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後編

「少し、焼けたんじゃないか」

 夏の終わりに言われたその一言。今日から学校だと家を出るその時だった。

 父はようやく気付いたようだった。だが僕も気付かなかった。確認するように僕は自分の腕を見てみた。しかし夏休み以前の自分の肌の色なんて気にするはずもなかった。

 そう考えれば父はすごかった。その些細な僕の変化に気付いていた。いや、灯台下暗しとは変な表現だと思うが、そのようなものだろうなと思った。

 これから秋に変わるというのに、いまいち自覚はなかった。毎日見ている青い空に白い雲。それらが物語っていた。

 家を出て、想像していたものはありのままだった。まだ暑さのこる生暖かい風が肌を触るのだが、やはり嫌な気がした。矛盾というわけではなく、ただ自分の中に新たに生まれてくるものがただ、知らずに構成されていた。

 季節はきっかり変わると思っていた以前の考え方は毎回、ことごとく否定され続けてきた。しかし曲げずにいつまでもそうであるだろうなと思い続けてきたものが、不思議と折れてしまったのだった。

 片倉と共に過ごしてきた間、変わりつつあるもの、だった。

 しかしそのことを知った自分は、遥か遠く、後の時分だった。

 すると未だ、季節を狂わせるセミの鳴き声が、僕の体内時計を狂わせ始めた。決して心地よいわけではない。その地の裏にある気分は不思議と、名残惜しく思わせる、もうすでに遠き、はかなさを漂わせていた。

 また来年。それがまた到来するのを知っていた。

 今から待ち遠しく思えるのだが、ただそれだとそれまでの過程の密度が薄く思える。いつものようにひたすら、いや無我夢中でその日を過ごせば良いのではないか。

 何を考えているのだか。去年まで、こんなこと考えたことはなかったな。それが普遍で当然だったから。もうこんな時期だからそう思う。

 気付かないうちに僕の底は深くなっていた。

「おーい」

 背後から声がしたので振り向くと、遠くにいる片倉を目にした。片倉はすぐに追いつくと、横になって学校までの道のりを歩く。

 そうしてまた夏休み以前の生活が戻るのであろう。しかしそれ以上に刺激のある生活を願っていたのは間違いない。



 秋には様々な催しがあるという。そう片倉は言っていた。

 それが何か告げられずにただ心中に期待と不安を抱きながら帰りの先生の話に耳を傾ける。何があるのか先に聞くのはそれ以前の期待よりも倍になる。膨らめば膨らむほど、気持ちも大きくなっていくのを知っていた。

 それに片倉は先生の話なんか聞くはずもない。だから片倉がもったいぶって言っているのを聞くのが面白おかしくて帰り道、必死に笑いをこらえる。

 片倉は面白いやつだなとつくづく思う。それになんでこんなにも馬が合うなんて、何かしら縁か、もしかしたら遠い昔の血縁があるのかもしれない。

 そんなありもしない面白い妄想を一人で知らずにしている自分に気が付いた。

 父にこんなことを話そうという気はしない。それはただ一人で持つ秘密であるような気がしたからかもしれないが、家に帰ればそんなことは忘れてその日に起こった出来事を話す毎日がある。同じ繰り返し。

 その繰り返しと相反する以前までの僕の考え。その変化には気付いた。それも新たな生活によるものなのだろう。

 何かを予感をさせるような片倉の言葉。

 しかしそれは明らかに分かるもので、予感でもないのだが、もしかしたらと期待を自分に持たせるためだった。

 そしてその日はすぐに知ることになった。


「写生会です。これから…」

 担任が言い出したことは大きく予想と違った。

 写生会というのはこの学年の特有なもので、午前に外でスケッチをして、午後に色をつける。その過程が終わらなければ後は宿題となっている。

 そして僕らは朝早くから集まり、学校を出てしばらく歩き、ある山の麓まで来た。まだ登ったことがない山だ。

 それもそうか。夏休みの間にこの町の山を制覇したら、きっと本の一冊でも書けるだろうな。

 それにしても片倉の足取りを見ているのは面白かった。スケッチの道具を上下させて、鼻歌を歌うような雰囲気を醸し出し、後ろからでもそのにやけた顔が想像できる。

 そういえば結局、夏休みの間もこの今までも、片倉の描いた絵は見ることはできなかった。だけど今日まで我慢してきてよかったな、と思う。

 山に少し登る。みんな、やはり地元の人達で、疲れた顔一つしない。そして登りきったそこに、観光用のピクニックエリアがある。しかしそこは誰にも使われない。夏に訪れた観光客は登山家か、だが稀にキャンプで来る家族連れが遊びに来ていたのを見たことがある。

「あまり遠くに行くなよ。十二時に終わりだからな」

 僕らはやはり共に行動した。

 ピクニックエリアはあまり人工的ではなく、施されている箇所はわずかで、なるべく自然のままを、がコンセプトだそうだ。時々ここにこの街のボランティア団体がゴミを片付けに来るという。だから常にゴミがなくて、むしろゴミを見かけるのが珍しいと片倉は言う。

 そして片倉を先行に案内された場所。野原の見晴らしがいい場所だった。

「時々、この山には登るんだけど、今日はここで描くのは初めてなんだ」

 早速支度をして、片倉は描き始めた。僕はどう書けばいいのか分からなかった。だからまず片倉の描き方を見てから描くことにした。

 片倉の手は器用にすばやくあちこちへ動く。それが驚くほど早かった。もう何が何だか分からなかった。まるでペンが一枚の画用紙の上で踊っているようだった。

 そしてその景色は実際に観て分かる景観だから僕は感動をした。それなのは僕はどう丁寧に似せて描こうとしても、片倉よりも時間をかけようとも片倉のように上手くはいかない。

 風景は止まっているのに、まるで生き物のようにうごめいているように思える実は目の前に見える光景はすべて、動物なのではないか。地球上にある何かのエネルギーに動かされているわけではなく、自らの意思で自由に動き回る動物なのではないか。

 時々そんな自明でないことが生まれては心にしまわれるのが繰り返される。そのしまわれた先で暴れては出ようとするが、そうすれば目の前の光景が描けなくなる。

 僕はとにかく片倉のようには描けなくても、昼までには描き終えるように専念した。そうして自分のことに夢中になり互いを気にしなくなった。

 何度見ても変わっているような、目の前に広がる景色。それを必死に写し取ろうとするのだが、どうしてもうまく描けない。それは何度も見たことのあるような、似たような景色。イメージとして頭に残っているような気がするのだが、日が経つにつれて輝きは失われていく。この土地に馴染み、走り回ったせいで、すっかり目が肥えてしまったせいだろうか。するとここに来る途中、つまりこの街に初めてやってきた時の様々な景色が思い返された。

 そして手が動き出す。さらさらと進む。片倉ほどではないが、早く適当にスケッチをあと数分もあれば終わるだろう。いつの間にか夢中になり楽しくなった。

 しかし何か嫌な予感がした。直感というか、背筋が凍る思いというか、肩をびくっとした。すると頭の上を覆う雲に気付く。

 しばらくするとあまりに夢中になったせいで片倉がうなっているのに気が付かなかった。

「う−ん…なんだろう…」

 頭を悩ませている模様。

 先ほどまですらすらと秀才がテスト解くように手が動いていたのにもかかわらず、それが止まり、頭を悩ませている。しかしその片倉の元にある一枚の絵は僕にとって壮観だった。

 到底、僕には理解に及ばないことだと分かっている。こんな絵を描いているのに、悩んでいる理由が分からない。だから力になれない。そんなことは承知である。

 なぜ悩んでいるのかなんて理解できない。僕にとってこの絵は十分すぎる。憧れである。別にこのような才能があっても決して不必要なものではない。むしろあったら得するぐらいだ。

 だが一枚の紙と対面して会話している片倉が放っておけなかった。見ていられなかった。それが一番適切に思えた。

 すると僕はあることに気付いた。

「なんかさ…暗いね。全体的に」

 単なる感想だった。

 僕はただこのような雰囲気が嫌だった。だからそれとはまったく反対の晴れた絵を描いていた。曇り模様が明らかに天を覆っていたのにも関わらずに。

「…そうか。そうか、そうか、なるほど…そういうのもあるのか」

 片倉のイメージはどんなものに変わったのか。

 すると消しゴムと鉛筆を用い、鋭いスピードで手を動かす。

 その手が止まるまで僕はじっと、その行く先を見ていた。邪魔をしてはいけないような心地がして、ただじっとその手を眺めていた。もしそれを止めてしまったならば、もう二度とその続きを見ることはできない。それが見られないのはきっと残念なことで、将来まできっと悔やむことだと思った。

