表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/69

4 死合 一文字・斬鉄


 戦斧の爆砕ゼオン VS 天災ミラ


 勝者、ミラ!


 門下生達の間に重い空気が流れる。

 なぜならば、この次に、一族の命運を賭けた一文字家の当主、斬鉄との試合が予定されているからだ。


 斬鉄は、強い。

 そこに疑うべき余地は無い。


 王国内最強。

 四皇という武を司る中でも、剣ならば頂点に立つ最強の漢。

 加えて、今回は聖剣ムラサメを解放するとの噂もあり、勝利は約束されている。

 約束されているはずなのだが。


「ねえねえ、沙耶ちゃん。見た〜?」


「はいはい、凄かったよ。ミラ。」


 場違いなキャッキャウフフとゆる百合するミラの聖剣ビームサーベルの青白い残光が、瞼の奥から消えない。

 試合が終わってもなお、その残光は、ギャラリー達の勇気を焼いていた。


 門下生達は、自分の流派の勝利を信じきれない己の弱さを恥じる。



 そしてまた、斬鉄も苦悩の中にいた。


 戦うべきか、逃げるべきか?

 勝負を見誤り、万が一でも敗北すれば、一族と多くの門下生が路頭に迷ってしまう。


 この目で見て分かった。あのビームサーベルとやらは聖剣ムラサメすらも溶かすだろう。ふざけた威力だ!当て馬をぶつけてみて、本当に良かったと鉄斎に感謝する。

 聖剣ムラサメを破壊されるわけにはいかないので、今や手に握られているのは、ただの訓練用の木刀に戻ってしまった。

 ・・・だが、それだけだ。

 彼の牙はまだ折れていない。武術の達人の前では、それくらいでは、ハンデにすらない。

 なぜならば、勝利のプランはまだ無数に残っているからだ。

 一番確実なのは、秘剣『飛空斬』で、衝撃波を飛ばしてほんの少し皮膚を傷つけるだけでいい。飛び道具が禁止なだけで技は該当にならないというズルではあるが。

 少しの痛みを与えるだけで、恐らくあの魔王は泣きじゃくり勝負を投げ出すだろう。忘れそうになるが、普通の少女だ。


 しかし、嫌な予感がするのだ。

 あの常識破りの少女の皮を被った魔王は、まだ奥の手を秘めているのでは?という不安。

 悩んでいるは、この気持ちが、ただの弱気なのか、直感なのかの判断がつかないところ。



 検討する時間が欲しい。

 しかしながら、こういう時間は早いもので

 第2戦、最終決戦の準備が整いつつあった。気付けば相対して構えている。


 一族の命運を賭けた勝負が始まった。始まってしまった。

 推定勝率は、9割くらいか。

 勝利条件であるミラの反射神経を超えた一撃を放つだけでいい。おそらくそれは簡単なはずだ。出来るよな?

 負けられない大一番。

 深く深く息を吸う。

「ふうーーーーーーっ」

 斬鉄は、多くの門下生達の生活を背負って、戦う事に決めた。


「一文字に逃げという言葉は無い!」


 響く毅然とした声に、迷いはもう無い。

 鉄斎が息子の成長を見て頷く。

 門下生達の揺らぎかけていた信頼を完全に取り戻して、羨望と期待と信頼の籠もった目で当主を見た。

 これこそが、一文字家が当主 斬鉄!



 一人娘の沙耶が、立会人を務めるため、中央へ静静と歩いてきた。


 斬鉄は思う。母に似て美しい子に育ったなと。しかしながら、その美しい姿は今だけは死刑執行人のようにも感じる。


「これより、試合を始める。ルールは先程と同じ。双方、質問を認める。悔いなきまでに存分に確認せよ。異存はあるか?」


「無いよー、うへへ」


 ノータイムで、魔王ミラが詰めてくる。

 やはり何かを企んでいるようだ。

 実は、ミラは先程の試合で全力を出していない。秘策を温存していた。

(これは沙耶ちゃんも驚くぞ)

 心臓に悪いので、やめてあげて欲しい。


 斬鉄は、娘の思惑を感じ取り、顔をしかめた。

 先程の妙な台詞回しは、奥の手を聞いてしまえという、立会人の挟持を汚すようなキラーパスが隠れていた。そして聞けば恐らく教えてくれるだろうとも予想する。既に公平とは言えないルールだし、もう一歩踏み込んでいいのでは?

