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2 前哨戦


「行ってきまーす」


 一文字の一家が、打倒ミラへの計略を巡らせる頃、話題の天災少女ミラは、いつもように、親友の家に遊びに出掛けた。

 道場破りをして、親友の家族を追い詰めているなんて自覚は当人には全く無い。大人に手加減をして遊んでもらってる感覚なのだ。

 だって彼女は、普通の非力な少女。

 ただ、魔道具が反則級に強すぎるだけで。


「マスター、お待ちください」


 メイド姿のレムがアタッシュケースを持ち慌てて後をついてくる。外観年齢は、20才くらいの美女だ。

 ミラと同じくオレンジ色の髪。ただし、背は高く胸も大きい。何を隠そう彼女は、ミラの理想の女性なのだ。


「レム、今日も綺麗だね」

「はい。マスターのお陰です」


 ミラに、ぎゅうっと抱きつかれたレムは微笑む。ミラは上目遣いで巨乳を見上げた。


「私も貴女みたいになれるかな?」

「なれますよ。だって私は、未来の貴女なのですから」


 意味深なセリフを言う完璧な美女。


「大切にするね、レム」

「ありがとうございますマスター。今日もお友達の沙耶様に会いに行きましょう」


 微少女と美女は、仲良くお出かけをした。

 彼女達を良く知らない者は、そんな二人を微笑ましく見るだろう。守ってあげたいと思うかもしれない。

 しかし、愚かにも手を出して酷い反撃をされて、その身を持って恐怖を刻まれた人間は、二人を魔王と裏で呼ぶ。


 るんるん。


 進撃の足音が、一文字家へと近付く。

 役者が揃おうとしていた。



 最後の役者。

 といっても鉄斎の計略により用意された当て馬なのだが、遠方より呼び寄せられた野心溢れる低能男、爆砕(ばくさい)のゼオンが一足先に一文字家へとやってきた。


「たのもーう」


 禿頭の筋肉野郎ゼオンは漆黒のバトルアックスを抱えて現れた。彼の重量のある一撃は、受け止めた相手の盾ごと破壊する。

 死合相手の大盾を砕いた経験から爆砕と自らを喧伝する売出し中の武芸者である。


 鉄斎の部下である茂助により、『一文字家の弱体化』という美味い嘘の噂話を吹き込まれて駆け付けた馬鹿者(当て馬)である。


 話半分で来たゼオンであったが、門弟達の包帯姿を見て、噂を確信し道場で師範代になるどころか道場破りまで成功するのではと夢想してニヤつきだした。


「おいおい、こりゃ噂通り、酷い有り様だな。右を見ても左を見ても怪我人だらけ。四皇も終わったか」

「誰じゃ?」


「アンタが、一文字の総締めか?何やら困っていると聞いてな。爆砕のゼオン様が遊びに来てやったのだ!」


 しわくちゃになった紹介状を懐より出した禿頭がピカリと光るが、残念な奴が来たと鉄斎の顔には失望が浮かんだ。


「・・・茂助め、変なのを寄越しおって」

「あ?何か言ったかい、じーさん」


 打たれ強そうな馬鹿という注文通りの男だったが、思ったより馬鹿そうだった。

 鉄斎が頭を抱えながら相手をする。


「えーと、それで白菜(はくさい)のとか言ったか?」

爆砕(ばくさい)だ!」


「どうでもええ。訂正したいならば実力を示せ。そうじゃの、お前の相手は小娘一人だ。それが倒せたら改めて話を聞いてやろう、白菜よ」

「舐めるなよ、じじい。小娘ぐらいキッチリ倒してやるよ。だから、その言葉を忘れるなっ」


 顔を真っ赤にするものの最低限の理性はあったらしくゼオンは唇を噛んで、暴れるのを思いとどまった。

 チャンスだったからだ。

 一人倒すだけで、栄光が約束されていた。後は掴むだけでいい。


 じっと、対戦相手を待った。

 得体の知れぬ魔女を想像しながら。

 まさか、自分の対戦相手があのような普通の少女だとは想像も出来なかっただろう。

 


「たのもー」


 可愛らしい少女の声が響いた。

 天災ミラがやってきたのだ。

 ちなみに、彼女は少しばかり常識がないため、これが普通の挨拶だと勘違いしている。悪気は無い。


 包帯姿の門下生達の顔が強ばる。

 斬鉄の顔が険しくなる。

 道場に緊張が奔った。

 ゼオンは、ただならぬ気配を感じ取り、来客者の足音へと意識を集中する。


(死合の相手が来たか。どんな奴だ?俺の相手は・・やって来たのは、メイド服の美女と、その連れ子。いや、妹か? 一見しただけでは、あのメイドは強そうには見えないが何かあるのか?)


