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コールセンター

作者: 千葉侑子

自分の個人情報を握られてるのに、自分を「上」「お客様」相手を「下」「サービス業」だと思った途端に横柄になってしまうのは何故なんでしょうね…。

どこで誰が繋がっているかわからないのに。

この頃は公共料金の催促までも民間企業に委託しやがって、


個人情報を垂れ流して未納だの納付予定だの日曜、


祝日関係なく朝から夜までしつこく電話してきやがる。


どかっとソファーに座りタバコに火をつけながら苛々とテレビをつけて、


見るともなしに画面を見ながら鼻から煙を噴出した。


たまたま家内と喧嘩したことを居合わせた娘に注意され、


娘を怒鳴ったら腹ただしいことに二人して出かけてしまい、


昼飯の用意もされていなかった。


カップめんにお湯を入れてそろそろ頃合かと言う時に電話が鳴った。


ディスプレイの番号を見て、またあれかと思ったとたんカッとなり


電話のむこうの若い女が名乗ると同時に食って掛り、


涙声になっても怒鳴り続け、上司に代わるというのも制止し、


散々怒鳴り散らして受話器が割れるのではと思うような勢いで叩き切ってやった。


伸びきって盛り上がったカップめんを横目に、


冷蔵庫から缶ビールを出して飲みながらだんだん気持ちが落ち着いてくると、


女の涙声が耳についてなんだか後味が悪い。


どうせいい給料に釣られて働いてるんだろうが、そんな仕事を選ぶ方が悪いんだ。

 

そもそも申請を出しても免除を却下しやがったのはそっちじゃないか。むちゃくちゃしよる役所の犬が。


自分に言い聞かせるようにつぶやいたが、なかなか気持ちは落ち着かなかった。


缶ビールの空き缶が何本かテーブルに並び、

気が付くと眠ってしまったらしい。


いつの間にか降っていた雨音と開けたままのサッシからの風で目がさめた。


起き上がってみると、女がサッシの向こうに立っている。 


ラフな服装に長い髪。


俯き加減でこちらを見ているようだが、暗くて良く見えない。


電気をつけようと立ち上がると、女が風になびくレースのカーテンを片手で押さえて上がりこんできた。


「だれだ!」


叫んだつもりだったが起きがけだったので声が裏返る。


女はテーブルの上のクリスタルの灰皿に右手をかけた。


灰がカーペットの上に巻き散らかされる。


だらんと下がった右手に握られた灰皿から目が離せなかった。


咄嗟に掴んだスマホが手から滑り、サンダル履いたまま立っている女の足元で止まる。


女はスマホを踏みつけながら体をこちらに向けた。


恐怖を感じてあわてて二階へ駆け上がり、寝室に飛び込んで受話器をとった


警察・・・警察・110


口に出しながらボタンを押し、受話器を耳に当てると女の声が聞こえてきた。


「お忙しいところ恐れ入ります。


先ほどお電話させていただきました、年金のご案内業務委託を受けております、三友ファイナンスのサイトウです。」


こんな時にまたあの電話だ。


サンダルを履いたままの女の足音がガタッ、ガタッ、とフローリングを鳴らし、ドアの前で止まる。


受話器を耳につけたまま動けずにいると、カチャリと音がしてドアが数センチ開き、女が片目で覗いている。


汗でびっしょり濡れた受話器が滑り落ちそうだ。


後退りしようにも、もう逃げ場がない。


叫ぼうと息を吸い込んだ時、耳につけたままの受話器から女の声が響いた。


「・・・恐れ入ります、タカハシ様。 

ドアの外のそれ、わたくしでございます。」





結局、生きている人間が一番面倒。

怖いかどうかは人次第。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 世にも奇妙な物語みたいな怖くて不思議な感じ。 江戸時代風?も良いけどこういうのも良いですね。
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