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恋物語のギフテッド  作者: しゅん
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第3章 天才との遭逢

第三章 天才の遭逢


陽も沈み、そろそろ夕飯が待ち遠しくなる時間。俺ら3人はというと

「はいはーい! 私料理担当になりまーすっ!」

これから始まる共同生活に、家事の分担は欠かせない。

特に料理担当は重要な役となる。だれも料理できなかったらどうしようと思ったが、幸いなことに千住さんが料理役を買って出てくれた。

「じゃあ、千住さんを中心に料理をしていくとして、ゴミ出しや風呂・トイレ掃除などは順番にやっていこう」

「あーっ! 私のことはひかりんって呼んでって言った!」

駄々をこねるように、呼ぶには少しハードルの高い名前を呼ぶように言われてしまう。

まぁ、本人がそう呼んでと言うのだから……仕方ない、か。

「わかったよ…。ひ、ひか…日香里さん!」

「ひかりさんじゃなくてひ・か・り・ん! さぁ!」

「ひ、ひかり…ん。そうだ! 日香里にしよう! ね?」

「むーっ! ……まぁ、朔也くんがそれがいいっていうなら、いいけどさぁー」

今、心の中で安堵した。日香里を呼ぶたびに恥ずかしい思いをしないっで済む。

そんな様子を、隣にいた島崎さんは苦笑いを浮かべていた。

「あ、そうだ! ねーねー! みんなのことをこれから名前で呼ぶことにしない? そしたらみんなと早く仲良くなれると思うの!」

確かによそよそしく‘‘さん‘‘付けだと、ルームメイトとして共同生活する上で、ぎこちなさを感じてしまいそうだ。

「うん、いいねそれ」

「わ、私も賛成です…!」

島崎さんは会ったばかりと比べ、だいぶ緊張が取れたようだ。千住さんが積極的に話かけたくれたおかげだろう。

「じゃ、じゃあ…。りん…か?」

「さ、さくや…くん…?」

なんだこれ恥ずかしい。ひかりんほどではないけども。

「ふふふ…っ」

「お、おい! 笑うんじゃない!」

「ごめんごめん! なんか、付き合い始めたカップルみたいな会話でつい……ふふっ」

「カップルじゃないから! あと笑うな!!」

日香里が茶化すので、俺の顔は真っ赤だ。いやあんたが言い出したことだろ。

凛華の様子が気になったのでふと見てみると、ソファに置いてあったクッションに顔を埋め、あまりの恥ずかしさを誤魔化していた。

「さ、ということで! 夕飯作りますか!」

「あ、日香里ちゃん手伝うよ」

いつの間にか、凛華は日香里を名前で呼んでいた。仲良くなれてて良かったと、まるで親かのように嬉しく思う。

てきぱきと料理の準備をする音が聞こえ始める。

「そういえば、小野寺まだかな…?」

「あー確かに。まだ来てないね。遅いのかな」

「小野寺…さんかどうか分からないけど、私が寮に到着したときすぐに誰か来たよ。でもばたばたして、すぐに外出ちゃったから姿とかは見てないんだけど…ね」

俺たちが学校に戻っている間に来たらしい。けれどなぜすぐに外に出てしまったのだろうか。

「あ、そういえば」

玄関に入ったとき、いくつかの荷物が置かれていた。気になり玄関に向かう。

「見た感じ男物っぽいし、小野寺のではないか」

寮に荷物だけ置き、どこか出かけたのだろう。

となると、小野寺はまだ一度も寮に来ていないことになる。

どこに行ったのだろうか。さっそくできた友達と楽しく会話して…るとは考えにくいか。

まぁ高校生だし、来るのが多少遅れた時間だって文句は言えない。

キッチンから、まな板の上で野菜を切る軽快な音が聞こえてくる。

「まぁ、あんまり遅いとご飯食えないし。探しに行くがてら散歩でもするか」

外に出てくると二人に伝え玄関をでる。エントランスの自動ドアを抜け、夜のサヴァルタシティを歩き出す。

日本屈指の教育機関であり、最新技術が詰め込まれた地域では、本当に安心するほど明るい。

