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36 グリーンマン


 沙耶はクラン《竜槍》を撃破して、彼らの全てを手に入れた。

 クランルームもその一つである。

 つまりは、最初の仕事は後片付けであった。


「本当にクランの看板は処分でいいんですか?」

「はい、私達にはもう不要な物です。新たな生き方をすると決めたので」


 爽やかに宣言するキースを優しい瞳で見つめる長い黒髪の乙女。もし、新しいクランの名前が《沙耶様の一番槍》になると知っていたら、全力で拒否しただろう。

 彼女には、少し危機感が足りなかったようだ。「あんの馬鹿どもっ〜!!」とくねくねしながら怒るのは少し先。

 彼らに見送られながら、4Fへと転移した。


 入学2日目で、すでに中堅ランクの4Fへと到着するという異例の快進撃を魅せるクラン《一文字》候補。


「そういえば、そろそろクラン結成しないといけないな」

「クラン?」


 何でも知ってそうなミラだが、彼女が知っている事は魔道具に限られる。ほえ?と不思議そうな表情で沙耶を見つめる。


「学校でも一緒のチームになるってことだよ」

「沙耶ちゃん、早くクラン作ろ」


 なぜかミラが焦って駆出そうとした。ちなみに走る事とクラン結成には何の関係もない。しかし4Fは硬いつるつるとした床だったためミラはバランスを崩して転倒しそうになったため、心配したレムに首元を掴まれて持ち上げられて、空中で足をぷらぷらさせていた。

 辺りを見渡せば、それなりの調度品にランクアップしている。

 先客である4Fの少年達の視線を感じた。ちらほらと少女もいる。ライバルになり得るだろうというのが沙耶の感想。


「うわっとと。沙耶ちゃん、床がつるつるする! レム、大丈夫だから離して」

「そうだね。少しずつ階層が豪華になってくるみたい」

「マスター、足元に気をつけてください。あっ! 沙耶様、竜槍の部屋はあちらみたいですよ」


 レムさんが案内板を見つけてくれたので、集まった視線を避けるように移動する。案内どおり少し歩けば、目的の部屋を発見した。クランメンバーが資格を失ったので、近いうちに崩壊するだろう。


 そんな3人組の少女を、姿を隠してひたひたと つけまわす影がいた。グリーンマンと呼ばれる暗殺一家の麒麟児だ。怪しげな透明化した影は、3人に手を出す様子は無く観察しているという感じだ。


「あった!可哀想だけど、もう使わないみたいだし看板を降ろして部屋を片付けますか。それにしても、汚い。片付けしなさいよ」

「ミラもお手伝いするー」

「ありがとう、ミラ」


 クラン《竜槍》の部屋に入り、中にあった私物をどんどんとミラの異次元BOXに入れていこう。オールインなので、これらも全て沙耶の物になったが、いらないので私物は全て返却するつもりのようだ。

 ごちゃっと槍やら謎のアイテムなどが乱雑に置かれている。

 さてと、赤い紐を口にくわえて腕まくりをする。和服の裾を紐でたすきがけにしてぎゅっと縛りやる気になった沙耶だったが、ミラが掃除機のようにひゅおおおと無差別にソファーや槍やトレーニング器具などを吸い込み始めたので、やる気を放棄して見守りへと移行した。


「うひゃっ!? ミラ。・・・私まで吸い込まないでね?」

「大丈夫だよ沙耶ちゃん! 認識機能ぐらいはついてるから。残りは全部吸い込んじゃえーーーー」

「マスター、大活躍です」


 楽しそうにミラが部屋を駆け回ると、あっという間にがらんとした何も無い空間になった。


「早っ もう終わったの。凄いよ、ミラ! 何日もかかると思ってたのに。明日、荷物を返したら竜槍の人達も喜ぶでしょう」

「えへへ。褒められちゃった」

「良かったですね、マスター」


 入口付近で、その様子を密かに監視していた暗殺一家の少年グリーンマン。忍者かぶれの焦げ茶のちりちり頭のスクエアの眼鏡をかけたグラシャは、あまりに驚き過ぎて擬態を解いた。忍者のような形の緑一色の服であるカメレオンスーツを着ている奇妙な人物だ。


「な、なんとう収納魔法だ。あんな容量の魔力など見たことが無い。あれが学園長を倒した魔女、一文字ミラか。しかし魔力の流れがまるで見えない、どんな高度な制御をしているんだ。もしや古代魔法王国の・・」

「うわっ!!み、みどりの人??  驚かせてしまい申し訳有りません」


 独特な服のセンスにドン引きした沙耶だったが、たははと力なく沙耶は笑いながら謝った。どうやら刺激が強すぎたようだ。これは魔法ではなく、魔道具なのと言っても信じられないだろう。


「ひっ!?なぜバレた。くそっ擬態が解けている。 いや、こちらこそ覗き見をしてすまない。一文字沙耶さんの事は少々噂になっていてね。しかし、ここは4F。。入学したのは、たしか2日前。いったいどうやって?」 

「なぜ?私の名前を。あなたは刺客? それともストーカー?」


 一文字家に敵は多い事を今更ながらに思い出す沙耶が、怪訝な目つきで睨むと、緑の変人は慌てた。


「し、刺客では無い。貴女は有名人なんだから、情報通なら知っていて当然だ。黒髪の美しい一文字家の一人娘。まさか2人も隠し子がいたのには驚いたが、一文字なら想定の範囲内だろう」

