26 ライバル 二文字鋼牙
今日からアード学園の授業が始まる。
私、一文字沙耶は少し緊張している。
新たな生活のスタート。
これから一年。一文字家の看板を背負い、一人きりの戦いが始まるっ・・・はずだった。それが気付いてみれば、どういう訳かミラが隣にいる。
う、うーん。
どうしてだっけ?戦いとは無縁の親友は、私にべったりなあまり、成り行きでこんな場所までついて来た。とてとてと。そして無邪気な顔して、猛威を奮う。
だけど今日は、レムさんと離れたのが不安なのか、大人しく、ぎゅっと引っ付いている。それを鬱陶しいな思う反面、実は少し心強かったりもする。ミラも緊張してる?
「うへへ、なあに沙耶ちゃん?」
視線を合わせると嬉しそうに、ふにゃけるミラを見て、緊張感というものが吹き飛んだ。んん、なんかもう どうでも良いや。
「・・なんでもないよ」
そういう訳で、すっかり緊張は解けて、自然体で教室の扉を開けて潜り込む事が出来た。
大きな扉を開けた先には、ルーレットの開始時間を待ってる、一足先に入学した同じぐらいの14〜17才の少年少女が目に入る。
何個か扉はあったけど、入ってみれば一つの大きな部屋だった。
「うわっ・・・お兄ちゃんから聞いてたけど、これは目がチカチカする」
騎士の鎧、フルプレート、魔術師、魔法剣士、筋肉格闘家、暗器使い、狩人、奇術師、呪術師、槍使い、盾使い。半裸でタトゥーを入れた人。
まるで、武闘家の見本市だ。
この学園は、制服が無い。
強ければそれでいい。他に何か必要なのかね?という思考停止したような校風を如実に物語ってる。
まぁ、この辺りでは和装は珍しいから、私も変に見られてるのだろうか。解せぬ。
じろじろと対戦相手を観察していたら、くいくいっと手を引っ張られた。なに?
「沙耶ちゃん。変な服装の人がいるね。くすくす」
小声で奇術師を指差して小さく笑うミラを、呆れた目で見つめる。・・・そういえば、ミラの服は何年も前から同じような気がする。古い記憶を漁るが、やっぱり同じだ。ええー ミラに笑う資格は、無いんじゃないかな?
「そうだ。ミラ、後で一緒に服を買いにいこっか?」
「うんっ。行く!」
チグハグな生徒達との共通点は、年齢と、昨日貰った見える所につけているプレートだけ。数字が書かれてあり、私の取得ポイントは、現在1,025。
おじいちゃんの出した大記録20万ポイントまで行きたいなあ。頑張ろー。
この部屋には等間隔に並んだ、無数の、椅子より少し高い円柱がある。これが、ルーレットに変わるらしい。
円柱の前でまばらに、開始の合図を待つ学生達。
アード学園で絶対に外せないのが、朝のルーレットだ。遅刻厳禁、1日1回の定例イベント。配列内容はランダムで変わり、頑張った次の日は、良いパターンが出やすいなんてお兄ちゃんが言ってたけどどうなんだろ?ドキドキしてきた。
「ね、ね、はやく行こう?」
「ミラ。朝のルーレットを引きに来たんでしょ。さっそく目的忘れてない?」
「るーれっと?」
「え!? そこから」
失言に気づき、びくぅっと慄えたミラを見てると、力が抜ける。いったい、ミラは何をしに、アード学園に来たの? あ・・・私を慕ってついてきただけだった。それも純度100%で。
こんなのに、ボコボコにされるであろう未来の犠牲者達が可哀想だよ。
「知ってた。知ってました」
ぜったい嘘だ。
レムさんと脳内会話で聞き出したミラが自信満々に胸を張る。ズルい。
ふと。誰かが近付いてくる気配がしたので見ると、頬に十字傷のあるやんちゃ坊主と顔が合う。
あー、来てたのか。
来てるよね。
この人は苦手だ、二文字・鋼牙。
背中に刀を2本クロスさせて背負ったその中2病全開の何処に出しても恥ずかしい幼馴染の鋼牙。
なぜか一文字家を目の敵にしてる二文字家の次男で、知り合いだと思われたくない。そっと目を逸したが、無駄だった。
「よく来たな、一文字沙耶っ。 てっきり恐れをなして逃げると思ったのだが。我が魂のライバルよ。しかし、一本しか武器の使えない一文字の時代は終わり、これからは二文字の新時代がくるだろう」
「はいはい、その次は3本ね?」
「馬鹿か?手は二本しかないんだぞ。ゆえに双剣こそが最終形態。聞いたぞ、奥義を一つ会得したらしいな。沙耶にしてはやるじゃないか? だが申し訳ないが、俺はすでに2つ。ここでもまた上を行ってしまった。才能という壁が悲しい」
「へー、ソウナンダ」
馬鹿に馬鹿呼ばわりされてイラッとくる。手の内をバラすとか馬鹿の所業。情報は、力なのに。
私のもバラされたけど、3つ開眼したのは知らないらしい。ミスリードになるから、むしろチャンスになるかも。
情報戦は、すでに始まっていると、私は黒い笑顔をする。
「ああ?何だ?このお子様は。沙耶、しっかりしろよ。従者は、この部屋に入れない決まりだぞ」
ふと、ミラを見て変な声を出した。
至極真っ当な質問に言葉が詰まる。
そうだよね、ミラはこの会場で浮いている。とても強そうには見えない。
「ミラも生徒だよ?それに、沙耶ちゃんはねー、奥義が3つ使えるもん!」
ん!んん!?
