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その46 素材は育てましょう

「では、改めまして、新しい住人のサリナさんです」


 高橋に紹介され、サリナが頭をぴょこんと下げた。

 着ているものは、新たにうさみが見繕って渡したものだ。サリナは宿屋に泊まることにして、温泉に入り服を住人らしいものに取り換えたのだ。だが、長いこと冒険者として過ごしてきたため、履きなれないスカートではなくズボンをはいている。


「帝国に生まれ、戦争孤児となったためフィンデール王国にいました。この街で皆さんと一緒に大陸復興のためアルトルーゼ様を信仰していきたいと思います」


 そう言って挨拶をすれば住人たちは拍手で迎えてくれたのだった。


「さて、ここからが本題です」


 高橋が言葉を発すると、住人たちはいっせいに高橋を見た。


「宿屋や、食堂で人気のからあげですが、いずれは皆さんの力だけで作っていただきたいと考えています。ですが、唐揚げの肉はコカトリスのため、冒険者でもない皆さんに狩ることは出来ないでしょう」


 高橋がそう言うと、材料を初めて知った住人たちは驚きの声を上げた。


「卵もコカトリスが生んだものです。栄養もあり、ケーキなどのお菓子を作るためには必要な食材です。それらを安定して供給させるために、皆さんにコカトリスを飼育していただこうと思っていたのです。でも、魔物だから雛でも怖いですよね?」


 高橋がそう言えば、住人たちは頷いた。


「そんなときにこちらのサリナさんが来て下さったので、サリナさんにコカトリスの飼育をお願いしようとおもうのですが、どうでしょう」

「そうしたら、卵が食べられるようになるんですか?」

「唐揚げが自分ちで作れんのかよ」

「俺はオークを飼育してるんだ。仲良くしようぜ」


 まだ答えていないのに、住人たちはその先を夢みてすでにおいしそうな顔をしていた。


「サリナさん、お願いしても?」


 モリスが住人代表としてサリナに確認をとった。


「はい、もちろんです。冒険者をやっていたから魔物はそこまで怖くはないし、なにより、冒険者をしなくていいのなら、なんだってやりますよ」


 ぐっとこぶしを握ってそんなことを言うサリナに対して、住人たちは自然と拍手をしていた。戦争で住むところを失った気持ちはわかるし、家族が死んでしまったことに対する同情の気持ちだって住人は皆持ち合わせていた。


「サリナさんありがとうございます。でも安心してください。いきなりコカトリスを育てろなんて言いませんから」

「へ?じゃあ、あたしは何をすれば?」


  話の意味が分からずサリナが首を傾げると、そこにゴーレムたちが姿を現した。


「おーまたーせしーましーたー」


 そう言って現れたゴーレムたちの手には籠があった。


「これはコカトリスの卵なんです」


 高橋が卵を一つ手に取り説明した。大きさは高橋のこぶしほどある。片手でつかんではいるが、ずいぶんとまん丸で、なかなか持ちづらそうではあった。


「危険な魔物ではありますが、生まれた時から育てればよくなつきます。習性で、生まれた時に見たものを親だと思うんです。それを利用して飼育してもらいたいんですよね」


 高橋がそう言うと、サリナは頷いた。


「それで、そろそろリスモンの皆さんの住む街を独立させたいと思います」


 高橋が宣言すると、住人たちはみな驚いた顔をしたものの、誰も口を開こうとはしなかった。


「ここは本来ダンジョンの50階にあるんです。皆さんの訓練のために8のつく階層に無理やりつなげている状態なんですよね。皆さんの生活している街を俺の住んでいる街から切り離して独立させたいと思います。もちろん今まで通りサポートはつきますから安心してください」


 高橋の説明を聞いた住人たちはみなほっとした表情を見せた。


「サリナさんの住む家と、コカトリスの牧場は切り離した後に作ります。作業は今夜、皆さんが寝た後に行いますから、家に帰ったら絶対に外に出ないでくださいね」


 高橋がそう言うと、住人たちは素直に頷いた。


「それから、今後サリナさんのように移住を希望する人が現れたら、モリスさんを中心として自分たちで決めてください。その時、まだ誰もやっていない仕事を希望した時はくまおか、くまみに相談してください」

「わかりました」


 そうして住人たちはそれぞれの家に帰っていった。サリナは宿屋に戻り、借りた部屋のベッドに横になった。するとすぐに眠くなり、ぐっすりと眠ってしまったのだった。住人達も同様に、ベッドに横になった途端、すぐに眠くなり、深い眠りについたのだった。

