Overdrive BR
1.宇宙に漂うもの
彼は見えない。この世界が。
ここは宇宙。彼はポッドに入って眠っている。まるで死んでいるかのように。
20xx年地球 都市クウォーリー アブソリュート・デルタ・カンパニー、テストルームにて。
「ルーン!早く来い!置いていくぞ!」
「待ってよ、ラグラン!」
ラグランと呼ばれた中年男性は筋肉隆々で、後ろに束ねた長髪が特徴的な人物だ。ルーンと呼ばれた青年はいかにも女たらしといって風体で、ラグランの後を慌ててついていく。
ふたりとも宇宙服のようなものを着ている。
「宇宙服じゃないわよ~。対ロボット用アーマーって呼んで~。」
のんびりな口調で女性が一人、テストルームに入ってきた。
女性の名前はモイ。このカンパニーのリードメカニックだ。姫系衣装に包まれていてとても可愛らしい印象を残す。
「こんな平和な時代に、必要かね、このアーマー。」
“アーマー”の部分を、宇宙服を訂正しましたといわんばかりに強調しつつラグランが言う。
「仕方ないじゃない、私たちはなんでも屋なんでしょ~?何かあったら危ないじゃない~。」
「それはそうだけど、このアーマー着るのボク苦手だよ。」
ルーンもしぶしぶアーマーを着たというふうである。
どうやら男性二人には不評のようだ。
“なんでも屋”
そうモイが言ったのは正しい。アブソリュート・デルタ・カンパニーは表向きはロボット開発会社だが、ウラでは重要な仕事を任されることがたまにある。それは、ラグランが元軍人であることの延長線上で危険な仕事が入るのだ。
「さあ、テスト開始よ~。テストルームに入って~。」
テストルームを出るモイとは対照的に、仕方なさそうにルームに入るラグランとルーン。
『テストを開始します。モデル1~5、準備完了。』
無機質な音声とともに、人型のモデルが5対出現してきた。
ラグランは気を引き締めるために頬を掌でばしばしっと叩きながら気合を入れる。
「よし、やるか!」
「うん!」
ラグランとルーンが戦闘態勢に入る。それとともに、モデル達がこちらに向かってきた!拳をラグランとルーンに対して繰り出す!2人は拳を受け止め、モデル達に向かって蹴り上げる!
すると、モデルは消失した。
続けて他のモデルが戦闘態勢に入るが、2人はあっという間に伸してしまった。
『テストを終了します。』
「二人ともお疲れ様~!」
テストルームに入りながら、労いの言葉をかけるモイ。
「随分とラクなテストだったが、いいのかこれで?」
ラグランは疑問を持ちながらアーマーを脱ぎ始めた。
「いいの、いいの~。大体のデータは取れたから。ありがと~。」
「まあ、あとはモイに任せよう、ラグラン。」
「だな。」
ピピピピピ。ピピピピピ。
「あら、通信。なにかしら~。」
のんびりと通信機の前に立ち、音に応える。
「はい、こちらアブソリュート・デルタ・カンパニーのモイ・ラレルです。」
「紅茶でも飲もうかなボク。」
モイの通信が気になりながらもつぶやくルーン。
「オレにはコーヒーを頼む。」
「二人とも!そんな余裕はないみたい。危ないお仕事が来ました!」
『了解!』
2人の表情が引き締まる。
「場所は宇宙よ!」
数時間後、宇宙服に包まれた2人は宇宙に到着した。
大きな破片が漂う場所。
「ここが、依頼主の指定場所だね。」
ルーンが辺りを見回しながら言う。
「ああ。人工衛星が爆発して、そのブラックボックスの回収だったな。」
「えーと、ブラックボックスのある位置は……。」
位置を確認するルーン。
ピピッ
「七時の方向みたいだ。」
「了解。」
しばらく漂いながら、2人はブラックボックスの位置に到着した。
「それにしても、この爆発は酷いもんだな。」
「政府からの依頼だけど、爆発した原因とか詳しい情報は訊けなかったみたいだね。」
そうだな、と言いながらラグランはブラックボックスを回収する。
「よし!回収完了だ、ルーン。モイに連絡する。」
ピピピピピ。
『はいはーい!こちらモイ=ラレル。』
「モイ。仕事が終わったぞ。転送装置の用意を。」
『はーい!2人ともお疲れ様。』
ピピッ
突然発信音がした!
「待って!ラグ、モイ!十一時の方向にまだ何かあるみたいだ。」
戸惑いながら言うルーン。
「ブラックボックスがまだあるのか?」
「うーん、よくわからないけど……。発信音がするからには調査しないと依頼主に 何か言われそうだし……。」
「そうだな。行ってみるか。」
数分後。
「えーと、たしかこの辺なんだけど……。」
漂う2人。
そこで、なにか光るものを見つける。
「おい、なんだこれ……。」
「ポッドに人が……。」
「いや、これは人じゃない。アンドロイドだ……。」
2.涙
「なんでこんなところにアンドロイドが?」
「わからんな。」
そのアンドロイドは男性型で、きれいな赤い髪をしている。裸のままポッドの中で眠っている。というより、まだ起動されていないようだ。ラグランが彼をアンドロイドと認識したのは、アンドロイド特有の手足につなぎ目が見えたからだ。
「どうしたらいいのか、お偉いさんに訊いてくれ、モイ。」
『訊かなくていいから、とにかく回収してきて!アンドロイドちゃんも!』
「おいおい、いいのかよ……。」
『いいの!』
「どうやら、モイの好奇心がくすぐられたようだね。」
アブソリュート・デルタ・カンパニー メカニックルーム。
そこにアンドロイドが運び込まれた。
「わ~、とっても可愛い子ね~。」
「ほんとに持ってきちゃったけど、お偉いさんにはどう伝えたの?」
ルーンが心配そうに言う。
「え。この子の事は何も言ってないわよ~。ブラックボックスの事だけ!あとは秘密!」
「どうなっても知らんぞオレは。」
ふんっ、と鼻を鳴らしながら言うラグラン。
「うふふ。アンドロイドなんて、お金持ちさんしか手に入れられないのよ~。この会社じゃ設計図も買えないもの~。」
「オレの会社の文句か。悪かったな。」
「とりあえず起動してみましょうか!」
「あーあ。ボクもどうなってもしーらない。」
ピピピピ。
「これをこうしてっと……。」
パスコードを分析して、軽々と入力していくモイ。ハッカーとしての才能もあるらしい。
「開いた!」
ガシュウウウウウ……
むくり。
ゆっくりと起き上がるアンドロイド。
目が開き、唐突に音が響き渡る!
ピイイイイイン、ピイイイイン!
「うわあああああああ!」
音とともに、アンドロイドが叫ぶ。
「なんだ、この音は!おい、モイ!」
「え~、私に訊かれてもわからない~、」
「そんな事言わないででなんとかしてよー!」
ピーーーーー、ピーーーー
『緊急事態発生。緊急事態発生。』
「この子から発信されてるの?」
どうにかしようと、モイがキーボードを叩く!だが、エラーを吐いてしまい、PCが使い物にならなくなってしまった!
「なんてことなの……この子コンピュータを停止させる力でも持っているのかしら……。」
「モイ!危ない!」
唐突にルーンが叫び、モイをかばい、伏せさせる。
開発中のマシン類がモイに向かって飛んできたのだ!
それはルーンとモイの頭上を通り過ぎ、壁に激突して停止した。
「暴走させる力みたいね。なんとかしないと。」
モイは早足でボックスの前に行き、何かを取り出した!
「ラグラン!これをあの子の首に!」
「制御装置か。了解した!」
ラグランがアンドロイドに向かって走る!
バチン!
アンドロイドの首に制御装置がはめ込まれた!
と同時にアンドロイドの髪の色が青に変わる。
「あ・・・あ・・・」
アンドロイドは力が抜け、それをラグランが支える。
暴走は収まったようだ。
ラグランがアンドロイドを眺める。
また眠ったように体をラグランに預けている。その瞼には一筋の涙が見てとれた。
「……アンドロイドが……涙……?」
3.ボクは何者?
アブソリュート・デルタ・カンパニー メディカルルーム。
そこに存在するベッドにアンドロイドは眠っていた。
さすがに裸はかわいそうだとモイが言うので、一枚羽織っている。
そして、ゆっくりと目を覚ます。
が、突然目の前に銃口が向けられた!