「そうですか。私達は竜槍を撃破したから、上がってきました」


 これ以上にないぐらい分かりやすい理由を伝えたが、理解を頭が拒否するらしく全身緑の男は頭は、考え事をする癖なのかスクエアの眼鏡をイライラと上下させる。


「竜槍のリーダーは、キースだぞ! それを簡単に??いったいどのような計略で」

「ふふっ、内緒です」


 沙耶ちゃんは、可愛く口元に指を当てて小悪魔風に微笑んだ。どうやら説明するのが面倒になってきているようだ。


「俺の名は、おっと。時間が無い。そういえば貴女には危機が迫っていたな。一文字らしい対応を見せてくれ」

「は???」


 斥候方面に特化した全身緑の男は何かを思い出したのか慌てて、それだけ言い残すと、魔獣カメレオンのように姿を溶け込まして、空中へと消えた。古代魔法王国のロストアイテムと、高度な知覚阻害魔法による擬態だ。

 彼はこの血統魔法に絶大なる信頼を寄せている。筋肉量の少ない痩せている少年は攻撃力は一般人並なのに、アード学園でのし上がったのはこの魔法が大きい。

 一般人なら空中へ人が消えるという摩訶不思議な現象に腰を抜かして驚くところだが、沙耶はミラのおかげてこういうのには成れていた。

 常人より研ぎ澄まされた感覚を持つ沙耶は神経を集中すると、少し離れた位置に移動した男が隠れてまだしつこく覗き見を続行している事に気付く。

 イラッとした顔で、何もない空間を指さす。


「ミラ、あの辺りに逃げた緑いない?」


 沙耶の問いかけで、ミラが未来的なサングラスのような物を取り出して装着すると、サングラスについた各種センサが、ウインウインと音を立てる。


 なぜ?ミラは変な仮面で目隠しをするの?と普通の人間なら疑問に思うが沙耶は慣れているので、この奇行をスルー。グリーンマンは何をしたいのか分からず戸惑う。


「おーさすが沙耶ちゃん。あそこで、壁にぺたっと張り付いてるよ。あれ、右足あげて、両手を開いて、ピースして、踊って、キョロキョロして、逃げたっ!!」


 全身緑男は、魔王を見るかのような目でミラを見て、脱兎のごとく駆け出した。なぜだ?なぜ見破られた!?ここまで正確に隠蔽を破かれたのは初めて体験であったからだ。

 何がおきたのか分らないとその顔には書いてある。擬態は完璧なはずだが?


 擬態は完璧だった。超一流でも気配を探るのがやっとだろう。しかし、そんな物は、彼女の未来魔道具サーモグラフィの前では、通じない。言ってみれば赤ちゃんの隠れんぼのようなものだ。

 熱源と各種のセンサが組み込まれており、ノイズは入るものの表情まで鮮明に見える。


「ひぃぃ、なぜ分かる!あの少女の正体は、擬態した魔王なのか くそおお」


 もつれるような足取りで逃げる緑男が、廊下を歩く無関係な少年にぶつかる。


「痛っ、なんだ!? 何か見えないものがぶつかったぞ??」


 ぶつかった少年は怪訝な顔をしてキョロキョロと辺りを見渡した。

 それを見た透明化している緑の男は、自分の擬態が切れていないのに完璧に見破られた事を理解してガクガクと慄えだす。

 幼い頃より他人と自分を隔てていた透明化という血統魔法という強固な防御壁に、土足で侵入してきたオレンジ髪の少女に恐怖する。

 動けなくなり、ガクガクとその場にうずくまる。

 安全な場所が侵略された。いや、さっきのは偶然だ、見られてはいなかったと願わんばかりに泣きそうな顔で、機械のような仮面を付けた少女をおそるおそる見つめる。

 残念ながら見られてるらしい。しかもかなりハッキリと。

 ほら、ミラに手をふられた。

 無邪気な口元で、無言で問われる。貴方はそこで何をしてるの?


 それだけなら良かった。魔道具は哀れなグリーンマンを追い詰める。

 サングラス型の魔道具サーモグラフィに付属しているレーザーポインターが光を放つと、正確にグリーンマンの眉間を捉えた。

 ロックオン!

 見逃してますが、いつでも殺せますよ?キッチリとメッセージを受け取ったグリーンマンの顔が恐怖に歪む。


「うぇぁああああああああああ!!!!俺を見るなああああ オレンジの魔王うう」


 何も無い空間から、悲痛な幽霊の叫びが聞こえた。


 グリーンマンとぶつかった少年がビクリと慄えて何も理解出来ずに、その場から逃げ出した。

 アード学園七不思議の一つ。恥ずかしがり屋の亡霊の誕生である。


「うっさ、何だったの?」

「隠れんぼかなー?」


 耳を塞ぐ沙耶に、ミラは無邪気に答えてレーザーポインターをオフにする。


「あー、ミラが鬼だったら、すぐ見つかるね」

「沙耶ちゃん、隠れんぼする?もちろん、さーもぐらふぃは使わないよ。だから ね、ね?」


 良い事を思いついたとテンション爆上がりなミラに沙耶は服を引っ張られる。


 そんな呑気な二人を前に、危機が現れた。

 現れたのは、重そうなバトルアックスを無理して持っている筋肉質の坊主頭の青年。

 鼻息荒く沙耶へ問いかけた。


「一文字沙耶だな?」


 やだっ、私ったらモテモテ

 ・・・・沙耶ちゃんのモテ期は続く。



【次回予告】


 誰だ?この坊主は?

 なぜ、私を知っている?

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