51 幸せ魔法
むううう。ミラは怒ってた。
もう沙耶ちゃんなんか知らない。
せっかく可愛い服を着たのに意味ない!ぷぷぷのぷんだ。
「ミラ。待って!!」
知らないもん。
ちょろちょろと、人混みをかき分けて走る。右に左に!ミラは足は早くないけど、人混みの中なら結構、速い方だ。
会場の重い扉が牢獄のように立ち塞がってる。どうすればいいの?
ツイてるっ!
重い扉を誰かが開けたので、するりと滑り込んで、外に出た。
バタンと閉まる重い扉。
陽の光りが眩しい。
ミラは影を求めるように走った。
涙を見られるのが恥ずかしいし、なんだか酷く辛いから。
闇の住人に光は似合わない。
眩しい太陽に焼かれそう。
学生が会場に集中してるせいか閑散とした広がる敷地が、まるで砂漠のように感じる。でも、影を求めて走っていたら、何も無い場所に突然影が現れた。
見上げると滲んだ視線の先には沙耶ちゃんがいた。ミラのオアシス。
「ねぇ、どうしたの?ミラ」
長い脚の沙耶ちゃんに追いつかれた。
困ったお顔をしてる。
しょんぼり。
でもでも、昨日から期待してたのに、ドレスだって着たのに、あんまりだよ。ミラは悪くないよね?
「むうう」
「ほんと、貴女は仕方ない子ね」
わふっ、突然抱きしめられた。
え?え?え?
「沙耶ちゃん?」
「こんな、悪い子はこうだ〜! うおりゃっ」
ふえ!?
いきなり何が起きたの?
沙耶ちゃんはいつもミラの常識を軽々と超えていく。幼い頃、光学迷彩ジャケットを着て隠れんぼしたら、イヌを使って匂いでミラを見つけるような人だ。次に消臭スプレーを使って挑んだのに、なんと気配で見つけられた。意味わからない。
さっきの流れから何でこうなるの??
凄いGを感じる。
浮遊感?まるでロケットに乗ったのかのよう!!!
視界がびゅんと大空に加速する。
うわわわわっ!
楽しーーーーーーーーっ
景色が違う。
鳥になった。
自由の翼を手に入れて、ミラは大空の支配者となった!
学園が見える!広がる街が見える!
あのベタベタする串焼きが、もう一度食べたいな。
沙耶ちゃんにも今度は食べて欲しい。
あはっ!
悲しかった気持ちなんて吹っ飛んだ。
沙耶ちゃんに、お空にぶん投げられて、吹っ飛んだ。
沙耶ちゃんは凄い。
本物の魔法使いだ!!
ミラは、たぶん世界で一番の魔道具が作れる。どんな高名な魔法使いでも、相手にしない程の。
でも、沙耶ちゃんは上をいく。
魔道具や魔法があれば、モンスターを殺したり、悪人を傷つけたり、生活を便利にしたり、色々出来る。それは凄い事だけど、それだけだ。
こんな簡単に、心を動かせる人をミラは知らない。・・・ありきたりな魔法を超えた、幸せ魔法が使える本物の魔法使い。
沙耶ちゃんは、やっぱり凄い!!!
「ふえ?」
空中でピタリと止まった。
気持ちいいけど、浮遊感が逃げていく。
授けられた翼が、太陽に焼かれてペキリと折れた。
ふわわ?落ちちゃう?
・・やっぱり?
「ふえええええ・・・・」
子宮の奥がキュンっとなった。
ひゃああ!ミラは鳥ではありませんでした。ごめんなさい。このままでは、ミラは地面に激突して潰れたカエルになってしまう。
「ふうっ!!!」
でも、叩きつけられるような衝撃は来なかった。いつまでたっても来なかった。代わりに、抱きしめられるような安心感に包まれた。
空の冷たく澄み切った風で、冷えきった身体に、熱が入る。
お日様のような沙耶ちゃんにしっかりと受け止められた。
お空にいるときは、ずっと飛んでいたいと思った。自由を手に入れた。ただ一枚の羽になれたら、何も考えない風になれたら。
だけど、そんな考えは浅はかだった。
沙耶ちゃんにお姫様だっこで受け止められた今なら分かる。
ミラは愛情を手に入れた。
ここは、楽園だ。
困ったような表情の沙耶ちゃんがドアップで映る。ち、近いよ。
「ミーラ、反省した?」
「反省しました」
「良かったですね、マスター」
ごめんね?沙耶ちゃん。
ふあああ。幸せです。
「ルーレットと、お姫様抱っこは何の関係も無いから。本当にミラは天才なのか馬鹿なのか分からない」
むうう。
ミラは天才だよ。
その時、ミラは閃いた!
素晴らしい考えを。
うへへ。やっぱりミラは天才だ。ごろごろと猫のように甘える。
にゃん、にゃん。にゃーん。
上目遣いで沙耶王子におねだりする。
「なら、ルーレットが無くても毎日お姫様抱っこしてくれる?」
どう?どう?
期待を込めてキラキラした瞳で見つめる。沙耶ちゃんをオトす。
そして、永遠の楽園を!!
「毎日は、・・・ちょっと」
ええええ。
そんな酷いっ。乙女心を弄ぶなんて。
赤い林檎を食べていないのに、楽園を追放された。これは冤罪だ。
「むう」
「でも、今日はクランルームまで連れてってあげる」
うわーい。
沙耶ちゃん、好き好き。
やっぱり使えないルーレットなんかに頼ってたら駄目だよね。
幸せは自分の手で勝ち取るものだ。
ぶいっV
気付いたら、ルーレットを引き終えた人達がぞろぞろと出て来て、ざわざわとモブ達に囲まれてた。
さっと、レムが近寄って、特別な目薬を打ってくれると充血した瞳から痛みが消えた。ついでにお化粧直しもバッチリ。
騒がせたお詫びにモブ達に、手をふりふりと振って微笑んでみる。これは、お姫様ミラからのサービスだよ。
「うおおっ、なんかお姫様に手を振られたぞ?」
「馬鹿だな?お前なんか手を振るわけないだろ。あれは俺に振ったんだ」
「何だと?このジャガイモ野郎」
ふふ、苦しゅうない。
でもミラ姫は、沙耶ちゃん一筋なのでごめんなさい。
「すみませーん。通りまーす」
7Fのファンシールームまで、沙耶ちゃんがエスコートしてくれる。
凛々しい沙耶ちゃんを独り占め。
嗚呼、ミラは幸せ者です。
はふぅ。
【次回予告】
レムの秘密
いや、別に引っ張ってる訳では無いのです。ミラが、ミラが、暴走して51話も持っていっただけなので。




