41 恋する少年は沙耶を待つ
クランのプレートがはめ込まれると、部屋が、主の深層心理から求める部屋を自動的に構築していく。
機能的な部屋、格好いい部屋、豪華な部屋。もっとも2Fのクラン部屋なら、『みかん箱』が1個出てきて終わりなんだけど、5Fならある程度は良い家具が出てくるらしい。
願望読み取り器により深層心理を探られた感覚があったけど、ミラの中は空っぽだ。たぶん、ミラを読み取ってもガランとした何も無い部屋になるだろう。もしかしたら、壁一面に沙耶ちゃんの写真が貼られただけの部屋になるのかな。だとしたら見せられないよ。
人の内面をスキャンするなんて趣味悪い機能だけど、これが沙耶ちゃんと一緒なら神機能になる。
だって、沙耶ちゃんの趣味100%の部屋になるからだ。
部屋の中央に、ぽこんっとファンシーな家具が生まれた。天蓋付きのベッドが生まれる。綺麗な色で壁が塗り替えられていく。
「おおおぉっ、可愛いよ。沙耶ちゃん」
キラキラした瞳で楽しむ。
技術的に未熟で改良の余地はあるけど、発想はいいと思う。いつもクールぶってる沙耶ちゃんが乙女のような表情で、ファンシーな部屋が生まれる様子をぽーっと見ていた。
「・・・かわいい」
ぽそっと呟いた沙耶ちゃんを戴きました!ふおおおおっ沙耶ちゃんの方が可愛いからっ。大天使さまだから。ファーストさん、良い仕事したよ!ミラはファーストさんの評価をちょこっと上げた。
「沙耶さんらしくないファンシーな女の子らしい部屋ですね。これは、この子の趣味かな?」
「・・・ええ、そうだと思います」
貴族のいらない一言で、沙耶ちゃんがいつものクール沙耶ちゃんに戻った。はぁ・・これはこれで格好良い。そう、沙耶ちゃんは似合わないのを知ってるからいつも我慢してるんだ。でもね!レアな可愛い沙耶ちゃんをもっと見てたかったのに!!何やってんの!
むうう。
「うおっと、ごめんよ?何を怒ってるのかな?僕は、良い趣味だと思う。誤解させたのなら、謝るよ」
全然分かってないっ。
だけど、沙耶ちゃんが、ほっとした顔をしたので特別に許してあげます。
「こういう女の子らしい部屋はいいね!すごく癒やされる。僕の人生に光が差したようだ。明日からこんな美人さん達と共に成長していけるとか、希望しかない。辛い事もあったけどアード学園に入学して良かった!! 改めて歓迎するよ、ようこそ5Fへ」
「ふふふ、よろしくお願いします」
その時だった。
お別れを告げるアナウンスが鳴る。
『クラン《一文字》の再結成を承認しました。実力と階層が合っていないため、部屋を移動します。上昇、さらに上昇。処理完了。引き続きアード学園の生活をお楽しみください』
ファンシーな部屋が跡形も無く消えて、新しい部屋の引越し通知が届く。
「部屋が消えた。この現象は昇格か!沙耶さん。貴女はいったい?」
「はは・・そういえば忘れてた。ミラのランクが優先されるんだった」
沙耶ちゃんが達観したような顔でミラを見つめて、貴族は信じられないものを見るかのような目で、ミラを見てきた。ほへ?
「この子供が、一見なんの力を保たないような子供がっ5万ポイントを稼いだというのか? ・・・魔術師なのか?まさか幼女に擬態した魔族なのか? しかし、しかし。待っていてくれ僕もすぐに5万ポイントを集めて沙耶さんと同じ6Fに上がるからっ」
「えっと。その・・違います」
沙耶ちゃんがもにょもにょ言うと、貴族が勢いを緩めた。
「そ、そうだよな。あはは。ごめん、ごめん。取り乱して」
「えっとぉ。彼女は一文字ミラ!魔道具作りの出来るどこにでも普通の女の子。稼いだ得点は・・・・・20万ポイント」
貴族がぎょっという顔で、ミラを見てくる。
「ふ、普通!!!! いや、普通には見えるが、普通なら なおさら20万なんて無理だ! 沙耶さんが嘘をつくとは思えないが、信じられん。本当なのか?嘘だよな?冗談って言ってくれ。頼むっ!!なあっなあっなあっ!」
うっ、うるさいよ?
えーと、どこにやったっけ。おおっ、あった。これを見たいんでしょう。
さっき貰ったプレートを見せてあげる。
これで落ち着いてくれるよね?
バッバーン!!
「ひぃぃx。なんで?なんで、そんなのをお前なんかが持ってるんだよおお?学園長を倒した少女がいるという噂はお前だったのか!? いや、でも1万点を返却したという噂もあるし、あれから大会は開かれていない。1万点はどう用意した!? 計算が、計算がまるで合わないっっっ」
あれれ?
思ってた反応と違う。腰を抜かす程のことかなあ。
「ミラは、その・・今朝のルーレットで10000点を当てたので。そうだよねーミラ?」
「うんっ、沙耶ちゃん」
もー、ちゃんと見てないからだよ?
朝このくだりはやったのに。
「僕の58日の大記録を馬鹿にしてるのか?あまりに増えないから、ポイントだって少し買ったんだぞ!」
「ええ・・・・」
思わぬ情報をうっかり暴露したせいで、沙耶ちゃんがドン引きしてる。沙耶ちゃんはズルとかそういうのは嫌いなんだ。貴族への好感度メーターがどんどん下がってるのがミラには見える。ご愁傷さま。
「分かりました。沙耶さんっ!!貴女はこの幼女に擬態した魔王に騙されてる。見破ったぞおおお、可愛らしい魔王め。僕が時間を稼ぎますので、その間にお逃げください。僕の死を無駄にしないでください。だからっ。早く、早くぅぅぅぅ!!!!」
必死な顔で、ミラと沙耶ちゃんの間に割り込んできた。
すっごく失礼な勘違いをしてるけど、やっぱり良い人だよね。沙耶ちゃんを命がけで守ろうとしてるんだし。
「いい加減にしなさい。ていっ」
おっ、沙耶ちゃんが後ろから峰打ちした。
鮮やかっ!
白目を剥いて一撃で昏倒する貴族。・・悪は滅びた。
「ミラ。馬鹿はほっといて、7Fに行きましょう」
「はーいっ」
美少女達が、華やかな香りだけを残して、5Fから立ち去った後、貴族ではなく亡国の王子ビオはむくりと起きた。
「なんだ?良い匂いがする。あー、なぜか?頭が痛い。おおっと、そうだった。今朝はルーレットを我慢して早く来たんだった。ファーストコンタクトは重要。沙耶さんをさり気なく案内して仲良くならないと」
記憶を失った恋する少年は5Fで待ち続ける。
「あぁ、ドキドキしてきた。僕の負けられない戦いが始まるぞ」
いつまでも。
【次回予告】
黒い炭酸、魅惑のコーラ




