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66 EVENT《LS》4


 観客席にも動揺が走る中、一人のジジイは浮かれていた。 

 裏世界のボス。

 一文字鉄斎である。


「さすがミラちゃんじゃのう。大活躍をしっかり見ておけよ、斬鉄」

「はっ」

「斬鉄さまあ、ノノンを見てください」

「離したまえ」


 この一文字家の一角だけはほわほわした空気だったが、他の観客達は緊張感とギラギラした興奮に包まれていた。

 応援に来ていた親たちは子供の活躍を期待して特に激を飛ばす。


「トール、一撃入れろッ!」

「アスタア、我が家を再興させて!」

「宝具を使え」

「リミットを解除しろ」

「くそっ、こんな事になるなら俺も応募しとけば」

「殺せえええ」


 怒号に近い応援の中、火蓋は切って落とされた。




 ビーーーッッッ!!


 その瞬間。

 まるで飢えた大きなイナゴの群れのように、非力な普通の幼女ミラに、武人の子供達が一個の群体となって一斉に襲い掛かった。


 中心にいる美少女2人へと貪るように暴力が殺到する。


「ウエアアアアアア」

「喰らええええ」

「俺が先だっ邪魔だあ退けっ!!」


 もはや礼節など何もない。

 お金は人を狂わせるのである。


 びち びち びち。

 空中へ張り付く選手達。

 見えざるバリアにより絶対的にあと少し届かない2人との距離間を先頭にいた選手は身を持って知らされた。

 一撃入れるだけでいいという破格の条件の意味がようやく分かった瞬間だった。


 観客席からは、透明なボールに参加者がゴミのように群がっているように見える。

 選手達はおろか観客達も何が起こってるのか分からない。


 学園長と一文字鉄斎が会心の笑みを見せて、一文字家斬鉄と高弟は諦めに似たため息をついた。


「おお、まずは見えぬ盾じゃな。ミラちゃん頑張れー」

「やはりあれを使ってきたか」

「あれを斬れる選手はこの中にはいなさそうですしね。あとは規定の人数になるまで消化試合でしょうか」

「マスター素敵です」


「もし万が一、ミラちゃんを泣かせたヤツが出たら消すのだぞ斬鉄」

「はっ。その心配はなさそうですが」


「おや、なぜレムさんがここにおるのかね?」

「仮想闘技場は安全なので、私はここで活躍を見守りたいんです」


 胸元には何処かの観客から強奪してきたであろう去年の参加者のバッジが光っていた。


「ふむ。気づいて貰えるといいの。ただし参加年度の数字が入っとるから、後で交換して貰うと良かろう」

「御助言、感謝します」 


 後方の選手達は未だ何が起こってるのか分からない。バリアに阻まれた最前列の者は学園長に怨嗟の声をあげ、状況が見えないものは少しでも近づこうと前の選手をバリアと挟むように押し込み続ける。


「立ち止まるなっ進めええ」

「痛っ押すなああ」

「11万てぇぇん!」


 必死で後ろの選手が押すため、丁度中ほどにいた選手がぶちゅっと圧死して、アバターが消えた。


『予選通過まで99/50』


 決勝戦進出のカウンターが一つ減った。


「少しお手洗いに」


 レムが、ふっと残像を残して消えた。




『予選通過まで91/50』


 カウンターはここでストップした。

 場内の興奮は戸惑いに変わっていた。

 さすがにバリアの存在に全員が気付いてきたのだ。


「みんな落ち着け!全員で10万点を取ろう。見誤るな、敵は一人だ!」


 武力の頂点を目指す試合の目的を完全に見誤った一人の参加者の声で、事態は一変する。


 バトルロイヤルから、早いもの勝ちへ、そして前代未聞の共闘へとシフトしていた。


 ミラのバリア 対 91人の選手


「退けっ今度は僕の番だ。真滅の火炎」


 ゴオオッと炎がミラ達を包むとバリアの球体がよく見えた。

 が、それだけ。


「くそっ、壊せない」

「硬すぎるっ」

「11万点が目の前に見えてるんだぞ、それを諦めろって言うのかよ!」

「考えろ」


 終いには、だらだらとした膠着状態に入った。

 選手も観客も考え込むが、誰一人として突破口が見えないからだ。


 絶対的な防御、そして反撃は無い。

 バリアを展開した賞金首のミラは嬉しそうに、剣士の沙耶に抱きついていた。


「どうするのこれ?」


 一文字沙耶が呆れた様子で、ファーストに問う。


『・・・・。』



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