「ひっ!」
怯えるアンドロイド。
その目の先には大きな体格の男性が見えた。ラグランである。
この状況に、彼女はボロボロと涙を流してしまった。
「おいおい、そんなに泣くなよ。警戒していただけだ。」
銃をしまいながら言うラグラン。
「……はい……。」
そう言って涙を拭うミル。
「思ったんだが、お前アンドロイドだよな?なんで涙を流す機能なんて付いているんだ?」
「それが・・・何も分からないんです。ボクがアンドロイドだということ以外は。」
「そうか。まあいい。制御装置もついているし、安心だな。」
何か重たさを感じていた彼女は、首についた重苦しい印象を与える制御装置に手を添え、自分が何かしてしまったのだと感じた。
「あの……! ボク、何か」
「あー、それは皆の前で訊いてくれ。ついてこい。」
彼の言葉を遮り、ラグランは言う。
メディカルルームの扉から出て、廊下をすたすたと歩くラグラン。そこに一生懸命着いていくアンドロイド。アブソリュート・デルタ・カンパニーの社員たちが珍しそうに彼を眺め、通り過ぎていく。
「着いたぞ。」
「は、はい!」
何かしてしまったことについて考えていた彼はハッとしたように頷いて、メカニックルームに足を踏み入れた。
「おーい、アンドロイドさんがお目覚めだ。」
「おはよ~!」
「おはよう。」
モイとルーンが、爽やかに挨拶をする。
「緑の瞳に青い髪!かわいいいい~。」
モイがアンドロイドに近づいて、頭ごとぎゅっと抱きしめる。
「わわっ!」
少し照れるアンドロイド。
「そ、それよりあのっ! ボク、何かしてしまったのでしょうか?」
「え~。気にしなくていいの! それよりもっとハグさせて~。」
「何が“気にしない”だ。こいつのせいでコンピュータの暴走だ。」
ラグランが間髪いれず応える。
「そんな大変なことを……。ごめんなさい!」
「大丈夫大丈夫~。制御装置があるしね!あとこれ!開発してみました~。」
取り出したのは可愛らしい花模様のブレスレットだった。
どうやらこれが第二の制御装置らしい。
モイはアンドロイドにブレスレットを装着し、それから首の制御装置を外した。
「このブレスレットは絶対にはずしちゃだめよ~。」
「わかりました。ありがとうございます!」
「それと~……」
「はっ、はい!なんでしょう……。」
モイがあまりにも勿体ぶる発言をするので、まだ何かしでかしたのかと思いドキドキしながらモイの発言を待つ。
「あなたのお名前のことだけど~。ただ一人の存在という意味のミルってどうかしら~。」
「ボクの名前……ミル……。」
しかし、ここで反論が飛んできた!
「おい! まさか、こいつをここに置いておく気じゃないだろうな!」
「いいじゃない別に~」
「よくねえよ!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。ごめんね、ミルちゃん。」
なにやら喧嘩が始ってしまい、おどおどとするミル。
「あ、あの!」
「なんだ。お前も何か言いたいことがあるのか?」
一斉にミルの方を向く3人。
「ボク……何者なんでしょうか……。」
「それなんだけど、何も分からないのよね。精密検査もしてみたけど、アンドロイドにしては感情が豊かなことぐらいしかわからなくてごめんなさいね。」
目の前にモニタを出してデータを見ながら言うモイ。
「製造者が誰かもわからないのか?」
「うん。わからない。」
「そうですか……。」
落胆を隠せないミル。
「さすがにまずいと思って、今回の事、政府に連絡してみたんだけど、知らないの一点張りで。迷子のアンドロイドさんって事になったわ。ところで・・・」
また勿体ぶるように発言するモイ。
「なんだよ……。まだ言い合いするか?」
「もーやめてよ、2人ともー!」
「違います! ラグランとルーンで、ミルちゃんの服買ってきて!」
「なんで、お前が行かないんだ・・・。」
「私は開発で忙しいの!かわいいのお願いね!」
4.運命は動き出す
天気は快晴!ラグランの心は暗雲!
「面倒だな……。」
「まあまあ、ラグ。楽しも?こんな可愛い子の服を選ばせてくれるんだよ?」
「ごめんなさい。ボクの為に・・・。」
車をショッピングモールの駐車場に止め、モール内を歩いていくラグランとルーンとミル。
「あ。ここよさそうだな~。入ってみようか。」
「はい。」
フリルがたっぷりの服ばかりがディスプレイされてる店を見つけ、入っていく3人。
「勝手にやっててくれ、俺は外で待ってる。」
「そんなこと言わないで見ててあげてよー。あ、これなんかどうだろう。着てみて。」
「はい。」
数分後。
フィッティングルームの扉が開いて、ミルが姿を現す。
「ど、どうでしょうか?」
「これはやりすぎだ! ルーン!」
「えーいいのにー。かわいいのにー。」
その服はフリルがたっぷりついたドレスのようだ。
「ち、ちょっと恥ずかしいです……。」
「えー! ミルちゃんまで!じゃあどうしようか。」
「あーくそっ!」
ラグランがもう面倒くさいと言わんばかりに、服を選びだした。
「これとこれとこれだ!それ着てみろ!」
「は、はい!」
数分後。再びその扉は開く。
「ど、どうでしょうか?」
「おーいいねー! 少しボーイッシュな感じだけど、いいと思うよ。」
「いいなら、さっさと会計済ませとけよ。じゃあな。」
「ご、ごめんなさい!」
ビクッとするミル。
「ちょっと待ってよラグ!」
急いで会計を済ませ、ラグランを追う2人。
時刻は16時を回っていた。
「ボク、タクシーで帰るから。」
唐突に言い出すルーン。
「おい! なんでだルーン!」
「ミルちゃんさっきからラグに怯えてるよ。なんとかしなよ。これから一緒に暮らしていくんだから。ミルちゃんの居場所はボク達のところしかないんだよ?」
そう、小声でささやくルーン。
「そうだなー。こういう時は公園にでもいって、話すといいよお互いの事。」
「居場所・・・か・・・。」
「とにかくそういうことだから、またね!ミルちゃん!」
「は、はい! また!」
車は公園へ向けて走っていた。車中は二人とももちろん無言だ。
駐車場へ停め、公園へ入る。
「着いたぞ。」
「は、はい。」
公園は夕方ということもあってか、にぎわいは失われつつある。そんな中を2人は歩いていた。
ふと、海を眺め立ち止まるミル。それに倣ってラグランも立ち止まった。
「キレイですね……。」
「あ?ああ……そうだな。」
「……。」
「……。」
2人ともしばらく無言の後、ラグランが気まずそうに話し始めた。
「その……なんだ。お前、しばらくここにいるんだろ?」
「モイさんとルーンさんはいいと言ってくれましたけど……ラグランさんは……。」
「ああ……お前が何者なのかはっきりわからないとなんとも言えんな。」
「ですよね……。だけど、どうしてもわからないんです。モイさんの言った通り迷子のアンドロイドで……。」
「らしいな。はあ……。お前の居場所が見つかるまではオレ達のところにいろ。」
仕方ないといった様子でラグランが答える。
「本当にいいんですか!?ラグランさん!」
「ああ。だったらその呼び方をやめろ。ラグランでいい。」
「はい!」
「もう日が暮れる。とっとと帰るぞ。」
「はい、ラグラン!」
ラグランは足早に、ミルはその後を一所懸命付いて行った。
ラグランとミルのそのずっと後ろである人物が彼らを見ていた。
** *
夜になり、ラグラン、ルーン、モイ、そしてミルが、レストルームに集まっていた。
ミルを囲むように、3人はいる。
そこで一人が大声を上げた!