 すると、案内していた門弟の一人が急に凶行に出た。牙の折れていない門下生がいたのだ。

 門下生は、破門覚悟で忍ばせたクナイをミラに向けて全力で投擲した。


 !?


 ゼオンは目を疑った。

 いきなりの凶行もそうだが、そのクナイを平然と素手で弾き返した美女に。


「ぐぇっ」


 しくじった門下生は、弾かれたクナイがヒットして倒れる。

 ゼオンは、外見だけを見て一瞬だが舐めていた自分を恥じた。メイドは見た事もない強度の魔装の持ち主だった。


(血統魔法、いや呪いの類いか?いいぜ、相手に不足無し、殺ってやるよ!)


 斧を構えて立ち上がり、メンチをきる。


「やるじゃねぇか。メイドォ。なぜ素手でクナイを弾いた?魔装防御に絶対の自信有りか。おおん!だが、俺のダークアックスは、魔装ごときでは防げねえぜ!!」


 がああと一人盛り上がったゼオンは熱く宣言したが、周囲からはゴミを見るかのような冷たい視線を向けられた。

 おまけにレムからは無視される。

 何故なら、彼の死合相手はレムでは無いからだ。


「沙耶ちゃーん。遊びに来たよー」


 嬉しそうに友達に飛びついてじゃれている、ちんくりんな子供こそが、死合相手なのだ。


「・・まさか、お前では無いのか?」


 さすがに周囲の視線を感じ、どうも変だなとは感じたようだ。

 しかしながら、問われたレムは相手をしてくれないので、鉄斎がその疑問に答える。


「その通りじゃバカモン。白菜よ、お主の相手は、もう一人の娘じゃ」


 促されるまま見るが、一文字家の一人娘の沙耶とは違い、普通の非力な少女にしか見えない。どう見ても鍛えては無さそうだ。


「え?・・・こいつ?」


 指を指して、否定を求めるべくキョロキョロと回りを見渡すが、包帯姿の門下生と、当主の斬鉄まで、頷いて肯定してきた。


(からかわれているのか?いや、彼らの視線は真剣だ。強者で間違いないのだろう。強者?こいつが?)


「・・・こう見えて剣技が凄いのか?」

「いや、鍛錬しておらん普通の子供じゃ。それくらい見て分かるじゃろ。はぁ」


 鉄斎は、ため息をついた。


「なら、何なんだよ!はっ、まさか魔法使いか?」

「いや生活魔法すら苦手らしい」


 老人の憐れむような声に、頷くゼオン。


「そうか、苦手なのか可哀想に。いやいや、そうじゃない。はあああ?巫山戯てんのか!」

「こちらは真面目に話しとるぞ、白菜や」


 呆れるような鉄斎の仕草に顔を真っ赤にしながら考えこむゼオン。


(ぐっ。何かあるのは間違いないのか。さっきから白菜呼びムカつく。爆砕だ!しかし、謎解きも出来ないなら舐められて当然か。考えろ。そうだ!)


「聖剣!聖剣に愛されている」

「それに近いな。もうええじゃろ、さっさと試合え」


 鉄斎は、ギンッと睨んだ。

 タイムリミットだと!

 ボクシングの試合のように長々と引っ張らず、さっさと始めろと声が掛かった。

 しぶしぶゼオンは、話を進める。


「じゃれている所を悪いんだが、お嬢ちゃん。俺と死合してくれるか?」


 沙耶の胸に顔を埋めていた小さい少女の耳がピクンっと反応した。

 そして、少女ミラの視線は沙耶ちゃんに固定されたまま、テキトーに応じられたため、ゼオンの顔が屈辱で赤く染まる。


「いいよーおじさん。あのね、沙耶ちゃん。新しい剣を造ったんだ。だから見てて。試し切り?するからねー。」

「分かったよ、ミラ。見てるから」


 自慢げに短い棒を振り回す少女を、沙耶は優しく見守った。


「それ、ただの棒だよな?」


 ゼオンのそんな当たり前の指摘に、沙耶ちゃんは困ったように笑って答えた。こんなタコ野郎にすら、キチンと対応してくれる沙耶ちゃんは女神のような良い子である。

 

「いいえ、おそらく・・・凄い棒です。そして、剣のようなナニカでしょう」



【次回予告】


 ナニカって、どうせアレでしょ。

 お待たせしました。

 文明レベル差によるフルボッコタイム。


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