④ 初対面?
-次の日-
深月の借りているアパート〝イズモハイツ〟には近所では有名な大家がいる、パンチパーマとトラ模様の服が印象的なおばさんで、いつも朝から大きな声で挨拶をしてくるので、目覚ましにはちょうど良い。
今日もいつも通り…と言いたいところであったが、身支度を済まし待ち合わせ場所へ向かおうとした僕は、ちょうど階段ですれ違った大家さんにに引き留められた
「お…大家さん…あの…どうかされたんですか?」
全身を品定めするような目で僕を見る大家さんの目で僕は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
「あんた…今日女の子と会うんだろ、なぜかって?、いっぺん鏡見てみな。」
いつもの金切り声と違い、ドスの効いた低音ボイスでこんなことを言われたら変な汗が出てくるしかなかった、さらに大家が畳み掛けた。
「時間があるならさっさと着替えな。大方久しぶりに女と会うんだろう、女っ気がないのはわかるけど、気合入りすぎでみちゃいらんないよ!」
ありがたい一言アドバイスをくれた大家はそのまま自室に戻っていった。
僕の知る限り毎日服装が変わっていない人に言われるのは癪だが、確かに浮かれてしまっていたな、とちらりと横の窓ガラスを見た。そこには入社した時以来着ていなかったスーツといつものツンツンヘアーを七三分けにした自分自身が映っていた。
「危なかった…どんなテンションで着たんだよ…」
モソモソと着替えながら、先ほどの自身のテンションに引いていた。
「まあ、こんなものだろう」
先ほどの就活生のような恰好からなんともシンプルな、ジャケットとジーンズに大変身を遂げたところで、夕乃からメッセージが届いた。
「後輩ちゃん達少し遅れるらしいから、私たちで先に店に行ってましょう!、待ち合わせ時間と場所は変わらないですからね!」
了解とメッセージの返事をし、フーと一息ついたところで、これは実質デートなのではないか!とまたテンションが上がってしまった。
しかし、先ほどのようなヘマは打たないと心に決めたばかりである。
「…髪とかしちゃったけど、ワックスくらいはつけていくか…」
少しは気合いを入れなければと、先程の決意は忘れることにした。
-10:00-
「そろそろかな」
駅前にあるオブジェの前で腕時計に目をやった。
最寄駅は比較的小さい駅なので迷うことはないが、一応わかりやすいところに陣取っている。
「深月さん!おはようございます!」
待ち人の声が後ろから聴こえてきたので、パッと振り向くと、美少女が小走りで駆け寄ってきた。
私服姿の夕乃はいつぞやの女性ファッション誌で見たモデルより可愛らしく、思わずボーッと見惚れてしまっていた、白いニットが侵しがたい純粋さを体現しているようで、月並みではあるが〝かわいい〟の一言しか思い浮かばなかった。
「どうしました?私の顔になにかついてたりしてます??」
少し長く見てしまってのか、夕乃はツンとした表情に変わってしまった。
「いや、ごめんごめん。とても似合っているなって…そういえば、今日は大学の近くの喫茶店だったっけ?」
昨日のメッセージで場所の確認をしていたはずだが、少し気恥ずかしさもあったためか、とっさに分かりきった質問をしてしまった。
「そうです、私も通っている店なので、最初の活動には良いかなって、居心地もとても良いので、ゆっくりお話しできますよ!それじゃあ案内しますのでついてきて下さいね。」
夕乃が言うなら間違いないであろう、早速先導してくれているので、言われた通りについていく。
「最初、髪型が違うので深月さんとわからなかったですよ。いつものツンツンも好きですけど、整えているのも素敵ですね!」
僕は心の中でガッツポーズをした、そして同じく心の中で大家に感謝をした。
などとしているうちに、景色が変わっていき、街並みはビルが目立ってきた。
政令指定都市等の大都市と比較すると見劣りはするが、この街もなかなかの都会であり、最近改修されたばかりの駅前には多くの商業施設が立ち並んでいる。
夕乃達の大学を横目にアーケード街を歩くと、目的地にたどり着いた。
「ここです!後輩ちゃん達は30分くらい遅れるってことなので、先に入ってましょう」
1駅ちょっとしか離れていないため、距離としては随分短く感じたが、日ごろの運動不足もあってか少し足が疲れてしまった。
「そうだね、早いところ座りたいし」
大衆的な店構えのこの店は、どこか夕乃珈琲店に似ているところもあると感じる。違うところと言えば入口が自動ドアだったところくらいか。
街の中心街の一角にあるこの店は、客層も幅広く、学生グループや井戸端会議中のおばさま達と様々であり店内も賑やかである。
夕乃が店主であろう女性と少し談笑したあと、奥のテーブル席に通された。
「後から追加で来ることは伝えたから大丈夫だよー、とりあえず注文しよ!」
お互いにホットコーヒーを注文したところで夕乃が切り出した。
「今日はありがとうね、昨日の今日でいきなりだったのに…」
「いや大丈夫だよ、土日は予定なかったし、後輩ちゃんたちともお話ししたかったし」
改めてお礼を言われると。うれしい気持ちもあったが、こちらこそありがとうである。
何故かって?夕乃の私服姿も目的だった、とは口には言えないが…
「そういえば、後輩ちゃんたちってどんな子たちなのかな?、昨日はあまり見れなかったから」
少し談笑した中でふと気になったので聞いてみた。
「ん~例えるなら、元気な子とカッコイイ子とロリっ娘かな」
少し考えこんだ後に放たれた言葉には、夕乃の口から聞いたことのない単語が混ざっていた。
「へぇ、元気でカッコ良くてロリっ娘か、なるほどなるほど…ごめん…もう一回」
「元気な子とカッコイイ子とロリッ娘ですね!」
「…えっと…最後の部分だけもう一度」
「もう深月さん、何度も言わせないでくださいね、ロリッ娘です」
僕の中の夕乃像が少し揺らいだ瞬間だった、まさか夕乃の口からロリという単語が出るとは思わなかった。
だが、夕乃としてもその言葉しかチョイスのしようがないという事を僕は思い知らされる、この会話から30秒後のことである。
ウィーンっと自動ドアが開いた音がしたあと、僕たちのテーブルに後輩と思しき3人が通された。
目を向けた瞬間、僕の口は空いたまま閉じてなかった、一方夕乃はかわいい後輩達を見てニコニコと笑っていた。
「センパイッ!どうもッス、そちらが例の彼氏さんッスね!」
「おはようございます、遅くなって申し訳ありません、向かっている途中で職質を受けまして。」
「私が悪いってのか!あの警察官が人を見た目で判断したからだろ!」
挨拶をしてきた3人を前に僕はつい呟いてしまった。
「ロリッ娘…」
呟いた瞬間に、フリフリの服を着た小さな彼女が言った
「は?」
多分第一印象は最悪だったと思う。
続く




