12 愛の巣
沙耶ちゃん視点で書いて見ました。
沙耶は、新居を前にどうしてこうなったと思う。
そう。思い返せば、あれからすぐにお買い物に出掛けたんだっけ。
ミラとレムさんとの新生活が始まる事になったけど、新しい生活を始めるには色々と物入りになる。部屋も手狭になるし、改造が必要だった。
とりあえず3人寝られるキングベッドが必要かな。なんでこんなものを買うことになったんだろう。まぁ、いいか。そして私達、美少女3人組は、家具を求めて街に繰り出すのだが、枯れた老人がお供でついていた。
財布の鉄斎である。
「ミラちゃんや、じいちゃんが何でも買ってやるからのう」
「ありがとう、じいちゃん」
ついコメカミがピクリと動く。
決めた!お店の中で一番、高いのを買ってやろう。
ミラと暮らせると有頂天になってるジジイに、イラッとして心に決めた。
「それでは、沙耶様。まずはどの店から行かれますか?」
レムがミラに聞かなかったのは、理由がある。
ミラは必要な物は作ればいいと思っているタイプなので、買い物には全く関心が無い。なんで、付いてきたのだろう。
ふと、いたずらを思いついた。
たぶん私、黒い笑顔をしてると思う。
「そうねぇ、家が欲しいかな?何でも買ってくれるんでしょ」
「ミラも欲しいー」
もちろん買う予定は無い。そんな私の発言にミラは深く考えずに乗ってきた。ただの嫌がらせ。おじいちゃん、家なんて買ったらミラと同居できなくなるけど、果たしてどう出るのかしら?絶望しなさい。
鉄斎へ先制ジャブを放つ。
「ええじゃろう。じいちゃんが買うてやる」
「ありがとう、じいちゃん」
え?どういう事?
でれでれのジジイを信じられないような目で見つめる。
さすがに困ると思ったのだが、まさかの了承。
貴方、ミラと暮らしたいんじゃなかったの?
これにより、鉄斎の思惑が、全く分からなくなった。
なぜか、最初のお買い物が不動産屋になるなんて。
ええー?
疑心暗鬼のまま家を見学していく。
「それでお客さま?どの家が良かったでしょうか?」
「はっ。 ううん、そうね」
店員の質問に、はっと我にかえる。
気づけば、勧められるままに、かれこれ5件くらい見ていた。なんて流されやすいのだろう。可愛い家。お洒落な家。機能的な家。大豪邸。場所が近い家。
だけど、決まる訳なんて無い。
だって、本当は欲しくないし、そもそも買うつもりも無い。
ただのジジイへの嫌がらせだよ?
あぁぁ、店員さん、巻き込んでごめんなさい。
そりゃ、いいなぁって思う家はあったけど、実家とは遠いし。現実的に距離で選ぶと微妙なあの家になるのかなあ。
「沙耶よ。悩んでおるようだな。余計な事など考えんでもええ。気に入った家を選びなさい」
そんな私の悩みを見透かしたように鉄斎が、優しい顔で言ってきた。
え?私が自由に選んでいいの!
ミラと手を繋いで腑抜けになっているジジイだが、ちゃんと私の事も考えてくれてるんだ。思わず泣きそうになる。
てっきり、家は高いからまた今度にしようなあとお茶を濁されると思っていたけど、選べば、ぽんっと気軽に買ってしまいそうな雰囲気がする。え?家をポケットマネーで買うつもりなの?相変わらず我が一家は、常識が無い。
なら、一番高い大豪邸を。
掃除がめんどくさいよね?
実はすごく気に入った家が一軒あった。
可愛い家。それも半球円のすごく可愛いカプセルみたいな家。少し住みにくそうだけど、すごく可愛いの!こう見えて乙女趣味な私。
「沙耶の言いたい事など分かっとる。この家が良いんじゃろ?」
じいちゃん。
うるっときた私だったが、勧めてきた書類を見て気持ちが変わる。
・・・・ジジイ、それは?
