいていくような感覚。
「フィード…俺…気を失いそうだ…」
「しっかりしろ、ニックス!今、気を失ったら…魔物に食われるかもしれ…な…」
しかし、フィード自身も意識が朦朧とし、言葉を終える前に目の前が真っ暗になった。
「……食われる……」
そう呟いたまま、フィードもニックスと同じく意識を手放した。
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どれほどの時間が経ったのか分からない。
ニックスが次に目を覚ました時、彼は見知らぬ天井を見つめていた。
淡い陽光が白いカーテン越しに差し込み、部屋全体を柔らかな光で包んでいた。
(ここは…どこだ…?)
ニックスがゆっくりと目を動かすと、体は重く、思うように動かせなかった。
包帯でぐるぐる巻きにされた体、両腕にはしっかりとギプスがはめられていた。
「…ここで…何が起こったんだ…?」
彼がかすれた声で呟くと、すぐ隣から懐かしい声が響いた。
「ニックス…やっと目が覚めたんだな。」
その声の主はフィードだった。彼もまた、包帯に覆われた姿で、椅子に座ったまま微笑んでいた。
「…ここはどこだ?」
ニックスはかすれた声で問いかける。
「病院だよ。」フィードは短く答えた後、少し柔らかい口調で続けた。「俺たち、運が良かったんだぜ。」
「…運が?」
フィードは頷いた。
「俺たちが気を失った後、近くを巡回していた冒険者たちが偶然通りかかって、俺たちを救助してくれたんだ。もしあのまま誰も来なかったら…」
彼は言葉を濁し、乾いた笑みを浮かべた。
「正直、俺たちは本当に運が良かったよ。」
ニックスは天井を見上げ、深く息をついた。その息が、胸の奥に残っていた恐怖を少しだけ和らげた。
戦いは終わった――だが、心のどこかで、彼はまだ不安を拭いきれずにいた。
嵐の夜は過ぎ去った。だが、次の嵐がいつ訪れるか、誰にも分からない。
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