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器の小さい男

作者: はんぺん小僧

 「人の器の大きさが分かったら、さぞ楽になるだろう。」


 そう考えた博士は早速その作業に取りかかった。何故急にそんな事を考えたか、それは博士が珍しく外食をしている時の出来事だった。博士から少し離れた席で、急に二人の男たちが取っ組み合いの大喧嘩を始めたのだ。恋愛関係のいざこざらしく、博士はこのような喧嘩は嫌いではなかったので、しばらく見物していた。結局男たちは警察に捕まり連行されていったのだが、それを見た博士は不運なことだと嘆いた。勿論、男たちの関係についてだ。何故、こんな面倒な事になったか、それは互いが互いの事を分かってないからであり、もし器の大きさを互いに理解出来ていたのであれば、取っ組み合いほどの喧嘩にはならなかっただろう。だから博士はこの研究をすることにしたのだ。

 数ヶ月後、博士は人の器を計測することが出来るコンタクトレンズを開発した。このレンズをつけると、目に映る人の体に1~10どれかの数字が見えるようになる。この数字こそ器の大きさであり、つまり数字が大きいほど器は大きい、ということになる。いつもであったらここで終了なのだが、今回は多くの人々に使ってもらわなければ話にならない。そこで博士は博士の家から一番近い家の住人に渡すこととした。

「…なんスか?」

物臭そうに現れた隣人に博士は事情を説明した。しかし、隣人の男の反応は薄かった。

「いや、どういう原理?あり得なくね?」

「いいからつけてみなさい。別に押し売りに来た訳ではないのだから。」

怒りを堪えてそう言うと、このままでは面倒になると思ったのか隣人は大人しくレンズをつけた。すると隣人は一歩後ろへ下がり、戸惑っている事が分かる。

「…どういう仕掛け…?」

「どうやら成功のようだ。何か数字が映っているだろう?」

「ああ、4って表示されてる。」

「それが私の器の大きさです。まあ、一般人より少し短気ってところかな。一週間君に貸してあげるから、色んな人にこのレンズを伝えて、色んな人のデータを集めてくださいね。」

そう言い博士は自分の家に帰っていった。

 博士にとって、これは立派な実験だった。しかし、隣人にとってはただ面白いオモチャを貰った程度の認識だった。隣人は最初に、友人を部屋に招き入れた。数字は5と表記されている。5という表記がどれ程のものか、隣人の男は試しに友人を煽ってみることにした。最初はなあなあでごまかしていた友人も、段々苛立ってきていることが分かった。そしてとうとう友人が怒り始める。そうなると男はそそくさと自室へ逃げ、友人が帰るまで待つ。これが男の楽しみ方だった。友人が帰ったあと、男は風呂に入るため流しを通った。すると自然に鑑に映った自分の姿が目に入った。そこには1と表記された自分の姿が映っていたのである。男はこれに不満を持ち、博士の家を訪ねた。

「あの…」

「やあ、貴方ですか。何か不都合でも?」

「いや、不都合っていうか…俺の器の数値が気に入らねえっつうか…」

「どれどれ、ちょっと見せてください。」

そう言うと博士は男の目からレンズを外し、近くに置いてある機械に入れた。

「おや、三人ですか…私、貴方を抜いて一人としかしなかったのですか?」

男は目を泳がしながらゆっくりと頷いた。

「そして自分の器が1だと言うことに不満を持っていると。」

「…はい…。」

博士は溜め息をつき、こう言った。

「そりゃそうなるでしょう。貴方、器の大きさを覗いている事がバレるのが嫌だったんでしょう、だから多くの人と関わらなかった。何故、そこまでバレるのが怖いのか、教えてあげましょう。貴方はこのレンズを悪行にしか使わない予定だったからですよ。私は言ったはずです、『色んな人に伝えて』と。事情も説明したはずです。自分の事しか考えれないようじゃ、器も小さくなるでしょう。これはあくまで機械なのですから。それに……いや、もういいです。…やれやれ、やっぱり助手でも居ないと行けませんかね…」

とうとう男は怒りが限界に達し、博士に暴言を吐き散らかした。そうすれば、いつか怒る。そうすれば少しの腹いせになると思ったのだ。しかし…

「ほら、やっぱり小さいじゃないですか。」

博士は嘲笑うかのように男を見るだけだった。



 

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