13 不幸の手紙
ミラちゃん視点で、書いてみました。
「うへへ」
幸せだあ。
ミラクル・オーバテクノは、一文字ミラになりました。ぶいっV。一文字のお父さんは怖いけど、じいちゃんは優しい。そして沙耶ちゃんはすごく優しいし、何より格好いいんだ。重たい刀を、こんな感じでぶんぶん振るの。格好良いっ。
はぁぁ幸せ。
そして今、大興奮している。
うわぁい。これは世紀の大発見かも。
うわわわって、気持ちが爆発してる。
楽しーーー。
「うおおーう。あのね、沙耶ちゃん沙耶ちゃん。ベッドふかふかだ」
「ミラ、跳ねるのやめて」
新居のキングベッドで、ぴょんぴょん跳ねてたら沙耶ちゃんに怒られました。
しょんぼり。
教えてあげたら喜ぶと思ったのにな。
困った顔で、沙耶ちゃんは見てきました。ごめんね?
「あぁ、もう! この悪い子めっ」
ミラを気遣って、ベッドにダイブしてくれた沙耶ちゃんに捕まえられちゃった。優しい、やっぱりすごく優しい。
ごめんなさい。ミラは、もうベッドでは跳ねません。
「あはは」
あぁ、沙耶ちゃんからいい匂いがするよ。ミラは幸せ者だ。
お日様の匂いだ。
離れたくない。このまま捕まえていて欲しい。誰にも話した事が無いけど、ミラの中にはね、説明出来ない暗い穴があるんだ。たまに夜になると、びゅーびゅーと冷たい風が吹くの。
でもそれが、沙耶ちゃんといると無くなるの。なんでだろ?ぽかぽかしたお日様みたいな。今夜は泣かなくていいのかな。
悲しい事を考えてたら顔に出ていたのか、ちょっと乱暴に、頭をぐりぐりされた。痛いよ?
「ミラ、晩ごはん食べに行こう」
「うん。行く」
頼れる格好良い沙耶ちゃんの後を、てくてくついていく。沙耶ちゃんは足が長いからついていくのが大変だ。置いてかれちゃうよ。でも、大丈夫。
「レム、レム」
「分かりました、マスター」
メイドのレムに、小さな声でこっそり合図して、抱きかかえてもらう。ふー、楽ちん。これで遅れないぞ。視界が高くなった。おっ、そうだ。
「レム、沙耶ちゃんの視界にして」
お願いすると、なんかプルプルしながら、前を歩く沙耶ちゃんと同じ高さにしてくれた。
おおーっ!これが沙耶ちゃんなのか。ミラと同じ年齢なのに羨ましい。ミラも早く大きくなるぞ。身長もだけど、予定はレムみたいな巨乳になる。ミラは大器晩成型だから、まだ間に合うはず。
なぜかプルプルと視界が揺れだした。ちょっと、レムしっかりして?
「沙耶、ついてきてる?」
「うんっ」
元気よく答えると、驚いた顔をした沙耶ちゃんが素早く振り向いて、目が合うとなぜか怖い顔をした。
「うわっ! びっくりした。ミ・ラ・何してるのかな?」
「何もしてません」
良く分らないけど、このままだと怒られちゃいそう。ぱしぱしとレムを叩いて降ろしてもらって歩くことにしました。ふぅ、びっくりだぜ。明かりの点いた部屋に人の気配がする。食堂に到着っと。
すごい人がいっぱいいた。
お祭りみたい。モンカセーだよね?
シアイって遊びをしてくれた人達だ。楽しかった。
「ミラちゃん、ここじゃよー」
「はーい」
じいちゃんが呼んでる。
なぜか凄く優しい人。沙耶ちゃんよりも大切にされてる気がする。気のせいかな。
「いただきまーす」
一文字家は、食事の前に変な挨拶をする。良く分らないけど、ミラもする。だって、もう一文字ミラだから。
「うまい、うまい。これ好き」
「そうかい。それは良かったのう」
じいちゃんは、いつもニコニコしてる。
レムの料理とは、また違った味がする。美味しい。
「そうだ、レムにも覚えてもらおう。これがいい」
「分かりました、マスター」
レムが頷きながら口元を拭いてくれた。ミラは料理はしないよ。面倒だし。
前に沙耶ちゃんに言ったら信じられないって言われたけど、やっぱり沙耶ちゃんもモンカセーにお任せして作ってなかった。
「沙耶ちゃん。これが美味しいっ!」
「はいはい、美味しいよね」
沙耶ちゃんは美人だ。お箸の持ち方も綺麗な気がする。ミラも一文字ミラとして使えた方がいいのかな?んんん。駄目だ。
真似してみたけど、ぽろぽろ溢れる。なんでこんな棒を二本も使うの?ミラには少し早かった、今日はスプーンにしよう。
「配達ギルドの荷の中に、お嬢様宛の書簡がございました」
「ありがとう、アッシャー」
食事中。沙耶ちゃんがモンカセーの一人からお手紙を貰い、それを見ると困った顔をした。
「沙耶ちゃん、どうしたの?」
「やっばい。忘れてたーどうしよう」
重要アイテム
『アルティメット ブレード学園 入学案内』
ひえっ。。
それを見たじいちゃんの顔色が、まるで不愉快な物を見るように変わった。もしかして、あれは不幸の手紙?