 僕は一時たりともそれから目を離さすことはできなかった。

「できた…」

 どうやら僕はその絵に見入っていたようなのか、自分でも分からない。ただボーっとしていた、といってもしょうがないかもしれない。その絵に入るような感覚であったのだ。いつの間にか現実からその中へ引き込まれていた。

「集まれー。もう帰るぞー」

 そんな先生の声を聞いて、僕ははっと我に返った。

 すると片倉は今までに僕に何事か話しかけていたようで、僕は何を言ったのか尋ねたが、片倉はむっとした顔になって立った。僕はくどく何かと尋ねたが、学校に帰るまでの道のりでも教えてくれず、その後も教えてくれなかった。

 結局、僕は写生を終えることができなかった。それでも頭に焼き付けられたイメージですぐに描き終えることはできるが、それよりも片倉の言葉が気になっていた。それにボーっとしていた間、片倉の絵は目に余るほど見てはいないのを、家に帰って片倉の絵はどんなものかと思い起こしたら気付いた。

 そういえば片倉は何に気付いたのだろうか。そんなことを考えたのは父と夕食をとっている時だった。今日のことをいつものように話しているとかかさず出てくる人。父は懸念しないのだろうか。

 すべてを寝る前にまとめてから寝る。今日起こったことを忘れないように、といってもそれは不可能だから、起爆剤だけを頭に取り留めている。これは父に教えてもらったことだった。

 父は作家であり、それでアイデアを思いついたとしても決して家に帰るまではメモしないそうだ。もし忘れてしまったなら、それはそれまでのもの。決していいものにはならないと父は明言した。

 なるほどなと思い、僕もそのことを始めた。

 父の真似から始めたことなのだが、あれからはや一年ほど経ち、日記の代わりになっている。しかし残っているものはここに来る以前の特に印象が濃いものと、ここに来てからのこと。

 そして今日のこと。


 後で分かることだったのだが、片倉の絵は展覧会に出されることになった。そして展覧会に出展されるまでの間、しばらく職員室前の廊下に張り出されることになった。他にも三枚同じく出展されるものがあるが、輝かしいものではなかった。

 僕はそのことを帰りの会により知ったのだが、片倉は珍しく先生の話を聞いていたらしく、僕の腕を捕まえては決して離さなかった。僕は引きずられるように家に帰ることになった。

 だが後日、片倉のいないことを見計らっては職員室の廊下に行ってみる。そこには片倉が待ち構えている。

 しかしある日、たまたまいなかった日があった。その日、初めて片倉の絵を見て、そしてフィルムにその絵を焼き付けた。フィルターに入れてこの先大事に保管しようと心に誓った。



「あの子のお母さん、失踪しちゃったんだって…」

「え、私は違う男と出て言ったって聞いたけど…」

「あの子のお母さん、多大な借金をしていたみたい。それで夫になすりつけようとしたそうなのだけれど、失敗しちゃったみたいなの…」

 親の中のネットワークは時々おかしい。

 矛盾していると指摘したからといって直す理由などどこにもない。ただ無駄な想像、いや妄想を膨らましては勝手にその人の人間像を成形し特定する。

 僕の父は酒乱で、そして時には家庭内暴力を振るうそうだ。そして母は夜な夜な外に繰り出しては遊びまわり、ある薬を服薬しているのだそうだ。そういうことで積まれた多大な借金のせいで二人は別れて逃げ回っているのだそうだ。またの噂は浮気好きの父、昔に勢いで殺してしまった母。そのおかげで母は警察に未だ追われているのだそうだ。

 無論、僕はそんな姿を見たことがない。

 本来、父は家事ができる小説家。母は、あまり知らない。父は過去を話そうとしない。その理由は分からない。だから、もしかしたら、ある噂が当てはまるかもしれない。前にこんな母だったのかと特徴だけを問いただしてみたのだが、父は強調して否定している。

 そういう噂をする親の子供はひどく影響を受けていた。

「お前の母ちゃん、犯罪者らしいな」

「人殺ししたのって、本当?」

 こんな親を持つ僕だから、こんなことを言う子供の親はたいそう僕のことを哀れむのだそうだ。

 かわいそうだから。そういう仲もあった。

 引っ越した当時は普通の友達ができた。日が経つとそんなに仲がよくない人も声をかけてくるようになった。僕はその人と合わないなと察知していた。それが偽りの友達だった。ある仲のいい友達は僕から離れていくこともあった。そういう親の子供は何をするか分からないから、と噂を真に受け止めて子供に呼びかける親もいる。

 根も葉もない噂は次第に大きくなっていくばかりで、面白くないことは起こる。自分の予期しないことはもちろんだ。

 それからだった。僕が人をあまり信用しなくなったのは。そんな噂が流れ始めてからも変わらず付き合ってくれる友達もいる。しかし僕は訝しい眼差しを投げかけ、自ら離れるようになった。

 正直辛かった。きっと相手も嫌に思うだろう。そして僕も自分に正直になれなかった。相手の気持ちを考えたり思ったりするのも辛かった。

 友情を分かち合える時間を引き換えに、僕は違うものを手に入れることをできたのだが、その時に戻りどちらかを選択できるならば、迷わず前者を選択することだろう。

 そしてそんな噂が広まりつつ、僕がそんな生活にうんざりするような兆しを父は察した時は決まって父は言う。

「そろそろここの生活も飽きてきたし…引っ越すか」

 また。また、と転々と土地から土地へと移る。そんな生活も楽しくて、今ではすっかり慣れてしまったのだが、心は次第に黒ずんでいった。

 父は小説家である。転勤の必要はない。僕はその点、利点に思えたのだが、周囲にはそうは思えなかったらしい。

「何であのこの父親は平日にも家にいるのかしら」

「あら、知らないの?あのこの父親、失業したんですって。リストラよ、リストラ」

 そんなはずはない。父はもとから小説家だった。少なくとも、僕が小学生に入る頃からは。

 きっとこれは性質なんだ。噂されやすい体質なんだ。これはしょうがないことなんだ。

 僕はそれをすべて負の連鎖と考えた。そうして僕を正当化させて、他の理由を考えなかった。これがすべて正しいんだ、きっと。


 うまくクラスに溶け込むことができないまま、ついに運動会を迎えた。

 運動に興味がなく、運動神経もないというわけではない。行われる団体によるダンスというのが気が気でならなかったのだが、どうやら偶数学年はないらしい。唯一は全員リレーのような団体競技だった。

 僕らはクラスに溶け込めていない。もし組体操のような団体競技があるならば、きっと阻害されるに違いない。そうに決まっている。

 しかし全員リレーの練習ももちろん他の団体競技でもそうなるだろうが、それとは別の阻害でまだ堪えられた。

 早く終わればいいのに。前日から思っていること。

 来なければいい。そんな非現実的なことは考えることは無意味であることは分かっていた。

 そうして迎えた運動会の日。なんとなく嫌な雲が空を覆い、しかし結局、終えるまで雨は降らなかった。延期しなくて良かった。朝からあまり気分が優れなかったからだ。

 その運動会は田舎の学校でありながらも盛大であった。町の一つのお祭りといわんばかりである。そこに集まる人のテンションも高まり、開催された。

 ただ徒然なるままに時間は過ぎていく。時々動いて、クラスの足を引っ張らない程度に活躍する。文句も言われなければ僕らは静かにいればいい。

 他人事だが、みんな頑張っているな、と心は周囲の熱気と間逆に落ち着いていた。むしろ周りの熱気があるからこそこういられるのだろうか。こんなことを考えていても頭に血が上って周りが見えていないからだ。

 片倉と競技を見ながら話をして時間を浪費していた。

 朝は雨が降りそうな曇りだったが、雲の隙間から太陽が覗く。その太陽の位置は僕の真上にあった。

 僕らは以前から弁当を一緒に約束していた。父が朝早くから弁当を作ってくれて、それを父と一緒に食べるのだ。片倉の母は毎日仕事があるらしく、その件から見ると父の職業は家族にとって天職に思えた。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「ああ、こんにちは。たくさん食べてね」

 今日の運動会のメインイベント、そう思っていた。

「そういえば片倉君、早かったね」

「ああ、はい…ありがとうございます」

 いつも強気な片倉は恐縮している。そしておにぎりを食べた。

「これ、おいしいですね」

「ああ、ありがとう」

 ぎこちないような。しかし結局は他人なんだから、いくら僕の家に来たってそうなんだな、と思った。

 僕らは話をしながら昼食を食べるその時が楽しかった。そして僕は二人の様子を見ているのが面白かった。互いに気遣っている様子が。その点僕はその仲介役みたいなもので、最も立場が有利だった。

