34 クラン《竜槍》4
結論から言うと私の剣は届かなかった。
どんなに期待されても、無理なものは無理なの。
試しにサウザンドスピアの攻撃範囲へ侵入すると無数の突きに阻まれた。
武器が槍に変わった事により長槍より物理的に近づけているが、より勝利までの距離が遠くなった気がした。これは、まるで盾だ。
ギィィギギギン!
大太刀が鋭い突きにより何度も弾かれて火花が散る。届かない。キースまでの距離が遠すぎる。
「くっ・・なんて速さなの?」
「これはコンビネーションではなく、スキルまで昇華しています。ゆえに動体視力では追えないほどに速い。避けているのは称賛に値しますが時間の問題でしょう。諦めてください。私はこれが息切れ無く使える」
押し負けて、たまらずバックステップして距離をとった。
円を描くような足運びをしているので、隅に追い詰められたりとかは今の所無いが、このままではジリ貧だろう。
槍の連撃に、精神と体力が徐々に削られる。早い事、活路を見つけなければ。
どうすればいい?思考をフル回転させようとするが、そんな私の緊張感とは無縁なぽやぽやした声が、真面目な思考の邪魔をする。
応援してくれるのは嬉しいけど、お願いだからちょっと黙って欲しい。
「レム、沙耶ちゃんが近づけないよ?」
「あれは、ピンチを演出されているのです。せっかく相手が大技を出したのにスルーだと盛り上がらないでしょう」
「さすが、沙耶ちゃん!盛り上げ上手だね」
さすがじゃねーよ。普通にピンチなんですけど?
もう考え事の邪魔しないでよう。
しかも、なんかキースがそれを聞いてめっちゃ怒ってるんですが。
私、悪くないよね?
「なんと愚かな見栄を張るんだ。ピンチを演出ですか。それはおかしな事を。彼女は私には近づけません。これは確定事項であり、これからも安全圏からの攻撃をやめるつもりはありません」
「くっ・・」
そうだ。
この竜槍のリーダーのキースは、開始以来ずっと安全圏から戦っている。
私の攻撃なんてかすりもしない。
秘剣『燕返し』も攻撃範囲が狭いから発動すらしない。
どうすればいいんだ。
「沙耶ちゃーん、音だけする槍(速すぎてミラには見えていない)には飽きたから、そろそろ倒してもいいよーー」
「沙耶様、格好良いです!そんな雑魚は、ボッコボコにしてください」
「・・・・」
「はああ?なんだと、貴様ら大口叩くなら、もっと近づいて来いよ。逃げ回るのが一文字流かあ?このビッグマウスが!!」
「沙耶ちゃんに謝って!ザーコ」
「そうです、ザーコさん」
「私はキースだ!全然違うだろ。卑怯者の一文字沙耶、簡単に勝てると言うなら逃げずに戦ええええ!」
あああああああああああああ。
なんで私がこんなに言われないといけないんだーーーー
何も言ってないのに!
ああっ、もうイライラするっ。
なんでかな。
ゴウウウウウ。
その時だった。
高まっていくストレスがまるで吸い込まれるように、少し和らぐような感覚がした。手元を見れば、黒い怒りが技へと変換されて、大太刀が暴風を纏ったようだ。
あら、お久しぶりね 暴風さん。
じっと暴風を愛でる。
これは私の気持ちから生まれた子供。
貴女は何がしたいの?親がわりだから聞いてあげる。
そう、そうなのね。分かった。
行ってらしっゃい。
「ていっ」
軽い動作で、ひょっこり生まれた暴風をキースに向かって飛ばす。
ぐるぐる渦巻く竜巻よ、飛んでいけ。
秘技『鳳凰ノ暴風』
「なっなんだ。この奇っ怪な攻撃は! サウザンドスピアァァァ ぐはっ・・」
キースがサウザンドスピアで受け止めようとしたが、やはり無理だったようで傷だらけになりながら、狐につままれたような顔をする。
「あのー、その攻撃は実体が無いので槍では受けられませんよ?」
おずおずと、その理由を教えてあげたら驚愕の表情で私を見てきた。
まぁ、いいや。
防げないのは分かったよね?
それではいきます。両手を突き出して後退るキースに、ニッコリと微笑む。
「な、なんだと。 や、やめ」
「やめません。いっくよー、ていっていっ」
イライラを、黒いモヤモヤを、竜巻に変換してぶつける。
届け、私の想い。
ていっ。
青ざめるキースさんへ。受け止めて、私の秘めた想い。
こんなにも私は想ってるのおお。
「ぐはっ。ず、ずるいぞ!武闘家なら正々堂々と戦え。ぐはっ」
「へー、ずっと安全圏から戦っていた人が何を言いますか。へー」
正論でガチ殴る。
私は少し怒っています。
ブーメラン発言にオロオロしているようですが、やめる気はありません。
暴風がガンガンと体力を削っていく。
キースさんのふらつく足元を確認。
これで、止めだ!ていっ
暗い話では無いのですが読み味が悪くなるため、キースの最期の負け犬の遠吠えを次回へ移動しました。
なので、今回は短めです。