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32 クラン《竜槍》2


 沙耶は能天気に笑う小さな友人に困惑していた。えええー。


「沙耶ちゃん、来ちゃった」


 来ちゃったじゃないよ。

 どうしよう?

 友達とは戦いたくないのに。

 うああ。どうすればいいの?そんな私の葛藤を知らないキースは、なぜか謎が解けたぞ、みたいな顔をして語ってきた。


「なんと白々しい、さすがは父の苦しめられた鉄斎の秘蔵っ子。それとなく3対6に変えていく手腕は素晴らしい。いや、一人は子供なので2対6か」


 完全に勘違いだ。

 的はずれな勘違いマンのドヤ顔がムカつく。それ当たってないから。

 どうせ否定しても信じて貰えないんだろうな。なんかもう色々と諦めた私は、肩をすくめて、ゆっくりと大太刀を抜き放ち、挑発的に笑う。


「もう、そういう事でいいよ。そうね。ミラをどうするかは貴方達を倒した後でゆっくりと考えましょうか」


 軽く挑発して、相手の出方を伺う。思いのほかこの挑発が効いたようで、キースの顔を赤くさせたが、彼はリーダーらしく、怒りを飲み込み言葉で応酬してきた。


「ハハッ。威勢がいいのは結構ですが、はたして最強との呼声高い一文字の実力は、本物なのでしょうか?見極めてあげましょう」


 へぇ、言うじゃない。舌戦が終わり、死合モードに切り替わる。この高まってくる緊張感が好き。

 死に近付くからこそ、生きてる事を実感する。病みつきになるような充実感が身体に満ちていく。


「良いでしょう。一文字の力を、刮目して見なさい」


 深く息を吸う。

 未だ半人前の身なれど、この死合に勝って己の武を証明したい。

 そのために私は、この学園に来た!


 沙耶 VS キース


 ガチャリと鍔元を鳴らし、刃を煌めかせて構え。気合いは、十分ッ。

 いざ尋常に、


「待ってくれ!」


 うわっとと?なに、なんなの!?足を一歩踏み出した所で、不意にラガンに声をかけられて、たたらを踏んだ。

 なんて不粋なの。真剣勝負を邪魔されて、自然と自分の声が険悪になってるのが分かる。キースもどことなくイライラしているようだ。


「・・なにか?」

「なんだ、ラガン?後にしたまえ」


「いやいや、盛り上がってるようだが大将戦は最後だろ。まずは、先鋒。原因を作ったメイドからだっ!」


「そ、そうだったね」

「それもそうか。ラガンにしては」


 意外にも一理ある事を言われてビックリ。完全に動きを止められた。


 けど、このタイミングで?それは無いよー。それによく考えたら、ミラとは別チームなんだけどな。しかし、先に潰し合ってくれるという提案はあまりに美味しいし。

 うーん、どうすればいいのと出した刀が行き先を求めてふらふらと彷徨う。ああ!もうっ、せっかく高めた集中力が霧散してしまった。


 キースは死合相手の私を放ったらかして、ラガンに助言をいや注意をし始める始末。


「おい、ラガン。言っておくが子供には手を出すなよ」

「分かってますって兄貴。俺が用があるのはフザケた事をしてくれたメイドだけだ」

「分かってるなら良い」


 ラガンは、自分では勝てないとわきまえてるらしくキリッと上級槍使いAに視線で助けを求めると、そいつはラガンの肩を叩いてから前に出てきた。どうやら彼が先鋒を務めるらしい。