自信満々に出してきたのは、見学にも行っていない実家の近くに捨てられている倉庫だった。家ですら無い。
「これが、いいの!」
「うん。ミラもこの可愛いのがいい!」
「沙耶様、素敵ですね」
思わず私は、可愛い家の権利書を掴んでいた。
「ええじゃろ、店員さん。これをくれや」
「え??まさか今、全額を支払われるんですか?」
鉄斎は、ポーンと、値段の交渉もせず驚く店員に金貨袋を投げつける。
必死で金貨を数えだす店員。そこそこ高い家なのに、どうもだいぶ余ってるらしく目を白黒させている。
え?これは何かある。
ミラと一緒に暮らしたいはずのジジイが離れた家を迷わずに購入。
虫の知らせというのか。計略の臭いがした。
くんくん、こいつはくせえぞ。
気づいたら、キツめの言葉が出ていた。
「一緒には住まないからね、あと近くに引っ越してくるのも禁止だから」
「ははは、厳しいのう。儂がそんな事をするとでも」
普通の相手なら、ここで疑ってごめんですむのだが、鉄斎は違う。はっきりと明言していないため、はて?約束しておらんかったよな?と平然と言ってくるような男だ。私がそれに、何度、騙されたか。
「約束して!」
「誓おう。この家には住まんし、この場所の近くへ引っ越す事もせん。もちろん頻繁に、この場所の近くをうろつく事もない。ええか?」
毅然と地図を指差し鉄斎は答えた。
ええ? なんか疑ってごめんね。
もやもやする。私がなんか悪者みたい。
この後は予定どおり家具屋さんに行き、キングベッドを買って、机に椅子。食器に調理器具とか買い揃えた。
値札を見ずに買い物して、なんだか、お姫様みたい。
服も買ってもらっちゃった。
「じいちゃん、着てみたけど?」
「うぉぉぉ、ミラちゃん可愛いよ。天使じゃろ。店員さん、この店の商品を全部くれやあああ」
「せいっ!くたばれジジイ」
さすがに、暴走したジジイに踵落としを決めた。
恥ずかしい。もう、あの店はもう行けないかも。
「ふーっ、疲れたね」
「沙耶ちゃん、楽しかった。今日からは一緒に暮らせるね。やったー!」
「鉄斎様、今日はありがとうございました」
「気にせんでええ。美人の笑顔が見れたら安いもんだ」
こうして、私達は一軒屋を手に入れる事になった。
かなり実家からは遠いけど、新しい暮らしにドキドキする。
実家から離れるのも初めてだ。
ホームシックにはなるのかな。ミラがいるから大丈夫かな。
私は14才にして独り立ち。少し早いけど、もう一人前の女か。
ご近所さんには慣れるだろうか?
そんな私だったが、新居の前にずらりと集合したお弟子さん達により、またしてもジジイの計略にかかったのだと知ることになる。
なんて、一文字家は常識が無いんだ!
「「鉄斎様、沙耶お嬢様。そしてミラさんレムさん。お疲れ様です」」
「おぅ、よく来たの。では、運んでくれ」
運ぶ?
「「はいっ!! 心を込めてお運びします」」
気合いの入った門下生たちが新居の周りにわらわらと集まったかと思うと、ふんっと家を持ち上げた。私達の新居を持ち上げた。
まるで蟻が獲物を運ぶように門下生たちが、えっちらおっちらと家を持ち上げて運んでいく。
ええーー????家って運べるんだ?
「凄いーーー。お家が浮かんだよ。力持ちだね」
きゃっきゃとはしゃぐミラに、門下生達が誇らしげだ。
死ねばいいのに。
やめてー。
もうそこでいいじゃない、降ろしてよおおおお。
そんな私の願いは届かず。
新居は、どんどんと自宅に戻っていき、ついには実家の道場の庭に据え付けられた。
ただいまー。
「どうしてこうなった?」
【次回予告】
不幸の手紙
なんと、ナビゲータはあの人です!




