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33 クラン《竜槍》3


 奇声が聞こえた。


「きぇぇえええ!!」


 空から何かが降ってきた。頭上から、のしかかる圧力。

 キースが長槍を叩きつけてきた。

 ただ、それだけの事なのだが、その一撃には今まで感じたことの無い迫力があり、思わず受けてはいけないと直感したため咄嗟に1歩いや、2歩下がった。


 バチィィン


 槍がさっきまで私が立っていた場所に叩きつけられて、砂煙を上げる。

 あれを食らっていたらと思うと。ドドドド、心臓が煩い。


「よく逃げましたね。ただの臆病?それとも先読みの力?」

「・・槍を叩きつけた?」


 避けたのは正解だった。

 今の予想より重たい一撃を受けていればどうなっただろうか。


「あぁ!知らなかったんですか?長槍とは突く武器ではなく叩く武器なのです。雑兵に持たせて怖いのはこれが理由です。さてここからは私のターンですね」

「くっ・・・」


 知らなかった。道場破りに槍使いは来たことはあるけど、道場は天井があるから、今のような戦い方は初めて見る。

 キースは宣言どおりブンブンと叩きつけるように連撃を加えてきた。

 細い棒なのに、しなる遠心力によりその威力は強大だった。

 バチバチバチ。

 爆ぜる地面から距離をとって逃げ惑う。

 初めて見る連続で叩き込まれる槍の雨からは、逃げまわる事しか出来なかった。道場を出て初めて知る外の世界に焦りで呼吸が乱れる。


「はぁはぁはぁ、くっ・・・」

「一文字さーん、逃げてばかりではなくて戦ってくださいよー」


 駄目だ、どうすればいいの?

 近づく事すら出来ないなんて。

 遊ばれている感じすらする余裕たっぷりのキースの視線から目を逸らす。


 ねぇ ミラ。貴女ならこんな時はどうするの?

 ちらりと親友を見ると、キラキラした視線で私を見つめていた。


「はぁ・・まいったな」


 この子は、まるで心配なんてしていない。私の勝利を微塵も疑っていないんだ。

 これでも結構、苦戦してるんだよ?


「おや、実力差が分かったのなら降参してください。女性を傷つけるのは趣味ではありませんし、この後、メイドのお仕置きが控えているので」


 私の発言を勘違いしたようで、勝利を確信したキースが槍を揺らしがながら降伏勧告をしてきた。

 ふらふらと揺れる穂先は、まるで蛇の鎌首のようだ。

 でも蛇なんて怖くないから。

 ビームサーベルに比べたら全然、余裕。


「あらあら、勘違いさせたようで申し訳ありません。なかなか面白いものを見せて頂きました。しかしながら、それはしょせん雑兵の技。見切りました」

「いいでしょう、一文字のお嬢さん。その大口が本物か私が試してあげましょう!」


 キースが長槍を叩きつけてきた。

 再び降りかかる圧力。

 やはり避けるのが精いっぱいで近づけない。

 私の大太刀は長いが、長槍はもっともっと長い。長さが致命的に違うため、もし安易に近づけば、そこはキースの用意したキルゾーンだ。

 だからそれを変える。


 秘技『覇気』


 空気を支配して重くした。


「ここは、私の領域だ。暴れまわる事は許可していないッ」


 実際に空気に重さなんてものがあるかどうかは知らないが、それを重くする。


 多くの人は空中と水中を分けて考えている。

 空中は自由に動けるが、水中は動きに制限がかかると。

 一文字家の先祖にその考え方に疑問を持つ者がいた。水の中を魚が泳いでいるように、空気の中を鳥が泳いでいるのに、この2つを分けて考えるのは違うのでは無いかと。そこから生み出された奥義が『覇気』だ。空気の密度を上げて空中の動きに制限をかける。


「ぐうう、なんだこれは?何をした。長槍が重いいい」


 みるからに精彩を欠いた力任せの単調な槍捌きを、ギリギリで避ける。

 重く地面に突き刺さった叩きの一撃をさらに地面に屈服させるように柄を踏む。

ぐりぐりと柄を踏みながら長槍を封じた私が、さっきとは逆に降伏勧告をする。


「やはり雑兵の技でしたね」

「くううう、知略だけではなく武力もあったとは」


 先程、遊ばれたお礼を兼ねて言葉攻めをしてみる。


「もう諦めて、その長物は捨てられたらいかがでしょう?」

「・・・そうだな、そうさせて貰おう」


 え?と思ったら、悔しそうな顔をしたキースが長槍をあっさりと手放した。

 そしてゴテゴテとした装飾のついた短めの本番用と思われる槍を亜空間より取り出して構える。


「え?」

「雑兵の技で試して悪かったな。その実力を認めよう。一文字沙耶、ここからは本気で行かせてもらおう」


 こ、こいつうぅぅぅ。

 2本目の武器ってありなの?そして今まで本気を出してなかったの?

 ぷるぷると怒りで震える私とは反比例して、遊びに来ているミラのテンションは爆上がりする。


「レム。あれは第2形態なのかな? ボスっぽい。これから沙耶ちゃんが、あの悪者をばんばんって倒すんだ」

「ええ、マスター。彼はなかなか(当て馬として)見所があります」


 お気楽な2人には分からないだろうけど、武器を持ち替えたキースの迫力は凄かった。

 中位ギルドのリーダーとしての自信が滲んでいる。


「一文字さん。先程のお詫びに面白い物を見せてあげよう。サウザンドスピア!」


 バシャッ!

 という音がしたかと思うと、繰り出されたのは無数の槍衾。

 水中で振る動作が難しくても、突く動作なら簡単だ。つまり覇気は無効。


「くっ・・・速い」

「お褒め頂き光栄です。これが雑兵の技では無い、本物の槍の奥義だ。果たして私に近づけますか?」


 実力は本物だ。

 言い返せなくて困ってると、なんだか外野が騒がしい。


「沙耶ちゃんなら、出来るもん!」

「ええ、沙耶様なら楽勝です」


 くぅぅ、勝手な事を言って。期待が重いよ。



【次回予告】


 立ち塞がるキース

 頑張れ、沙耶ちゃん

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