白い猫は笑う #2
たかが猫くらい放っておけばいいのに。でも、そうはできなかった。
男たちに知られたら馬鹿にされるだろうが、私は可愛いものが好きなのだ。
こんなに可愛らしい白猫さんが、薄汚れて倒れてるのを見過ごすことは出来なかった。
その時には任務の事などすっかりと忘れていて、猫を抱えて夢中で次の町に向かった。
町に着くと、宿屋を見つけて飛び込んだ。女将に事情を話し風呂場付きの部屋を用意してもらう。
温かい湯で絞った布で汚れを落とし、ベッドに寝かせてあげると、猫は人に化けた。
どうやら獣人だったようだ。
落ち着いた様子でくぅくぅと寝息をたてる彼女をしげしげと眺める。
ふわふわの毛で覆われた耳と、長くてしなやかな尻尾。それ以外は私たち人間と殆ど変わらない、とても愛らしい女の子だ。
見た感じでは、私より5つほど年下くらいだろうか。と言っても、獣人は人間より少し若く見えると聞いた事があるので、本当のところはわからないが。
なにせ、獣人を見るのは生まれて初めてなのだ。王都ならともかく、こんな田舎町に獣人はまず居ない。
可愛い、と意識せずに口から呟きが漏れた。その言葉を発したのが自分だと気づいた時に、何故か心の音が高く鳴った。
思いがけぬ心の動揺を抑えながら、そっと彼女の体を見回す。
ところどころに擦り傷やぶつけたような痣があるが、大きな怪我はなさそうだ。穏やかに眠っている様子からも、心配はないだろう。
ほっと胸を撫でおろす。
食事を貰ってこようと、眠る彼女を置いて部屋を出た。
宿の一階にある飯屋で、具だくさんのシチューと食べやすくカットしたハンバーグを用意してもらった。
トレーに載せて部屋に戻りそっとドアを開けると、ベッドから「ふにゃ」と可愛らしい声がした。
起こさぬように気を付けたつもりなのに、起こしてしまっただろうか。
そう思った私の耳に、ぐぅーーと腹の虫の鳴き声が届いた。
「ふふっ」
つい、笑ってしまった。
さすがに私の声が聞こえただろうに。でも獣人の彼女は私に背中を向けたままで、多分寝たふりをしている。それがふりだとわかるのは、耳がぴくぴくとこちらを気にして動いているからだ。
「お腹がすいているんだろう? 良かったら、食べないか?」
そう声をかけると、彼女は申し訳なさそうな顔をして、ようやく起きだして来た。