 二人のぎこちない会話に耳を傾ける。片倉は食欲に関してだけは遠慮がない。父を気にしているが、目を合わせないようにしていた。一方、父はというと、目でけん制はしているものの話の切り出しに困っている様子であった。何を話したいのだろうか。時々唇が動く、果敢な行動を見せる。

 しばらく観察していると、父の不自然な様子に気が付いた。あの目はけん制しているようには見えなかった。いや、けん制しているのではない。あれは疑いの目だった。もどかしそうにしている。

 僕はどうしようかと考えた。引導を渡すもよし、まだ様子を見るもよし。父の様子からと性格からすると、きっと切り出せないだろう。やはりここは引導を渡すべきか。

 僕は口を開きかけた。しかし父の口から声は出ていた。

「そういえば片倉君。キミの名前は聞いてなかったね」

「創一です」

 何気ない会話。そんなことなら僕に聞けばいいのにと思った。

「これはついでなんだけど…キミの…」

 父はその後の言葉を言わなかった。一瞬間の出来事なのだが違和感が漂うのを感じた。父は眉間にしわを寄せた。

「いや…やっぱりいいや」

 父は自作のおにぎりをほおばり、遠くを見つめた。

 その横顔の父を僕は初めて見た。懐かしさと憂いに満ちた目。その時、言葉で言い表せないような感情が伝わり、僕の体に流れ込んできたのだ。父は何を聞きたかったのだろうか。

 それを問いだそうとは思えず、そして後にも威圧を感じて聞くことはできなかった。父はその事柄はなかったかのように、いつも通りというマニュアルに従い、僕に接した。僕は驚き戸惑い、そしてさらに押し込めるものを感じた。

 父は僕の考えることを知らない。しかし強い圧は忘れるように促していた。それは父自体が直接関わる力ではない。僕に流れる血が、それが僕の、いや父の本能だった。

 強要に対して僕は隠すことができた。密かな信仰心というようなものだ。

 父はおかしい。片倉の前だと何かと神経質になる。それは確かなことだった。また片倉は僕の家に遊びに来る。そしてまた父はけん制を送る。

 僕はその不思議な光景に疑問のみを持つことが許されていた。

 そしてまたこんな光景を目撃する。僕は時々、片倉の家に行く。それは逆の状況だったこと。僕はけん制を送られていた。



「どこだよ」

「分かんね。どこだろうな」

 もったいぶったように言う片倉。

 僕は片倉を引っ張り出して、展覧会に来た。ここに入選した片倉の絵もある。

「お前の絵があるから来たんじゃん。探せよ」

「いや…俺、興味ないから」

 こんなことを言う片倉。

 実は片倉は展覧会には興味があった。この街に美術館は無いものの、だから街の展覧会や個展は非常に貴重な芸術の鑑賞の場だった。そして僕にいちいち展覧間に誘うよう仕向ける、非常に面倒くさいやつだった。

 入り口からずらずらと並ぶ絵の数々。そしてそれを観に来た客。その多くはその絵を描いた本人と親。他にも暇な休日をつぶしに来た親子連れに大人、子供だけというのはなかった。

 僕らは一枚ずつ鑑賞していった。そしてそれに特に入りこんでいる片倉を認めた。心中が分かりやすい。

 そうなんだろうな。僕らが長くこうやって友達をやっていけるのは。

「次、観ようぜ」

 絵から絵へ、等間隔で目を移していった。そしてふと、片倉が遅れをとっているのに気付いた。片倉はある絵の目の前で足が止まり、釘付けだった。

「どした?」

「…いや…なんでも…」

 全ての絵の下には作者名とタイトル、そして評価に応じての入選だの佳作だのと書いた紙が張り付いていた。

 そしてその絵の下には、入選、だった。そしてこの展覧会の多くはその入選、である。六年生が描いた絵。まだ見ぬ海とのタイトルで、その絵はどこか見たことのある風景だった。この山に囲まれた街、それを海に見立てて、さらにこの山のどこかにある滝、それを合わせた絵。滝から流れ出した水はこの山に囲まれた街にたまり、魚が悠然と泳いでいる様がある。

 もの惜しそうに片倉は次の絵を見るが、やはり前の絵が気になるようで、チラチラと流し目で鑑賞していた。

 それなら堂々と観てしまえばいいのに。

 そしていつしかはその絵からはどんどん遠ざかり、ついには背中を反らして顔の位置を後ろにしては得意の流し目。

 しかしそんなことも意味がなくなった時、ついに片倉の絵にたどり着いた。

「ほらほら、あったぞ…おいおい、審査員特別賞だってよ。良かったな、お前」

「ああ…」

 以前学校で見た姿とはまったく変わらぬ堂々とそびえる山々。美しい光景だった。

 絵もよければ賞もいい。しかし片倉の様子は異なものだった。歓喜、それがこの場にふさわしい行動のはずだ。それに対して片倉は表情にそのような要素が一つも見当たらず、むしろ元気が無いようだった。意外なことでむしろ驚いているのだろうか。

「どうした?」

 片倉は一度僕と目を合わせたのだが、何も言わずに自分の絵に向き直った。そしてきびすを返してあの絵の前まで向かった。僕もその後についていった。

 しばらくそれを眺める片倉は口をゆっくりと開けた。

「なあ…俺、これでいいのかな?」

「何が?」

 片倉の意図が見えない。顔からも読み取れない。こんなこと、初めてだ。急に僕の心が冷めていったような気がする。

 また沈黙が訪れた。周りに人はいるものの、ここは僕と片倉だけの空間だけに思えた。僕は必死に考えた。片倉の言いたいこと、この隙に答を導き出そうと思った。

 僕がその答にたどり着く前に片倉は言った。

「この絵、どう思うよ、お前は」

 僕はいったんその言葉について考えた。こいつはこの絵だけを評価した場合の意見を求めているのか、それとも片倉と比べた時の意見を求めているのだろうか。

 いつまでも黙っていると変な目で見られると思ったので第一印象を述べた。

「独創的だな、やっぱり。絵というよりも芸術だもんな」

「…お前もそう思うのか」

 片倉は親身につぶやく。重い一言に僕には思えた。体が重くなったかと思うと、不思議と体が持ち上がるように軽くなった。

「俺な、絵が好きなんだよ。だから昔からあちこちの山に登ったりしては絵を描いていたんだよ。これを写そう。これを描こうってな。うまいな、て言われんのがすごく嬉しかった。だから夢中で描いたんだ。だけどな、なんか息詰まった。突然にだ。なんか、うまく描けなかった。分かんなかったんだ。悔しかったんだけど、人の絵を見るようになったんだ。それでもよく分かんなかったんだ。だけどこの前の写生会にな、お前に言われて気付いたんだ。俺に足りなかったものをな…」

 それは何か分かっていた。ただ片倉の絵がそっけなく、面白みに欠けていたことを単に指摘したまでのこと。そう、僕は素直に自分の思うところを述べたまでだった。ただの感想に過ぎない。

 片倉は続けた。

「俺な、将来、画家になりたいんだ…まだ伸ばしたいんだ、俺の可能性をさ…それにもし一番楽しいと思えることができるなら、一番いいよな…」

 それはそうなんだ。それはもっともな事なんだ。誰もが望むことなんだ。

 前にこんなことを父に聞いたことがある。父は小説家になるために睡眠時間を削り休日を削り、安月給で仕事をしていた。そしてその過程で結婚をしたが、母は僕が生まれてまもなく交通事故により他界したと聞いた。その逆境の中で書き続けた小説が大成したのだそうだ。

 口だけではどうこうと言えるが、そう簡単になれるものではない。それなら誰でもエジソンだ。しかし片倉の言葉にはそんな軽いものではない。強さと決意が込められていた。

 だから自然に僕は片倉を信用していた。もちろんそれはもとよりのことだが、それとはまた大きく違うものだった。

 僕は絵を見つめる片倉の横顔を見た。体の中心からこみ上がる何かを感じた。

「…できるんじゃないの。気付いたんならまだ伸ばせるよな、きっと」

「そうかな…」

「お前が決めたことだろ。やれよな」

 片倉は絵から目をはずし黙りこくった。

「きっとできるよ。僕も手伝えることがあればやるよ」

「…うん」

 その空間をそっと包むように外部の音がぱったり遮断されて、僕らはまたその絵を眺めた。きっと、こんな、いやこれを超えて見せようと片倉の意志が以心伝心伝わってきた。片倉はきっと、いや僕らは成し遂げてみせる。