 そうして翌朝になると、誰もが今までと違う景色に驚いた。街の周りはぐるりと森が囲んでいて、街は穏やかな田舎町の装いになっていたのだ。きれいな石畳の道はそのままで、どこか温かみのある町に生まれ変わっていた。何より、町にある教会の庭に立派な石の門が立っていた。それが町とダンジョンをつなぐのだ。


「こいつはすごい」


 宿屋のベッドで寝ていたはずのサリナは、立派な一軒家のベッドで目が覚めた。外に出ると立派な小屋と高い柵が周りをぐるりと囲んでいた。


「おはようございます。サリナさん」


 声のした方を見れば、そこに高橋が立っていた。


「朝食を持ってきました。食べながら説明をさせてもらえますか?」

「は、はい。もちろんです」


 サリナが元気よく返事をすると、目の前に綺麗なテーブルクロスが敷かれた二人掛けのテーブルが現れた。


「やーきたーてぱーんにーしんせんなーやーさいさらーだーあつあつべーこんにーつーめたいぎゅーにゅーでーす」


 歌うような言い回しでゴーレムが次々と食器を並べ、呆然と立っているサリナを椅子に座らせた。


「さあどうぞ、召し上がれ」


 高橋にそう言われ、サリナは元気よく挨拶をしてパンをほおばった。


「サリナさんのお仕事は、コカトリスを飼育して卵を産ませることです」


 高橋が話始めたので、サリナは慌てて返事をしようとしたが、高橋に手で制されてしなった。


「食べながら聞いてください。返事は不要です」


 そう言われてサリナは一つ頷き、朝食を食べ勧めた。高橋が返事は不要と言ったのは、ゆっくり食べさせるためではなく、決定事項のため返事がいらないだけなのだ。


「まず、コカトリスの卵は魔力を注ぐことにより孵化します。あちらに小屋があったのを見たと思いますが、そこがコカトリスの飼育小屋になります。中にはコカトリスの寝床となる様に藁と魔物の毛を敷いてあります。孵化するまではサリナさんが毎日魔力を注いでください。注がれた魔力を感知するらしいので。人の魔力を注げば、人を仲間と認識するそうなのでがんばってくださいね」


 高橋がそう説明すると、サリナはこくりと頷いた。


「孵化した後は外で遊ばせてください。ダンジョンには餌となる昆虫などは生息していないので、コカトリスの餌を栽培するのもサリナさんの仕事になります。それと町を囲んでいる森の木は外から持ってきて植えたものになるので、時期が来れば実を付けますから、コカトリスが勝手に食べたりもするでしょう。ただし、サリナさんは森に入らないでください。あの森に向こう側はないので、ダンジョンのどこにつながっているのかは俺でも把握はしていないからです。コカトリスは魔物ですから、本能で危険な場所には近づかないのでそのあたりは安心してください」


 そう言って高橋は籠を出してきた。そこにはいろいろな種が乗っていた。


「葉物野菜の種です。種は雑貨屋で買えますから、足りなくなったら買ってください。それと、お金のことですが、ダンジョンの中にいる限りは毎日働きに応じて給金が家にある貯金箱に自動的に振り込まれます。今日から働いた分は明日の朝に貯金箱に振り込まれます。ですから、明日の朝食まではお渡ししておきますね」


 高橋がそう言うと、一つ目玉のゴーレムが現れて、籠いっぱいのパンと、いろいろな野菜、それとベーコンなどの肉が盛られた籠がテーブルに置かれた。


「キッチンの流しから水が出ますから、料理はしやすいと思います。ゴミ捨て場所は決まっていますから、ルールを守ってくださいね。生活用品はある程度揃っていますから、足りないものは自分で買いそろえて下さい」

 

 高橋はそう言い終えると席を立った。


「ああ、そうそう、コカトリスの卵は今の二倍ぐらいになると孵化するそうですよ。毎日すべての卵に魔力を注いでくださいね」


 それからサリナは毎日コカトリスの卵に魔力を注いだ。畑をやっている住人に聞いたところ、葉物野菜は成長が速いため、一度育てて成長具合を確認した方がいいとアドバイスをされた。それに、コカトリスは魔物だから、どれくらいの餌が必要か誰もわからなかった。オークを飼育している住人のところを見に行ったが、オークはお腹いっぱいまで餌を食べると寝てしまうためあまり参考にならなかった。だが、乾燥させたトウモロコシがいいと教えてもらったので、サリナはここに来るまでにダンジョンで稼いだお金を使い、トウモロコシの種を買ったのだった。

 そうしてサリナが孵化させたコカトリスはすべてメスだった。その後も、コカトリスはメスしか生まれなかった。どうやらコカトリスは、注がれた魔力によって性別が変わるらしく、この後も、サリナが育てるコカトリスはずっとメスだけになるのであった。

 

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