表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/69

26 ライバル 二文字鋼牙


 今日からアード学園の授業が始まる。


 私、一文字沙耶は少し緊張している。

 新たな生活のスタート。

 これから一年。一文字家の看板を背負い、一人きりの戦いが始まるっ・・・はずだった。それが気付いてみれば、どういう訳かミラが隣にいる。

 う、うーん。

 どうしてだっけ?戦いとは無縁の親友は、私にべったりなあまり、成り行きでこんな場所までついて来た。とてとてと。そして無邪気な顔して、猛威を奮う。

 だけど今日は、レムさんと離れたのが不安なのか、大人しく、ぎゅっと引っ付いている。それを鬱陶しいな思う反面、実は少し心強かったりもする。ミラも緊張してる?


「うへへ、なあに沙耶ちゃん?」


 視線を合わせると嬉しそうに、ふにゃけるミラを見て、緊張感というものが吹き飛んだ。んん、なんかもう どうでも良いや。


「・・なんでもないよ」


 そういう訳で、すっかり緊張は解けて、自然体で教室の扉を開けて潜り込む事が出来た。

 大きな扉を開けた先には、ルーレットの開始時間を待ってる、一足先に入学した同じぐらいの14〜17才の少年少女が目に入る。

 何個か扉はあったけど、入ってみれば一つの大きな部屋だった。


「うわっ・・・お兄ちゃんから聞いてたけど、これは目がチカチカする」


 騎士の鎧、フルプレート、魔術師、魔法剣士、筋肉格闘家、暗器使い、狩人、奇術師、呪術師、槍使い、盾使い。半裸でタトゥーを入れた人。

 まるで、武闘家の見本市だ。


 この学園は、制服が無い。

 強ければそれでいい。他に何か必要なのかね?という思考停止したような校風を如実に物語ってる。

 まぁ、この辺りでは和装は珍しいから、私も変に見られてるのだろうか。解せぬ。

 じろじろと対戦相手を観察していたら、くいくいっと手を引っ張られた。なに?


「沙耶ちゃん。変な服装の人がいるね。くすくす」


 小声で奇術師を指差して小さく笑うミラを、呆れた目で見つめる。・・・そういえば、ミラの服は何年も前から同じような気がする。古い記憶を漁るが、やっぱり同じだ。ええー ミラに笑う資格は、無いんじゃないかな?


「そうだ。ミラ、後で一緒に服を買いにいこっか?」

「うんっ。行く!」

  

 チグハグな生徒達との共通点は、年齢と、昨日貰った見える所につけているプレートだけ。数字が書かれてあり、私の取得ポイントは、現在1,025。

 おじいちゃんの出した大記録20万ポイントまで行きたいなあ。頑張ろー。


 この部屋には等間隔に並んだ、無数の、椅子より少し高い円柱がある。これが、ルーレットに変わるらしい。

 円柱の前でまばらに、開始の合図を待つ学生達。


 アード学園で絶対に外せないのが、朝のルーレットだ。遅刻厳禁、1日1回の定例イベント。配列内容はランダムで変わり、頑張った次の日は、良いパターンが出やすいなんてお兄ちゃんが言ってたけどどうなんだろ?ドキドキしてきた。


「ね、ね、はやく行こう?」

「ミラ。朝のルーレットを引きに来たんでしょ。さっそく目的忘れてない?」

「るーれっと?」

「え!? そこから」


 失言に気づき、びくぅっと慄えたミラを見てると、力が抜ける。いったい、ミラは何をしに、アード学園に来たの?  あ・・・私を慕ってついてきただけだった。それも純度100%で。

 こんなのに、ボコボコにされるであろう未来の犠牲者達が可哀想だよ。


「知ってた。知ってました」


 ぜったい嘘だ。

 レムさんと脳内会話で聞き出したミラが自信満々に胸を張る。ズルい。



 ふと。誰かが近付いてくる気配がしたので見ると、頬に十字傷のあるやんちゃ坊主と顔が合う。

 あー、来てたのか。

 来てるよね。

 この人は苦手だ、二文字・鋼牙。


 背中に刀を2本クロスさせて背負ったその中2病全開の何処に出しても恥ずかしい幼馴染の鋼牙。

 なぜか一文字家を目の敵にしてる二文字家の次男で、知り合いだと思われたくない。そっと目を逸したが、無駄だった。


「よく来たな、一文字沙耶っ。 てっきり恐れをなして逃げると思ったのだが。我が魂のライバルよ。しかし、一本しか武器の使えない一文字の時代は終わり、これからは二文字の新時代がくるだろう」

「はいはい、その次は3本ね?」


「馬鹿か?手は二本しかないんだぞ。ゆえに双剣こそが最終形態。聞いたぞ、奥義を一つ会得したらしいな。沙耶にしてはやるじゃないか? だが申し訳ないが、俺はすでに2つ。ここでもまた上を行ってしまった。才能という壁が悲しい」

「へー、ソウナンダ」


 馬鹿に馬鹿呼ばわりされてイラッとくる。手の内をバラすとか馬鹿の所業。情報は、力なのに。

 私のもバラされたけど、3つ開眼したのは知らないらしい。ミスリードになるから、むしろチャンスになるかも。

 情報戦は、すでに始まっていると、私は黒い笑顔をする。


「ああ?何だ?このお子様は。沙耶、しっかりしろよ。従者は、この部屋に入れない決まりだぞ」


 ふと、ミラを見て変な声を出した。

 至極真っ当な質問に言葉が詰まる。

 そうだよね、ミラはこの会場で浮いている。とても強そうには見えない。


「ミラも生徒だよ?それに、沙耶ちゃんはねー、奥義が3つ使えるもん!」


 ん!んん!?


