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39 伝説の幕開け


「5Fへ到着っと」

「早く探検に行こ行こ!沙耶ちゃん」


 そのフロアは、磨かれた木の床だった。調度品もシックで落ち着いている。まるで旅館のような高級感が溢れる内装。


「さて、それではこれから、ここでクラン登録をして・・」

〈くぅぅぅ〜〉


 その時だったミラのお腹が鳴る。そういえば、そろそろ夕方だった。


「さ、沙耶ちゃん、今のは気にしないで。ミラは大丈夫だから」

「ふふっ、駄目でーす。今日の探検は、ここでお終い。帰って美味しいご飯にしましょう」


 沙耶は悪戯っぽく笑って、ミラの頭をわしゃわしゃと掻き回す。


「ご、ごめんなさい」

「沙耶様。今日はお鍋で宜しいでのしょうか?でも白菜は今の季節は」

「あ、はは。お鍋はまた今度でいいかな。冗談なので!料理はレムさんにお任せします。それに、ミラも私だってお腹ぺこぺこだから、謝らないの!」


 引きつった顔で沙耶は、無意識で出していたオーダーをキャンセルした。


「ありがとう、沙耶ちゃん!」

「沙耶様、ご配慮ありがとうございます」

「たはは」


 照れくさそうに笑う沙耶。

 そこへ、5Fの先客が声をかけた。金髪パーマの貴族のような男だ。フランベルジュという波打った刃の細い剣を持っていた。


「始めまして。もしかして、貴女は一文字沙耶さんですか?」

「ええ、そうですが。貴方は?」


 訝しむ沙耶に、貴族は微笑んだ。


「驚かせてすみません。たしか入学したのは昨日ですよね?僕の最短58日の記録が軽々と破られてしまったのかな。おっと僕はビオ、よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ですが、今日はもう引き上げますので」


 差し出された手を軽く握手して申し訳なさそうに断ると、オーバーなリアクションで対応してきた。


「そうか!それは、すまなかった。また明日お会いしましょう」

「ええ、また明日」 


 そして、沙耶ハウスへ帰還。



 腹ペコのノノンに出迎えられ、ミラさんの作る夕食はいつも通り美味しかったし、興奮したミラに沙耶はなかなか寝させて貰えなかった。自分の大活躍を聞かされる沙耶は終始、困った顔をしていたが

 いや、そんな話はどうでもいい。


☆☆☆


 次の日の日課。

 まぁ、それだけで分かるだろう。

 朝のルーレット。

 沙耶が77点を当てて、羨望の眼差しで見つめられていた次のターン。


 ミラが当てたのだ。



 さて、それではそのシーンから、再開しようか。

 会場は毎朝1回だけ回せるルーレットの熱気に包まれていた。点数がそのまま生活とリンクしているからだ。

 学生達は結果に一喜一憂している。

 点数次第ではバイトを増やさなければならない苦学生も多い。


「くそっ、3点だ!今日の昼飯は抜こう」

「よぉぉしっ、12点だ!やったあ」

「9点かぁ。悪くないがさっきの77点を見たせいで素直に喜べないよ」

「忘れろ、そんな点数は普通出ない」

「向こうで51点が出てるぞ!」

「ちっ、景気のいい事で」


 先程77点という高得点を当てた沙耶は、そんな喧騒などお構いなしに、固唾を飲んで見守っていた。

 親友ミラのくるくる回るルーレットの行方を。

 配列がイカれてると。

 彼女の1と2が仲良く並んでるルーレットの中には冗談みたいなぶっ壊れた数字が一つだけ混ざっているからだ。

 なんと、その数字は10,000!

 魔王の誕生まではあと少し。



 (1)(2)(1)(2)(10000)(1)(2)(1)(2)(1)・・・・


 徐々にスローになっていく光。

 どこで止まるのか?

 一撃1万点。

 時価総額にして、約1,000万円。

 毎朝のお小遣いポイントにしては馬鹿げてる。本当に、止まるの!?


 (1)いつ見ても凄い

 (2)え?ゆっくりになった!

 (1)まさかね?

 (2)本当に!?

 (10,000)えええ!!!!

 (1)


「・・・本当に、当てちゃったっ  ええええ!! おめでとーう!凄いよっミラ」

「ほへ?」


 沙耶は興奮して、自分のルーレットの行方すら見ていなかったミラを抱きしめた。

 くるくると、頭上へ掲げられるのは、前人未到の『1万点!』

 それに気付いたギャラリーの顔が、驚愕に染まる。


「「嘘だろ・・・こんな事があるのか?まさか1万点。どうなってるんだ?」」

「「は?1万点を当てた?寝ぼけるな、せいぜい千点の間違いだろ。んん??本当に1万点なのか!どうなってる?あれだけで卒業プレートが貰えるぞ!!」」


 ギャラリー達は唖然として見守る。

 それもそのはずで、千点を超えるなど聞いた事が無いのに、その上の1万点ときた。


 誰が当てた?