「ええええ! その服ラグランが選んだの!?」
モイだ。
「そうなんです……。」
照れながら言うミル。
「なんか、えっちな感じがするけど。まあ可愛いからいっか~、ハグさせて~!」
「この人エロいからね。注意してミルちゃん。」
「おい!」
** *
ある一室。暗くてよく見えない。
アンティーク調の室内でぼんやりと2人が見てとれる。
「なんだか面白いことになったようだね。」
やや年のいった男性が楽しそうにつぶやく。
「はい。報告によりますと、2人は出会ったと。」
女性が冷静につぶやき、彼女のメガネが輝く。
「なるほどね、どうする。ラグラン君?」
その人物はにやりと笑った気がした。
5.行方不明のアンドロイド
ラグランとルーンはアブソリュート・デルタ・カンパニー内の廊下を歩いていた。
武器庫を目指して。
武器庫の扉の目の前に立つ二人。
扉の前には監視カメラが光っていた。
そこに向かってラグランが語りかける。
「モイ。扉を開けてくれ。」
扉は厳重にロックがかけられている。
「わかったわ~!ちょっと待ってね。」
モイの声が監視カメラから聞こえる。
ピーという音の元、ロックが解除される。
扉が重々しく開き、中の武器が露わとなる。そこには、銃や手りゅう弾などあらゆる武器がそろっていた。
二人は中へと入っていく。
ラグランは、小さな扉の前に自らを証明するカードをかざし、自分の武器の扉のロックを解除する。すると通常とはやや大き目な銃が現れた。ラグランの愛銃だ。
ルーンも同じようにロックを解除し、自分の武器(2丁のライトソード。普段は持ち手だけになっている)を取り出す。
「ねえ、ラグ。今回の依頼まだ聞いてないんだけど・・・。武器つかうほどのことなの?」
武器を腰に装着しながら言うルーン。
「執事にしていたアンドロイドがいなくなったから探してほしいという依頼なんだが、もしそのアンドロイドが暴走していたら、破壊しろとのことだ。」
「そうなんだー。でもアンドロイドにGPSがついてるからすぐに見つけられそうだけど、なんで依頼主さんが自らみつけないんだろう。」
「途中で、GPSが機能しなくなったらしい。それ以来アンドロイドは見つからず・・・だ。」
「アンドロイドといえば、ミルちゃんは・・・今回のこととは関係ないよね?」
「モイに聞いたら関係ないらしいな。」
「よかった。」
「さ、行くぞルーン。」
さっさと武器庫をあとにするラグラン。うん、といいつつ後をついていくルーン。
外に出て、アンドロイドの居場所を探すラグランとルーン。
「たしかこの辺りで、アンドロイドを見失ったららしい。」
通信機を耳に着けたラグランが言い、路地裏へと入る二人。
「こんなところにいるのかなあ。」
ルーンが半信半疑で路地裏を進んでゆく。
しばらく歩いていると少し開けた場所へと出る。
そこには一人の少年が背を向けて佇んでいた・・・。
6.アンドロイドとラグラン
路地裏の開けた場所で、静かに佇む少年。
やがてラグランとルーンの方を振り向き、言葉を紡ぐ。
「待っていたよ、ラグラン・・・。」
突然の呼びかけに、驚くラグランとルーン。
「オイ、なぜオレの名前を知っている・・・?」
ラグランの問いに、微笑みで返す少年。
「ボクが君たちの探してるアンドロイドだよ。名前のほかにも知っていることはある。・・・アデス。ラグラン・アデス。」
「!!」
更に驚くラグラン。
「お前・・・何者だ。」
銃をアンドロイドに向けて構えるラグラン。
「待ってよ、ラグ!この子は保護しなくちゃ。別に暴走してる様子もないし。」
あくまでも依頼者がいる限り、依頼者の言う通りにせねばならない。
「クソッ!!とにかくこいつを捕える!」
「ふふふっ。そんな簡単につかまると思うの?」
そうアンドロイドが言うと、身体が輝きを放ち、何かへと変わっていく。
何かとてつもなく大きなものに・・・。
その様子を見たラグランが大きな何かに気づく。
「こいつは・・・戦闘型ロボットだ・・・。」
「え・・・。」
戸惑いを隠せないルーン。
ロボットとなったアンドロイドが、攻撃を仕掛けてくる。
攻撃の対象はラグランへと向かう。
ロボットが拳を振り上げる!
間一髪のところで、かわすラグラン。
そして、構えた銃を撃つもロボットにはダメージを与えられない!
「クソッ!やはり今の威力じゃ無理か!」
即座に耳に着けていた通信機に話しかける。
「モイ!いるか!?今戦闘型ロボットと交戦中だ!アーマー端末を転送してくれ!!!」
「え!?どういうこと!?」
「いいから早く!」
「わかったわ!」
すると宙からアーマー端末が浮かび上がる。
受け取る、ラグランとルーン!
「ルーン行くぞ!」
「うん!」
『アーマーリリース!!!』
二人の声がハモり、身体にアーマーが装着されていく。
戦闘態勢は整った。
そのままラグランが戦闘型ロボットに殴り掛かる・・・!!
バキンッ!!!
ロボットの側面が欠ける!
が、ラグランはロボットにつかまってしまう。
「ラグ!」
叫ぶルーン。そして、ルーンの武器である双剣をロボット目掛けて振るう!双剣はアーマーを未着時にも使われているものだが、アーマー装着時に威力は増幅している!
ラグランが捕まったロボットの腕へと斬りかかる!
なんとか腕を斬りおとし、ラグランを救いだす!
「ラグ!大丈夫!?」
「あ、ああ…!」
捕まれた苦しさから咳をしながら答えるラグラン。
「さあ、どうする?暴走してしまった以上、こいつを破壊するしかない。」
「そうだね…。」
すると、ロボットから声が聴こえる。
「まあまあ、やるみたいだね。ラグラン・アデス」
「その姓は捨てた。お前、ヤツの知り合いか?」
「だったらどうする?」
「ヤツに伝えておいてくれ。オレは誰にも縛られないと。」
「ふふっ、ボクのこと破壊しなくていいの?」
ロボットは光を放ち、元のアンドロイドに戻ってゆく。ルーンが斬った片腕はなくなっていた。
「ボクの名前はアクセル。覚えてくれると嬉しいな。」
無言で睨みつけるラグラン。
「そんなに睨まないでよ。じゃあ、またね。ラグラン・アデス。」
そう言って、アクセルはどこかへと転送され、消えていった。
7.突然の罠
アブソリュート・デルタ・カンパニーに戻ったラグランとルーンは、モイと共にメカニックルームに来ていた。
テーブルを挟むように、ラグラン、その隣にルーン。向かい側にモイ、ミルが座っていた。
「それにしても、よく無事に戻ってこれたわね~。」
モイが驚きながら、言った。
「私が作ったのアーマーのおかげかしら!えっへん!」
「まあ、そうだな。助かった。」
「もっと誉めて~!」
「少し疲れた。オレは寝てくる。」
「もー。ノリが悪いんだから!」
モイの小言を無視して、ラグランは席を立つ。
すると、ラグランはバランスを崩し、床に倒れてしまった!
『ラグラン!?』「ラグ!?」
モイとミルとルーンが心配してラグランに駆けよる!
