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43 無限オレンジ


「「ごちそうさまー」」


 美味しかった。

 ミラは満足です。

 コーラで祝杯を上げたら、沙耶ちゃんがそわそわしだした。


「そうだ!せっかくだから、クランの部屋を見に行きましょう」

「うんっ沙耶ちゃん」


 うへへ。これは、ファンシー沙耶ちゃんが帰ってくる予感がする!クールを装いつつも、新しく出来た部屋が、気になって仕方ないようだ。

 もしかしたら、部屋で欲望に乱れて縫いぐるみをもふもふする沙耶ちゃんが見られるかも!ミラは、今からドキドキです。


 そわそわした沙耶ちゃんに急かされて付いて行くと、高級スーツをピチピチに着た巨漢が途中のラウンジで待ち構えていた。


「学園長?」

「おや?沙耶さん。そして、お待ちしておりました。ミラ様!その内上がって来られると思っておりましたが、なんとお早い。先程、歴代最高記録を軽くぶち抜いて、1万ポイントを当てたそうですな。はっはは!報告を聞いた時は笑い転げましたぞ。お陰で今、学園がパニックになっております」


 そうなんだ。悪い事したかな。

 んん?やっぱり、悪くないよね?


「?」

「あー、ミラが迷惑をお掛けして、すみませんっ」

「なんの、なんの!沙耶さん。分からず屋共に、このソードリアンは言ってやりました。ミラ様なら、それくらい当然であると!!!」


 学園長は、まるで自分の事のように誇らしげに語ると、それを見た沙耶ちゃんが疲れたように笑った。


「ふふふ」

「ほんっとに、馬鹿が多くて困る。仮想決闘場が認めているのに、それを否定するなど愚劣極まる。はぁ〜苦労が耐えん」


 大げさにため息を吐く学園長に、沙耶ちゃんが合いの手を入れた。


「ご苦労・・されてるんですね?」

「その通り、聞いてくれるか沙耶さん。問題は山積みだ。今朝など、知らぬ間に空き地にファンシーな家が建っているという馬鹿げた報告まで入ってきた」


 その学園長の言葉に、沙耶ちゃんがびくりと反応を示した。ミラも気になる。もしかして沙耶ハウスの事かな?


「ファンシーな家?」

「報告ではファンシーな家が、一夜にして現れたらしい。馬鹿なのか?常識的に考えて、家が数日で建つはずなどなかろう。パトロールのサボりを誤魔化す実に幼稚な言い訳。はぁー、無能が多くて困る。そうは、思いませんか?」


 沙耶ちゃんが青ざめる。

 そういえば、ミラ達は家をひょいと持ち上げて持ってきた。それがもしかして問題になってるのかな?でも、まだ沙耶ハウスだとは決まってないし。


「もしかして、その家は半円球だったり?」

「なぜ知っている?そうか!その辺りで生活をしておったな。テント生活は苦労されていませんか?・・・もしや!その不審な家について何か知っていますか!」


 うわっ。ビンゴだ。問題になってる家はミラが持ち込んだ家だよ。テント生活って何だろう。食い気味の学園長に、沙耶ちゃんは恐る恐る口を開く。


「・・・はい」

「おおっ!なんたる僥倖。それは、どんな物ですか?建てられて何年にもなるような感じですか?それとも幻覚のような物?」


 ぐいぐいくる学園長に、沙耶ちゃんは小さく答えた。

 お願い。沙耶ちゃんを、怒らないで。悪いのは家を持ってきたミラだから。

 でも・・・震えて、声が出ない。


「私の家です。持ってきたら・・・その。駄目でしたか?」

「んん? 何を言っておる。家を持ってくる????」


「家をひょいっと持ち上げて、運んだんです」

「・・・・・」


 学園長の顔が疑惑に染まる。何言ってんだこいつ?と顔に書いてある。信じてくれない学園長を、ゆさゆさと揺らす沙耶ちゃん。


「あの、本当なんです。信じてください」


 学園長は、深くふーっと息を吐いた。到底信じられないといった様子でぐりぐりと眉間を揉みしだく。

 また入学試験の時のように否定するのかな?と思ったけど今度は違ったみたい。


「・・・どうやって?」

「ミラが浮かべて持ってきました」


 学園長は破顔した。

 全ての悩みから救済されたかのように、晴れやかな表情でミラを見てくる。え?なんで!


「なるほど! ミラ様なら仕方ない」


 むむむ。

 ムカッとした。

 何だかミラが常識ないみたいな失礼な視線を感じる!!