「先輩、やっちゃってください」

「くくく、ラガン。俺が仇を取ってやるよお。お前の腕を折ってくれたのは、このメイドか。それにしても、いい女だねえ。ミラさん、俺達と仲良く遊ぼーぜ」


 竜槍のメンバー達は、メイドをミラだと勘違いして睨んでいるようだけど、それレムさんだから。

 勘違いしてる。。

 私がツッコむべきなのだろうか。

 格好良く決めたつもりのようだけど、当然のようにレムさんはきょとんとして、視線を下に向けた。


「マスター、呼ばれてますよ?」


 視線を誘導された先には、小さな女の子のミラがいる。予想外の発言だったのか、たじろぐ竜槍のメンバー。


「なあに?ミラに何か御用?」

「はっ?・・・・・」


 槍使いAは、声を掛けておきながら、言葉に詰まった。私も言葉に詰まった。ミラはやはり仮想決闘場を何も理解していない。


 キラキラした瞳の無力な子供に見つめられて、槍使いAは何かの冗談であってくれと、ミラとレムを交互に見ながら困惑している。

 あぁ。往生際悪く、確認の質問をするようだ。


「いや、さっきのは聞き間違いかもしれねえ。あのー。アード学園の生徒のミラさんは、どちらかな?」

「はいっ!」


 しゅたっと元気よく手をあげたのは、やはり小さな普通の女の子。つまりだ、この確認により、メイドは無関係な人だと確定した。無関係な人。いちおう武器として登録されているらしいけど。

 はぁ。いや、気持ちは分かるけど。


「え?・・・ミラは、お前なの?じゃあ、そのメイドは」

「レムだよ?」


 要領を得ない回答にガリガリと頭を掻き毟り、溜息をつく。


「あのさー、保護者を学園内に連れて来てんじゃねーよ。メイドのレムさんは、これからは手出し禁止!良いなっ?」


「マスターどうしましょう?」

「いいよ。レムは手を出さないで」

「了解です。マスター」


 槍使いAは、一応の了解はとれたがやはり困った感じで、槍をぷらぷらと揺らしながら、ミラに不用意に近づいた。


「はぁ、それで!ガキを虐めるのは俺達の趣味じゃねーんだけどな。おい、ミラちゃん。さっさと降参しろよ」

「しないよ?」


 あっさりと断われた槍使いAの困った顔が、徐々に苛立ちに変わっていく。

 やっちゃおうかな?でも子供に手を出すのはどうなの?と気持ちが揺れているよう。

 どうやら、ようやく覚悟を決めたようで、ミラを見下した男は、槍を振りかぶって攻撃した。


「へっ、そうかよ。糞チビが!後悔させ、ぐぼえっぇぇ!?」


 いや、振り下ろそうとしたら、次の瞬間。手を出さないと誓ったはずのレムの蹴りがお腹に炸裂して非難の表情を浮かべながら、槍使いAは退場した。

 え?レムさん。・・・これには私もびっくり。


「てめえ、騙し討ちか?」


 それを見て激昂した竜槍のメンバーの一人である槍使いBは、レムさんに掴みかかろうと駆け寄ったが、股間を蹴られて涙目になり撃沈し、あえなく次の犠牲者となった。

 えええ。急展開すぎてついていけない。


「%♯クゑ♯!!」


 ラガンの発狂気味な怒鳴り声が響く。


「はああ?メイドォオ!!お前なんで蹴った!!騙し討ちか?お前え、蹴らなかったんじゃなかったのかああ」

「マスターを侮辱しましたので え?手は宣言どおり出しておりませんが?」


 悪意なく純粋に答えるレムさんに、ラガンは目を剥きながら怒る。


「この暴力メイドが!手を出すなって意味には、足も含まれますぅーーー。それくらい常識で考えろや」

「そんなっ 足も封じられると、どうやって戦えと?」


 困ったように答えるレムさんに、ラガンはイライラと足を踏み鳴らす。


「だから戦うな!!保護者は戦うな。少し考えたら言葉の意味ぐらい分かるだろが、ちったあ頭を使え!この馬鹿がっ」

「困りました。手と足は違うはずなのに?? 頭を使え?あの、意味がよく分かりません」


 ラガンは溜め息をつくと、話の通じないレムさんから、ターゲットを変更する事にしたようでミラを睨んだ。


「このメイドは、まるで話が通じねえな。お嬢さん、ええと、ミ ラ さ ん だったっけ?  この暴力メイドのマスターなら、何とかしろや」

「レムは悪くないのに? 分かった・・足も出させない、これなら満足?」

 

