42 黒い炭酸 魅惑のコーラ
7F。それは最強の証。
その上に前人未到の8Fが存在しているらしいのだが雲の上の話である。
磨き抜かれた大理石の床が、艶々とならめらかな光を放つ。生花の香りに包まれた。高い天井。高級な調度品。どこからか聴こえるBGM。ファンタジーの世界ではない、まるで現代的な高級ホテルのような佇まい。
普段クールぶってる沙耶ちゃんも、はしゃいでいた。
「うっわああ、お洒落。おじいちゃんから聞いてたけど、素敵っ。洗練された都会っていうのかな?なんだか夢の世界みたい」
お可愛い。ほんっとに尊い!!!
くるくると嬉しそうに、ひと目を気にせず回っている沙耶ちゃんを見て、ミラは大興奮する。やばい興奮しすぎて鼻血が出そう。
「いやー凄いよ、ミラはファーストさんを見直した。うんうん」
この表情を引き出すなんてなかなか良い仕事する。プロフェッショナルだね、ミラのご先祖様なだけはある。功績を高く評価して沙耶ちゃんを敬愛する会に入れてあげてもいい。
「マスター、足元が滑りますのでお気をつけください」
はぁ、レムは分かってないな。
いつもミラだけを見てて。
もっとさー、他に見るものがあるでしょ?
沙耶ちゃんとか、沙耶ちゃんとか、沙耶ちゃんとか
「あっ、ドリンクバー発見っ 喉乾いたしミラも何か飲む?」
「飲みますっ!同じのがいい」
うへへ。嬉しい。
そういえば、オーバーテクノ家にも置いてあるやつだ。好きなのを選んでボタン押すとジュースが出るタイプ。沙耶ハウスにもつけようかな。うんっ、帰ったら追加しよう。
あれ?沙耶ちゃんが困ってる。
なんで?
「ごめん、ミラ。押してくれるかな?私には、その資格が無いみたい」
沙耶ちゃんがカチカチとボタンを押すが、反応しない。そういえば、低ランク者でも、高ランク者の案内があれば高階層に上がれるが、高ランク施設は利用出来ないとか。
はあああ?なんてケチなんだ。
「ファーストのけちんぼ!!沙耶ちゃんにも使えるようにして!」
『私のミラ。・・・残念ですが、一人だけを優遇することは出来ません』
「そうよミラ。ズルはしたくないから」
沙耶ちゃんが困ったように笑う。
嫌だよ、そんな顔は見たくない。どうすればいいの?
え?何なのレム?つんつんしてきて。
「マスター、鉄斎さまのプレートがあります」
おおおおお!そうだった。
耳元でこそこそと、献策してくれた秘書のレムに感謝。
「それだああああ レム冴えてる!ありがとう」
ミラが褒めると、ぱああとレムの無表情な顔が喜びに染まる。
「ちょっと、いきなり叫んでどうしたのミラ?」
ふっふふ。沙耶ちゃん、すぐにその曇った顔を喜びに変えてあげるんだから。
褒めてくれるかな?
今日のレムは冴えてた。自画自賛?
「沙耶ちゃん、沙耶ちゃん。どうぞ」
じいちゃんから託されたプレートを沙耶ちゃんへ手渡す。
手渡そうとしたのに、、、、
沙耶ちゃんが泣きそうな顔になってそれを拒絶した。
嫌‥‥。
拒絶されるのは嫌。
・・・・・なんで?
「ミラ。ありがとう。でもね、それを託されたのはミラだよ?私では無い。だから、私には受け取れないんだ」
辛そうな顔の沙耶ちゃん。思わずミラは叫んだ!
「沙耶ちゃんッ それは違うよっ違うんだからッッ!!!!」
沙耶ちゃんがビックリした顔をした。
ミラもビックリしてる。沙耶ちゃんに強く意見を言う日が来るなんて。でもミラの心が熱い。どくんどくんと燃えてる。自然と言葉が出た。
「これは、預かってるだけだから。このプレートは、じいちゃんのだよ。ミラが沙耶ちゃんと一緒にいられるように、じいちゃんが人生を貸してくれただけ。感謝してる。でも、今度は血の繋がった沙耶ちゃんに力を貸したいって、このプレートが言ってるの」
「・・借りるだけ?」
呆けた顔で沙耶ちゃんが聞いてきた。
「うん。沙耶ちゃんならすぐに返せるよ。だから、あるべき場所にプレートは帰ります。じいちゃんの想いを託すね」
「・・・・・託されました」
沙耶ちゃんの悲しみが消えていく。
ぎゅっっとプレートを握り込んで泣いていた、でもミラには分かる。それは悲しい涙じゃない。
レムが自然にハンカチを渡した。
沙耶ちゃんが、涙を拭き取り少し充血した目でニカッと笑う。
お日様みたいに輝いてた。
「ふふふ。ミラ。 注文は何かな?私が好きなのを入れてあげよう」
「コーラが良いです」
実はちょっと炭酸は苦手だ。
でもミラは知っている。沙耶ちゃんがコーラが好きだって事を。
しゅわしゅわと炭酸が弾けるコーラが3つ、お茶屋の娘さんの沙耶ちゃんによって提供された。ミラの分だけ、マドラーでかき混ぜて少し炭酸を抜いてくれる沙耶ちゃんはカリスマ店員さん。カラカラと氷と透明なグラスがぶつかる音がする。
「どうぞ、ご注文のコーラです」
「「ありがとう」」
この世界では見かけない黒い爆発的に甘い飲み物を沙耶ちゃんが高く掲げる。
「クラン《一文字》の復活を祝って!」
「「かんぱーい」」
しゅわしゅわと炭酸が喉を駆け抜けていく。冷たっ。
ごくごく飲むよ。
これは、お子様には早い味だよね。
けっぷ。ミラは大人の女だぜ。
【次回予告】
ミラ様
高級スーツを着たおっさんが現れた。
ドヤ顔の学園長は反省し感激する。