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恋物語のギフテッド  作者: しゅん
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天才の病気

エピローグ 天才の病気


あの時、あの革命が起こった。


先天性サヴァルタ症候群による‘‘天才‘‘の発現は、日本の様々な分野の発展の源の誕生なりえる。

アスリートやアーティスト、大手企業取締役、有名政治家など、たゆまぬ努力と険しい道のりを経て一流のスキルを持った者をも凌駕する、圧倒的カリスマ。

生まれながらに平等という考えは、もう古い。


あの時、あの科学者によって、その病気の有無を、出産から僅か数分で判別できる技術が開発された。



第1章 天才の都市


慣れた手つきでポストを開けると、そこには一通の手紙が届いていた。

部屋に戻ると、とても分厚く高級感のある包みを破り、恐る恐る中を覗く。

どうやら、どこかの高校から直々の手紙のようだ。よく見えないが、名前の最後に「高等学校」が付いている。

手紙を引き出し、緊張交じりに文字の意味を解読していくと………仰天を超えて唖然とした。

つけっぱなしであったTVから、ちょうど放送中であったニュースのアナウンサーが嬉しいことだとばかりに

「特別英才教育で知られる高等学校、サヴァルタシティ合格通知を受け取り、各地の中学生からは嬉しい声が上がっています!」と、情報を伝えてくれる。

画面が切り替わり、各地の手紙を受け取った中学生たちが記者からインタビューコーナーになった。。

中には嬉しすぎて叫びたいと、周りの迷惑も考えず喚き散らす人もいた気がするが、俺は金縛りを受けたかのように全身を硬直させ、意識が頭の深いところにまで落ち、現実世界に帰れないでいた。


「…なんで…? これ、めちゃくちゃ頭良い人だけじゃ…? だって、サヴァルタシティって!?」

サヴァルタシティ。全国から才能のある生徒が集結し、高度な教育を受け優秀な人材を育てる学び舎。

学力試験、面接、資格提示も一切なく、招待状が届いた生徒は入学を許可される。

高校受験を控えている受験生からすれば、のどから手が出るほど招待状を欲しがるだろう。

しかし、自慢じゃないが運動、勉強は平均。生徒会で活動したというわけでもなく、機転の利く頼れるリーダーだった訳でもない俺が、こんな名誉ある高校に入学しても良いのだろうか。

いや、実は自覚してないだけで、本当は大人が一目を置くようなすごい才能があったってことも…。

…………ないな。


それからというもの、悶々とした日々を過ごした挙句、入学を決意するのだった。



サヴァルタシティに続く一本道を歩いているこの瞬間ほど、春の訪れを感じたことはないだろう。

桜の花びらは、俺の歩いている方向と逆の方向の風に乗り、優雅に舞う。

「はぁ…」

嗚呼、ついにここまで来てしまった。今更ながら、本当に来て良かったのかと不安になる。

どんな学校生活になるのだろう。どんな友達ができるんだろう。

「はぁ…心配だなぁ…」

たくさんの思考が脳を錯綜し、処理しきれなくなったときには既には正門の前だった。

立派な校舎を見てますます不安になる。

「「はぁぁぁーー……。」」

ため息が重なった気がした。

気になって横を見てみると、同じことを思ったのか相手もこちらを見てきた。

身長は俺と同じくらいか少し低い、ロングヘアーが似合うキリッとした女の子。

寮生活をするのか、重たそうなリュックを背負っている。

「ど、どうも…」

「……」

軽く挨拶してみたが無視され、スタスタと歩いていってしまった。


案内に従い、この学校のシンボルマークが大きく飾られた校舎を経由し、やっとの思いで文化ホールに到着した。改めてこの学校の規模の大きさに感嘆しつつ中に入ると、横長の超巨大スクリーンにA組からD組の名簿が表示されていた。

自分の名前を探していると、B組にあるのを発見する。


B組 出席番号16 「桜木(さくらぎ) 朔也(さくや)


また15番か…偶然ってなんか怖い。

そんなことを考えていると、先ほど出会った女の子を見つける。一番端に表示されたA組から順番に自分の名前を探しているようだったが、B組の、しかも俺の名前があった場所近くで探す作業をやめた。

なんとなく視線を目で追ってみる。


B組 出席番号15 「小野寺(おのでら) 椿姫(つばき)


