表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/69

52 《竜槍》の槍直し


 はああ。沙耶ちゃん素敵。

 ミラはご機嫌です。

 でも7Fについたら終わっちゃう。

 この幸せな時間が、もっと長く続けばいいのに。

 なんて思ってたら、協力者が現れた。

 いいよー、いいよ。


「沙耶様、朝のルーレットお見事でした!驚かされました200Pとは素晴らしいですね」


 突然、槍を持った少年達に囲まれて、沙耶ちゃんがびくぅとなる。


「え?キースさん。・・・そんなキャラでしたっけ」

「ハッハハ、私達は沙耶様のお導きにより会心したのです」


 少年達は晴れやかな顔だった。


「あっ、そういえば。ちょうど良かった! クラン《竜槍》の荷物をお返ししたいのですが」

「何ですと!!新たなクランの立上げ資金を頂いただけではなく、そこまでして頂けるとは。ううう」

「「うおおん」」


 何だか彼らの心の琴線に触れたようで、泣き出してしまった。

 ドン引き沙耶ちゃんゲットだぜ。

 そんなやりとりを誤解したギャラリーがざわめく。


「おいっ、見ろよ。一文字が誰か泣かせてるぞ」

「あれは、元《竜槍》のメンバーだろ。何でも全てを巻き上げたとか」

「それ?本当なのか」

「可愛い顔して、怖ええな」

「全てを奪ってさらに追撃かよ。やることが、えげつない。魔王も裸足で逃げ出すぜ」

「美しい花には棘がある。至言だ」


 沙耶ちゃんが慌てる。


「ちょっと、誤解だからっ!キースも、泣き止んで。なんとか言って」


 槍の人に助けを求める沙耶ちゃん。

 槍の人たちは涙をぐっと拭って、一斉に槍を高く掲げると、石突でズンッと地面を叩き砂埃を上げて怒りを表した。

 助けを求められたキースは、使命感に燃えた顔で頷くと、ギャラリーの勘違いを否定した。


「そうだぞ!沙耶様の仰る通りだ。この蒙昧な輩どもめ。沙耶様は強さだけではない。 刮目して見よ! 美しい黒髪、凛としたご尊顔、知性の宿る神秘的な瞳、完璧なプロポーション。まさに女神様だ。 そしてその上、お優しいっ」

「キ、キース。言いたかったのは、そう言う事じゃにゃいんだけど」


 わたわたと照れてる沙耶ちゃんが尊い。


 うへへ。

 分かってるねー槍の人。

 キースも、沙耶ちゃんを敬愛する会で頑張りたいのかい?良いでしょう。会長権限で、幹部にしてあげよう。


「確かに、美人ではあるが何の関係が?」

「俺はメイドの方が好き」

「妖精の国のお姫様も捨てがたい」

「お前らの目は大丈夫か?黒髪一択だろう!」


 ほえ?風向きが変わった。どうやら、ギャラリーの誤解は解けたみたい。

 沙耶ちゃんがデレてる。


「あのう、キースさん。それで、荷物は何処に置けばいいですか?」

「ありがとうございます。実は2Fに、新たなクラン部屋を設立しましたので、出来ればそこに」


「もう設立されたんですか!」

「沙耶様の支援があってこそです。まぁ、これでも実力は5F相当なので。では御足労ですが私達に付いて来てください」


 キースに先導されて、他の槍の人達が、守護するように周囲に展開する。

 おおっ!まるで本物のお姫様みたいだ。

 見上げるとお気に入りの姫騎士の沙耶ちゃんがいる。うへへ。悪くないね。これは最高の気分だよ。


 他愛もない話をしながら、転移陣へと向かってると、ふと、キースがミラに興味を向けてきた。


「ところで、沙耶様。こちらのお姫様は?」

「え、えーと、あの時もいたでしょ。小さい子が。一文字ミラです」

「ミラだよ?」


 槍の人達は、それまで一糸乱れぬ動きだったのに、動揺が奔った。

 んん?なんか、しつれーな気配を感じるんだけど?キース何が言いたいの?あろう事か、ほろりと涙を浮かべて微笑んできた。


「良かったな。お姫様、呪いが解けて」

「はああ!?」


 違いますし!