「く…くそ。なんだこれ…。」
ラグランは思わず腕を庇う。
「ラグラン、腕を見せて!」
モイがラグランの腕を観察する。モイはメカニックだが、人体の知識も多少はある。ラグランの腕は一部、紫に変色していた。
「これは…毒だわ。」
「いつの間に…。」
困惑するルーン。
「何かきっかけがあったのかしら…。」
「何かって…。」
「とにかくメディカルルームに運ぶわ!」
「あの!ラグランは大丈夫なんでしょうか!?」
今にも泣きだしそうなミル。
「大丈夫。私がなんとかするわ。」
そう言って、モイは担架に乗せたラグランと共にメディカルルームへ急ぐ。
あとに続くルーンとミル。
メディカルルームにはラグランとモイのみが入っていった。
廊下にあるベンチに座りながら待つルーンとミル。
「ラグラン…。」
もう泣いてしまっているミル。
「大丈夫だよ。ラグの無事を祈ろう。」
ミルの肩に手を乗せ、励ますルーン。
そして、数時間が経過した…。
8.目覚めて…
ルーンとミルが廊下で待っている。実際には1時間くらいしか経っていないが、とても長い時間ここで待っている気がする。
すると、メディカルルームからモイが出てきた。
「モイさん!ラグランは!?」
モイが、しゃがみながらミルの肩に手を置き、ラグランの様態を話し始める。
「毒は取り除いて、今は眠っているわ。いつ醒ますかはわからないけど…。良かったら側にいてあげて。」
「はい!」
ミルは目に涙をためながら、ラグランのいるメディカルルームに入っていく。
「ところで、ルーン。ラグランが毒にかかった原因って心当たりある?」
「多分、あの時だと思う。」
ルーンは戦闘型ロボットと戦った時の事をモイに話す。おそらく毒にかかったのはロボットに捕まれた時だろう。
「そうなのね。アンドロイドのアクセル君か…。一体誰の指示で動いてるのかしら、気をつけないといけないわね。よし!私も色々調べてみるわ!」
「頼んだよ、モイ。」
メディカルルームでは、ラグランがベッドの上で眠っている。傍らにはミルがいた。
「ラグラン…。」
ラグランの手を握りながら、心配でたまらない表情でいる。
どうか目を醒ましますように。
しばらくそうしているとラグランがうつろだが、目を開けた。
「ラグラン!?」
驚いてラグランの手を握っていたミルの手は離れた。
「もう少しこのままでいてくれ…」
そう言って、ミルの手を握るラグラン。
その行為に驚き、赤面してしまうミル。
「あ、あの!ラグラン…!?」
「もう少しこのままで…母さん…。」
「寝ぼけてる、ふふっ。」
そのまましばらくそうしている二人だった…。
9.次の日
ラグランを看てから、次の日が訪れた。
「んん…。」
ラグランが完全に目を醒ます。
「ラグラン、おはようございます。」
「ミル…か…。」
「はい!良かったです、目を醒まして。」
「……。」
二人ともしばらく見つめあう。
「あ、あの~…。」
「なんだ?」
「そろそろ手を…。」
「手?」
そこへ突然、メディカルルームのドアが開く!突然のことに、ラグランとミルはそちらへ注目する。
「ラグ!ミルちゃん!聞いてよ!モイが、あのアンドロイドの事がわかったって!」
「って、あら~?」
ルーンとモイである。
「私たち、おじゃまみたいよ~。」
「なんの話だ?モイ。」
ラグランは不思議に思い、尋ねる。
「だって、仲良くお手手つないでるんだもの~。うふふ。」
「あ?」
ラグランは自分の左手を見る。たしかにミルの手を握っていた。
「…!す、すまん!」
慌てて手を離すラグラン。
「い、いえ…!」
ラグランはミルを直視できなくなり、ミルは顔を真っ赤にしてうつむいている。
「うふふ。おねーさんとおにーさん二人を応援しちゃう!ね、ルーン!」
「そうだね。」
ニッコリ笑う、モイとルーン。
そこへ咳払いをし、ラグランが話題を変える。
「応援しに来たわけじゃないんだろ。用件を言え。」
「そうだったわ~。あのアンドロイドのアクセル君のことなんだけど…。」
詳細を語り始めるモイだった…。
10.あのアンドロイドは……
モイがアンドロイドのアクセルについて、タブレットモニタを見ながら話し始めた。
「この子は普段は執事用のアンドロイドよ。まあ、これは依頼の時点でラグランもルーンも知ってたことよね。」
「ああ。だが、なぜそれが戦闘用アンドロイドに……?」
ラグランが問いかける。
「それについてのデータは調べられなかったけど……、予想できることは、そのアクセル君が行方不明になった時に
誰かに連れ去られて改造された……ってところかしら。」
それを聞いたミルは両手に口を当てながら悲しげな表情で、
「かわいそうです……。」
涙ながらに答えたのだった。
「ミルちゃん……。」
ルーンがミルの肩を抱き寄せながら慰める。
「一体誰がそんなことを。」
モイに訊くルーン。
「あんなことができるのは相当の設備と資金が必要よ。お金持ちの道楽かしら。」
そこへラグランが口を挟む。
「金持ちの道楽……ね。」
「ラグラン、何か知ってるのね。」
真剣な面持ちで、ラグランを見つめる三人。
「ああ、あいつを作ったのは俺の親父だ。」
11.アデス姓
「あいつを作ったのは、俺の親父だ。」
『ええーーー!?』
と、驚きの声を出したかったが、あまりの意外性に三人は声を出せずに驚いていた。
「ルーンもあのアンドロイドが言っていたことを聞いていただろう。俺の名前のことだ。」
「それは聞いてたけど……ラグラン・アデスでしょ?ラグって、名字あったんだね。」
「はぁーーー、その程度の認識かよ。もっとよく考えてみろ。」
「???」
「ちょっと待って!」
ラグランとルーンの話を聞いて気づいたのは、モイの方だった。
「そのアデス姓って、この国の大統領と同じ……。」
『ええーーー!?』
今度は三人とも声に出して驚いた。
12.大統領の・・・
「ラグランって、大統領の息子だったの!?」
驚いてからの第一声はルーンだった。
「でも、なんで大統領の息子がこんなところに・・・。」
疑問に思い、ルーンが尋ねる。
「俺は母親が病気で亡くなったのを機に家を出た。親父は別に反対しなかったよ。俺に対して無関心と言っていいかもな。・・・だが、今回の戦闘用アンドロイドの件。今は俺に無関心というわけではなさそうだ。」
「でも、実の息子を殺しにかかるっていうのはどうも・・・。」
ルーンはそう言って下を俯きそのまま黙り込んでしまった。
しばらくの静寂ののち・・・。
「待って!アンドロイド、アンドロイド・・・。」
「どうした。モイ。」
「みんな、ちょっとメカニックルームに移動してもらっても大丈夫?」
「ああ、それは構わんが。」
ラグランが代表して、発言したのだった。
皆がメカニックルームに移動した後、モイがミルに声をかける。
「ミルちゃん、ごめんね。ちょっと首の後ろに端末繋げるけどいい?もしかしたら少し痛いかもしれないの。」
「は、はい。ボクは構いませんが・・・。」
「じゃあ、ちょっと失礼して・・・と。」
ミルを椅子に座らせ、ガチャン!とかなり大きな音を立ててミルの首の後ろに太いチューブを繋げる。
「随分、大仰じゃないか。」
ラグランが少し驚いたように言う。
「もう少し、深く分析するためには大きな端末を使わなければならないの。もしかしたらって思って。」
「ミルちゃん、行くわよ。」
「は、はい!」
モイが端末のキーボードをはじく。
するとミルの首が後ろへとガクン!と素早く下がる。
「あ、ああ・・・。」
ミルの髪色が赤へと変わり、苦痛に呻く。
「ごめんね、ミルちゃん。少しの間だから・・・!えっと、これじゃない!これでもない!」
ミルの苦痛が続く。すると、椅子から崩れ落ちそうになるのをとっさに支えるラグラン。
「おい!モイ!早くしろ!」
「わかってるわ!・・・・・うん、たぶんこれだわ。一致した。」
ブウゥン・・・。という音と共にミルの苦痛が終わる。ミルは機能停止に追い込まれてしまった。
「おい、ミル!しっかりしろ!おい!モイ!チューブはもう外していいんだよな!?」
「え、ええ!構わないわ!」
ガチャン!と再び大仰な音をたて、ミルの首の後ろからチューブを外すラグラン。それと共に髪色も元の水色に戻っている。
「おい、起きてくれ・・・頼む・・・。」
ミルを強く抱きしめながら懇願するラグラン。
「・・・・ラグラン・・・痛いです・・・。」
「う。す、すまん。」
「ボクは大丈夫・・・です・・・。」
すぅ・・・と、そのままラグランの腕にもたれ意識を失ってしまった。
「おい!ミル!」
「大丈夫よ。ただ眠ってるだけだわ。」
「そうか。よかった・・・。」
「ラグラン・・・ミルちゃんが来てから変わったわね。」
「そうか?」
ラグランにはよくわからなかった。とっさにミルの傍に寄ってしまったのだ。
「それより、これだけのことをして、わかったことはあるんだろうな。」
モイが一呼吸置いて。
「ええ・・・。大変なことよ・・・。」
そう、つぶやくのだった。
13.同一
「大変なことって・・・?」
ルーンが首を傾げながら言う。
そして、モイが深呼吸してから次のことを言った。
「ミルちゃんの深層部分まで探ってみたんだけど、大変なことがわかったの。」
「勿体ぶらずに言え。」
眠るミルを支えながら、言うラグラン。
「ミルちゃんもラグランのお父さんが作った可能性が高いわ・・・。」
一同が息をのんだ。
「嘘だろ・・・?」
「型番とシステムの作りが一緒なのよ。アクセル君と。」
「そんな・・・ミルちゃん。・・・じゃあ、ミルちゃんも戦闘型ロボットになったりするの?」
「その危険性はない・・・と思う。私の作った制御装置を着けていればでしょうけど・・・。それに、ミルちゃんは何もわかっていない。アクセル君の場合は、自らの意思で戦闘型になっているわ。」
「意思を持たないと、戦闘型にはならないということか・・・。」
ミルを見つめながら、ラグランがつぶやく。
「オレはミルを部屋に連れていく。目をさましたら、連絡する。」
「このことはミルちゃんには内緒ね。ミルちゃんには幸せになってほしいから・・・。」
「もちろんだ。」
ミルを抱え、メカニックルームを出ていくラグラン。
その後ろ姿を見守る、モイとルーン。
「なんとしてもミルちゃんを守らないといけないね。」
「ええ・・・。」
14.気づき
メディカルルームに眠る、ミル。
それを見守るラグラン。
モイからはただ眠っていると言われていたが、あれから3日。ミルはまだ目を覚まさない。
「頼む・・・目を開けてくれ・・・ミル・・・。」
ミルの左手を両手で包み込むようにしながら、祈る。
そこで、ラグランは気づく。
なぜ、こんなにもコイツが気になる?