「家の運び方は、モンカセーの人達が教えてくれたもん。これは、ミラのオリジナルでは無いよ!」


 それを聞いた学園長は、なぜか沙耶ちゃんの方を振り向いた。はあ?なんで?


「沙耶さん。今のミラ様の話は、真実ですか?」

「・・・ええ。恥ずかしい事に。といってもミラほどではありませんが。一文字は一応・・・常識の範囲内で。常識の。。。」


 ちょっと学園長!何で沙耶ちゃんに確認するかな?もっと、ミラを信じてよう。

 信じられないといった感じで沙耶ちゃんを見つめる学園長。あれ?もしかして普通は、家は持ち運ばない物なの?モンカセー達は全員で外周を持って持ち上げてたよね?んー、次元収納で運ぶべきだった?


「はっはは。ちょっとしたジョーク。ジョークですよ。家は持ち運ぶ物でした。そう、一文字ならね」


 慌てて取り繕う学園長に、ミラ達3人の冷たい視線が突き刺さると、いたたまれなくなったのか学園長は言葉を続けた。


「ごほん。ようこそ、選ばれし者だけが到達出来る至高の階層7Fへ。先輩として歓迎しますぞ」

「は、はぁ。ありがとうございます」


「ところで、皆さん。『無限オレンジ』はご存知でしょうか?」


 学園長が失点を取り戻すかのように、秘策を繰り出してきた。きょとんとする沙耶ちゃん。もちろんミラも聞いた事がない。


「いえ、知りませんけど?」

「レムは?」

「すみませんマスター。私も無限オレンジなんて聞いた事がありません。お菓子でしょうか?文字通りオレンジをもぎ取る度に成る不思議な木でしょうか?」


 ミラ達が知らなかったのが嬉しいのか、学園長が自信を取り戻してドヤりだした。


「んん!宜しい。無限オレンジとは、神の与えた尽きない甘露! 良ければ、先程のお詫びに、ご馳走しましょう」

「えっ!良いんですか?気になりますっ」

「良いですとも。良いですとも。このソードリアンに、付いて来なさい」


 よく分らないけど思わぬ提案に、沙耶ちゃんのテンションが上がって、ミラも嬉しい。


「楽しみだねー」

「うんっ、沙耶ちゃん」


 学園長の後をワクワクしながら付いて行く。あれれ?何だか来た道を戻っていくような気がする。不穏な気配が漂う。


 そこで止まらないで欲しい。

 ・・・お願い、神様。


 神は死んだ。

 学園長は、さっきまでいたドリンクバーの前で、ピタリと止まって、なんとドヤ顔で喋りだした。

 え?もしかして、無限オレンジってドリンクバーのオレンジのボタンの事なのかな?うわああ、痛いよ。これは見てられない。ドヤ顔を止めて。


「この7Fには、なんと無限オレンジなるものが有るのです!澄み切った極上の蜜柑の甘さのジュース。いつ飲んでも変わらない味。そして、何と驚くべき事に無限に出てくる。無限に!」

「・・・・」


 呆れる3人を前に止まらない学園長は、興奮しながら、ドリンクバーに空のグラスをセットする。

 そうだった!沙耶ちゃんが普通に使ったから忘れてたけど、ドリンクバーは恐らく、超技術(ロストテクノロジー)。牧歌的な世界観を壊すような文明レベルの高い魔道具だった。

 沙耶ちゃんが使いこなせる方が変なんだ。まぁ沙耶ちゃんは天才だし。美人さんだし。例外。


 学園長がドヤるのは仕方ないのかも。

 だって、魔道具ドリンクバーは、この世界に2つしかないから!

 選ばれた一部の人しか入れないアード学園の7Fと、ミラの実家だ。うん、ごめん。・・・それ知ってる。


「はっはは。ビックリされて声も出ないんですな。無理もありません。かくいう俺も始めは驚きました。小さな箱のロストアイテムより、無限に飲み物が出てくるなど信じられないでしょうが、ところがある日、先輩に教えて貰ったのです。さて、このオレンジのボタンを押すと」

「あの・・私達は先程そのドリンクバーでコーラを飲みましたので」


 ボタンを押そうとした学園長を、沙耶ちゃんがガッカリして止めると、不愉快そうになった。


「遠慮はいりませんよ。なにせ無限に。ん?コーラ?コーラとはいったい何ですか?」

「えっと、黒い飲み物ですが」


 学園長が、考えて何かを思い当たったように納得する。


「あぁっ!それはコーヒーと言うんですよ。ですが、恥ずかしい話だが、苦い飲み物は、『腐敗した緑の大地』の遠征を思い出してしまい、俺は飲めなくてね」

「あの・・・コーラは、甘くてしゅわしゅわしてますよ?」


 学園長と沙耶ちゃんの話が噛み合わなくて、学園長が停止する。ううーん、ポンコツ学園長の再起動ボタンは何処にあるのかな?

