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恋物語のギフテッド  作者: しゅん
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天才との邂逅

第二章 天才との邂逅


ある意味の地獄であった時間を耐え抜き、今日はお昼前に解散となった。

これからは各々、新しい仲間と交流を深めたり学校を探検したりと、様々なことをするようだが、特に予定のない俺は寮とやらに向かうことにした。


歩くこと10分、ようやく目的地「サヴァルタヴィレッジⅡ」に到着した俺は、島波先生から個別に受け取った電子カードキーに書いてある部屋番号を把握する。マンションのような縦積みの構造であるため、比較的上階に位置する部屋にたどり着くには少し時間がかかるようだ。

エレベーターで昇り目的の階に降りると、部屋のドアの前まで移動しカードキーを通す。

緑色のランプが点灯し、無事解錠に成功する。いざ、ご開帳。

中はシンプル且つきれいな内装で、風呂やキッチンはもちろん、冷蔵庫、電子レンジ、TV、ソファなどは最初から備え付けであるようだった。

そして個人の部屋のドアであろうものが5つ。覗いてみると、それぞれにベッドや机が設置されてあった。服などを収納できるスペースもあり、個々でも快適な生活ができそうだな。荷物の整理は後回しにし、リビングに戻ると、とりあえずそこにあったソファに腰掛ける。

「……テレビでもつけるか」

リモコンをとり、電源を入れる。適当にチャンネルを回し、昼の情報番組「ヒルナンっス」で止める。

今やっているものは、見たところセレブであろう女性が春に似合うコーデを買いあさるというものだった。正直あまり興味ないが、ほかに面白い番組がやってないのでボーっと眺めるだけである。画面上には、購入した衣類7着の値段が表示される。


「8万3821ってとこね」


続いて、番組アナウンサーは

「合計8万3821円と、ちょっとお高目な買い物……さすがセレブ!!」

見事に当たる。大したものだ。すべての値段が表示されて合計が出るまで一秒となかったが、それよりも早い即答。

「……えええっ!?!?」

そこにいた女性は、ソファの背もたれ上部に頬杖をつき、にやりと余裕を含む笑みをこぼしていた。

「お、初めましてだね」

相手は特に緊張した様子もなく、淡々と自己紹介を始める。


「『千住 日香里』です! ひかりんって呼んでねっ!」


なんてことだ。この部屋に先客がいたなんて。なにもなかったし分からなかった。

それに先ほどの高速暗算。あれが人間の成し得る業であろうか。

小野寺と違ってやわらかい容姿。お姉さんというか大人っぽいというか、色気が漂う印象に対し、口調は元気な女の子そのものである。ギャップを感じる。

「大丈夫? あ、もしかして今の計算驚いた? 今のは簡単だったけど、もっと難しいのだってできちゃうんだぞー?」

反応がない俺にこういうと、えっへんと言わんばかりに手を腰に当て堂々としたポーズをとる。

「あっ…ごめんなさい。俺、『桜木 朔也』って言います」

おどおどしつつも、自己紹介を終える。

「へぇー! 朔也くん、かっこいい名前だねっ!」

普通名前は親に付けてもらうものだが、俺の名前は兄に付けてもらった。兄の名前は朔太である。

なんていうのはどうでもよく、俺は彼女にどこからツッコミをいれようか迷っていた。

とりあえず、特に気になっていたことを聞いてみる。

「…あの、荷物はどこに置いたんですか?」

寮生活をすると、なると必然的に荷物は大きくなるはず。先ほど個人部屋の5つを覗いたが荷物らしいものは一切なく、このリビングルームにもそれらしいものはない。

「あぁぁ……。無くしちゃった!」

「なんでそうなんの!?」

勢いあまって初対面にツッコミを入れてしまうのも無理はない。彼女は巨大であろう荷物を無くしたというのだ。

「はやく寮の内装を見たくて……えへへ」

つまるところ、カードキー片手に学校を飛び出したわけだ。そこから荷物は学校においてきていると想像がつく。

…かわいいな。 子どものようで愛でたくなる。

「じゃあ、一緒に探しに行きましょ。多分個人用の荷物置き場に置きっぱなしだと思うから」

俺が協力する旨を伝えると、ありがとうっ!! と、活気あるお礼をされた。


学校から寮へ来た道を逆戻りしている最中、次に気になったことを質問してみる。

「さっきの暗算すごかったけど、数学とか得意なんですか?」

「なんでさっきから敬語なのー! もう友達でしょ? はい、堅くなるの禁止!」

まぁ、これから一緒に住む仲間だし、敬語は確かにおかしいかもな。緊張するが善処する。

「それで、数学が得意なのかって質問だよね? 計算はお手の物よ! 小さいころ頃から特に何か習ってるわけでもないのに、計算だけは人一倍できるんだよね」

島波先生の言葉が脳を過ぎる。先天性サヴァルタ症候群。その‘‘病気‘‘を患っているものは、ある分野において天才的な能力が発現するという。たった0.01%、一万人に一人の確率の貴重な人物の一人と、今まさに同じ時間を共有している。