「ちょっ、ちょっと、ミラ。静かになろうかな」
うっ、敵は身内に有り。このままでは手の内をべらべらと、自慢げにバラされかれない。
失言を分かっていないのか、言ってやりました!褒めて?みたいな目で見てくるミラの口を慌てて塞ぐ。
あー、これで悪気ゼロだから怒れない。
「まさか、隠し子か!?」
「いや、そのくだりは、お腹いっぱいなんで。ミラは一文字の食客だから」
「はあ?そのちんちくりんが食客だと。正気か?一文字は」
『それでは、入場を締め切ります!!!幸運をその手に!』
大きなアナウンスがあり、扉が締められた。
「さあ、ミラ。馬鹿は、ほっといて、ルーレットを回してからお買い物に行こうね」
「うんっ!」
見ると会場の人達が一斉にルーレットを回し始めた。
円柱に触れると外周に数字が浮かびあがりランダムなルーレットが現れる。
その時点でどよめきが起きて、興奮するものや悲嘆する者もいる。
ちらちらと、周囲を見ると数字にバラツキが多い。平均10の人や50に届きそうな人も。現出した数字とともに、グルグルと光が回りだし、止まった数字のポイントが高く浮かび上がる。
プレートにポイントを移せば、ただの円柱に戻り、次の人が使えるようになるようだ。
5,7,11,3,4,47,5,4,10,15,6・・・。
周囲の人の当てた数字が浮かぶから、遠くでも様子が、よく見える。どよめきが起きた方向をみると、 47点。
おめでとうございます。
順番が回ってきた。ここで触ろうとした手がピタリと止まる。汗が流れてた。
「沙耶ちゃん?」
「ミラ・・・先に触って」
ふーっ、危なかった。
私が当てて凄いからの、ミラが大当たりを引いて、私が空気になるまでがワンセット。
私は未来にあがらうっ!
当て馬は嫌なので、ミラに先攻を譲る。
「うん」
ミラがペタリと触ると数字が現れた。
ふぐっ・・。何だこれ?
1と2のオンパレード。しかしながら、1マスだけ『10,000点』!?
それに気付いたギャラリー達もギョッとした目で、ぐるぐると回る光の行方を見守る。ミラはまるで興味が無いのか私を見てる。
(1)(2)(1)(2)(10000)(1)(2)(1)(2)(1)・・・・
うはあ、何これ。
10,000点の上を光が通り過ぎる度にドキドキする。
徐々にスローになる光。
一撃、一千万円!
どこに止まるのか!?
結果は、(1)。
「「あぁーーっ」」
誰かが大きな溜息を漏らした。
歴史の瞬間に立ち会えなかった後悔だろう。でもミラだからまたやりそうな?
くいくいと急かすように裾を引っ張られた。どうやらルーレットの結果なんてどうでも良くて早く遊びに行きたいようだ。
「はいはい、待っててね」
ペタリと触る。
おぉっ!
これは凄い、ミラ程では無いけど、
(50)(70)(110)(30)(1140)(470)(330)(100)(50)(70)・・・・
他の人とは、体感で一桁は違う。ギャラリー達も気付き、ザワリとどよめきが起きる。
うわわわ、めっちゃ見られてる。恥ずかしいよ。気付けば人だかりが出来ていた。
徐々にスローになる光。
最高1,140点
いったい、どこに止まるのか!?
(110)悪くない
(30)止まらないで・・
(1140)心臓が跳ねる
(470)止まって
(330)お願い。・・止まった!?
(100)
結果は、330点
「「おおー!!」」
歓声が上がった。
嬉しいけど少し照れる。
330点を回収し、1,025→1,358点に。
「「凄いなっ」」
「沙耶ちゃんは凄いんです」
ぷるぷると震える男がいた。ライバル(自称)の二文字鋼牙だ。
「沙耶、いい気になっているようだが、それを俺は超えていく! たあっ」
あまりに煩いので見てしまったが、最高15点だった。恥ずかしそうに、早く光が止まって欲しそうに身悶えしだした。
注目の中、浮かび上がる『3』点の文字。
「な、何故だ。まだ本気を出すなと言うことか。この俺が3点だと!?な、何かの陰謀に違いない。闇に蠢く組織が暗躍している」
しらーっとした空気が流れる。
「おいっ、さっさと退けや。運気が下がるやろが。次は俺様が、その神台を回すんやから」
「その次は、僕です」
どうやら、私達の台は、大人気となったようだ。




