57 レムの秘密5
公園で、和やかに笑う2人と一匹の様子を見て、避難していた子供たちが少しずつ戻ってきました。女の子グループがおずおずと、沙耶様に訪ねます。
「一文字さん、魔王倒してくれた?」
マスター可哀相。
冤罪ですよ。冤罪。
「えーと、引き分けた。というか、今日からお友達になった」
「そうなんだ、ありがとう一文字さん!」
寂しい風が吹く荒廃した公園から、幻想の魔王が消えて、お日様が戻ってきました。笑い声が響くいつもの公園に。
しかしながら、平和は長くは続きませんでした。
困った事に、マスターに敵意を持つイガグリ坊主が現れたのです。
「魔王め、分かったか。この街で悪さをしたら一文字が成敗してくれるからな。二度とでかい顔するな、覚えとけ」
輝き初めていたマスターの顔が、しゅんと曇ります。
このっこのっ!マスターを虐めるイガグリ坊主に、蹴りを叩き込みますが、これは過去の幻影なので届きません。
ピーンときました。魔王の虚像を作った犯人は、おそらくコイツです。なんという卑劣な敵なのでしょう。
レムがこの場にいないことを悔やみます。
帰ったらマスターに、タイムスリップの魔道具を造ってもらわないと。
他になにか出来る事は?
そうだ! マスターによると、イヌがレムなんですよね?何をしてるのですか、あの犬は。
はああ?知らない子が連れてきた犬と楽しそうに遊んでます。マスターがピンチなのに。
あのっ!犬っころめ。
「ていっ」
その時です。
救いの手が、手刀が差し伸べられました。壊れた魔道具を直す伝説の斜め45度のチョップが、いじめっ子のイガグリ頭に直撃。
「痛っ・・・何するんだ!一文字」
「黙りなさい。貴方から聞いた話と全然、違かったよ。本当は、手を出して返り討ちになったらしいね。さて、一文字を謀った悪者はどっちでしょう?」
沙耶様が笑いながら怒ってます。
「ひぃぃぃ、チクリやがったな。卑怯だぞ、魔王めっ!!」
「こら、待てーーー」
追いかけていく背中を見て、曇りかけたマスターのお顔が、再びへにゃりと幸せそうになりました!
わぅぅぅー。
思わず遠吠えをあげる程にお可愛い。
はっはっはっ、レムは大興奮です。
過去が見える探偵道具を無断で持ち出したのは、やはり英断でした。
ひとしきりブランコじゃんぷとか危険な技を堪能した後、沙耶様の顔に焦りが浮かびます。
「忘れてた。沙耶の木刀ムラサキ!」
「それは燃えたよ?」
ううーん、と考えこむ沙耶様。
「そうだ!森に拾いに行こう。いい感じの枝があるはず。ミラちゃんも手伝って!」
「・・作ってあげようか?」
マスターが不安そうに聞きます。
「ええ?? 作れるの?凄い!」
「まぁ、オーバーテクノ家ならね。そうだ!良かったら、これもあげる」
無邪気に笑うマスターが差し出したのは、からくり飛竜。
「え?まだ・・あったの?」
「あと、97機あるから遠慮しないで」
笑顔がひきつる沙耶様。
「ふふ・・・」
「沙耶ちゃん?沙耶ちゃん?」
心配そうにマスターがおどおどします。
「ふっざけんなーーっ!! あっはは。やってられない。ミラ、貴女は最高ぅ」
「ふええ、沙耶ちゃん。・・良かったら、もっと強い魔道具もあげるよ!」
ぎゅっと抱きしめられて、マスターが、てれてれしています。
魔道具を人に譲渡することを家訓で禁じられてますが、もう家族なんていません。そんなのゴミ箱ぽーいです。
でも、沙耶様は欲にまみれた大人とは違いました。高潔な一文字の娘。
首をふりふりして微笑みました。
「要らないよ、ミラ。気持ちはありがとう。でもね、一文字は、ただの一刀のみでいい」
意外すぎた言葉に、マスターが衝撃を受けます。私だって吃驚してます。
声が出ない。
凛々しいお顔に絞りだすように、疑問をぶつけます。
「わ、わ、私の遺失魔道具があれば、世界を獲れるよ。それでも要らないの?」
「ふふ、一文字の刀に曇り無し!」
明確な否定。
武力も権力も秘宝も要らない。
そんなんで友達を選んでないよと。
気付けば、マスターはキラキラと尊敬の眼差しで沙耶様を見つめていました。そうなりますよね!これは、狡いです。
「沙耶ちゃん、格好良い!」
おおっと。少し今のマスターの反応に近いですね。だいぶ賢そうなのを除けば。
「えへへ、そうかな?」
照れる沙耶様は、マスターの信頼を獲得して、オーバーテクノ家へ初めて御招待されるようです。
ふんふんと、張り切って案内するマスターが、格好良い。
【次回予告】
いよいよ、オーバーテクノ家に、沙耶ちゃんが足を踏み入れる。