出席番号が一つ違いの同じクラスだったのか。これは座席も隣同士か前後同士になるかも。

……椿姫、か。なんかこう、しっくりくるというか、親御さんは本当にピッタリな名前を付けてくれたんだな。

一切仕事をしない表情筋に加え、鋭いまなざしを持ち合わせた容姿は、相手に余裕を与えさせないプレッシャーを放っている。

と、彼女の客観的評価を頭の中で連想していると彼女がこちらを見ているのか睨んでいるのか、先ほどよりも怖い顔をしているのに気付いた。

「なに? 何か用でもあるのかしら」

半ば威圧ともとれるその態度と、並べられた強い語句に思わずたじろいでしまう。

「あーいや、その……小野寺さん、でいいんだよね…? クラスの座席は出席番号的に近くなるなぁ…、なんて…」

「人の名簿を勝手に盗み見ないで」

なんというか、蛇に睨まれた蛙とはよく言ったものだと思った。

「まぁその……これからよろしく、ね…」

「……」

そのまま、彼女はB組へと歩き去ってしまった。


「えーっと、16番の席はっと……」

B組に入るや否や、自分の座席の確認をする。

「……あれ?」

おかしいと思った。一番後ろに位置する16番の席には、既に先客がいたのだ。

周りを寄せ付けないオーラを放ちながら読書する小野寺が、そこにはいた。

座席表と座席を交互に確認する作業を繰り返し、そろそろ首が痛くなったところで思い切って席を間違えていると伝える心の準備を整えた。

「あ、あの…小野寺?」

「はぁ、あなたさっきからなんなの? 話しかけられると気が散るのだけ…」

「あの、席! 席間違えてますよ!」

「……セキ? いったいなんのこ……と…」

火山噴火の直前。沸騰したヤカン。いや、坩堝に熱せられたガラス細工であろうか。とにかく、面白いほどに比喩表現が見つかってしまうほど、みるみると顔を赤に染め上げていく小野寺。

「ぁぁ……ぁぁぁ…」

僅かに声を震わせ、必死に言葉を紡ごうとする。

「ご、ごめんな……さい」

試合に負けたが、勝負に勝った。そんな気持ちだった。

小野寺は、未だに顔を赤く染め、隣の席に移動するのであった。


しばらく待っていると、B組の担任らしき女性が入室してきた。

足が長く、スタイルが非常によろしい。凛々しい顔立ちとチャームポイントの眼鏡も相まって、まるでモデルのような女性でrった。

「みんなおはよう。今日からB組の担任をする『島波(しまなみ) 麗奈(れな)』だ。よろしくな」

挨拶を終えると、島波先生は1番から順に出席確認を行っていく。

「よし、全員いるようだな。それでは今からオリエンテーションをしよう」

急に島波先生が放つ空気が変わった気がした。

「最初に、サヴァルタシティからの招待を受けてくれてありがとう。この学校での充実した毎日を約束しよう。だが、この中にはなぜ招待をもらったのか疑問を抱く生徒もいるだろう。いや、おそらく半数以上はそうだろうな」

なぜ招待を受けたか、疑問に思っていたのは俺だけじゃないようで、若干肩の力が大分抜けた。隣を見てみると、先生の目をしっかり見ながら真剣に話を聞きつつも、先ほどよりかはゆったりとしていた。

「なぜ招待されたのか、その真実を伝える」

思わず息をのむ。緊張感した空気が教室を支配する。

「君たちは、端的に言えば病気だ。それも0.01%の確率の病気にな」

0.01%の病気。島波先生の口から発せられたそのワードは、頭を混乱させるのには十分な材料であった。

他にも唖然とする者、慌てる者、目を見開く者も。

頭を隣に向けると、小野寺は頭を押さえて情報処理を行っていた。

「先天性サヴァルタ症候群、それが君たちの病名だ」

正式な名称を述べた後、こう付け足す。

「これの特徴として、並みはずれた才能がある分野において発現することだ。しかし先天性、つまり生まれつき持ったものであっても、どの分野での才能なのかは分かるまい。例外的に、子供にピアノを習わせてみたら偶然才能が発現したとか、小中学校を生活する上で必要な計算や作文、スポーツにおいて偶然才能が発現したりとか、サヴァルタシティに入学する前に能力が把握できている生徒は多かれ少なかれいるがな」

才能の発現。現実的ではないその言葉。

俺を含めクラスメイトは食い入るように島波先生の話を聞く。

「私たちサヴァルタシティ職員らは、才能の発現の手助けと成長を促すこと、これが仕事であり責務だ」

そう言うと、電子黒板のスイッチを入れる。

目前では、サヴァルタシティ内部構造が繰り広げられた。

「ここは通常の高校のカリキュラムに加え、分野別で才能発現試験を行っていく。サヴァルタシティ内では多種多様な施設が備わっているから、仮に何か才能が発現したとき、修練を積むには申し分ないだろう。また、正門をくぐって西側に歩いていくと寮がある。5人一部屋だから、ルームメイトとは仲良くしてくれよな。そしてこの…」

内部構造の説明をしている島波先生だが、俺は先ほどの話で頭がいっぱいいっぱいであった。

俺に才能…? 一流のスポーツ選手になれたり、偉い学者になれたりするのか…!?


いや、待て。今なんか意外と大事なこと言ってた気がする。寮がなんだって?

「あーそうそう。寮は男女で生活してもらうことになる。交流を深めておけば、今後の学校生活に大いに役立つだろう」


この話を処理していたために脳のギガ容量が許容範囲を越え、通信制限がかかってしまったのだった。


















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