俺がミルに看病されてたとき、手を握られていた。その時、不覚にも羞恥を覚えた。
コイツは男だぞ。しかもアンドロイド。
そんなはずはない。
などと考えていると、自動ドアが開き、人が入ってきた。
「お邪魔するよ。」
「ルーンか・・・。まだコイツは目を覚まさないんだ。」
「そうみたいだね。・・・それにしても、ラグ。君、寝てないでしょ。」
「コイツが目を開けるまでは寝る気はない。」
「心配なんだね。でも、もしミルちゃんが目を覚まして、そんな疲れた顔のラグをみてもミルちゃん安心しないよ。」
「なあ、ルーン。ミルはこれからどうなるんだろうな。俺の親父のせいで、こんなこことに・・・。」
「ミルちゃんのこと、好きなんだね。ラグ。」
「な!?」
座っている椅子から立ち上がり、ミルの手も離し、かなり焦るラグラン。
「ななななんでその会話からそんなことになる!」
「その会話っていうか、態度で丸わかり。モイも感づいていると思うな。それにしても、ふふっ・・・。」
「なんだよ。」
「まさか冷静なラグがこんなに慌てるとは・・・と思ってね。」
「・・・悪かったな。でも、こいつは男でアンドロイドだぞ。」
「そんなの関係ないよ。ラグはミルちゃんのこと、守ってあげたいって思ってる?」
「ああ。思ってる。」
「なら、好きでいいんじゃない?」
「そんな簡単なもんか?」
「誰かを好きになるって、案外単純なものなのかもね。・・・とにかく、ミルちゃんが目覚めたら伝えてみたら?」
「まあ。気が向いたら。」
頭を掻きながら言うラグラン。
「相変わらず素直じゃないなあ。そんなんじゃ実るものも実らないよ。」
「それじゃあ、俺は寝る。ルーンの言う通りだ。ミルには心配かけたくないからな。あとは任せた。目が覚めたら教えてくれ。」
「わかった。おやすみ、ラグ。」
「おやすみ、ルーン。」
そう言いながら、メディカルルームから出ていくラグランだった。
15.告白
あれから一週間。
「ん・・・。」
うっすらと目を開けるミル。傍にはラグランがいる。
「ミル!目を覚ましたか!!」
「ラグラン・・・。おはようございます・・・。」
「ああ、おはよう。」
ガバッとミルに抱きつくラグラン。
「良かった・・・本当に・・・。」
「ら、ラグラン!?ああああの・・・。」
ラグランはミルを抱きしめながら、なんだ?と答える。
「そ、その・・・痛いです。それに・・・恥ずかしくて・・・。」
「す、すまん!」
慌ててミルを離す・・・と思いきや再び抱きしめる。今度は優しく。
「・・・ラグラン・・・?」
どうしたんだろう、と思いながらミルは優しく抱きしめられる自分を不思議に思った。でも、心地よい。
「すまない・・・。お前を離したくない・・・。お前を守ってやりたい。・・・好きなんだ。」
「す、すすす好きって・・・ラグラン!?その・・・あの・・・。」
「お前はどうなんだ?その・・・俺のこと・・・。」
しばらく沈黙が続く・・・。
「・・・ボクも・・・好きです・・・ラグランのこと・・・。」
「そうか。それを聞いて安心した・・・。」
お互いの意思を確かめた後、二人で抱きしめ合うのだった。そして、キスをしようとするラグラン。それを受け入れるミル。
「ん・・・。」
まだお互い照れてしまい、ぎこちないついばむようなキスだが、お互いの愛情が伝わってくる。
しばらくの余韻のあと、ミルは尋ねてみた。
「あれから、ボクのこと何か分かったんですか?」
「まあ・・・な・・・。」
「教えてほしいです!お願いします!」
「それにはモイ達の許可がいる。一緒に来てくれるか?」
「はい!あの・・・その・・・。」
どうした?とラグランはミルに尋ねる。
ミルは顔を真っ赤にしながら、
「手をつないでも・・・いいですか・・・?」
「ああ。一緒に行こう。」
手を差し伸べるラグラン。そしてそれに応えるミル。
「はい!」
まだ恋人つなぎではないが、手をつなぎながら部屋を後にした。
16.真実
ラグランとミルが手をつなぎながら、ルーンとモイのいるメカニックルームに入ってきた。
「ミルちゃん~!目が覚めたのね~!」
嬉しそうに二人に駆け寄るモイ。
「どうやら、ラグランの想いも伝わったようだね。」
ルーンが二人の繋がれてる手を見ながら、言う。
『あっ。』
ラグランとミルが慌ててパッとお互いの手を離す。
「その・・・そういうことだ。ルーン、モイ。」
「わかったわ~。ね、ルーン?」
「うん、おめでとう二人とも。」
「ありがとうございます。ルーンさん、モイさん。」
照れながら言うミル。
しばらく談笑したあと、本題へと入る。
最初に口を開いたのはラグランだ。
「ルーン、モイ。ミルが自分のことを教えてほしいそうだ。」
それは・・・とモイが躊躇しがちに答える。
「ミルちゃん。聞く覚悟はある?自分のことについて。」
「はい。」
静かに答えるミル。
「わかったわ。本当は秘密にしておきたかったのだけれど、無理みたいね。」
そして、モイはミルに今までのことを話した。
「ボクが・・・ラグランさんのお父さんのアンドロイド・・・。それに・・・破壊するアンドロイド・・・。」
「ミル・・・すまない・・・。」
そっとミルの肩を抱き寄せるラグラン。
「ラグランが謝ることじゃありません!ただ・・・ボク・・・これからどうしたらいいか・・・。」
「・・・。」
全員が黙り込んでしまう。
「まあ!私の天才的な傑作!制御装置さえあれば破壊するアンドロイドなんてならないわ~!」
モイの発言にミルが右腕にはめている花形のブレスレットを見つめる。
「モイさん、本当にありがとうございます。」
「いいの、いいの~。さ、それより、どこかみんなでお出かけしない?あ、前にラグランとルーンが行ったショッピングモールもいいかも。ね、行きましょ~!」
「そうだね。」
ラグとミルの初デートにお邪魔しちゃっていいのかなーと言いながら賛成するルーン。
『初デート・・・!』
二人は恥ずかしながらも、モイの提案に賛成するのだった。
17.離ればなれ
ショッピングモールに着く、一行。
モイとミルはおしゃれをして、二人の後を付いていく。
「ほらほら~、ミルちゃん。ラグランと手をつないで~。」
モイがラグランの前に立ち、ラグラン!ミルちゃんをエスコートしなくちゃだめでしょ!、と言う。
「あ、ああ。ほら。」
ぶっきらぼうにミルの前に手を伸ばす、ラグラン。
それに応えるミル。
手を繋いだ。だが、ここでルーンが一言。
「ここは恋人繋ぎでしょー!」
「こ、恋人繋ぎ・・・!!わ、わかった。」
ラグランはうろたえながら。対するミルは不思議そうにしている。
「こうやって手を絡めて、繋ぐんだよ。」
ルーンが指南する。
「な、なんか・・・ドキドキします・・・。」
「・・・・。」
ラグランはミルと目を合わせられない。
「も~、ラグランこういうの初めてなのね~。意外。」
「悪かったな。」
さ、行きましょ~!、とモイが先導したのであった。
それから、ウインドウショッピングをしたり、色々買い物をしたりした。女の子が着るような服をミルに着せてみたり、それを気に入ったモイはラグランに買ってあげなさい、などと言い。色々してるうちに日が傾き始めていた。
駐車場に向かいながら、
「ミルちゃん、楽しかった?」
と、モイが問いかける。
「はい!とっても!ラグランもありがとうございます。色々買ってもらっちゃって。」
ミルの手には大きなうさぎのぬいぐるみが抱えられている。
「これ、とってもお気に入りです。」
「ああ。それならよかった。さあ、帰るぞ。」
「うん、そうだね。」
ルーンが応える。
と、その時。
「あ、あ・・・。」
ミルが苦しみだした。
「ミル!?どうした!?」
ラグランが慌てる。
ミルの髪の色が赤に変わってゆく。
「ボク・・・・行かなくちゃ・・・。」
目の焦点もあっていない。
ラグランたちとは逆方向に進んでいく、ミル。
「ミル!!」
ラグランは手を出し引き戻そうとするが、それは叶わない。
