62 来客
来客の待つエントランスまで行くと人だかりが出来ていた。
「なんか人が集まってない?」
「そうだね、沙耶ちゃん。なんだろ?」
ギャラリーの人達にすっごく注目されながら中心のテーブル席に向かうと、強面の有名な武闘派集団がいた。
というかミラの新しい家族だ。
「じいちゃん!」
「みらちゃんや、元気かの。レムさんも。沙耶、明日の応援に来たぞ」
じいちゃんがいつものように嬉しそうにでれでれと笑うと、周りの人がぎょっとした顔でじいちゃんを見た。
沙耶ちゃんは、ぶすっと不機嫌になった。
「なんで私が一番最後なの?」
「そ、それは。沙耶、その気迫があれば明日は楽勝だろうということだ」
ああー、じいちゃん困ってるけど、沙耶ちゃんにもう少し優しくしないからだよ。めっ。少し反省して。
ざわざわと周りの人が「あの鉄斎様が?」「偽物か?」「いや、どうせ計略の布石だろ?」と騒いでる。
「お父上にお兄様も来てくれたんですね。ところで大兄は?」
「怪我は治ったが、ミラが居ることを伝えると再び寝込みおった」
沙耶ちゃんが困った顔でミラを見た。ごめんなさい。
「うわわわ」
沙耶ちゃんにぐりぐりされた。痛いよ?
でも、ニカッと笑う沙耶ちゃんを見てたら許せちゃう。
「それでは、立ち話もなんだし壮行会という事で一族で晩飯に行くぞ」
「どうせミラに会いたかっただけでしょ?」
「やれやれ、こっちの孫はデレんのう。ツンしかない。どうせ沙耶は、鍛錬に明け暮れて下町探索もしとらんのだろ」
「うっ、それはその」
「さあて、ミラちゃんや。下町にも詳しいじいちゃんが美味しいお店に連れてってやろう」
「うん!じいちゃん」
ざわざわとした人混みを割るように、一文字家は下町へと繰り出した。
立派な門構えの家に入ると、ガラリと印象が変わって、高級感あふれる料理屋だった。
「すごっ!中はお店だったんだ。看板無かったから分からないよ」
「うわああ、お洒落だね沙耶ちゃん」
これはテンション上がるかも。
ふんす、ふんす!
落ち着いた和服を着た女の人がお辞儀をして出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。一文字様。長旅お疲れさまです。本日は、沙耶さまの明日の活躍を願いお料理をご用意させて頂きます」
「うむ、今日はよろしく頼むぞ」
沙耶ちゃんが、じいちゃんの後ろで恥ずかしそうにした。
案内されるまま席につくと、どこからか、雅な音色が聴こえてきて、まるで別世界にいるみたい。
「ねえねえ、どこで演奏してるのかな?沙耶ちゃん。探しに行こうよ」
「ミラ、恥ずかしいからじっとして」
「はーい」
でも、沙耶ちゃんだって本当は、はしゃぎたいくせに。大人ぶって、もう。
そんな沙耶ちゃんも好き。うへへ。
お品書きにずらずらと文字が書かれてたけど、こんなに食べれるかな?
「クリアフィッシュのお刺し身は、柑橘ジュレ、醤油、塩。お好みのもので召し上がりください」
女将さんが、次々と運ばれてくる料理を説明してくれる。ミラは箸が苦手なのでフォークで刺して食べる。沙耶ちゃんみたいに綺麗にお箸使いたいな。
「美味しい〜!!」
「うまい、うまい」
「そうかい、そうかい。良かったのう」
沙耶ちゃんと舌鼓をうつ。なぜかじいちゃんが一番嬉しそう。
「お気に召しましたか?このお魚は、空を泳いでるのではないかなんて噂もあるんですよ」
「空を!?」
「ええ、噂ですけどね」
「レムは知ってる?」
「申し訳ありませんマスター。データベースにありません」
レアなのかな?
沙耶ちゃんが気に入ったから乱獲しようと思ったのに。
食事も半ば。怖いお顔のお父さんが口を開いた。
「沙耶、活躍は手紙で見せて貰った。まさしく快進撃。まさに一族の誇りだ」
「ありがとうございますお父上」
おおー、沙耶ちゃんが照れてる。
ミラも何か言いたいな。と考えてたら、お兄さんに取られた。
「実際かなり凄いペースだよ。頑張ってるようで嬉しい。ところで明日の大会の調整はどうだ?」
「はい、最善を尽くします」
「沙耶ちゃんなら、優勝出来るもん」
「ちょっとミラ、ハードルあげないで」
「ははは、これは負けられないな」
「明日は沙耶ちゃんを応援するんだ!」
「ミラちゃんや、じいちゃんが特等席を用意しよう」
「ありがとう、じいちゃん!」
明日が楽しみー。
沙耶ちゃんの勇姿をお目目に焼き付けるんだ。
ふふーぅお腹いっぱい。
デザートがすっごく美味しかった。
柑橘系の香りがお口いっぱいに広がって、濃厚な甘さの余韻が蕩けそう。
「「ご馳走さまー」」
幸せなのです。
はふぅ。
「美味しかったねー沙耶ちゃん」
「そうだね、ミラ。でも何か忘れてるような?ま、いっか!」
うへへ。
帰り道は、沙耶ちゃんと手を繋いだの。良いでしょー。
沙耶ハウスは灯りがついていた。もう寂しくない、ミラには帰る家がある。
「お帰りなさーい」
出迎えてくれる人も。
「「あっ」」
そういえば、ノノンの事を忘れてた。
【次回予告】
EVENT 《ラストスタンド》
参加者数100名!沙耶ちゃんは果たして何位になるのか?まずは、予選通過32人に生き残れ