 沙耶ちゃんが待ちきれなくて叩いた!あっ、学園長の頭ではなくて、コーラのボタンを。


「ていっ!」

「何をするっ。止め給え。知らないボタンを押して、爆発したら」


 ええー?爆発なんてしないよ。コーラのボタンを押したらコーラが出るだけなのに?

 ジャーッと音を立てて、コーラがグラスに注がれる。並々と注がれた魅惑の黒い弾ける液体。

 ほら?爆発しないでしょ。思わず防御姿勢をとった学園長が恐る恐る安全を確認した。


「これが、コーラです」

「ふーっ。良かった。何も起きなくて。ロストアイテムの未確認のボタンを触るなど正気の沙汰とは思えん。しかし、汚染された黒い毒物が出てきてしまった。ん?これがもしかして、コーラ?」


 まるで危険物かのようにコーラを見つめる学園長。


「あの・・美味しいですよ。学園長、良かったら、どうぞ飲んでみてください」


 カリスマ店員の沙耶ちゃんが勧めると、コップを手にした学園長は、不安そうな目でじろじろと見た後、やがて、覚悟を決めてミラに口を開いた。


「ふはは。懐かしい。若い頃、炎の道をくぐり抜けた試練を思い出します。これは生意気な新人への可愛がりですな?己の覚悟を見せてみよという。まさか、この年になってやるとは、思いませんでしたが。良いでしょう。ミラ様見ていてください。このソードリアン、一気でコーラなるものをいかせて頂きます!!」


 ええ・・・何も伝わってないよ!?

 ギンッと覚悟を決めた顔で、不味そうにコーラを見つめて、勢いよく一口で飲もうとしだしたので、沙耶ちゃんが、わたわたと慌てる。


「だ、駄目だよう。しゅわしゅわするから、ゆっくり飲んで!」

「ミラもその方がいいと思う」


 炭酸は刺激が強いからね。

 初心者には一気飲みは早いのだ。

 沙耶ちゃんが親切で止めたのに、学園長は、なぜか恐ろしい者を見るかのような目で沙耶ちゃんを見た。


「ほほう。さすがは一文字。覚悟が違う。炎の道を、走り抜けるのは素人、ゆっくり歩いてこそ達人という事ですな。分かりました。一文字の流儀に従いましょう。では、そのようにッ!」


 カッと目を見開いて、渋い顔でコーラにゆっくりと挑みだした。

 もう、それでいいよ。

 絶対に変な勘違いしてるけど、沙耶ちゃんも、始めはなかなか飲もうとしなかった事を思い出す。なんで飲むのに抵抗があるのかミラには分らない。


「うううう・・・・」


 コーラを飲んだ学園長が、ぷるぷると震えだした。渋かった顔が、弾けるような少年の表情にぴょーんと変わった。ほら、甘いよね?


「あああああ・・・・甘いっ!! 何だ?この未知の味は!?なるほど、沙耶さんの言っていた『しゅわしゅわ』という素材のせいか、刺激的に甘く爽やかな衝撃が喉を駆け巡る。素晴らしい、これがコーラ!」


 何度もテイスティングしながら、目をしぱしぱさせて喜びと驚きに打ち震える学園長。

 この世界にコーラに似た飲み物は無いから、よほど気に入ったらしい。

 沙耶ちゃんがそれを、ほっこり見守る。

 感動で少年のようなキラキラした瞳になった学園長が、恐る恐る期待を込めて聞いてきた。


「これも、もしや無限?」


 沙耶ちゃんが目配せして来たので、タイミングを合わせてレムと一緒に3人で答える


「「はいっ」」


「うおおおおおおおっ!!!素晴らしいっ いくらでも飲めるのか!?まさしく悪魔の秘宝、無限コーラだあ」


 すっごく嬉しそう。

 馬鹿みたいに喜んでる。

 ふふっ。なんだか、学園長の楽しさが伝播してしまったので、皆で盛り上がる事にした。

 沙耶ちゃんが悪戯っぽく笑ってる。

 これは、コールの合図だ。


「せーのっ」


「「無限コーラ!無限コーラ!無限コーラ!」」


 ミラ達は、ハイタッチを決めた。

 学園長、今日からはロストアイテムのドリンクバーでコーラも飲んでいいよ。良かったね。



『7F施設。無限コーラが開放されました』



【次回予告】 


 EVENT 《ラストスタンド》

 参戦決定っ!!


 

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