「こっちだよ。ミル。」
ミルの傍にはいつの間にかアクセルが立っていた。
「アクセル・・・!!」
「ごめんね、ラグラン・アデス。ジャスティンの命令なんだ。」
「俺の親父か・・・。」
ギリッと歯を食いしばるラグラン。
「さあ、行こう。ミル。」
「うん・・・。」
「行くな!ミル!」
必死にミルを引き留めようとするラグランだが。
「ムダなあがきはやめた方がいいよ。」
笑いながらアクセルが言う。
そのうちにアクセルとミルは丸いシャボン玉のようなものに包まれて上へと昇って行ってしまう。
「ひとまずさよならだね。ラグラン・アデス。」
そのまま上昇し、やがて消えてしまった。
「ミルーーー!!」
ラグランの傍らには、うさぎのぬいぐるみが落ちていた・・・。
18.来訪者
ミルが連れていかれて1日が経った。
あのあと、ラグランがミルを追いかけるため、大統領宅へ押しかけようとしたが、警備の問題があるでしょう!とモイにたしなめられ、ひとまずおちついて自分の会社兼自宅『アブソリュート・デルタ・カンパニー』へと戻っていた。
ラグランは落ち着かず、椅子に座りながらイライラと机を指でコツコツと叩いていた。
「どうしたら、親父の場所に行ける、モイ?」
「そうね~。とりあえずセキュリティは万全だろうし、どうしたものかしら~。”ひとまず”さよならと言ったアクセル君のセリフもきになるし、待ってればあっちからまたコンタクトしてくるかも。」
「それまで待てってか。」
「ラグ。ほら、コーヒー。」
ルーンが渡してくれる。ありがとな、と言いながらもラグランは落ち着かない。
そこへ、受付から通信がつながる。
なんだ、とラグランは応える。
『そ、その。どこかの会社の秘書という方が社長にお会いしたいと。』
「社名は?」
『それは社長に会わないと言えないと。あの、お帰りいただきましょうか?』
「いや、ラウンジに向かう。そこで待っててくれと伝えてくれ。」
はい、と言って受付嬢は通信を切った。
「早速、来たみたいね。怪しいわ。タイミングが良すぎる。」
「モイの言った通りになったね。」
ルーンは少し驚いている。
3人でラウンジに向かうことになった。
19.誘い
ラウンジに向かうと、一人の女性が隅の方で椅子に座らず待っていた。スーツを着ているが、多少露出が高い。髪は紫で長く、メガネをかけている。
3人に向かってお辞儀をする。
3人もそれに倣う。ただし、ラグランを除いては。
「ラグラン・アデス様、お会いできて嬉しいです。わたくし、ジャスティン・アデス様の秘書のローラというものです。」
「やっぱり親父の秘書か。なんとなくそんな気はした。とりあえず座ってくれ。」
ローラと名乗る女性含む4人は各々椅子に座った。
「ラグラン様にぜひ、お渡ししたいものが・・・。」
「なんだ。」
そして、ローラは一枚のカードを机の差し出した。
「これはジャスティン様宅のカードキーです。」
「なんでそんな貴重なものを俺に?」
「ぜひお出迎えしろとのことです。色々お聞きしたこともあるでしょうが、今は言えません。」
「そうか。ミルには会えるのか?」
「それもここでは・・・。ひとまず時間がある時にお訪ねください。警備のものには伝えておきます。」
「そうか。わかった。今日でもいいか?」
「ええ。17時以降でしたら、スケジュールが空いております。」
それではお待ちしております、と言って秘書は帰っていった。
その後ろ姿を見つめながら、ルーンが口を開いた。
「ラグ。これは罠かもしれないよ。」
「私もそう思うわ。」
モイもルーンの意見に同意する。
「でも、行くしかないだろう。ミルを助けるためだ。あいつを失いたくない。アーマー端末の用意をしておいてくれ、モイ。」
「わかったわ。ただし、私も行かせて。サイバー関係ならなにか役立つかもしれないわ。」
「危険かもしれないんだぞ。」
「なんでも屋を立ち上げてからそれは覚悟済みよ~。」
いつもの調子のしゃべり方に戻っているモイ。
「もちろんボクも行くよ。」
ルーンもそれに倣う。
「すまん、2人とも。じゃあ、準備をしたら16時に俺の車の傍に集合だ。」
わかった、わかったわ、とモイとルーンの声が重なる。
各々準備をして、時間が経った。大統領宅へと向かった一行だった。
20.マリカ
その頃、大統領もといジャスティン邸では・・・。
地下室で、ミルが裸で透明の液体が入ったポッドに直立で浮かんでいた。髪の色は赤いままだ。
その隣ではアクセルが待機している。
ミルの様子を伺い、ジャスティンは満足げな顔をしていた。
「マリカ。ついに最終段階まで来たか。ラグランのおかげだな。」
ジャスティンはミルのことをマリカと呼んだ。
そこへ、コツコツと足音を立てながら秘書のローラが入ってきた。報告をする。
「ジャスティン様。ラグラン様はどうやら今日中にいらっしゃるそうです。」
「そうか。・・・アクセル、マリカを最終形態に調整しろ。」
「かしこまりました。」
アクセルが執事のごとく丁寧なおじぎをする。
「この国を。いや、世界を暴走させる。」
ジャスティンはミルの入っているポッドを丁寧に触りながら、つぶやくのだった。
「愛している、マリカ・・・。」
そして、ラグラン達は大統領邸へと向かっていた。
21.暴走
そこは異変に包まれていた。
「おいおい。何が起きたっていうんだ。」
ラグランが問う。
街中がおかしい。車、バス、あらゆる事故が大発生している。
火事が起きている場所もある。消防車やパトカーが緊急出動している。
そこで、ラグランの車にも異変が起きた。車は自動操縦だが、思うように動いてくれない。事故を起こしそうだと判断したラグランは、即座に自動操縦からマニュアルに切り替えた。
「ほんと・・・街中大混乱だわ・・・。なにがあったの・・・?」
そうだね、と後部座席に乗っているモイとルーンが言い合う。
「暴走・・・まさか、ミルちゃん!」
「ミルがどうかしたのか。モイ。」
ラグランはふと気づいた。
「コンピュータの暴走か!?」
「そうよ。とにかくラグランのお父さんのお家へ!」
「わかった・・・!」
事故車両を避けながら、ラグランは車を走らせた。
22.動き始める事実
大統領宅に着く、3人。
警備の人影は見当たらない。
ラグランは即ローラから貰ったカードキーを使って大きな扉を開けた。
急いで中に入る!
中はかなり広い。全体的に豪華で、天井は高く、中央に大きな階段がある。
「親父ーーーーー!」
室内で大きな声を出す、ラグラン。
そこへ、ローラがどこからか静かに現れた。
「ようこそおいで下さいました、ラグラン様。」
「親父はどこだ。」
「こちらへどうぞ。ご案内します。」
3人が通されたのは地下室だった。真っ白な壁と無機質な扉が続く。
そこにはミルが赤い髪といかにもアンドロイドという装備で、大統領ジャスティンの隣に立っていた。
23.戦闘
「ミル・・・!!」
ラグランは戸惑う。なんでこんなミルがこんな格好に?まるで戦闘型のアンドロイドの様相だ。
思わずモイに事情を小声で訊いてみる。
『おい、どういうことだモイ。安全装置があればあんな風にはならないはずじゃあ・・・。』
『私にもわからない・・・。右腕に確かに安全装置を装備しているに・・・。解除する技術を持った人にしか・・・。』
モイは小さなノートパソコンを抱えながら室内をキョロキョロと見渡している。
対する大統領ジャスティンはミルをいやらしく撫でる。顔に、腕に、足に。
ミルに表情はない。
それを見たラグランは肌がざわつく。憤りだ。左拳を正拳に構え、ジャスティンへと向かう。
「やめろ、親父ーー!」
「待ってよ、君の相手はボクだ。」
サッと目の前に現れるアクセル。ラグランは左拳を相手に振るうが、アクセルが右手で難なく受け止める。
そして、アクセルは光り、戦闘型ロボットへと変わる。
「くそっ!またか。行くぞ、ルーン!」
「うん!」
アーマー端末を片手に、2人は叫ぶ!