 秋はさっぱり山々を包んでしまい、様々な彩をつけてドレスアップした。どこからの景色も鮮やか色とりどりだった。

 長期休暇に旅行に行かず、都会育ちの僕にはこんな景色はテレビを通してでしか見たことがなかった。

 その山林を片倉と駆け回り、紅葉狩りや落ち葉を集めては飛び込んだりした。まるでふかふかのベッドのようで、それは飽きなかった。赤とんぼを追いかけていると、夕陽が落ちるのが早く感じられた。僕らは夕焼けに染まって、稲穂揺れる中、あぜ道を通って寒くも感じられる秋風を背に帰路を急ぐ。

 毎日は学校が終われば本当の一日が始まるような心持ちで、そんな時間も過ぎるのはあっという間だった。気付けばひらひらと一片、雪は大地を覆い、そして一面真っ白な銀世界を作り出した。あれほど美しく映えた木々も落葉し、山は雪山となった。

 僕らは深々と降る雪の中、雪だるまを作り、そしてかまくらを作ろうとした。それは作ろうとしたまで。屋根の建設中に崩れてしまったからだ。そりを持って山を駆け上がる。前方に気がないことを確認して二人でそりに乗り、一気にすべる。

 この時期はまったく車は通らない。除雪車は田舎の道など通らない。誰もいない広い平野は子供たちの絶好の遊び場だった。

 しかしそんな日もいつかは過ぎてしまうのだ。時間はとどまることを知らず、一刻を刻む。

 時計の時刻を見た。年は越していた。今年もコタツの中で温もりながら父とテレビを見ていた。そして朝には初詣に行き、近所の神社を参拝し、立ち並ぶ屋台を眺め練り歩くと片倉と会った。片倉も僕らと同様で、その後は共に行動した。片倉の母親はいなかった。年末疲れで寝ていると片倉は言った。

 それはあっという間に迎えた。学校が始まっても、時々雪が降る。その雪が降った時、ある手紙を受け取った。三回目の授業参観に関する手紙だった。

 以前、二回のうち初めの授業参観は父が仕事で来ることができなかった。次の授業参観は来てくれたのだが、片倉の母親は二回とも来なかった。

 僕は気になって片倉に聞いた。もしかすると、今まで来たことがないのか、と。

 片倉は答える。

「そうだな…そういえば、ないな…」

 来てほしくないのかと言った。

「いや、別に…何て言われるか分からないし、きっと本人も分かってんだろうよ」

 本当にそうなのか。僕はそれらすべてが、詭弁に思えてならない。僕は片倉の意思を知りたかったからだ。そう思いたい自分がいたのかもしれない。

 しかしそれはさらに奥地に踏み込むことになるような気がして、なかなか言い出すことができなかった。片倉の家の関係は僕には関係ない。だが僕は片倉の友人であり、親友だと思っている。だからなのだ。悩む必要があった。

 帰りに一つ、言ってやることにした。

「授業参観にお母さんとか、見てきてほしくないの?」

 片倉はまた同じことを言った。

「いやいや、そういうことじゃなくてさ、おまえ自身はどうなの?来てほしいの?」

 片倉は首をかしげて、頭をかいて、唇をかんで、することを全てやりつくしてしまったようで、ようやく観念したかのように口を開いた。

「俺は…来てほしいよ、それはさ。一回ぐらいはさ…俺が学校にいる間はさ…」

「それだったら言えばいいじゃんか。今まで来てもらったことないんだろ?」

「そうだけど…言いづらいんだ、何事もさ。ほら、俺の家、貧乏じゃん。おふくろ、頑張ってるしさ、俺がワガママなんて…だめだと思うんだ」

 僕は片倉の家が貧乏であることを知っていた。だからきっと、片倉は迷惑をかけたくなく、むしろ協力したいという気持ちも分かった。だが自分を尊重しなさすぎだとも感じられた。

 片倉はきっとこれから先、後悔すると思う。これがきっかけで母に負担をかけて、または人間関係に大きな変化があって人生が崩れるか、片倉の意思を抑えてこの時の自分に対して悔やむのかでは、前者は当然ながら未定である。しかしその代償は大きく思えた。そんな些細なことで大げさな、だがこれがきっかけで片倉の欲望は大きくなるかもしれない。そして大丈夫だろう、まだ大丈夫だろうと無理をさせたなら、いつかはそうなるだろうという仮定である。

 しかし片倉に限ってはそんなことはないと僕は思っていた。こんなの勝手な先入観に違いないが、ただ後は片倉の意思である。この二つの選択肢を片倉が選べばいいのだ。

「でもさ結局、お前次第だろ、やっぱりさ。多分お前、まだ一度も授業参観のことなんて言ったことないだろ?」

「…まあな。手紙は出してるけど、見てないフリしてるみたいでさ…」

「来てほしかったら言うべきだよ、絶対。本人も知りたいと思うよ、お前の気持ち。いくら家族たって、言わなきゃ分からないことってあるもんな」

「そうかなぁ…」

 片倉はうなり、首をひねった。その場では答えを導き出すことができなかったようで、それきり別れ際まで僕らは一言も話さなかった。

 だがその帰りの小さな背中を見てみると、ますます小さくなっていくのが分かった。



 コタツの上には手紙。それを見つめて考えていた。歩いていてもこうやって座っていても答えは出なかった。

 一度しりを持ち上げて台所で口に水を含んだ。頭がすっきりしたら、もしかしたらポツンと立っている何かがあるかもしれない。今必要なのは答えだった。自分で決めることはできなかった。

 コタツに戻り、また座った。今度は考えることをやめた。のほほんと体を温めていた。

 するといつも通りの時間にドアが開いた。

「ただいま…」

 いつものように疲れ果てた声。

 コタツの中から手を出して手紙に手をかけた。だがそれは遅かった。居間の引き戸が開いた。

 目が合い、手が下がる。またコタツの中に手を戻した。

「何それ?」

 寒いとつぶやきながら座って、手をこまねきながらコタツに入った。手紙を手に取った。

「いや…ちょっと話があるんだけど…」

 驚いたような表情。まるで眉を読むような、強い眼差しを向けられた。

「…それでね…あの…それ」

 手にした手紙。眼光はそれに移る。

 一瞬の間だった。続きを言おうとしたのだが、耳にした声は違うものだった。

「そう…今回は考えておくわ」

 違和感が漂った。声質が普段と異なるものを感じた。心に霧がかって、もやもやしてならない。しかし後から突撃されてなお、残る多い足あと。

「ああ…そうなんだ」

 もうどうしようもできないような気がした。頭の上に浮いた泡をつかみたい気持ちだった。

 いまだ冷えた手をコタツから出すと、台所へその背中は消えていった。



「それで言ったの?」

「それがさ…分からねえんだ…」

 片倉は深刻そうに白いため息を吐いた。

 前日また雪が降り、道端には積もった雪がうっすら残っている。空は曇天、未だに降る予感を漂わせる。車は朝早くから走っていたようでその足あとを残していた。

「それって、どういうこと?」

「先に言われちゃったみたいで…考えてくれるってさ」

「そうなんだ…」

 片倉の口からは答えは聞くことができなかったのだが、なぜか僕の心は穏やかに安心さえ感じていた。

「大丈夫だよ、きっと。来てくれるよ」

「そうかなあ…」

 顔が曇り続けている片倉を横に、僕は空を仰いだ。

 今日も寒かった。また雪が降らないかな。

 僕は雪が好きだった。今までは遊べるから楽しいと思っていたのだが、もう一つの一面を見つけたのだ。もう一度あの景色を見たかった。

 今日の積もり具合としては浅かった。これではすぐに解けてしまうことが分かる。冬休み中に一度だけ大雪が降ったことがあった。

 その次の日、僕は片倉についていって山に登った。辺りは積雪がある。木の天頂から木々の合間にも、一面満遍なく敷き詰められていたように白く光っていた。変わってその日は晴天で、しかし雪は解けようとはしなかった。片倉は言った。踏み外すなと。時々深く積もっているところがあるようで、そこを歩くなということだそうだ。天気は晴れ、しかし木に囲まれたそこは身が震えるほど寒かった。そんな思いをしながら頂上まで上った。

 まったく違ったのだった。夏や秋と同じところで見た景色、ただきれいという言葉では収められなかった。たった一色の色で染められて、ところどころ星のようにまぶしく光る。

 それがもう一度見たかった。今では木の上にはちょこんと帽子のようにかぶるだけ。

「また雪降らないかな…」

「えっ。昨日降ったじゃん、夜にさ」

「いや、もっとだよ。背丈ぐらい」

「そんなことになったら埋まっちゃうし、学校にも行けないし…」

 片倉ははっとしたような、目をぱちぱちと見開いた。

「…そうだな。それぐらい降っちゃえばな」

 僕は道端の雪をすくった。それを丸めて、片倉にむかって投げた。粉みたいな雪でなかなか丸められなかったのだが、小さいながら片倉めがけて飛んでいったのだが手前で墜落した。

