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峠の心霊スポット

作者: 夕

20年ほど前、まだ若かった頃の話です。

今はもう当然やっていませんが、当時の僕は夜な夜な峠の山道を爆走する、いわゆる「走り屋」をやっていました。

大学時代の先輩から格安で欲しかった車を譲ってもらった日のことです。

その先輩を助手席に乗せ、後部座席には友人2人、僕と合わせて計4人で峠の山道を走っていました。

当時、その峠の中腹に心霊スポットで有名な古いお寺がありました。

目的も無く走っていたので、それじゃあ行ってみようという話になりました。

時刻は深夜の2時を回っていたでしょうか。

そのお寺は管理されている住職もおらず、境内は荒んでいました。

一通り見て回りましたが、特に心霊現象のようなものも無く、なんだか拍子抜けしながら、誰からともなく帰ろうかという話になりました。

帰り道は僕が先輩から購入した車の話で盛り上がりました。

しばらく山道を下ったころ、先輩がカーステレオを操作し始めました。

お気に入りのCDが入ったままだったと言うのです。

せっかくだから聴こうかということで、先輩は再生ボタンを押しました。

しかし反応がありません。


「先輩、カーステ壊れてるならもう少し安くしてくださいよ」


僕が冗談でそう言うと、先輩はそんなはずないと言いながら、今度はラジオのボタンを押しました。

時刻はもう3時を回っていました。

案の定、聞こえてくるのは砂嵐の音ばかりでした。峠の山道というのもあったのかもしれません。

ラジオのチャンネルを切り替える中で、かすかに人の声がするチャンネルがありました。

先輩がそこにチューナーを合わせると、声は次第に鮮明になっていきます。


「ほら、聴こえるだろ。やっぱり壊れてなんかいないよ」


先輩は自慢げに言います。


「いや、ラジオは聴こえてもCDだけ壊れてるのかもしれないじゃないですか」

「だから、そんなことないって」


先輩は頑なに認めようとしません。

しょうがないなぁ、と思っていると、スピーカーから聞こえてくる声がなんだか大きくなってきたようで気になってきました。

先輩と後部座席の友人は構わず談笑しています。

……あれ? みんな気になんないのかな?

そう思っていると、どんどん声は大きくなってきます。

最初は何人もの声が重なって聞こえ、なんと言っているか分からなかったその声は、次第に合わさり始め、はっきりと分かるようになってきました。

その瞬間、僕は危うくハンドルを進路と反対方向に切りそうになりました。

その声は繰り返しこう言っていました。


落ちてみんな死ね


そこからどう帰ったのか覚えていません。

あとから友人から聞いた話では、ガードレールに突っ込もうとする僕を、隣の先輩が必死に抑えてなんとか下まで降りたそうです。

車はカーステレオごと先輩に内緒で売りに出しました。

もう20年も前の話ですが、今も時折、カーラジオを聴くと思い出します。


友人や知人から聞いた実際にあったお話を、極々短い小説にしています。

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