 ラガンは満足そうに笑うと、ポキポキと指を鳴らしながらレムさんに近付き、人差し指を突きつけた。

 手も足も出ないとなると、優位に立ったと思ったのか顔は嫌らしく歪んでいる。


「あぁ満足だよお。 くくく。今からお前のマスターをボコボコにしてやっから、そこで手も足も出さず大人しく見てろ暴力メイド」


 あぁ、このドグサレ男は、ミラを本気で虐めるつもりなんだ。

 まぁ、勝てないとは思うけど。。


 レムさんは、そんなラガンを無表情で見つめると、一歩前に踏み出して近づいた。


「な、何だ? お前にはもう何も出来ないはず」


 でも、なにか嫌な予感がしたのだろう。慌てて、後退るが間に合わない。



 レムさんは、ペコリとお辞儀をした。

 ただし、光速で。


 一歩〜進んで、ペコリんこ♪



 ゴンッ!!


「ぐきゃああああああ」


 何かが陥没するような鈍い音が響き、断末魔を上げて男が轟沈する。どうやら今度は頭突きされたようだ。


「マスター。言われたとおり、頭を使ってみました」


 褒めて欲しそうにミラを見つめるレムさん。


「でも、足を使って動いたよ?」

「申し訳ありません。マスター。間違ってました」


 しかしながらミラの厳しい指摘が入り、むむむと考え込むレムさん。

 問題は、そこじゃ無いからあ!


 気付けば、既に3対3に。

 あれ!?当事者の私をおいてけぼりで、事態はどんどんと進行していく。ねえ、私の見せ場は?

 

 役立たずの私。

 そしてキースはもっと役に立たない。文句の言葉を捻り出そうとして口をぱくぱくさせるのが精いっぱいのようだ。


 手も足も封じられたレムさんの攻撃はまだ終わらなかった。


「そうです。自分が動けないなら分身を動かせばいいのでは?」


 とことこと歩いて来るのは目をギランと青く光らせた3体の量産型レム。

 なんか嫌な予感がするよ。


 竜槍のメンバー達に近付き、足をぺとっぺとっと触る無害そうな自動人形達。


「「なんだ?この人形は。どっから現れた?どうして足を触ってるのか」」


 槍使いC、Dは、混乱して人形との触れ合いを受け入れた。前回よりバージョンアップされてるようで少し可愛くなっていた。

 しかし、キースだけは、人形を鬼の形相で見ると、槍で天井へと弾き飛ばして、人形との触れ合いを拒否。


「私に触るなッ!!」



 それは、ちょっと。

 なんて心の狭い人なんだと思った瞬間。



 ・・人形が爆発した。


 チュドンッ


 ごめん、キース。さっきのナイス判断。危機感が足りなかったのは私の方だ。バラバラと降り注ぐ人形の破片を浴びながら私は反省した。


 まさか爆発するとは。

 もうもうと煙が上がり、残す所は、あっという間に、あと一人!

 うわぁぁドン引きだよ。


「この糞メイドが! よくも私の仲間をコケにしてくれましたね。やり方が汚えぞ!!」

「まぁ、まぁ。落ち着いて。キースさん。これは、事故みたいなものですよ」


 いたたまれなくなり声をかける。

 だって、人ごととは思えない。一文字家で起きた惨状を思い出すもん。

 助太刀禁止のルールが追加された日の事を思い出す。思えばあれが、初めて敗北だったのかも。


 キースは泣きそうな顔で、何故か慰める私をギリリと睨んできた。え?私を?


「一文字沙耶!さすがだな。罠にかけたつもりが、いつの間にか計略にかかっていたのか。いったい私は、何時からその手の平の上でおどらせれていたのだ!」

「いや、私は何もしてないんだけど」


 キースの目は血走り、歪んだ笑顔に変わる。冤罪だよおお。


「フフフ、ぶっ殺す。如何に知略に長けようと、しょせん女。私の長槍で貫いてくれよう。先ずは貴様からだ、一文字沙耶っ!」

「良いでしょう、お相手致します」


 こうして、ようやく私の戦いが始まった。

 


【次回予告】


 これが、外の世界の戦い?

 沙耶は洗礼を受ける

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