 しかしそれにも気付かないで空を見上げたままの片倉が立っていた。

 その片倉の頬に雪をつけてやった。

「つめたっ…なんだよ、こいつ」

 片倉は道端の雪をすくうと、丸めて投げた。僕は逃げなかった。案の定、その雪は僕の足元に落ちた。

 僕は一目散に、雪道に滑らないように気を付けながら学校に向かって走った。

 片倉はまた道端の雪をすくうも、もう僕と片倉の距離は十分に離れていた。その距離は学校に入るまで縮まることはなかった。


 あれからこの日まで、時の流れは早く感じられた。今日まで晴れが続いて、雪もすっかり解けて道が広く感じられた。太陽が掃除してしまったのだ。

 もうあの雪は見られないのかな。また来年なのかな。

 そう思うと無意識にすとんと肩を落とし、ため息が出た。

 しかしその反面、今日は楽しみの日でもあった。後はその時を待つだけだった。隣で片倉の背中はわなわな震えていた。

「どうしたんだよ」

「いや…ちょっと…な」

 片倉の気持ちは分からなくもない。だがこれだけは確かな確信はなかった。きっと僕の想像以上なのだろうが、もしかしたらが更なる恐ろしさが片倉を襲っているのかもしれない。

 まもなく始まるのである。

 本当にあれは片倉の望みだったのだろうか。今になってはこんな様子、僕は気の毒に思い、余計なことをやってしまったのではないかと後悔さえ感じた。

 この日まで片倉の様子はおかしかった。あの日からだ。おかしかったのは様子だけではない。近寄り難かった。これほど言葉を交わすことがうまくできなかったのは初めてだった。

 その間に、僕は孤独を思い出した。たった一人でいたあの時、家に帰るまでが、まるで時間が止まっているようで恐ろしかった。あの助けを誰に求めればいいのか分からないで一人ぼっち、孤独を味わう虚無感。もう二度とは味わいたくなかった。

 僕らは今日、いまだ朝の挨拶のみを交わしてそれっきりだった。

 こんなに近くにいるのに、これほどもない距離を感じていた。

 先生が黒板の前に立った。

「では、これから授業を始めたいと思います。日直」

 起立のついでに僕は背後をのぞいた。父は来ていた。母親だかりの中に父はうまっていた。しかし他の父親もわずかながらいた。右から左へ見てみたのだが、片倉の母は見当たらなかった。

 そうして授業参観は始まった。

 いつものように淡々と授業を進める先生。それにも関わらず士気が上がるクラスメイトたち。手を上げてははつらつと答えていた。

 その空気から外れて僕は片倉のことが心配だった。片倉をチラッと見てみると、なんだか安堵の表情を浮かべ、口元が笑っていた。

 そして後十分で授業は終わろうとしていた。教室の後ろ扉を開ける音が聞こえた。僕はまたのぞくように見た。父だった。

 急いでいるようで、しかし殺気立っているようにも見えた。

 荒々しく扉が閉められて、皆の肩が一斉に反応した。

 耳が急に熱くなった。突然の不可解なことにつばを飲み込んだ。首筋をなでてどうにか自分を落ち着かせようとした。手が震えていた。周囲の目が気になった。僕は目を伏せた。

 先生もしばらくの間、呆気にとられていた。動くはずのチョークが止まっていた。後ろで小さく騒ぐ保護者たちは口に手を当て、隣と見合わせる。

 教室前の廊下を通り過ぎて、誰かと話して、さらにその音と声は遠くへ離れていく。

 この状況を打破したのは先生だった。我に返ればチョークの音でまた全員を注目させるなり、続けて説明をした。

 僕は授業よりも父のことが気になり始めていたのは言うまでもない。唯一の救いは残り少ない授業時間であるということだ。

 片倉の視線がゆっくりと頬に当たるのを感じ、うつむいた。もう父のことしか考えていなかった。父の不可解な行動に疑問符を頭の上に浮かべながら悩み苦しみ、四面楚歌を味わうような気分だった。

「…では、今日はここまで。日直」

 そうして終えた授業参観だが、不穏な空気が教室に残ったままだった。

 僕はそっと教室を出た。父の向かったほうへ歩いた。しかしどれだけ歩いてもその姿はなかった。帰ったのだろうか。

 廊下には父母が溢れ始めた。その中に父が混在していないかを慎重に確認しながら歩いていたのだが、男の人だけを探すのには困難はないのだが、どこにもいなかった。

 僕は来た廊下を戻った。

 父はどこへ行ったのだろうか。何をしに途中で抜け出したのだろうか。


 その帰り道だった。片倉と肩を並べて帰る道。

 それは唐突に、片倉は口を開くのだった。

「お前の父さん、どうしちゃったんだろうな。なんか急ぎの用でもできたのかな…」

 そんなことはなかった。僕は出てくる前に確認した。父は昨日までにすべての仕事を終わらせたとはっきり言った。しかしそれも嘘なのかもしれない。それはないと自分のこことの中でつぶやく。父は嘘が大のつくほど嫌いだった。だが嫌いな人をいざ重要になってみると、起用する事だってある。

 心の中で葛藤が始まった。こんな結論、どちらでもよかった。

 いざこざをしている僕をよそに片倉は続けた。

「あーあ、なんか…無駄な気、使っちゃったなぁ…」

 争いはいまだに続く。しかしその声はしっかりと僕の耳に届いていた。そしてそんなことさえも忘れてしまった自分を思い出した。代わりに忘れるものがあった。

「そういえばどうしたんだろうな。来てなかったじゃん。本当に分かってたのか?」

「…多分、そうだと思うけど…」

「曖昧だな…お前」

 二人とも黙り込むような形となって帰る帰り道。いつも通りの道をいつも通りに帰っていたのだ。そう、いつも通りだ。そのいつも通り尽くしの道である一つの不自然な光景が見えたのだった。どういう経緯でこのようになってしまったのか。

 喫茶店で父と片倉の母が一緒にお茶をしていたのだった。

 片倉は気付いていないようなので、肩を軽く叩いて指を指す。その方向に視線を向ける片倉は仰天した。

「なんで…?」

 二人は顔を見合わせて同じ言葉を言った。喫茶店の窓をじっと見つめていた二人。

 二人は深刻そうに話しているようにも見え、はたまた喧騒にも見えた。それは互いの眉も口元も吊り上っていたのだ。目は血走り、強い眼光で互いににらみつけていた。そんな状態なのにわずかに口は動いていただけだったが、ガラス越しでも力強さが伝わってきた。

 しばらく口論を展開しているらしかった。すると父は何かを取り出して机の上に置いた。あれは千円札だ。伝票の上に置いたらしかった。父は席を立った。

 僕らは急いで店と店の間の路地に駆け込んだ。壁に張り付いて胸の鼓動は高鳴るばかりだった。

 カラン、コロンとドアが開いて父は出てきた。そして狭い路地の間を気にもせずにずんずんと目の前を過ぎていった。

「なんだったんだろうな」

 僕と片倉は目を見合わせた。

「分からねえよ…何なんだよ…」

 父が遠くに行ったことを確認すると、道に出て父の後姿を見た。すぐに角を曲がっていなくなった。

 一方、喫茶店に残る片倉の母は思いつめたような目で、伸ばす手はティーカップに。一口飲むと落ち着いたようで、目をつむった。次の瞬間だった。あるまじきものを見たような気がした。あれは一筋、涙のように思えた。

 もし涙なら、泣く意味はなんだろうか。父に泣かされた。父にひどいことを言われた。それなら父との関係はなんなのか。父となぜここでお茶なんかしているのだろうか。

「ほら、行こうぜ」

 片倉に早くとせかされる。母のことに気付いていなかった。

「…ああ」

 僕もそこから立ち去りたいと思っていた。そこに居続ければ見るものはただ一つ、それだけを見ているような気がする。僕はそういう人を見るのが好きじゃなかった。自分も影響を受けやすいのだ。そんな気分を味わいたくなかった。

 僕らは各々の家に向かって走った。


 僕はどうしようと考えた。

 父はいつも通りに台所で自慢の腕を振るっていた。

 あまりにいつもの日常と同じように振舞うので異様に思った。現実の裏側、夢を見ているようで、いつもいたいと思っている空間なのに今はなぜか脱出を望んでいた。

 僕は好奇心と興味で押されるとどうしてもやらずにはいられなかった。

 父はテーブルに食事を並べ始めた。

 僕は席につき手を合わせた。そして食べながらいつ話すかと迷っていた。今、話すか。まだ、もう少し経ってからか。いや、やはり食べ終わってからだ。そうすればいつだってその場から脱することができる。

