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その8 ご案内致します


『こーちーらはーやどやーとおーしょくじどーころにーなーりまーす』


 ゴーレムは、空中にフワフワと浮きながら施設の説明をする。それを熱心に聞く冒険者とギルド職員たち。


『おーしょくーじとーにゅーよくでーどーか1まーいでーすーせーんたーくはーてっかー2まーいでーす』


 宿屋の中にある食堂で、ゴーレムが説明をした。独特な喋り方は聞き慣れればなんとかなるものだ。ギルドの職員がメモを取り、冒険者たちはその安さに驚いていた。見せられた食事は、街でなら銅貨1枚はしそうなものだった。それを食べて風呂にも入れるとは破格である。


「しかも水はタダなんだ」


 一番後ろにいたアレクがそういうと、ちょっとした騒ぎになった。


『そーでーすーおしょくーじーをーすーるかーたーはーおーみずはむりょーでーす』


 それをごるどの職員は慌てて書き留める。ゴーレムは一度頷くと、さらに奥へと進んだ。


『こーちらがーおーふろでーすゆーぶねにーはーいるまえはーかーけゆーをしーてくーださーい』


 広い脱衣所に広い風呂場、オマケに石鹸が備え付けられていた。ギルドマスターは石鹸を手に取りにおいを嗅いだ。その辺の雑貨屋で売られている物と違い、随分といい匂いがする。


「これは随分と高級なようだが、冒険者によっては手グセの悪いものもいる盗みを働いた場合はどうなるのだ?」


 至極真っ当な質問であったが、ゴーレムはなんともないような顔をして答えた。


『だーいじょーぶでーすーここのなかーでーはーんざーいこーいはーでーきーませーんわーるいこーとーをすーるやーつはーさーくのそーとにポーイでーすー』

「柵の、外?」


 言われた意味が分からずギルドマスターが首をひねると、御者をしていた職員がハッとした顔をして口を開いた。


「来た道からあった木の柵ですね。ここの周りも囲われている」

『そーでーすーわるいこーとーひとのもーのーぬすむーけがさせるーおーんなゆのぞくーそーのーほかーわーるいこーとーすーるーやーつーはーまーとめーてポーイでーすー』

「なるはど。犯罪行為をしたやつは、強制的に追い出されるのだな」

『はーいーでーもーごあんしんくーださーいわるいことーでーきませーんてーをだーしーたーらポーイでーすー』

「どういうことだ?」


 謎かけのようなゴーレムの言葉に一同が首をひねる。先程犯罪者は追い出されると言ったが、悪いことはできないとも言った。


「あ、わかった。盗もうとしても盗めないまま柵の外に飛ばされるんだ」


 誰かがそういうと、ゴーレムが深く頷いた。


『そーでーすーわーるいことすーるーやーつはーポーイでーすーさーくのそーとーまーものうじゃうじゃでーすー』

「な、なるほど。どうりで魔物の気配がしないはずだ。柵は強力な結界なのだな」


 ギルドマスターは深く頷いたのだった。

 宿は基本2人部屋で、ベッドが2つでトイレ付き。朝食がついて銅貨3枚というまたまた破格の値段を言われ、ギルドの職員は迷いなく泊まることを選択した。冒険者たちは、ダンジョンに潜るかどうかを決めてからにした。ゴーレムの説明では、まだお試しダンジョンであるため、本格的なダンジョンが始動すれば、食事のメニュウーも増えるのだという。


『おーまちかーねのーダンジョンのーせーつめーですーよー』


 石の門に座っていたゴーレムが、待っていましたとばかりに説明を始めた。言っている内容は先日シンとアレクがギルドに報告した内容と変わりはなかった。そうして全員にカードが配られたのだが、やはり名前が記されていて盛大に驚いたのである。


「10階のボスを倒すのはやめてくれ。調査が中断してしまうからな」


 ギルドマスターがそういうと、冒険者たちは頷いた。なにしろ焦る必要はないのだ。なにせダンジョンの目の前に宿屋がある。オマケに、ダンジョンでやられても死ぬことがないのだ。ただ手に入れたアイテムが金も含めてなくなるだけだというのなら、だいぶ無茶もできるというものだ。


『おーきをつけーくーださーい24じかーんたつーとーリセットさーれーまーす』


 ゴーレムが、今まさにダンジョンに入ろうとした冒険者たちに付け加えるかのように言ってきたが、それを耳にしたところで、すでに冒険者たちはダンジョンに行ってしまったのであった。


