23 事務手続き
ミラちゃん、視点でお送りします。
沙耶に褒められたミラは、嬉しそうにほっぺたに両手を当てて、ぐねぐねと身を捩る。
「うへへ」
沙耶ちゃんに褒められちゃった!
すごく嬉しい。それもこれもボーナスキャラの学園長が出てきたからだ。
ビームとバリアで、いつものようにミラの圧勝だった。ふんすっ。
でも、学園長は泣いていた。
楽しーーーって、気持ちが一気にシュンッてなった。一文字の人達は、どんなにボコボコにしても笑っていたのに、学園長はすごく怒って泣いてしまった。やりすぎちゃったのかな?あの人は子供なのかな。ミラが大人にならないと。
《なんと・・・無自覚モンスターを育てたのは、一文字だった!》
「沙耶ちゃん、あのね。学園長に、ごめんねって言いたい。どうしたらいいの?」
「そっか、一緒に考えようか。良い子だね」
沙耶ちゃんに撫でられた。
頼りになる!嬉しくて、沙耶ちゃんの裾をつまむ。
「さすが、沙耶ちゃん」
「はは、まだ何もアイデア出して無いんだけど」
困ったように笑う沙耶ちゃんが好き。考えてくれてるだけで嬉しい。しおしおしていた気持ちに、元気の水が降ってきた。
あれ、なんか・・・変な感覚。
その時、ミラの身体に異変が起きた。
沙耶ちゃんの姿がブレる。
「ミラッ!! 待って、どこ行くの!?」
「沙耶ちゃんっっっ」
凛とした鋭い声が小さくなる。掴んでくれた手の感覚がどんどん薄くなる。沙耶ちゃんが消えていくというか、ミラが消えてるんだ。
さっきと同じ感覚。
これは、仮想決闘場に転移させられたみたい。
ダンジョンのマスタールームのような部屋だった。中央には、コアがある。たぶんだけど、これは仮想決闘場の心臓部だ。
((マスター、大丈夫ですか?))
((うん、ミラ。大丈夫。仮想決闘場に呼ばれたみたい。沙耶ちゃんにも大丈夫って言っといて))
ふぅーっ、レムと脳内リンクが繋がっていて良かったぁ。間一髪だよ。その中央にあるコアのようなものが、明滅して語りかけてきた。
機械的な女の声。
その声を聞くと意識が冷えて、どんどんと昔の自分に戻りそうで、ここは嫌な場所だ。覚えたばかりの難しい言葉で父を論破してた頃を思い出す。
「よく来ましたね、我が子孫よ」
「貴女は?」
「私は、初代の女。ファースト・オーバテクノの残滓です。魔道具、仮想決闘場へ精神を保管しました」
「そう、それで何か用?」
「まずは、先程の勝利報酬を渡します」
目の前に出現したプレートを受け取る。200,500ポイント。初期の500点にきっちりA級の20万点が加算されている。入学初日にして学園トップに躍り出て、殿堂入りにランクイン。
「貰ったよ。それよりも帰して!」
「いいでしょう。ですがオーバテクノの家訓を忘れてはいませんよね?」
「魔道具は自分の為だけに」
「そうです。失敗を犯した私から贈れるたった一つの言葉。貴女の幸せを祈っています」
意識が明滅して、元の場所に帰ってきた。
もう怖くない、ここには沙耶ちゃんがいる!
「ちょっと、いきなりどっか行くからビックリしたじゃない」
「うへへ」
「ねえ、ミラ聞いてるの?」
安心していたら、ニッコリ怒った沙耶ちゃんに、ほっぺを、ぎゅうっとされた。痛いよ?