「沙耶よ、それはゴミじゃ。破り捨ててしまえ。断わりの手紙は、儂が出しておくから気にせんでええ」
「はあ?前は、一文字家として、結果を残してきなさいとか言ってたのに!?」
沙耶ちゃんが怒った。
そして、何故かお父さんとお兄ちゃんが、困った目でじいちゃんを見ていた。
「沙耶よ。前と今では、状況が違う。その紙切れに今や価値などない」
「状況は変わってません。確かに、ミラは付いて来られませんが・・・」
え?何の話。
嫌な予感がして手が震える。
「そう!そんな事はあってはならん。なあミラちゃん」
「?」
「いえ、お付きの制度を使えばミラだって連れていけます。・・・あっ!」
何かに気づいた沙耶ちゃんが、虫を見るような目で、じいちゃんを見た。
じいちゃんは、口をパクパクする。
「ミラを連れて行かれたくないんですね。それで、破り捨てろと!」
「それは、それも勿論ある。家も買ったばかりだし。一緒にいたい。ただ、お付き制度だと、勉学中は二人は離れた場所になる。一人ぼっちで部屋で待たされるなど、ミラちゃんが可哀想では無いか?」
沙耶ちゃんの目が呆れたものになった。
じいちゃんが困り顔で黙ると、静かになった。気付けば、誰も喋っていない。
キーンとした沈黙。
いたたまれないような沈黙の空気を見兼ねたのか、お父さんが会話に入ってきた。
「沙耶。確かに今の鉄斎様の言い分はあまりに苦しい詭弁だ。しかし、当初から言っているが、入学の目的はあくまで武を喧伝する事であり、それは鉄馬と厳鉄が果たしている。そして、奥義を3つ開眼した事により実は沙耶も既に果たしたと言える。よって、沙耶が入学をする必要はもう無くなった。それをもう一度踏まえた上で、好きに選択しなさい」
お父さんの顔は、やっぱりすごく怖いけど、この人はもしかしたら優しい?
沙耶ちゃんは、何かを迷っているようだった。え?ミラが足を引っ張ってるのかな?だとしたら嫌だよう。
「沙耶ちゃん、ミラは大丈夫。気にしないで。ひゃ!?」
突然、ぎゅうっとされた。
やっぱり暖かい。
沙耶ちゃんはお日様の女神さまだ。ぽかぽかする。
ぽかぽかタイムが終わり、両肩を掴まれて、じっと、瞳を覗き込まれた。
綺麗な澄んだ黒い瞳の中に、ミラのオレンジが映ってる。沙耶ちゃんの中にミラがいるよ。わーい。
「ごめんね、ミラ。やりたい事があるの。でも、一人ぼっちにはさせないのは、約束する」
「分かった、沙耶ちゃん」
じいちゃんが悲しそうな顔をしていた。沙耶ちゃんが、お父さんをじっと見る。
ごおおおお。
沙耶ちゃんが、静かに燃えているような気がした。
静まり返った大きな食堂で、凛とした声が心に響く。
「お父上、私は兄のようになりたい。自分の力を試したいんです。女の身ですが、熱く身体に流れているこの一文字の名を、この世界に刻みつけたい!!」
お父さんが、目をぎゅっと閉じた。
諦めてたような顔で、深い息を吐くと、ゆっくりと仁王立ちをした。
「立ちなさい、沙耶」
「はい」
静かな低い落ち着いた声。
「良く自分の気持ちを言ってくれた沙耶。当主として父として、受け入れよう。本当は女らしくなって欲しかったが、成長を嬉しく思う。一文字家の代表として 存分に、暴れてきなさい」
沙耶が、震えた。
「はいっ!」
次の瞬間、大きくどよめきが起きた。
「「その刀は曇り無き心!!」」
何が始まったの?ずるい、ミラにも教えててよう。
「「穢れなき魂で世界を刻め!!」」
モンカセー達の低く揃った声の塊が、沙耶ちゃんに向かってぶつかる。
「「我ら一文字はぁ、世界最強!!」」
何をやっているのか良く分らないけど、コールを叫んでる皆の表情が誇らしげで格好良く見えた。
沙耶ちゃんは、視線を一身に集めるとビシッとポーズを決めた。
うんっ!やっぱり、沙耶ちゃんが一番格好良い。
【次回予告】
旅立ち
可愛い子には旅をさせよ