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31 クラン《竜槍》


 3階のラウンジへと転移すると、新顔の3人に視線が集まった。

 噂の一文字の継承者である黒髪の乙女、何でいるのか分からないオレンジ髪の子供、謎のスタイルの良い美女。の3人とくれば注目度は抜群である。


「ねえ、沙耶ちゃん。見られてる?」

「そうね、一文字だからかな?」

「お二人ともお綺麗ですから、視線を釘付けにするのは仕方ありません」


 完璧な美女であるレムは二人を、うっとりと称賛した。別に煽っているつもりは、本人には無い。


 転移した先は簡素な大部屋だった。階層が上がるにつれて豪華な作りになっているらしい。

 先客の学生達は、少しは出来そうに見えた。もしかしたら、初撃を避けられるかもしれない。つまり、まだ沙耶達の実力には及ばないレベルだ。


「ほへー」

「まぁ、気にしないで行きましょう。この階には見たい訓練所があるんだ」

「分かった!沙耶ちゃん」


 ウキウキしだしたミラの通行を阻むように、3人の学生が立ち塞がった。その後ろからは大勢の学生達が様子を伺っている。


 男:槍使いが現れた。

 男:フルプレートが現れた。

 女:ソードダンサーが現れた。


(ううっ、面倒くさいなあ。また、決闘の申し込みかなあ)


  戦う

  必殺技

 ▶逃げる


 ミス。逃げられない。

 沙耶は、槍使いに肩を掴まれた。

(えっ?ちょっと痛い!)


「待て、話だけでも聞いていけよ。あんた一文字の人で合ってるよな?俺は《竜槍》のラガンだ。遥か高みよりスカウトしにきてやった。光栄に思え」

「そんな所より俺のギルド《駆出し騎士団》に入ってくれ!俺たちと共にレベルアップしないか?歓迎する」

「いーえ、むさ苦しい男なんてほっといて、女子だけの《女神の剣舞》で一緒にやりましょう」


 どうやら勧誘だったようだ。

 槍使いのマナーのなって無いお手手を、無言でレムが捻じりあげる


「あの・・私達はどこにも入りません」


「いててて、折れる折れるからっ!!離せええ」

「どうしてだ?クランを組んで無いと、試合では入賞出来ないぞ。ぺっぺっ」

「そうよ、それに4階までのクラン部屋は既に満室よ。女子ギルドを作るのは大変よ」


 レムは、槍使いの離して欲しいとの希望を聞き入れて投げ飛ばす。ごきっと嫌な音がした。

 さらに、興奮してツバを飛ばしながら勧誘してきたフルプレートに、アイアンクローをかけた。兜がギッギッという嫌な金属音を立てると男は悲鳴をあげて、泡を吹く。


「ぐええっ!!腕が、俺の腕が!」

「みぎゃああああーーーぶくぶく」

「ちょっちょっと、何してんの!??」


「えっ?正当防衛ですが」


 不思議そうに答えるレムに、ソードダンサーはドン引きして抗議する。


「え???《竜槍》のラガンは肩を掴んだからまだ分かるけど、《駆出し騎士団》のヘッポコは何もしてないはずよ?」


「沙耶様にツバを飛ばしました」


 ソードダンサーの女の顔が理解出来ないモノを見るかのように青ざめる。

 彼らが失敗したら、次に声を掛けようかと勧誘の様子を見守っていた他のクランの生徒達がそっと解散した。

 道は拓かれた。


「もう行って良いですか?」


 沙耶が静かに聞くと、カクカクと頷くソードダンサー。関わりたくないと、その目には怯えがあった。


「沙耶ちゃん、ここは何があるの?」

「ええっとね、各階層には、クラン部屋といってチームが組める部屋と、各種の訓練が受けられる訓練部屋があるの。お兄ちゃんがフルプレートは斬り難いって言ってたから、少し興味があって」


 ミラのほわほわした質問に、緊張していた空気が緩む。探索が開始された。きょろきょろと何かを探しながら、廊下を曲がり次の廊下を曲がる。


「どこかな〜。あった!騎士団訓練初級。私にフルプレートの鎧は斬れるかな」

「沙耶ちゃん頑張って!」


 沙耶ちゃんの聞かせたくない動機はさておき、扉を開けようとしたその時


「待てええ、一文字っ!!」

 

 男:槍使いが戻ってきた。


「あの、何か用ですか?万全な状態になってから挑まれる事をお勧めします」


 ぷらぷらしている腕を痛そうに押さえながら食い下がってきた男を、沙耶は冷めた目で見る。

 仮想決闘場には現実のデータを持ち込むため、男はさらに厳しい戦いを強いられるだろう。なのに?

 不敵に笑っていた。まるで勝利を予感しているかのように。


「へっへっへ、この右腕の落とし前は高くつくぞ。決闘をしろ」

「はぁ。。分かりましたが、一つだけ条件が有ります。例え負けたとしても恨み言を言わないと誓えますか?」


 沙耶は溜息をつきながら最後通告を出す。

 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。


「まぁ、待て。焦るな。待て」

「・・・はい?」


 脂汗を流しながら、待ったをかけた男。立っているのも大変な程、ふらふらしているが、時間を掛けて回復するつもりなのだろうか。


「沙耶ちゃん、あの人痛そう」

「そうだね、でも自業自得だし。諦めてくれないかなあ」

「マスター、これ以上痛みを我慢しなくて良いように気絶させてあげるのは?」


 善意からぶっ飛んだ提案をしてくるレムに、沙耶は力無く首を降った。

 どんどんと、顔面蒼白になり力無くなってくる槍使い。

(このまま、勝てそう)