 激オコなんですけど。

 お前なんか、幹部降格。

 今すぐ下っ端からやり直してっ。


「ちょっとミラ。暴れないの!」

「むううう。沙耶ちゃん。処して。コイツ処して」


「ミラ。貴女ねえ、もう少し大人になりなさい」

「分かった・・沙耶ちゃん」


 沙耶ちゃんが言うなら。

 沙耶ちゃんに免じて、特別に許してあげよう。次は無いからね。

 案内された部屋に着くと、ガランとした部屋だった。

 中央には、みかん箱一つ。

 あまりに粗末だったから沙耶ちゃんも吃驚してる。


「・・斬新な部屋ですね」

「はっはは、2Fはどこも、こんなもんですよ。私にとっては懐かしい光景です」


 生活大変そう。

 ミラには無理だな。


「レム、ここに出して」

「分かりました。マスター」


 四次元収納から、どさどさと《竜槍》の部屋にあった私物を返却していくと、少年達は嬉しそうに飛び跳ねた。


「うおおっ、僕の絶版『貫け槍道』が返ってきた。これは、手に入れるの苦労したから嬉しい」

「良かった。サブウエポンお帰り〜。もう離さないぞ。困ってたんだ」

「喜べ筋肉、今日からトレーニングが再開出来る」

「「一文字さん、ありがとうございます」」


 良かったね、槍の人たち。


「ところで、《竜槍》の看板は処分しましたが、新たなクラン名は何にしたんですか?」


 それを聞いたキース達は、自信たっぷりに、やや興奮しながら、表札に書けられた隠し布を取り払った。


「良くぞ聞いてくださいました。沙耶様、こちらになります!」



《沙耶様の一番槍》


「・・ふふふ」

「どうでしょうか?沙耶様。隊員の一人が考えたんですがね。なかなか素晴らしいネーミングだとは思いませんか?」


 おおーっ、ミラもいいと思う!

 ね、ね、沙耶ちゃん。

 あれ?なんだか怖いよ。もしかして、怒ってる?


「激しく殴りたい」

「え?・・沙耶様、何と」


 おおっと、無駄口叩かなくて良かったぜ。セーフ。沙耶ちゃん、ミラは無関係なので。もー、悪い人達だなぁ。


「両手が塞がってなければ斬り捨てたのに」

「ひぃっ」


 氷の結晶がチラチラと舞って、冷たい風が吹く。おおっと、無意識の怒りで氷の精霊に呼びかけるなんて大したもんだぜ。

 たぶん、沙耶ちゃんはミラと違って精霊の素質があるんだと思う。剣に拘ってるからあまり使ってくれないけど。


「レムさん、コイツ処して」

「え?・・・沙耶様」


「ひぃっ、うわあ!!」


 凍った床で、沙耶ちゃんの迫力にビビった一人がズダンと音を立てて転倒したよ。


 あーぁ。今日で解散なのかな?

 お可哀そうに。

 でも、沙耶ちゃんを敬愛する会の会長としては下部組織が潰れるのは見過ごせないかも。もー手間の係る人たちだなぁ。

 ミラ会長の手を煩わせるなんて。

 ちかたないなぁ。沙耶ちゃんマイスターのミラが助けてあげよう。ミラは決めポーズで言ったよ。


「ぷぷ、沙耶ちゃんお子様だね」

「ぐっ」


 ギロリと、キースを睨む沙耶ちゃん。

 そして、「はぁ・・」とため息をついて諦めた。


「分 か り ま し た。 特別にミラに免じて許してあげます。ただし、不名誉な行動をしたら、私自らが解散に追い込みますので、十分に留意してください」


 公式の許可がおりて、ぷるぷると感激に打ち震えるキース達は喜びを爆発させた。


「沙耶様ッありがとうございます。くぅー、皆の者、聞いたか。今のお言葉を心せよ。メンバーに、沙耶様のご尊顔に泥を塗った者は私が槍で刺し殺す。喜べ、これで私達は公式だ!」

「「ありがとうございます、沙耶様」」


「もー、それでいいよ」


 引き気味の沙耶ちゃんは、熱く見送られながら、クラン《沙耶様の一番槍》を後にしたのだった。

 ふりふりと手を振ってお別れ。

 沙耶ちゃんの為に頑張りなさい。


「ミラ、そろそろ腕がだるくなってきたんだけど?」

「うへへ。ミラのために頑張る沙耶ちゃん、とっても素敵」


 約束したもんね。

 頑張って!

 でもでも、嫌われたくないよ。


「沙耶ちゃん、どうしても辛くなったら止めていいからね」

「ふふ、一文字に二言無し!」


 わーい。



【次回予告】


 レムの秘密


(『レムの秘密はこのまま最終回まで引っ張って』という御意見を頂いたので、1話だけですが引っ張りました。52 《竜槍》の槍直しがカットイン)

 引っ張る程のネタでは無いのですが、ようやく明かされるレムの秘密。ボクシングの開始前の長い煽りみたいになってしまいました。


 ☆☆


裏話(バックヤード):ミラ】


 おおっ

 感想欄のおかげで、お姫様抱っこが延長されたもよう。

 うへへ。

 良くやったよ。功績を高く評価して、沙耶ちゃんを敬愛する会の末席に入れてあげよう。


※裏話は、本編とは無関係です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