 音沙汰もない会話が終えると父は食器を片付け始めた。

 後は決断を自分で自分に見せるだけだ。

「父さん…今日の授業参観、どうして途中で抜けたの?」

 父は一時体が止まったのだが、すぐに再び食器を片付け始めた。

「ああ…あの時は、悪かったな。ただな、いいことを思いついたんだ、アイディアが」

 父は動揺する素振りも見られなかった。声質も変化はない。

「そうなんだ…」

 僕は流しに食器を片付けに行った。その時の父は微笑んでいた。流しにたまった汚れた皿に手をかける。

「頑張ってね。仕事」

「ああ…」

 父は照れながら完璧な演技をして見せた。

 しかし疑問を持った。父は嘘が嫌いなはずなのに、そんなに隠したいことなのだろうか。それとも僕に言う必要がないからか。それだったら教えても構わない。それなら隠したいことか。あの二人の接点は何なのだろうか。せいぜい僕らが友人であることが唯一だろう。それ以外にプライベートで二人に関係があるのだろうか。

 僕はここにはいられないと思った。父の嘘は見たくなかった。笑っていても、それが残酷で恐ろしく、不気味さを感じられたからだ。背筋が凍り、ゾクゾクと気持ち悪さを予知した。

 複雑な気持ちだった。急に父が遠くの存在になってしまったかのように、かつ次第に離れて、それが現実のものとなりそうで、なったことを想像してしまい頭が真っ白になる。

 疲れてもないのにぐったりとして、今日は早く寝たかった。だが今日は寝れないなと思った。頭の中に残り続けるものを処理するまで、すべてを片付けるまでは頭を圧迫してし続ける。

 そんな気力はない。もう時にまかせて寝そべっていた。


 何日が経ったか。それから片倉ともそんな話でずっと、片倉も僕と同じようなことを言ったらしい。

 来なかったわけではない。教室の前まで行ったのだ。凍りつく空気を味わいたくなかった。だけど一目だけは見たかった。

 だが片倉もそれ以上は追求できなかったのだ。

 父の不可解な行動は続いた。休みの日になれば決まって外に出るようになった。買い物や仕事関係でなければ出ることはなかった父が財布だけを持って出掛けるのだった。

 一度その後を付けてみようと考えたが、父でも誰でもない何者が僕の足に緊縛をかけた。

 どんなことをしても僕は父のことを知ることはできなかったのだが、片倉から聞いた話は僕にとっての耳寄りな情報だった。

 また父と片倉の母は会っていたのだった。今度は違う喫茶店でまた話して、その様子は前と同じだったと言う。

 僕はついに決意してその現場を見に行った。

 片倉と待ち合わせてすぐに移動した。自転車で町中をかけまわって喫茶店を巡った。片倉の情報によると、喫茶店を転転しているようだ。多分、その店の人に不信さを抱かせないためだと思う。そしてまだ行っていない喫茶店を片倉が先導で巡り巡った。しかしすべての店の窓からのぞいては見たが、どこにもいなかった。僕らは諦め始めた頃だった。あの人影はお前の父さんだと片倉は言った。僕はその片倉の指先の方を見てみると、確かに父を認めた。すると僕の頭には急に一つのことを思いついたのだった。僕は無我夢中で自転車をこぎ始めた。片倉は待てよと言いながらついてきた。僕は先回りをしたかったのだ。角を曲がり、曲がり、きっとあそこで落ち合うだろう。僕はスピードを緩めた。

「あ、父さん」

 僕の額には汗が滴り始めていた。僕と父が目を合った時、父は罰の悪そうな顔をした。

「どこへ行ってきたの?」

「おい、どうしたんだよ…あ、こんにちは」

 片倉はようやく追いついてきたようで、僕はこれが目当てだった。案の定、父は片倉のほうを見て顔をこわばらせた。

「あ…ああ、こんにちは」

 父は明らか作り笑いで、恐ろしく静かに言った。

 これですべてが解決すると思った。父のことは分からない。だからこれが一番手っ取り早いと思った。もしも片倉と会えば、きっと何かぼろを出すだろうと思った。

「それで、どこへ行ってきたの?」

「ああ…ちょっとな…小説の取材に行ってきたんだ」

 そんなことを言う父なのだが、僕は一つのことに気が付いた。ほのかに鼻をつつく、コーヒーの香り。父から香るのだ。小説の取材に喫茶店へ、と考えてしまえばこれは指摘しても無駄だろうと考えた。

 それで僕は考えた。父の言うことは詭弁だった。

「どこへ行ったの?」

 僕は繰り返した。

「え…だから取材にだが…」

「だから、場所。どんなところに行ってきたの?」

 僕があまりに食い下がるので、父は不審に僕を見たような気がした。

「ああ、それは秘密だ。そういう主義でな」

 そういえば父は小説を書く過程において、すべてのことを秘密にする不思議な癖みたいなものがある。絶対に外部に漏らさないし、知られたくないものだから、僕が用事で父の部屋に入ろうとすると怒るのだ。それは僕も分かって、今では十分に気を遣っていた。

 僕の次の言葉は出なかった。すぐに思い出したことが少し遅すぎた。

 すると父は思い出したように言った。

「あ、秀二。ちょっと話があるんだが…いいかな、片倉君」

 片倉は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

「あ…はい。すみません」

 どうして謝罪の言葉が入るのか分からなかったが、父は気にしない様子で言った。

「そうかい、すまないね」

「いえいえ、こちらこそ」

 片倉は僕をじっとみつめると、じゃあと言い、父に軽く会釈をしてからその後はあっという間だった。

 父と二人きりにしてほしくはなかった。父に取り込まれそうで、呑み込まれそうで、それ以外でも何だか怒られそうな気がして恐怖を覚えた。僕は背後に父の存在を寒気がするほど強く感じた。

「秀二、帰ろうか」

 父は優しく言った。しかしそれは僕にとっての追い討ちだった。

 畏怖を感じながら、僕は自転車を転がして父と並列で帰ることになった。父は何も語らず、そして家に着くまで均衡は破られなかった。

 僕はその閉鎖空間がたまらなくて息苦しかった。首を絞められる思いをじっと我慢していた。

 父はドアの鍵を開けた。ドアが開いたのだが、どうしても異様でいつも見慣れているものとは異なっていた。

 父に続いて家に入ると、父は突然に言った。

「今月で、引っ越すことになった」

 今の僕にとって最もかけ離れている言葉。そして僕にとって最も縁のある言葉だった。

 血の気がさあっと引いた。頭の重さがずっしりと感じられ、後ろに糸で引っ張られてそれに抵抗する。つばを飲み込む。あれ、聞き間違いかな。一度は耳を疑う。しかし再認証を行うと、それは確かに引っ越すという言葉であった。それを否定したくて、間違いであると思いたくて頭の中から引き剥がそうとするのだが、隙間にするりと入り込んでしまってもうどうしようもなかった。だが抵抗は続いていた。

「今、なんて…?」

「去年と一緒だ。三月にまた引っ越す。引っ越す理由ができたからな」

 それは確かに引っ越す、だった。こだまのようにあちらこちら、体の中で反響を続けると、体が震えた。

 そして頭にフラッシュバックのように甦ってくる記憶。この思い出に成り果てた記憶らは僕のものだ。そしてまたここに同じようなものを並べるんだ。僕はそう思っていた。

「いやだ…何で…なの?」

 僕の心は震えていた。訳も分からずにこみ上げる感情。そして熱い涙が頬を滴った。

「…諸事情だ。しょうがないだろ」

 父は厳かに言い残すと書斎へ入っていった。僕だけが廊下に取り残されたままで。

 立ちすくんでいることも忘れて僕は父の書斎のドアを見つめた。考えていることはなかったと思う。自分の無力さに絶望していた。

 今までが自分の都合により引っ越してきたのだから、もちろん父の都合も聞き入ればければならないようなことは分かっていた。むしろ子供の自分が勝手気ままにあれこれ言うことではないし、今までが勝手気ままだった。

 父の単なるワガママかもしれない。だが振り返ってみてもワガママなんてない。それに僕が父にやってあげられたことなんて、この人生で何もない。僕がもしここで反抗して父の迷惑になるようなことがあったなら、僕はただの親不孝に違いない。

 だけど、僕の気持ちはどうなのか。それはしっかりと固まっている意思。それを覆さないといけない事実。そうしなければならない事実。無条件でも受け入れないといけない事実。