サヴァルタシティ、と言われると学校のほうか、それともその周辺地域かの意味が、文脈によって分けられる。

地域という意味で説明すると、外と完全隔離、という訳ではなく一般の人も行き来でき、音楽ホールや体育館は一般の人が使用することもある、と教えてもらった。

なので歩いていれば、サヴァルタシティ生徒以外の老若男女問わずすれ違うこともあるだろう。

治安は良いと聞いている。ストーカーだとか誘拐だとか、そんなことは起きないだろう。

しかし、あまり人とすれ違わないのは偶然であるのか。はたまた悪いことの予兆であるのか。


ぶらぶらと10分ほど歩き、多目的で使われるであろう公共広場にたどり着く。向こう側には屋根付きのベンチがあり、休憩には最適だろう。

なんとなく中に入り、ベンチに向かう。

すると、ベンチの上にある物を見つける。

「…やっぱりか……ッ!!」

その瞬間、俺は駆けだした。行く当てもなく、ただひたすらに走る。

「小野寺ぁああ!! どこいるんだぁああああっ!!」

ベンチの上には、間違えなく小野寺の借りてきた本があった。それも乱暴に置かれており、俺の脳には‘‘誘拐‘‘の二文字しか浮かばなくなっていた。

「ッッ! 小野寺ああ!! いるなら返事してくれえええ!」

返事はない。不安がこみあがるのを感じる。

「小野寺ぁぁああああ!!」

渾身の叫びで、小野寺を呼ぶ。頼む、届いてくれっ!!

…すると、どこからか声が聞こえる。遠くにいるのか、小さい声だ。

「…くん! ……や、くん! 朔也くんっ!!!」

確かに、俺を呼ぶ声を聞き取る。俺は先ほどよりもスピードを増して駆ける。

ろくに運動してないためか、何回も何回も、幾度となく転んでしまう。

既に足は血だらけで、自分の運動能力のなさを今更ながら悔いる。

そうして、ようやく小野寺の姿をとらえる。両隣にはヤクザであろう男が彼女の腕を引っ張り車に引き込もうとしている。

俺は咄嗟に叫んだ。

「おい! 小野寺を放せ!」

男らはゆっくりとこちらに振り向くと仲間を呼び、かわりに小野寺を拘束させる。

すると、こちらにゆっくりと歩いてきた。

「…ガキがしゃしゃり出てくんじゃねェよ」

そういうと、勢いよく俺の髪の毛をつかみ、額に拳をぶつける。

「…ヴッッッ!」

頭に衝撃が加えられ、その場に倒れこんでしまう。

「朔也くんっっ!!」

小野寺が半ば絶叫の叫びをあげる。

男はふたたび髪の毛を引っ張り上げると、鋭い眼光を向けてくる。

「てめェはどこの誰で、あいつとどんな関係なのかは知らねェが、いま特に誰にも邪魔されたくはねェんだ。これ以上構ってくればてめェ、死ぬぞ」

髪の毛を乱暴に放され、歯を食いしばって痛みに耐える。

男らは車に向かい。その場から立ち去ろうとする。

「くぅっ!!」

一心不乱に立ち上がり、男に拳をたたきこもうとする。

「わかんねぇ野郎だな」

男は拳を握りしめ、俺のみぞおちにストレートを叩き込み、俺はいよいよ戦闘不能になる。

俺は思う。なんてひ弱な人間なのだろう。こんな窮地でなにもできやしない。ただ殴られる、ただ脅えさせられる、ただ黙ってことの末路を見る、ただそれだけ。


ごめん小野寺。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん。


本当に、ごめん。みじめな俺で。


明かりがさす。雲隠れした月が顔を出したのか。


違う。そこに立っていた男性がもつ懐中電灯。その光が俺と男と小野寺を照らす。

「なんだてめェ、あん?」

男は、男性に対し威嚇する。だが男性は動じない。むしろ自分から男に近づいていく。

すると俺の横で止まり、こう口にする。

「…よく頑張ったな。もう安心しろ」


俺の意識が失われるのとそれは、ほぼ同時だった。

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