 手を汚し生活を確実に守るか、無骨に生きて博打を打つか、愛娘から突きつけられたのは、究極の二択。


 斬鉄は迷わない。


「質問は無い」


 不器用な男だった。

 無骨に生きる高潔な男。それが斬鉄。


 鉄斎からも質問は無かった。

 全ての計略を捨てて、敗北の可能性も許容して息子を見守る。

 不器用な親子。



 張り詰める空気。

 後は、開始の合図を待つだけだ。


 しかし、なかなかその肝心の合図がかからない。


 まだか?

 まだなのか?


 焦れる斬鉄とギャラリー。

 そう。完璧な一文字家だが、一つミスを犯した。


 立会人を身内の女に任せてしまった。

 これがミス。

 男と女では考え方が違う。

 プライドで生活は出来ないんだよと女は考える。

 沙耶もまた父に似て高潔ではあったが、凝り固まった男共とは違って柔軟な発想が出来たのだ。

(これが死合ならズルは許されない。でもさぁ、皆忘れてるけどミラは遊んでるだけだよ?)


 だから、沙耶は聞いた。

 パンドラの箱を簡単に開ける。

 中身は何かなと?

 彼女は、貰ったプレゼントをその場で開けるような先進的な若い女であった。


「ねぇ、ミラ。まだ何か隠してるでしょ。教えて欲しいな」


 ざわりと、どよめく斬鉄たち

 え? 当主の覚悟は?それを聞いてしまうの?


「さすがあ!沙耶ちゃん。バレちゃった。いいよー」


 そして、斬鉄が予想したとおり、あっさりとネタばらしをされる。


 ミラがビームサーベルのスイッチをさらに押し込むと、カチリと再び音がした。

 それは、手動から自動制御モードへの切替スイッチ。


 シュバババ


 ビームサーベルの刀身の蒼白い炎が伸びて、まるで蛇のように意識を持ったように動き出した。

 

 呆れ顔になった沙耶は、性能を確かめるべく、カンザシと呼ばれる髪飾りを抜いて恐ろしい速度で、ミラの意識が切れたタイミングを見計らい投擲した。

 シュバ。

 ミラの反射神経を綺麗に出し抜けたが、自動制御モードの蒼白き炎はあっさりと超反応を示すと姿を変えてカンザシを食べた。

 ゴウッとカンザシが燃え尽きる。

 この魔道具は、やはり第2形態を隠していた!


「ふふふ、ミラは凄いねえ」


「ありがとー、沙耶ちゃん」


 力なく笑う沙耶に、無邪気に、ニパッと笑うオレンジの髪の天災。



 もう駄目だ。魔王め。


 それを見た多くの門下生達の心が完全に折れる中、高弟や斬鉄の顔が険しくなる。


 風向きが変わった。


 そう。

 勝率は3割ほどに低下したが、まだ勝つ手段が残っているからだ。

 ただし、その多くの手段は、今まで用意していたのとは違い手加減出来ないため、相手を殺してしまう。


 娘の友達を手にかけなければならないのか?

 悲しい事だ。しかし、武の道の為ならば、自分の命や実子でさえ捧げる覚悟が斬鉄にはあった。

 その顔から父としての優しさが剥がれ落ちる。


「ミラクル・オーバーテクノ、貴君を武人として認める!我が名は、一文字家が当主 斬鉄っ」


 雰囲気が変わった。


 武神 斬鉄

 ここに、降臨っ!


 その姿は鬼。

 ミラはやり過ぎた。反則級の魔道具が、眠っていたおっさんの中の人殺しの鬼を起こす!

 斬鉄から甘さが削ぎ落とされて、鉄斎の全盛期を超える暴力的なオーラが燃える。ここからは、試合では無く、死合だと。


「「おおお、ご当主様」」


 どよめくギャラリー。

 斬鉄は人を捨て、鬼になる!


「お命頂戴する、推して参る!」



【次回予告】


 鬼覚醒した斬鉄

 一族の生活のために男は負けられない。


 ミラが斬鉄に勝利してしまうと、道場の看板を取られた沙耶ちゃんはホームレスに。遊び半分のミラは、まだその事に気付いていない。

 どうするんだ、ミラ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