『アーマーリリース!!』
そして、2人はアンドロイドに匹敵するような装備を装着される。
ラグランは銃を、ルーンは短いライトソード二丁を構える。
絶対助けてやる、ミル、心にそう誓いラグランは銃をアクセルに向けて撃つ。
装甲に穴が開く!
「へえ、前よりパワーアップしたみたいだね。」
感心したようにつぶやくアクセル。弱ったような様子はいくらも見せない。
「こんどはこっちからの攻撃だよ・・・!」
ルーンがきりもみながら2丁の短剣を操る。
するとロボットであるアクセルの左腕が切り落とされた・・・!!
「へえ!やるじゃん、ルーンくん、だっけ?その言葉、そのまま返すよ。」
アクセルが右腕の中にある玉からレーザーが放出される!
とっさにルーンは2丁の短剣を交互に構え、衝撃に備える。
しかし、耐えられず弾き飛ばされてしまう!
「ルーン!!!!」
ラグランがルーンの元へと急いで駆け寄る。
「だ、大丈夫。アーマーのおかげかな・・・。」
ウインクしながら、余裕を見せるルーン。しかし、大量の汗をかいている。先ほどの攻撃で相当エネルギーを消耗したようだ。
「立てるか?俺一人じゃ手に負えそうにない。お前が頼りだ。」
「う、うん。ミルちゃん助けたいもんね。」
その様子を静観しているアクセル。人の姿だったら頭をかいていそうだ。そして、発言する。
「もうそろそろとどめ刺していいかなあ、ジャスティン。」
「ああ、かまわんよ。」
ジャスティンは相変わらずミルを愛でながら余裕の表情で言う。
ルーンが立つのを助けたら、素早く二人は攻撃態勢に入る。
小声で作戦を練る二人。
『もしかしたら、あの手の中のレーザー口を破壊すればエネルギーが暴発するかもしれん。俺がけん制してる間にルーンがあのレーザー口を狙ってくれ。』
『わかった。ボクは弱いからちゃんと守ってよ、ラグ!』
『おう、まかせろ。行くぞ、ルーン!3,2,1, GO!』
二手に分かれる二人。ラグランはアクセルから離れたところへ、ルーンは手を狙いやすくするために恐々アクセルの近くに。
「へえ、なにをしてくれるのかな?」
余裕を見せるアクセル。
「お前の相手は俺だ!!!アクセル!」
「なんだ、やっとボクと戦ってくれるんだね。嬉しいよ。」
ラグランは適当に相手を撃ちまくる。
「そんなんじゃ効かないよ。たとえボクの体に穴が開いてもね。」
すると再びアクセルは左腕をまっすぐ構え、レーザー口を開く。
「今だ!ルーン!」
「うん!」
そして、残りの精一杯の力でルーンは短剣2丁をレーザー口へ差し込む。
「これで終わりだああああ!!」
「なっ・・・!!」
人型だったら驚愕の表情・・・が見えるような気がした。
レーザー口からヒビが入った途端、ルーンは距離をとる。
「ジャスティン・・・!たす・・けて・・・!」
そうつぶやきながら、アクセルは爆散した。爆発した欠片が方々に飛び散る。とっさにモイに駆け寄り、ラグランはモイを庇う。
「くっ・・・!」
ラグランの背中に細かい破片が無数に刺さる。
ルーンは短剣で破片を起用に弾き飛ばすが、全てをはじき返す体力はなく、腕と足に少し破片が刺さる。
そして、静寂に包まれる。
「大丈夫か、モイ。」
「ええ・・・それよりラグランの方が心配だわ。」
「俺は動けるから大丈夫だ。」
「今、ここにあるコンピュータにアクセスをかけてみる。誰がミルちゃんにこんなことをしたのかを調べるためにね。」
「そっちは任せた。俺は親父をどうにかする。」
「ええ、サイバー関係は任せて!」
どこからか、拍手が聞こえる。
ミルとジャスティンがあれだけの爆発に無傷なのはの前方に薄青色のシールドが張られていたからだった。
「よくやったね、ラグラン。」
「親父・・・!」
24.ミルとマリカ
「まったく・・・役に立たない子だ。アクセル。」
ジャスティンは拍手をしながら、破壊されてしまったアクセルの残がいを見ながら言う。
それを聞いたモイは怒りのあまり、コンピュータ端末から少し離れてキッとジャスティンを睨みながら言う。
「なんて言い方するんです!大統領だからって、それは許せません!!アクセル君は最期にあなたに助けをもとめた・・・なのにそんな言い方・・・。」
モイは泣きそうだ。
そんなモイに意も介さず、ジャスティンは負傷気味のラグランに声をかける。
「よくやってくれた。ラグラン。街の様子はどうだったかね。ひどいことになっていただろう。それもみんなマリカのおかげだ。」
やはり街の騒動はミルのコンピュータの暴走から始まったことだったらしい。
それにしても、マリカ・・・?どこかで聞いたことのある名前だ。
そこでハッとしてラグランは気づく。
「マリカ・・・って、母さんの名前・・・。」
「そうだ。この子はお前の母さんの生まれ変わりだよ。私が開発した。まあ、男性型が完成するとは思わなかったがね。まあ、面影はあるだろう。それにしてもよくやってくれた。ブラックボックスの回収から始まり、マリカの心の成長。非常によくやってくれた。おかげでこんな素晴らしいマリカが完成した!」
母親のマリカはジャスティンと同じ、メカニックの研究者だった。そこで恋に落ち、結婚をし、ラグランを授かった。しかし、マリカはラグランが18歳の時アンドロイドの暴走により、命を落とした。
そこからジャスティンは変わってしまった。
マリカのいない世界に絶望したジャスティンは大統領という地位を手に入れ、世界を壊す決意をした。そこで、宇宙内で、研究室を作り、マリカに似たアンドロイドを作った。
しかし、研究室は事故により、爆発してしまう。ジャスティンと他の研究員は全員助かったが、マリカを失ってしまう。そこで、ラグランがマリカを見つけ出したのだ。
「ブラックボックス回収の時から親父の操り人形だったのか・・・俺は・・・。」
「さあ!行け!マリカ!ラグランを殺せ。」
「親父・・・!ミルをそんなことに使いやがって・・・!!」
「ラグラン。マリカが完全体になった今、もうお前は用無しなんだ。」
マリカ、行け!ともう一度ミルに対して命令する。
「はい。あなた。」
声は無機質。表情もない。
ものすごいスピードでラグランの目の前へと迫ってくるミル。
ラグランは先ほどの戦闘で刺さった、破片を背中に受けながら、ミルと対峙する。
「目を覚ませ!ミル!」
そのころモイは自分のノートパソコンを繋いで研究室のコンピュータにアクセスし、誰がミルをこのような状態にしたのかを調べる。
起動にはアクセルが関わったようだ。
しかし、根本のところはローラ・ランジュと表示される。
「ランジュって、まさか。あの・・・?」
モイは驚愕の表情を見せる。
25.覚悟
「そのまさかよ。モイ・ラレル。」
ツカツカと高いヒールの足音を立てながら、ローラが近づいてきた。
「なんでこんなところにいるって感じね。大学を主席で卒業したあなたにはわからないことよ。」
ローラはメカニック系の大学を卒業したあと、主席を取れず、両親にはひどい扱いを受けた。大学で2番目の子はいらないと家を追い出されたのだ。ローラは愛を知らなかった。荷物をまとめ、家を出ていき、とぼとぼと街を歩いていると一台の真っ黒な車がローラの傍を止まった。
車の後部座席の窓が下がり、男性の顔が見える。
「ローラ・ランジュ。君の成績を見たよ。主席を逃したようだね。」
「あ、あなたは一体・・・。」
「しかしメカニックの才能はあるのを私は知っているよ。私と一緒に来ないかね。」
その時、ローラは愛を知った。彼は名乗り、ジャスティンと言った。自分を必要とされている人物と出会ったのだ。心が暖かかった。
ローラは一つ返事でOKした。そして、ミルの開発を頼まれたのだった。
「お願いローラ。ミルちゃんを止めて!これ以上ミルちゃんを起動してたら街がもっと大変なことに。」
「あら、ということはその子を破壊してもいいってこと?」
「そういうことじゃない!止めるパスコード知ってるんでしょう!?お願い!」
「それは無理な相談ね。私はあの方の味方よ。」
「じゃあ、無理にでも解析するわ。コンピュータ借りるわよ!」
「お好きにどうぞ。」
ローラは解析されない絶対の自信を持っていた。あなたにはわかるわけがない。
そのころ、ミルとラグランは戦っていた。というより、ラグランは防戦一方だ。
「ミル!目を覚ませ!」
ミルは大振りのレーザーブレードを右手に出現させ、ラグランを排除しようとする。
それをラグランはすんでの所で交わすが、先ほどの戦闘のダメージで思うように体が動かない。このままではやられる。そして、ついにブレードはラグランの腕を切り付けた。腕が焼けるように熱い。
「くっ・・・!モイ!ミルを止める方法はないのか!」
「待って・・・!もう少しで分かりそうなの!」
モイは解析はできた。しかし、絶望的な結果になった。
「ローラ・・・あなた・・・そこまでして・・・。」
「解析できないと思ってたけど、さすがね。それでも、あなたにソレができるかしら?」
「くっ・・・。」
モイはその事実に戸惑いを見せた。
26.死
「ラグラン・・・。ミルちゃんを壊して!」
モイは苦渋の表情を浮かべている。
ルーンもモイの驚愕の発言に、戸惑いを隠せない。
「なぜだ!他にミルを止める方法はないのか!」
「それが・・・私にはできない・・・。」
「どうして?何ができないの?」
ルーンが詰め寄る。
「ミルちゃんを止めるパスコードは開発者自身。ローラ・ランジュの殺害。」
『!?』
驚くラグランとルーン。
驚く2人に泣きながら伝えるモイ。
「私にローラを裁くことはできない・・・。でも、ミルちゃんは壊れても絶対私が直す!お願い、信じて!」
「くっそ!」
言いながら、ラグランはまだ防戦一方でミルと対峙していた。
「これを使って!」
モイはラグランの銃に使うカードを投げる。
それをキャッチしたラグランはカードを確認する。
「これは・・・対戦闘ロボット用に変形する銃のカードキーか・・・。」
「そうよ。お願い、ラグラン!」
「くそ!モイ、約束は守れよ!」
「分かってる!」
涙を拭いながら発言するモイ。
ラグランはカードキーを自身の銃に滑らせると、銃は巨大化し、変形した。
「ミル!すまん!・・・愛している・・・!」
銃を構えるとミルに向かって苦渋の表情で発射した!