 しかし僕は目を赤く腫らして、靴を履いて思い切りドアを開けた。後ろからドアが開くような音が聞こえた。そして声も聞こえたような気がした。

 僕は走っていた。無我夢中で目の前が涙で見えない時もあった。涙をぬぐい、足元に気付かず何回もこけそうにもなった。途中で疲れて止まりたい時も休まずに走った。僕には行きたい場所があった。もし止まることがあれば、もうそこにはたどり着けないような気がした。そして足はきびすを返して家に戻ることだろう。

 その道、僕を妨げるものは一切なかった。

 息を切らして階段を上った。そしてある部屋のドアの前に立ち、呼び鈴を鳴らした。なかなか出てこないものだから指はあせっていた。

「何ですか…あ、お前か…どうしたんだ?」

 真っ赤に腫らした目でがくがくした足。息も激しくて、片倉に会ったことより安心してしまって、またぼろぼろと涙を流した。

 片倉はどうしようもなく、あたふたと戸惑っていた。その時だった。奥からのっそりと出てきた女の人。

「…どうしたの?」

 片倉の母だった。頭を掻いて出てきた女性は今まで寝ていたようで、髪はぼさぼさとしていた。

 僕の様子を見るなり察したようだった。もしくは今までそういう話を父から聞いていたのだろうか。

 片倉の母は目を見開き、眉間にしわを寄せて玄関においてある鍵を握りしめて、その格好のまま外に出た。

「ほら、君、来なさい、こっちに…創一は家にいなさい。分かったわね」

 片倉に指を刺して僕を呼ぶ。

 片倉は玄関先で立っていた。何が何だか分からないのは片倉だけだろう。

 僕は片倉の母についって行った。階段を下りて、ついて行った先は駐車場だった。そこには黒い軽自動車がある。

「ほら、乗りなさい」

 僕らは車に乗り込んで、車をふかせる。

「君はどこに住んでいるの?」

 タバコをいったんくわえたが、しばらく静止した後、そのタバコはもとのタバコ箱に入れられた。

「…○○マンションです…」

「ああ、一階に噂好き大家の住んでいるマンションね…行きたくないわ」

 ぼそっとつぶやくと、マニュアルを動かして車を発進させる。かなり荒い運転だった。対向車が来たらすれ違うことができないほどの狭い道を壁すれすれの運転を続けた。彼女は集中しているようで、きっとした細いまなざしで口を固く結んでいた。

 僕は不思議と、片倉の母を頼もしい人に思い始めていた。

 そして瞬く間にマンションの駐車場に車は止まった。

 僕はシートベルトを取ってドアを開けようとしたところだった。

「君…今の生活、どう思う?」

 片倉の母はフロントガラスの向こうを見ながら唐突に言った。

「今の生活って…?」

「君と…君のお父さんとの生活…お母さんいなくて…寂しくないの?」

 僕は考えた。今日まで、それは満足のいくものだったと思う。生活に不都合な事だってなかったし、不自由なく暮らしていたといえばそうなる。それなりに、楽しい生活だった。しかしジグソーパズルのようにたった一つだけない欠片。それは父が隠していること。母についてのこと。何度も考えた。もしも母がいたなら、とも考えた。しかしそんなことをして結局、むなしさに終結するだけ。考えても悲しいことだった。

「いえ…寂しくないと言ったら嘘になります。だけど…今の生活で大丈夫です」

 片倉の母は一度鼻をすすり、後頭部のクッションに頭をのりかからせた。

「君、強いんだね…行こうか」

 彼女のその言葉はどういう意味合いを持っていたのかは分からない。しかしその言葉で勇気付けられ、信頼さえ寄せるようになったのは間違いなかった。

 僕は階数を告げ、片倉の母を追いかけた。階段を上り、ひたすら背中だけを見ていた。時々すれ違うように見える横顔が切迫していて、その緊張感が伝わった。

 その目的の階数にたどり着くと、僕は部屋番号を告げた。

 そして僕らはその部屋へ向かう時、片倉の母の足は突然止まって振り返った。そして僕と同じ高さになるように屈み、僕の目を見つめて言った。

「君…秀二…君。一つ聞きたいことがあるんだけど…もし…お母さんがいき…」

 中途半端に言葉をやめた。視線を落として、下唇を噛んだ。何か考えているようだった。まるで何か大きなものと戦っているようで、それと戦うために決意ができないようでいるようであった。

 そして一度目を閉じて言い直した。

「…君はここで待ってて、ね」

 階段の壁に隠れるよう指示を受けて、僕は疑問を持った。ここで待つ意味はない。父に僕の意見を伝えたかった。たとえその行為が親不孝であっても、やはり僕はここに居続けたかった。

 僕はこっそりと後をつけようとしたが、振り向き様にする優しい目が合ってしまうと、圧力を感じて静止せざるを得なかった。いや、違うことで止まらなければならなかったような気がした。僕はそこから一歩も動けずに壁から見守ることになった。

 チャイムを押した。怪訝そうに咳き込む。何かつぶやいた。

 ドアが開く。ドアは開いただけで、父は顔を出さなかった。

 きっとした目に変わり、唇を動かす。そしてドアの向こうへ片倉の母は消えていった。

 僕の見たのはここまでだった。僕はここで待っていた。いまだこの季節は寒かった。階段に座ると、石階段であるので冷たい。そして風が吹けば壁が防いでくれるも跳ね返ってくる風があった。手をこすり合わせてとにかく待っていた。

 しばらくする頃合、ふと僕が耳にした不思議な音。いたそれは音だっただろうか。人の声にも聞こえた。風がさえぎっていた。その音かもしれない。僕は耳を澄ましてみた。すると今度ははっきり聞こえる人の怒声。

 まさか、と僕は立ち上がった。そして家に向かって走った。

 勢いよくドアを開けようとドアノブに手をかける。そのたった一枚の板の向こうから聞こえてくる怒鳴り合いがあった。

「――が勝手に出て行ったんだろう。あの子を残していって…それで何だ。俺が何を言っても出て行ったくせに、今度は引き止めるって言うのか?」

「だから違うわよ。そういうわけじゃないって言ってるじゃない。だから何で引っ越すことがあるって言っているのよ。関係ないじゃない、あの子らには」

 父は非感情的だ。その父が火花を散らしている。そのことは驚いた。だがそれよりももっと驚いたことがあった。

 今の会話で、僕はどんな存在であるのか、ということ。

「それで何?あなたは私に何をしたいの?そうやって引っ越して嫌がらせ?子供はまったく関係ないのよ。あなたの勝手な私事で周りを巻き込むの?そういうわけ?」

「まったく違う。何で近くにいると思うだけで苛立つような人の近くにいなきゃいけない。それにお前はあの手紙を残しただろ。もう会わないといいねってな」

「今ではそれが変わったのよ。あなたも分かるでしょ。勝手すぎるわよ。あの二人が…」

「勝手はどっちだ。勝手に出て行ったお前が言える立場か―」

 僕は外の寒ささえも忘れて、しばらくその二人のやり取りを聞いていた。僕は父の何で、片倉の母の何で、どの位置にいるのだろうか。それも会話から理解し始めていた。

 つまり、あの人は僕のお母さんなのか。

 この板一枚の向こう側で繰り広げられる、壮絶な口論。これがいつまで続くのか、父の事情、母の事情、そんなことはどうでもいい。今は僕と、片倉の位置だけが知りたい。そうすれば頭の中の乱は収拾がつく。

 二人の会話に耳を傾けも、何も考えていないでただそこに一人直立していた。その時である。

「おい。どうしたんだ、そんなところで」

 片倉だった。中の騒がしいことを気にしていた。

「なんで、ここにいるんだ」

「いや、やっぱり気になってさ。ここかな、と思って…おい、どうした」

 本当にどうしたことだろう。目からまた熱いものが流れてくる。くしゃくしゃな顔をして鼻をすすった。

 片倉はそんな僕を見ていて困り果てていた。

「おいおい、泣くなよ…ほら、な」

 片倉になだめられて僕はようやく泣き止んだ。泣いたことで、頭の中のパニックは少し落ち着きを取り戻していた。

「だって…だって…」

「ほらほら、分かったから。中に入って止めよう、な」

 片倉はこの状況を瞬時に理解しているようであった。だが僕の泣いている本当の意味を知らない。そのままこの部屋のドアを開けたのだった。

 異様な光景だった。そこはまるでテレビが静止したような、音もなければ誰も動かない奇妙な光景。急なことに驚きを隠せない二人。そしてこうなってしまって用がなくなってしまった片倉。どうしようもないほどの静寂が続いた。