 視線はミラへと、集中する。


「「あんな子供が?? 本物のラッキーガールだ!」」


 この瞬間、なぜか偽物のラッキーガールへと降格される沙耶。

 魔王ミラの誕生である。


 多くのギャラリーは、特賞を当てたミラを見て色々と考えた。あわよくば奪ってやろう。ただの子供ではないか!戦闘能力は皆無に見えるから幸運特化タイプなのか?まさかシステムに干渉するような能力を持つのか?

 何にせよ、羨ましすぎるっ。


「うへへ。よく分らないけど、沙耶ちゃんに褒められちゃった!!」


 一人だけ別次元の事で、喜ぶミラ。

 何度でも言うが、ミラは沙耶ちゃんに付いてきてるだけなのだ。自分の得点にはこれっぽっちも関心が無い。

 物欲センサーとでも言うのだろうか、世の中は理不尽で、どうでもいい人に当たったりする。


「良かったねミラ。ほら、カードに移してね」

「うんっ 沙耶ちゃん!」


 ミラがプレートをかざすと、1万点が吸い込まれてプレートが、眩しく輝き出した。

 様々な事を考えているギャラリー達だったが、仮想決闘場のファーストより緊急アナウンスが入り、さらに思考を乱される事になる。


『アード学園生にお知らせします! 一文字ミラが、只今のルーレットにより、現時点を持って20万点を再び超えた事を報告します。条件を満たしたため、強制交換となり、卒業の資格を付与します。』


 シーンと静まりかえる学生達。

 今、20万点と聞こえたような?

 ・・・馬鹿なッッ

 変だぞ。

 ざわざわと、話し声が大きくなる。


 朝の重要な時間なのだが、どうせ当たってもせいぜい10点くらいの話だ。皆の手は止まる。集まった学生の関心は全て謎の少女一文字ミラへと注がれていた。


「「おい、今さっき20万点と聞いたような?」」

「「嘘だろ、だって一文字ミラなんて聞いた事もないし、この前の大会にもいなかった。 え?もしかして、あの一文字なのか?」」

「「いや、待て。学園長を倒したって噂が、本当なら有り得るかもしれない」」


 大勢が見守る中、キラキラと天空よりミラの手元へ落ちてくる。これより上のプレートは誰も取った事がないので、実質最強を示す20万点のプレート。

 常識が外れすぎているため質問する者は出て来ないが、羨望、崇拝、渇望、憎悪。そんな視線が、ミラへと集まる。



 大注目を集めたミラだったが、ぷいっと横を向いた。


「いらないっ」


 ざわりっとどよめく。

 空気が揺れた。

 生徒達の心は一つになる。何を言っているのだ?この迷い込んだような少女は?

 もちろん、ファーストも同意見だし、沙耶ですら疑問に思う。


『な、何を・・・・』

「え?なんで。良かったじゃないミラ?」


「やだよ、やだやだ。沙耶ちゃんと離れたくない」


 ぐずるミラを、複雑な表情で抱き締める沙耶。自分達の欲しくてやまない物を平然と要らないと言い放ち、それ以上に自分と一緒にいたいと熱望する親友に。諌めればいいのか、喜べばいいのか?


 シーンと静まりかえる会場。

 ようやく、重い沈黙を破ったのはファーストだった。



『えー。私のミラよ。卒業資格があるだけで、これからも在席は認めます。なので、どうかそれを受け取って下さい』


 まさか、異例の処置だった。


 しかし、ファースト・オーバーテクノの立場になって、よく考えるとこれはある意味当然だったりする。

 実は、ミラクル・オーバーテクノのルーレットがぶっ壊れているのは理由がある。戦闘能力の評価もあるが、血縁であるファーストの依怙贔屓が大きいのだ。

 なんと悲しいかな。世の中は、綺麗事だけでは回っていない。



「分かった。それなら貰ってあげる」


 ここに集まる学生達の全ての大願を、まるで興味なさそうに受け取るミラ。

 皆、一様に何も喋れなくなるほどの衝撃を受けた。

 目端の効く一部の生徒は、さらにもう1枚鉄斎の20万点のプレートを持っているのに気付いて卒倒しそうになる。

 あっ、一人倒れた。



 沙耶は手のかかる親友をひょいっと抱きかかえて、こそこそと退散した。

 

「行くよお、ミラ。皆さま。お、お騒がせしました」

「わぁい。沙耶ちゃんに抱っこされた!」


 こうして、一人ご機嫌なミラは、沙耶ちゃんに抱きかかえられて静まり返った会場を後にした。



【次回予告】


 あれ?こんなハズでは。。

 今度こそ、クラン結成

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