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魔女首のラナ  作者: まるねこ
本編
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39

「おはようラナ」

「おはようブラッド」


朝の支度をしてロビーに出てみると、イーヴォ王太子達もやってきた。


「ラナ、ブラッドロー、そろそろ準備は出来たかい?」

「えぇ、私達は準備が出来たわ」

「領主から教会まで馬車を用意してくれたからそれに乗っていこう」

「それは有難いわ」



そうして私達は領主の用意した馬車に乗り込み、教会へと向かった。距離としてはそう遠くなかった。近づくごとに私達は口数が少なくなる。やはり緊張はするものよね。


馬車は森の中を走り続け石造りの教会へと辿り着いた。そこはギャランの身体があった所とは違い、長年手入れされてきた歴史を感じる素敵な教会だった。

邪悪な物が漏れ出ている感じはしないけれど、頭は今どうなっているのか不安は感じる。


「では、行きましょうか」


私達は教会に一歩入ると、そこからは空気が変わった。きっとこれは精霊の結界なのだろう。とすればこの教会には精霊の守りがあるのだと思う。


神官はこの時代に珍しく精霊を見ることが出来るのかもしれない。教会の扉をノックし、入っていくとそこには一人の初老が立っていた。


「ようこそお越しくださいました。イーヴォ王太子殿下。お話は領主より伺っております。ラナ・トラーゴ・オリベラ様。お待ちしておりました」


そこで私は違和感を覚える。


この神父、何かが違う。


それに私の名前を知っている。けれど彼からは邪悪なものは感じない。


「……貴方は誰? 何故私の名前を知っているの?」


私がそう口を開くとイーヴォ王太子や護衛騎士達は驚き、警戒し始める。だが初老は顔色を変えることなく穏やかに話し始めた。


「貴方が永久の首となってからずっとここでお待ちしておりました」


そう言うと初老から子供の姿に変えて見せた。どうやら精霊だったようだ。

その姿にイーヴォ王太子達は目を見開いて驚いている。

精霊が人の姿になり、話をするのだから驚いて当然かもしれない。私だって話したことがないのだもの。


「ギャランはやはりここに眠っているのね?」


精霊は頷いている。


「私達精霊の結界で首は守られています。消滅は私達の願いでもあります。先日身体の方の魔力封じを行った時にこちらの首にも変化が現れました。

今まで意識なく魔力が漏れていましたが、今は魔力の漏れが全くない。下手をすれば奴が目覚めるかもしれません」

「目覚めても首しか魔法が使えないから敵ではないけれど、五月蠅いから面倒だわ。

早く送ってしまいましょう。精霊様、私達をギャランの元へ連れて行って下さいな」


精霊は一つ頷くと教会の奥へと案内してくれる。


精霊が長年守ってきたこの地はやはり心地よく感じる。イーヴォ王太子達も不思議な感覚を味わっているようだ。忙しなく回りを見渡している。


そうして教会の一番奥にある部屋の中央に聖櫃のように石の箱が置かれてあった。


「ブラッド、開けてみる?」

「そうだな。開けたくはないが」


ブラッドは精霊と一緒に石の箱の元までいき、箱に手を添えて呪文を唱え始める。

何故呪文を唱えたかと言うと、石の箱に魔法円が刻まれて封をされていたからだ。


このまま箱を開けずに頭の方を精霊の泉に送りたかったが、刻まれた魔法円を解除しない限り、この箱を動かす事は出来ないようだ。


しっかりと封をされているから瘴気が少ししか漏れなかったのだろう。

ブラッドが詠唱している間に精霊は教えてくれた。



ギャランの瘴気は箱でかなり抑えられてはいたが、やはり魔力が多く漏れはしていたようだ。

精霊は箱が壊れてしまわないように何度となく修繕をしていたのだとか。

待っている間に魔法円の文字がふわりと一文字ずつ浮かんでは消えていく。順調に開封作業が進んでいる様子。最後の文字が消えると緊張に包まれる。


「ラナ、準備はいいか?」

「えぇ。大丈夫よ」


皆が見守る中、ブラッドローは石の箱をずらして開けた。


そして髪を引っ張り首を箱から取り出してみせた。ギャランは生前の姿とは大きくかけ離れていて魔物化している。

緑の髪に金が入っていた髪の毛は全て白髪になっており、目は赤く視点が合っていない。


そして口をパクパクさせて何かを呟いている。どうやら意識はまだ混濁している様子。今ならまだ私が魔法を使って抑え込む事はしなくても良さそうだ。


私はホッと一息を吐いた。


「ブラッド、すぐに新たな箱へ入れましょう」

「……あぁ、そうだな」


護衛騎士の一人に持たせていた箱を受け取ったブラッドローはギャランの意識が復活する前に箱に入れてすぐに精霊の泉へと箱を送った。


「なんだか簡単に済んだようで良かった」イーヴォ王太子はホッとした様子で話し掛けてきた。


「そうね。ここまでは簡単な作業だったわね。けれど、ここからはツィリル陛下の手を借りないといけなくなるし、危険な作業に入る事になるわ」

「頭と身体を繋げる作業に父が必要なのですか?」

「えぇ。頭と身体を切り離す作業は魔法使い数人で行うものなの。反対に繋げる時も一人では難しいわ。私とブラッドローの二人で出来なくはないけれど、安全を考えればあと一人欲しいわね」

「私では駄目なのですか?」

「貴方は王太子でしょう?何かあれば王を貴方が引き継ぐことになる。それに大がかりな魔法を使うにはまだ未熟だわ。魔法を使い慣れているツィリル陛下の方が適任者なの」


イーヴォ王太子はとても悔しそうだ。ここまできて自分が参加出来ない事が悔しいのだろう。だがこれは仕方がない事だろう。

ツィリル陛下だって知識として知っていても複数人で行う魔法を使ったことがない。

だが陛下と王太子だったら老い先短い方を選ぶ。もしも、の事を考慮して。万全を期してかかるべき事なのよね。


私達はギャランを泉へ送ったので一旦王都に戻る事になった。


精霊はこの後どうするのか聞いてみた。今までずっと教会を守っていたのだが、守る物が無くなったのだ。すると精霊は教会にいたのは一人では無かったようだ。


結界を解いて森でまた仲間と暮らしていくらしい。

妖精は元々ここの森で生まれた妖精らしく、神様から一時ギャランを預かってほしいと願われて守っていたようだ。妖精たちはギャランが居なくなっても元に戻るだけだそうな。


ただ、こうして人型を取って人間の前に現れるのはないだろうとも言っていた。精霊に別れを告げて私達は王都へ戻った。

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