「まぁ計算はできても、こういう抜けてるところがあるのが難点なんだよねぇー…あははっ」

「人には一つや二つ欠点ぐらいあるよ」

偏見ではあるが、間違えなんて一切しなさそうな小野寺も席を間違える凡ミスをしたばっかりだからな。

そうこうしてるうちに、学校に到着する。

「さ、着いたよ。ちなみに何組なの?」

「えっと、C組だった…かな?」

荷物置き場は組ごとに分かれていた。C組のはB組の隣だったはず。下駄箱で中履きを履き、目的地へ向かう。

「あった!」

お目当ての物が見つかった。それにしてもなぜこんな大きい荷物を忘れるのか、改めて疑問に思う。

よいしょと荷物を背負うと、やけにスムーズに開く近未来的なドアを開け、廊下にでる。

すると、図書室の帰りだろうか、3冊の本を持つ小野寺に会う。

初めて会った割にはいろいろ縁があったし、無視するのはおかしいので、声をかけてみることにする。

「あ、小野寺さん。図書室の帰りですか?」

「………ええ、そうだけど」

一瞬逡巡するも、俺と同じことを思ったのか、質問に答えてくれる。

もし無視されていたら、嫌われてしまっただの、俺が失礼なことをしてしまっただの、頭の中での一人反省会が昼夜問わず開催されるところだった。

その様子を見て、千住さんは口をはさむ。

「朔也くん知り合い? あの! 名前はなんていうの!?」

「………」

千住さんが元気いっぱいな声で名前を聞くが、質問された小野寺はうつむきがちに黙ってしまう。

俺と最初話していたときは、まるで背後に蛇がいるかの如く鋭いオーラを纏っていたが、今ではそれが感じられない。

「か、彼女は『小野寺 椿姫』さんです。B組では席が隣同士なんですよ」

何もしゃべろうとしない彼女に代わって俺が紹介をする。さすがにこの空気は気まずすぎて、千住さんも困った顔をしていた。

「あー…、小野寺さんね! これからよろしく、ね!」

小野寺はいまだうつむいていた。かと思いきや、俺たちの横を通り、立ち去ろうとする。

すると、積まれた本の上にあるカードキーが俺たちの目に入る。

………先に驚きの声を上げたのは千住さんであった。

「あれ? あのカードキーって……!?」


『サヴァルタヴィレッジⅡ 601号室』


俺と千住さんが住むことになった部屋番号だ。

その驚きから察したのか、小野寺もまさか、という表情を浮かべる。

「……部屋、一緒なん…ですね」

5人でのルームシェアが基本で、俺はどんな人と共同生活するんだろうと、少しだけ楽しみだった。それがまさか席が隣の女の子になるなんて、人生わかったもんじゃない。

「……そう、ね……」

彼女は、先ほどよりも暗くなっているというか、少なくとも希望というものが一切感じ取れなかった。


荷物の整理しようと寮の鍵を開けると、玄関には既に靴が置かれていた。

「お! 新しい人来てる! それじゃ、初めましてを言いに行こーっ!」

初めて顔を合わせることになるルームシェアメンバーとの挨拶をするべく、心の準備を整える。

この瞬間はいつも緊張するが、千住さんがいてくれて良かった。

テレビの音が聞こえるので、おそらくリビングにいるだろう。

それが分かったとたん、千住さんは俺の手を引き、一目散にリビングのドアノブに手をかける。

「せーのでいくよ……せーのっ!!」

俺を待たずして、ドアを元気よく開ける。

「どうも! 初めましてーっ!!」

「はわっ!!」

そこにいた少女はテレビに据え置き型ゲーム機を接続し、今話題の最新タイトルRPGゲームをしている最中だった。

「あわわわわ…!! ごめんなさい…っ!!」

悪いことでもしていたかのように、その少女はゲーム機を片付けようとする。

「あ! いいよいいよ! テレビ使わないし、やっててもいいよー!」

「で、でも…」

どうやらゲームが好きな女の子らしい。

「それより! これから一緒に住む仲間として! 自己紹介ターイム!」

未だその女の子が慌てているなか、自己紹介タイムに入った。

「はいはーい! 千住日香里でーすっ! で、こっちの男の子が桜木朔也くん!」

「よろしくお願いします」

俺の名前も言ってくれたため、挨拶程度で済ます。

「あの、えっと……その……」

もじもじしながらも、必死に言葉を紡ごうとする

「さ、『崎島 凛華』です…。よ、よろしくお願いします!」

しばらく言葉が出ないでいたが、ようやく自己紹介を終える。

「凛華ちゃん! よろしくね!」

「は、はい! よろしく、です…」

崎島さんに比べ、緊張した様子もない千住さんがいろいろなことを質問していく。

とりあえず、良い人そうで安心した。気が合わなかったり、人と相いれない性格だと、生活に支障が出かねないからな。

「そういえば、あと一人はどんな人なんだろ…」

初めて会う人に自己紹介をするという緊張した瞬間がまだ残っているとなと思い、ため息がでた。









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