 と油断した矢先。槍使いの反撃が始まった。


 槍使いは、仲間を呼んだ。


 男:上級槍使いAが現れた。

 男:上級槍使いBが現れた。

 男:上級槍使いCが現れた。

 男:上級槍使いDが現れた。

 男:最上級槍使い(リーダー)が現れた。


「へっへっへ、形勢逆転〜。俺のスカウトを断ったばかりか、腕まで折りやがって!後悔しろ、メイドと、一文字っ。やっちゃってくだせえ、キースの兄貴。メイドは後で俺がお仕置きするんで!」


《竜槍》のラガンは、情けない事を誇らしげに語り、助太刀に現れた仲間の一人から、ポーションを受け取る。


「おい、ラガン。ぼろぼろじゃねぇか。女にやられるなんて情けねえ。ほらポーションだ」

「痛ってええ。くびっ。効くうー。リアルバトルは禁止だから、手加減しただけだ」


《竜槍》のリーダーであるキースは、舞い込んだ思わぬ幸運に、未来図を描く。噂の一文字の娘。前評判が本当なら副長にしてもいい。嘘でも使い道はあるだろう。それに、美女と子供?がセットで付いてきた。

(なんで子供が?こんな所に?まぁいい。これで私のギルドはさらなる高み6層を目指せる。さて、あとはどうやって3人を加入させるかだが)

 鼻がぷくっと膨らんだのは仕方ないだろう。


「私は、ここより2つ上の5階層にクランを構える《竜槍》のリーダーであるキースだ。一文字さんで合ってるかな?あんた。ずいぶんと、やってくれたモノだね?」

「ええ、一文字沙耶です。何が言いたいのでしょうか?」


 凄むキースを受け流す沙耶。キースは、勧誘を始めた。断われないように。


「敵ならば、我ら5階層クラン《竜槍》のメンバー全員で決闘を申し込まなければならない。しかし、味方ならば、これから歓迎会を開かせて貰おう。盛大に!」

「それは・・・魅力的な提案ですね」

「えええー、待ってください、キースの兄貴。俺の仇討ちは!?」


 キースは、人生最高の幸福を味わっていた。今なら下っ端ラガンの戯言も余裕を持って聞ける。

(明日からは、新生《竜槍》となり、6階層クランを目指すんだ!)

 そんな舞い上がったキースへ、ニッコリと微笑んだ沙耶は、目を冷ます一言を伝える。


「全員に決闘の提案をします。最後に立っているものが勝者でどうでしょうか?」


 キースの目がまるで信じられない怪物を見るかのような目で、沙耶を見た。

 無謀な挑戦を提案した少女、その顔は穏やかだ。

(3対6? いや、クランに入っていないので共闘は不可。1対6だぞ!? そして、私は強者だ。 これが、鉄斎の孫か!もしや罠か。何を考えている??)

 じろじろと、沙耶の美しい顔を凝視する。ふと、何かを思い当たった。


「ふはは、危ない。流石は鉄斎の孫娘。危うく条件が抜けていましたね」

「何でしょうか?一つだけ好きな条件の付加を認めましょう」


 それを聞いたキースの目が濁る。

(分かったぞ!この娘は、勝敗を見ていない。適当に負けて勧誘話を断る気だ。ふんっ甘いな。仲間にしてやるつもりだったが、その話は無しだ!今日からお前は私の奴隷だ!)


「では、条件を。オールイン! まさか、一文字は逃げませんよね?」

「・・・くっ」


 目論見を当てられた沙耶は、固まる。

(このような男に、知性があったとは。ざっと見た目だと勝率は7割ぐらい。3割も不確定要素がある。どうするべきか?一文字は逃げないが、今回は断ってもいいくらいに不公平な条件だ。。)

 悩む沙耶を、ミラのキラキラとした瞳が追い込む。


「沙耶ちゃんなら出来るよ」

「そうね、私は一文字。一文字沙耶! 良いでしょう。一文字に逃げという言葉は無い」


 吹っ切れた沙耶は、宣戦布告した。

 全賭けで、1対6の死合が始まる。

 沙耶の実力を正確に知らない男達の顔が喜悦に歪む。最高の美女達が手に入ると。


『一文字沙耶が、全員に決闘を申し込みました』



 沙耶は、意識を集中する。

(私なら出来る。だって、ミラが応援してくれるから。ミラの見てる前では私は負けない。かかって来なさいッ!)


「「その決闘、お受け致す」」


 野太い男達の歓声に混じり、小さな高い声で「お受けいたすー」と聞こえたような気がした。


 !?


 今、ミラの声が聞こえたような?

 幻聴よね?


 転移したのは、草原フィールド。遺跡の上に、観客席が!

 いないっ

 目の前には、槍を持った6人の男達。

 今、どーでも良いからっ。そんな事よりも、あった、別の遺跡。駄目っあそこにもいない。

 いつも手を降ってくれる友人が、どこにも見当たらない。


 酷く焦る沙耶の目の前に、ふわっと2人の人影が草原に降り立った。

 あっ、見つけちゃった。


 無観客死合、開催決定っ!!



 沙耶 VS 《竜槍》 VS ミラ


 今ここに、ルールをよく分かっていないミラが参加してしまい、三つ巴の戦いの火蓋が切って落とされた。


「ちょっと、ミラ!!なんでここに来てるのよ。まだクランを組んで無いから、共闘なんて出来ないのにぃぃーーーー」



【次回予告】


 ひょっこり、参戦したミラ!

 どうなってしまうのか?

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