「ちょっ、ちょっと、ミラ。静かになろうかな」


 うっ、敵は身内に有り。このままでは手の内をべらべらと、自慢げにバラされかれない。

 失言を分かっていないのか、言ってやりました!褒めて?みたいな目で見てくるミラの口を慌てて塞ぐ。

 あー、これで悪気ゼロだから怒れない。


「まさか、隠し子か!?」

「いや、そのくだりは、お腹いっぱいなんで。ミラは一文字の食客だから」


「はあ?そのちんちくりんが食客だと。正気か?一文字は」


『それでは、入場を締め切ります!!!幸運をその手に!』


 大きなアナウンスがあり、扉が締められた。


「さあ、ミラ。馬鹿は、ほっといて、ルーレットを回してからお買い物に行こうね」

「うんっ!」


 見ると会場の人達が一斉にルーレットを回し始めた。


 円柱に触れると外周に数字が浮かびあがりランダムなルーレットが現れる。

 その時点でどよめきが起きて、興奮するものや悲嘆する者もいる。

 ちらちらと、周囲を見ると数字にバラツキが多い。平均10の人や50に届きそうな人も。現出した数字とともに、グルグルと光が回りだし、止まった数字のポイントが高く浮かび上がる。

 プレートにポイントを移せば、ただの円柱に戻り、次の人が使えるようになるようだ。


 5,7,11,3,4,47,5,4,10,15,6・・・。


 周囲の人の当てた数字が浮かぶから、遠くでも様子が、よく見える。どよめきが起きた方向をみると、 47点。

 おめでとうございます。


 順番が回ってきた。ここで触ろうとした手がピタリと止まる。汗が流れてた。


「沙耶ちゃん?」

「ミラ・・・先に触って」


 ふーっ、危なかった。

 私が当てて凄いからの、ミラが大当たりを引いて、私が空気になるまでがワンセット。

 私は未来にあがらうっ!

 当て馬は嫌なので、ミラに先攻を譲る。


「うん」


 ミラがペタリと触ると数字が現れた。

 ふぐっ・・。何だこれ?

 1と2のオンパレード。しかしながら、1マスだけ『10,000点』!?


 それに気付いたギャラリー達もギョッとした目で、ぐるぐると回る光の行方を見守る。ミラはまるで興味が無いのか私を見てる。


 (1)(2)(1)(2)(10000)(1)(2)(1)(2)(1)・・・・


 うはあ、何これ。

 10,000点の上を光が通り過ぎる度にドキドキする。

 徐々にスローになる光。

 一撃、一千万円!

 どこに止まるのか!?


 結果は、(1)。


「「あぁーーっ」」


 誰かが大きな溜息を漏らした。

 歴史の瞬間に立ち会えなかった後悔だろう。でもミラだからまたやりそうな?

 くいくいと急かすように裾を引っ張られた。どうやらルーレットの結果なんてどうでも良くて早く遊びに行きたいようだ。


「はいはい、待っててね」


 ペタリと触る。

 おぉっ!

 これは凄い、ミラ程では無いけど、


 (50)(70)(110)(30)(1140)(470)(330)(100)(50)(70)・・・・


 他の人とは、体感で一桁は違う。ギャラリー達も気付き、ザワリとどよめきが起きる。

 うわわわ、めっちゃ見られてる。恥ずかしいよ。気付けば人だかりが出来ていた。


 徐々にスローになる光。

 最高1,140点

 いったい、どこに止まるのか!?


 (110)悪くない

 (30)止まらないで・・

 (1140)心臓が跳ねる

 (470)止まって

 (330)お願い。・・止まった!?

 (100)


 結果は、330点


「「おおー!!」」


 歓声が上がった。

 嬉しいけど少し照れる。


 330点を回収し、1,025→1,358点に。


「「凄いなっ」」

「沙耶ちゃんは凄いんです」


 ぷるぷると震える男がいた。ライバル(自称)の二文字鋼牙だ。


「沙耶、いい気になっているようだが、それを俺は超えていく! たあっ」


 あまりに煩いので見てしまったが、最高15点だった。恥ずかしそうに、早く光が止まって欲しそうに身悶えしだした。

 注目の中、浮かび上がる『3』点の文字。


「な、何故だ。まだ本気を出すなと言うことか。この俺が3点だと!?な、何かの陰謀に違いない。闇に蠢く組織が暗躍している」


 しらーっとした空気が流れる。


「おいっ、さっさと退けや。運気が下がるやろが。次は俺様が、その神台を回すんやから」

「その次は、僕です」


 どうやら、私達の台は、大人気となったようだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