「そ、そういうことは先に言ってくれ」


 ギルドの職員と入る予定で準備をしていたギルドマスターは、不思議そうに瞬きをしているゴーレムにたいして控えめに苦情を入れた。そもそも、ゴーレムが説明をしてくれたから、ほとんど調査の必要などなかった。もはや、ただ単に好奇心を満たすためにダンジョンに潜るだけとなってしまっていることは否めなかった。


『あーんしーんしーてくーださーいリセットさーれーるーのはーもののーはーいちだーけでーすダンジョンからーポーイされまーせんー』


 それを聞いてギルドマスターは胸をなでおろした。


 ゴトゴトゴトゴト


 静かだった広場にけたたましい音が響いた。見れば砂煙を上げて1台の馬車が走ってくる。


「わ、ば、ばか、止まれ、止まるんだ」


 のんびりと広場で支度をしていたギルドの職員は走ってきた馬車に驚き逃げ惑う。手綱を握る御者の男は、驚き慌てて馬を止めようとするがどうにもまにあわない。


「ぎゃああああああああ」


 馬車に轢かれるとギルドの職員たちが覚悟をした時、馬車の影が急になくなった。


『あーぶーなーいでーすーねー』


 呑気そうなゴーレムの声がして、馬車が馬ごと宙に浮いていた。


『おーきゃくさーまーおーけがーはごーざいまーせーんかー』


 そう言いながら、ゴーレムはゆっくりと馬車と馬を地面に降ろした。


「ひ、ひゃああ、ゴ、ゴーレム……こ、こ、こ」

「落ち着け、大事ないぞ」


 一つ目のゴーレムを見て恐れおののく御者をギルドマスターが叱りつけた。その姿を見て御者は落ち着きを取り戻した。


「あ、ああ、よかった。あなたはシュンゼルの街のギルドマスターではありませんか」


 そう言ってギルドマスターのもとに駆け寄り膝をついた。


「盗賊に追われていまして、助けてはいただけないでしょうか?もちろん、お金は払います」

「ん。お前はハンツじゃないか。って、盗賊?そんなものいないじゃないか」


 ギルドマスターは向こうの方に目をやるが、どこにも盗賊らしき人影は見当たらなかった。


『ごーあんしんくーださーいさーくのーなーかにーはーとーぞくーはーはーいれーませーん』


 ゴーレムがそういうと、ギルドマスターは思い出したかのように手を打った。


「そうだ、悪人は柵の結界に阻まれるのだ。ハンツ、お前は意図しないで盗賊からその身を守ったぞ」

「ど、どういうことでしょう」


 ギルドマスターの言っていることが理解できないハンツは、詳しい説明を求めた。そうして状況を理解すると、一つ目のゴーレムの手を取り涙ながらにお礼を言うのであった。


「高名な魔法使い様のゴーレムなのでしょうか。是非ともお礼をさせてください」


 そんなことを言うハンツに、ゴーレムはただ大きな一つ目を瞬きさせて大きく頷いた。


『あるじーはーおーれいよーりーもーこーのーダンジョンをーせーんでんしーてはほーしーいとーいっておーりまーすー』

「な、なんと謙虚なお方だ。わかりました、このハンツ行商の先でこちらのダンジョンの宣伝をいたしますぞ」


 ハンツがそう答えると、ギルドマスターは複雑な顔をした。まだ自分たちも潜っていないダンジョンをあちこちに広められてしまうからだ。宿屋があると知れれば、遠方からも冒険者がやってくるだろう。


 『こーちらーのちーらしーをくーばってくーださーい』


 ゴーレムはそう言うと、紙束をハンツに差し出した。


「おお、これは見事な作りですな。紙も上等なものだ。素晴らしいダンジョンのようですな。わかりました、このハンツ、行商に回った先々でこちらを配りまくりましょう」


 ハンツがそう答えると、ゴーレムは深く頷いて、こう言った。


『でーはーつーぎーのまーちまでーごーいっしょいたしーまーす』

「な、なんと。ゴーレムさまが護衛をしてくださるのですか。なんとありがたい」


 そうしてハンスは何度も頭を下げながら次の街へと向かっていった。馬車の屋根には一つ目のゴーレムが乗っている。それを見送るギルドマスターの手には、先程ハンツが渡されたのと同じチラシが握られているのであった。

ダンジョンと言ったら、横縞の服を着たちょび髭のソロバンを振り回す愛妻家の商人さんしか勝たん勢です。

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