ドンッ!という音と共にミルが弾き飛ばされた!
シーンと室内が静かになる。
急いでミルに駆け寄るラグラン。
ミルは酷く破損していた。もはや胴体しかない。
「ミル・・・!!」
ラグランは今にも泣きそうだ。
「すまない・・・すまない、ミル・・・。」
ミルを抱きながら謝罪の言葉を口にするラグラン。
「あなた・・・ミッションを完遂できなくてごめんなさ・・・。」
そこで、ミルは事切れた。
「ミル・・・!」
この事実に、ラグランは父親に怒りの目を向けた。
「親父・・・!これがあんたの望んだことだったのか!」
「所詮マリカの代わりにはならなかったか。」
ジャスティンはどこまでも冷たい。
そのままラグランは父親に銃を向ける。
「私をその銃で撃ち殺すかね?」
余裕の表情でいるジャスティン。
引き金に手をかけるラグラン。
「ダメだよ!ラグ!あとは警察の仕事だ!犯罪者になってはいけない!」
ルーンはラグランに必死に声をかける。
「くっそ!」
苦悶の表情をラグランが浮かべているとジャスティンはおもむろに自身の銃を取り出した。
「俺を殺す気か。」
「マリカのいない世界など、私の存在価値などない。」
そう言って、ジャスティンは自分のこめかみに銃を当て・・・撃った。
「親父ー!」
最終話.その先
父親の突然の死にラグランは動けない。
そこへ真っ先に走ったのはローラだった。
「ジャスティン様・・・!!ジャスティン様がいないなんて・・私は・・・!」
ジャスティンが衝撃で手放した銃をローラが掴み、ローラもジャスティンと同じ道を辿ろうとする。
しかし、銃は不発に終わった。1発しか入っていなかったのだ。
「そんな・・・、ジャスティン様・・・。」
たった一人ローラを理解してくれた人。その事実に絶望し、ローラはその場にくずおれた。
その様子に、ラグラン、ルーン、モイは見つめることしかできなかった。
あれから、数日が経った。
ローラは逮捕され、街が大変なことになった元凶がミルにあるとわかり、政府はミルを直すことを許してくれなかった。
しかし、モイがミルはもうコンピュータを暴走する能力はないことをあらゆる方法でなんとか訴え、許しを得ることになった。
そして、3年後。
ミルが出会ったころと同じ状態に戻った。髪は赤いままだが、手足も胴体もある。
ミルが起動した時、ラグランは真っ先にミルを抱きしめた。
しかし、一つ問題があった。
ミルには感情が無くなってしまったのだ。目にも感情が見られない。喋ることもできない。
3人は絶望した。
「ごめんなさい、ラグラン。私の力ではこれが限界なの・・・。」
モイが自分の力量のなさに謝罪する。
しかし、ラグランだけは諦めなかった。
「気にするな、モイ。・・・ミル、思い出の場所へ行こう。」
「・・・。」
ミルは応えない。
「くっ・・・。」
試しにキスを落としてみたが、やはり何の反応もない。
やがて、最初に来た公園へとやってきた。昼なので、まだ公園はにぎやかだ。
ラグランとミルはベンチへと座る。
「ミル、お前がどんなになっても俺はお前を愛している。」
「・・・。」
反応はない。
「そうだ。お前に渡したいものがある。もう意味のないものだがな。」
そう言って、ラグランはポケットから花がモチーフのブレスレットを取り出した。モイが制御装置としてミルに贈ったものだった。
「これをはめててくれ、お守りだ。もうお前を誰のものにも渡さない。」
ミルに優しくラグランはブレスレットをミルの右腕に装着させる。
「ミル・・・!」
ミルを優しく抱きしめる。
すると、ミルの全身が光りだした・・・!
目をつむっているラグランはそれに気づかない。しかし、アンドロイドなのに体温があることに気づき、思わずラグランはミルを体から離す。
「ミル・・・?」
ミルは立ち上がり、浮かびながら光り、髪の色がだんだん青に変わっていく。
そして、目を開けるミル。そこには感情がのっていた。
「ラグ・・・ラン・・・。」
「ミル・・・!元に戻ったのか!?」
「ラグラン!」
急いでミルは駆け寄り、ラグランの胸へと飛び込む。
「ミル・・・良かった・・本当に・・・!」
「ボク・・・ひどいことしたの覚えてます・・・。そんなボクが存在していいんでしょうか?」
「モイが頑張ってくれたんだ。」
「そうだったんですね。ボク、居ても・・・いいんですね。」
「当たり前だ!」
ラグランはミルを抱きしめ、初めて深い深いキスをした。
ミルが元に戻ったことを、モイとルーンにも即座に報告した。
するとモイがミルにあげたブレスレットをアレンジし、箱にしまった。
「へへへ~。これ、あげる!」
モイはニコニコしながら、ラグランに小さな箱を渡した。開けるとそこには指輪が2個入っていた。
「こ、これは流石にまだ早くないか?」
ラグランは焦る。そこでルーンが追い打ちをかけるように発言する。
「ミルちゃんを守ってあげたいんでしょ。その証だと思って受け取りなよ。」
「わ、わかった。」
そして、飲み物を用意していたミルを呼び、ラグランとミルでお互い指輪を交換する。もちろん場所は左薬指だ。
『おめでと~!』
ルーンとモイが祝福の言葉を口にする。
「ありがとうございます。ボク、とっても嬉しい・・・。」
涙を流すミル。
ミルはモイが直す以前にはなかった体温もあり、なんだか人間に近いアンドロイドになった気がする。そこにラグラン達は驚きつつも、ミルの表情を見つめるのだった。
「ミル、愛している。これからもずっと。お前はアンドロイドだからお前より先に俺は旅立ってはしまうが、覚悟してほしい。」
「はい。ボクはそれでもラグランのことが好きです。ラグランがいなくなってもずっと心の中にいます。」
二人は抱き合った。そしてそれを幸せそうな顔で見つめるルーンとモイだった。
ー完ー