「沙耶様、学園長の応急処置がすみましたので、宿の手続きに向かいましょう」
「そうしよっか。行こっか、ミラ」
「うん」
差し出された手をぎゅっと握って付いていく。
同じ「ぎゅっ」なら、断然こっちだ。
受付に着くと事務のお姉さんがいた。
「入学おめでとうございます。一文字沙耶さん。とりあえずこの書類に自分のお名前と従者の方のお名前を記入してください」
「はい、分かりました。あれ?そう言えばミラも入学になるのかな?」
「?」
沙耶ちゃんがミラのプレートを見てきた。どうなんだろ?別に従者でいいよ。沙耶ちゃんのそばに居れるなら。事務のお姉さんがプレートを確認すると紙を渡して来た。おおっ、沙耶ちゃんとお揃いだ。
「あー、貴女も学生さんでしたか。一文字ミラさんですね。もちろん兼務は出来ませんよ」
「ですよねー。それなら従者の兼務は可能ですか?レムさんは優秀なので」
「はい、沙耶様。任せてください」
「駄目駄目!駄目ですよ。従者の方も兼務出来ません。情報漏えいを防ぐルールなので、優秀でも駄目です」
沙耶ちゃんが肩を落として困ってる。ミラが従者をするはずだったのに、学園長が変なプレートを押し付けて来たからだ。学園長めぇぇぇ。
「しばらく一人で、頑張ります」
「早めに見つけられる事をお勧めしますね」
どっさりと渡された書類を見て、沙耶ちゃんが、うへぇと声を出した。こっそりレムに手伝って貰えば解決すると思うけど、沙耶ちゃんはそういうの真面目だからなぁ。・・ごめんね。
「沙耶様、今夜の宿を」
「あっ忘れてた! ありがとレムさん」
「ふふっ、何になさいますか?といっても下宿は女の子が住めるような場所じゃありません!今日は高くても普通の所がいいですよ。また明日にでも少し離れた下町でお安くて安全なところを、お姉さんが紹介してあげますね」
事務のお姉さんがニッコリ笑ったんだけど、沙耶ちゃんが言いにくそうに言う。
「いえ、空き地(1ポイント)を貸りたくて。とりあえず1年分」
「分かりました、空き地ですね。空き地?ええ!!正気なの。女の子だけで大丈夫なの? テントはあるの?」
「その・・家を持って来ましたので」
信じられないものをみるかのような目をしていた。
家を持ち運ぶのは普通じゃないのかな?うーん。
「分かりました。何を言ってるのかは分かりませんが、分かりました!プレート出してください。」
「・・・はい」
キレ気味の事務員さんに怒られながら、プレートを渡す沙耶ちゃん。
「それでは365ポイントを引かせて頂き、、、、え?何このポイント!? もう決闘されたんですか?」
「いや、その。チュートリアルで生き延びてしまって」
「はあぁぁぁあ!! バグ!? いや、一文字なら奥技があるのかしら。こんなの見た事ない。キャーー凄いっ。ねー、皆あ」
事務員さんが、プレートの記録を確認しだして大興奮しだした。他の席にいた事務員さんも何事かとわらわらと集まってくる。
「おぉあ! 本当だ。こんな事になるんだ」
「凄いねえ、これが一文字なのか」
「お兄さんも恰好良かったし。あぁぁ、厳鉄さまとお付き合いしたい。紹介してください」
「多くても50P。上限は120Pなのかと思ってた。それが、1,000P!振り切れてるねー。一文字の秘密兵器は違うわ。」
「一文字沙耶様、1,500Pお預かりしまして、1,135Pのお返しです」
「沙耶ちゃん、凄い!」
素直にすごいねって言ったのに、「ぺっ」ていうツバを吐くような冷たい目で見られた。違うよ、ミラはラッキーだっただけなの。ボーナスキャラを倒しただけなんだから!もう、学園ちょーー。
「上には、上がいると知っていますので」
「「なんて謙虚なのかしら!?」」
いたたまれなくなった沙耶ちゃんは力なく言った。
「行くよ、、ミラ」
沙耶ちゃん、待って。足早いよ。大人気ないから。
ミラが悪かったのーー。
てとてと必死で走っていった。沙耶ちゃんは脚が長い。




