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27 沙耶の敗北


 熱狂のルーレットからするりと抜け出し、街へと繰り出す。はぁ、帰ったら書類の山が待ってるんだよね。

 レムさん助けてーーー。



 アード学園は、校訓にある通り、朝のルーレットが終われば自由だ。ほんと、バカなのかしら?

 散発的に、最強決定戦が開催されるが断ってもいいらしい。あっ、もちろん不戦敗の減点はあるよ。

 つまり今日の授業は終了。

 なんて自由な。

 

 積み上がる書類から逃げ出し、買物をしに会場を出ようとしたら、声を掛けられた。むさ苦しい男が多い中、ミラと同じような女の子だった。

 黒いローブを被り、捻れた杖を持っている。足元は、ブーツなので動ける魔術師だろうか?


「あ、あの・・。良かったら、これから一緒に魔術の講義を取りませんか?」

「?」


 ミラが、きょとんとしてる。そっか、そうだよね。この見た目なら、魔術師だと思うよね。

 バカみたいな学校だけど、出席が自由の授業はある。無料で、いろんな講師が攻撃や防御について教えてくれたりするので、利用する生徒は多い。彼女が、誘ってくれたのは、これの一つだろう。

 私も後で、開放されてる仮想決闘場内の鍛錬場を使ってみようかな。


「あー、ごめんなさい。この子は魔法は苦手なの。専門は魔道具師なので」

「うんっ!」

「え!?魔道具師なんですか。もしかして、聖剣の担い手を探しに?」


 うーん、我が家のミラがごめん。そんな深い理由は無いんだ。聞くとガッカリする事は間違いなし。


「ふふふ。貴女は?」

「ごめんなさい、挨拶が遅れて。黒魔導士のルチアです。ここ、女の人が少なくて。あの、お名前は?」


「一文字沙耶です。宜しくね」

「はいっ、一文字ミラです」


「姉妹なんですね、羨ましい。そう言えば魔道具師と言えば、隣国のカガク者のカールソンが、16鬼頭エンジンのゴーレム GM 16を配備して戦争準備してるらしいですね」


「GM 16は、ガラクタ。科学を名乗ってるのに、実際に動力部に小鬼のゴブリンを詰め込むなんて頭悪すぎ。科学は否定しないけど魔法と悪い所どりをしてる。そう思うよね、沙耶ちゃん」

「ちょっと、ミラ」

「言い過ぎました」


 しょんぼりするミラをよしよしする。だいたい何でも素直に感激するミラだけど、魔道具に関してだけは、ちょっと厳しい。譲られない何かがあるのだろう。16鬼頭、強そうな響きなんだけど?魔道具はサッパリだ。


「大丈夫ですよ、ルチアさん。戦争が始まっても私達が、バーンとやっつけてしまえば良いんです」

「さすが、沙耶お姉さま」

「沙耶ちゃんは凄いんです」


 半分冗談だった私のセリフに、同意してくれる二人。ただ、アード学園の生徒なら本当にやってしまえそうな気さえする。ミラが動けば殲滅戦になるような。

 うん。考えるのはよそう。


「私達は、ミラの私服を買いに行くからまたね。講義頑張ってください」

「はい、沙耶お姉さま。ミラちゃんの服なら、エンジェルメイクがお勧めです」

「ありがと!」

「「またねー」」


 さて、脱出。

 学園の玄関には見慣れた人が待っていた。


「あれれ?レムさん、研修は?」

「はい。量産型レムを置いて来ましたので大丈夫です。学生施設には入れないので、ここで待機していたんです」

「うひひ。行くよー レム」


 今頃、人形を前に頭を抱えてるであろう事務方の担当者を思い浮かべて苦笑いした。

 リモートコントロール?とかいうので、操作するから問題無いらしい。扉は締められないけどね。


「うっわ・・・ここは」


 紹介されたお店に到着すると、子供服屋だった。とてとて先行するミラは、まるで違和感が無い。


「マスター、これはサイズがピッタリです」

「沙耶ちゃん褒めてくれるかな?」

「はい。ピッタリですから」


 ええー。

 レムさんの意外な弱点が判明した。それは、男の子の服だよ!

 もしや、サイズしか見てないのでは?

 メイド服をいつも綺麗に着こなしてるのに。意外だ。んん!?そう言えばメイド姿しか見た事無いぞ。

 今日は、レムさんも改造しまーす。


「ミラ、おいでー。可愛いのを選んであげる」

「ありがとう、沙耶ちゃん」


 選んでる途中で、おじいちゃんに買って貰ってた事を思い出す。


「そうえば、ミラ。この前買って貰ってた服はどうしたの?」

「持ってるよ?」

「はぁ。。今度からは着てね」

「うん?」


 何だったんだ。

 もう選んだから、買いますけど?

 むしろ全部買ってもいいくらい。

 だって、凄くミラに似合ってるし。

 一文字の財力舐めんなよ。

 うわああ。ど、どうやら私には、店ごと買おうとした、おじいちゃんの血が流れてるらしい。


「「ありがとう御座いましたー!」」


 冷静さを取り戻した私は、ちょうど良い所で切り上げたんだけど、次のレムさんで敗北を知る事になる。


 ふぅぅっん、ふんっ!


「お客様、もう少しです!」


 店員さんのエールを浴びながら、指に力を込める。貝を削った丸いボタンが指に食い込む。

 負けないわ。

 ぎゅっと、押さえつけて封印っ。


「やりましたわ、お客様!!」


 店員さんとハイタッチを決めた瞬間、ぶるぶると震えて、ブチーンと飛び立つ胸元の丸いボタン。

 ・・・なんという胸部装甲。


「・・・こちら、買い取ります」

「いえいえ、これも不良品でしたっ!」



 結局、オーダーメイドで修正して後日の宅配となった。


「沙耶様、その・・申し訳ありません」


 何着も駄目にしたが、不思議な満足感があった。

 燃える店員さんと何着も「敗北が知りたい」とか言って挑戦したのには、理由がある。

 顔を赤らめて、もじもじするレムさんが悪いんだ。私達は、悪くないと店員さんとガッツリ握手した。

 うん。反省してる。



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