 この状況を見られた二人。さらに壊滅的な話を血の気たっぷりの大声で言い合っては後悔せざるをえなかった。

 二人は互いに近い距離にあるのに気付いて、距離をあけた。

 片倉はよくよく考えると、なぜこの二人が言い合っているのか、という理由が何なのかが分からないまま突入している自分に気付いていた。

 誰かが動くまで動かないような、張り詰めた状況で僕は片倉の開けかけたドアをさらに開けた。部屋にわずかながら光が差し込まれた。

 片倉の母が切り出した。

「…ほら、入りなさい…そこにいると風邪を引くから――」


 そこから長い話をされた。

 二人と僕らで向かい合わせられて、時々間に突っ込みが入れられて、二人で交互に話すようにして、正しく事細かに僕らに伝えられた。

 僕らの関係は、この目の前にいる二人は僕らの両親であった。そして隣にいるのが兄の創一。その経緯としては父と母は結婚して間もない頃、父がまだ小説家でなかった頃、僕らは生まれた。そして生活が忙しくなるような、二人が手を取り合い歩まなければならない人生で、母は出て行った。その理由はただ、シングルマザーになりたかったからだと。結婚する前から心中に抱いていたことであり、一度父に言ったそうだが父は結婚後に考えは変わるだろうと思っていた。しかし母は揺らぎもしなかった。そして出産後、また母は話を切り出した。その夜、二人は大喧嘩をした。そして母は一年間考えることにした。その結果を出した次の日、保育園に預けられた僕らのうち、早く母を見て走り寄った兄を抱いて出て行った。そして家に帰るとそのことを記した手紙を見て父は保育園に急いで向かった。

 驚いていたのは片倉だけ。僕の中では半ば整理がつきかけたところをただ触られただけ。ただ母に会えたことが感涙極まり、それを堪えているので必死だった。今まで死んでいたと思っていた母が、適当な想像で作り上げた偶像が、それらの存在が大きく異なっており、とても嬉しかった。

 だがそれに水を差すような残酷さがさらに僕の中で芽生えるのだった。母のことを忘れていたということだ。いくら幼くたって、ほんのりと憶えていなかった自分が甚だ許せなかった。父が母は死んだと記憶操作をしたせいでもあると思うが、やはり僕次第であることだった。

 そして僕は目の前にいる両親のことを考えた。

 きっと父はこの過酷な境遇に突然見舞わされて、怒るのは当然だ。勝手な見解によりこうなってしまった結果はあるものの、子供の将来を見据えた事としては、母が間違っている。だが自分の人生でそれを考えるとしたら、自分を優先に尊重するのは当然だ。自分の人生を全うしたいのは僕も同じだ。しかしそれのせいで目の前にあった理想を跡形もなく壊された父の気持ちを考えれば、僕はどちらにも肩を持つことはできないなと思った。

 そして父は言ったのだ。

「俺は引っ越したい。だが…もし秀二がここにいたいのなら、母さんに預ける…もちろん生活は不自由なくする」

 父の許せない感情は折れることはなかった。だがこれからも折れないことだろう。

 今度は母が言う。

「創一も、し…秀二といたいのなら…ついていってもいいのよ…」

 二人の気持ちは痛いほど伝わった。それなのに僕らは無力だった。その言葉は単純に誘いにしか聞こえなかった。子供を尊重したいが一人は嫌だ。二人の間は亀裂。誘惑に魅力は感じられない。だが人の情けは感じる。それだけを武器に、自分だけを見てほしいと願っている。それが残酷で、情けなさを感じて、到底選ぶことなんてできない。

 僕は片倉を見た。うつむいて目に力を入れたり入れなかったりを繰り返していた。この目の前にいるのが双子の兄に思えないのはなぜだろう。僕の心の中ではいつまで経っても仲の良い片倉だった。

 何も言いそうにない雰囲気を感じた僕は、片倉は期待をできないと感じた。だから僕は言いたいことを言おうとしたのだ。

「ちょっと…時間くれないか…」

 あれ、と片倉の方を見る。片倉の顔はすでに変わっていた。冷たい目で物事を白黒付けようとするような目だった。疲労困憊で話を聞くのにも嫌な気分であると感じられた。こんな片倉を見るのは初めてだった。

「え…ええ…」

 二人は声を合わせて同意した。動揺は隠せなかった。

「ほら、行くぞ」

 その変化した姿に僕は圧倒されていた。

 父と母を残して片倉は先行、僕の部屋に向かった。

 部屋に入るなり片倉は冷たさを感じる声で言った。

「お前はどうしたいと思っているんだ?」

 僕は正直迷っていた。本当であったらここにいたいと思っている。いやそれよりもあの二人の復縁を願っている。だがそれがないから迷っているのだ。可哀相という理由ではなく、いつも面倒を見てくれて優しい父を一人にしておけないし、だからといってまだ一緒にいたい片倉とも離れたくないと思っている。それに突然で戸惑いを隠せなかった、生きていた母。それも身近にいたのだ。もう過去のことはどうでもいい。十分といえるほど甘えたかった。

「僕は…」

 しかし決断は下せなかった。たった二択の問題がこれほど難しいものだとは思わなかった。辛さと悲しさが重なった。もう少し考えていたかった。僕はどうしたいのか分からない。何か動くものが欲しかった。

「お前は…どうなの?」

 聞くのが恐かった。変わらず片倉の目は冷酷で僕をにらみ続けていたからだ。

「あ、俺は…」

 片倉は考えているより、無視していた。顔色一つ変えずに歩カーンとした表情でいた。

「お前、何考えているんだよ。さっきから何なんだよ」

 僕はその何にも考えていないような片倉の態度にいつか怒りさえ覚えていた。

「俺は…」

 まだ同じ態度をとり続ける。それがはぐらかしているように思えた。

「ふざけんなよ。僕は真剣なんだぞ」

 僕は片倉の胸を思い切り突き飛ばした。

「…何すんだよ」

 片倉も僕を突き飛ばそうとする。僕はそれを予想していたのでよけることができた。そして僕は胸倉をつかみ、殴り合いになった。

「てめえ、ふざけてんのかよ。本当の親だぞ。会えたんだぞ。さっきからその目、その態度、何なんだよ。みんな、真剣なんだよ」

「お前こそふざけてんだろ。あんな親のせいで人生をぶち壊されてんだぞ。許せるわけねだろ」

「それだったらどうすんだよ。僕らだけじゃ生きていけるわけないだろ」

「それでもだ。何で俺たちがあんな勝手な親のために真剣に考える必要があるのか?そんなわけない。真剣に考える必要なんてないんだよ。今までが俺たちを二の次にしやがったやつらがなんで親なんだよ」

 僕らは自分の内に隠していた感情を互いにぶちまけて、殴り合って、泣きじゃくって、大盛大に部屋をめちゃくちゃにした。机の上にあるものが落ちて壊れるわ、ベッドのシーツは破けるわ、カーテンははがされるわ、ついに僕らは上半身裸にまでなった。

 部屋の外から声が聞こえたがそんなの構わない。

「てめえ、あんな親のこと考えていられるか?俺たちなんか結局どうでもいいんだよ、あいつらにとってはな」

「違うんだよ。僕は――」

 思い思いにぶつけ合う罵倒に罵声。そして僕はやっと会えた母のこと、今まで優しさを与え続けた父のこと、その思いを声にして片倉に浴びせてやった。

 次の瞬間、父と母が飛び込み、あっという間にこの喧嘩は鎮圧した。ただ残るのはめちゃくちゃになった部屋と、あざになるであろう生々しい傷跡だった。

 僕はまだ息を荒くして興奮していた。まだ殴り足りない。もっとやらせろ。手を握りしめて捕まえられている腕を振りほどこうとする。

 しかし腕は動かなかった。がっちりつかまれていた。

「離せよ。こいつに根性を叩きなおしてやる」

「ふざけんじゃねぇ。それはこっちの台詞だ」

 わめき、騒ぎ、まるで犬のように吠えていた。この時はもうすでに目的がまったく違うことに僕らは気が付いていなかった。ただ目の前のやつを思う存分に殴りたかっただけだ。

 その頃、二人を制止しようと必死な両親は自分を省みることになっていた。目の前の光景が心を開かせていた。

 その空間にいた誰もが疲れ果たした時、もうすでに夕暮れを迎えていた。部屋に差す光のそのほの暗さに誰もが心を落ち着かざるをえなかった。今まで何をやっていたのだろう。また今日までを再び省みる機会を作った。

 この部屋のあちこちに互いにいたい場所に散り、自分を思い起こしていた。

 まさか今日の朝、夜にこんなことをやるとは予測もしていなかった。

 僕は今までの人生、家族のこと、自分の今までの哲学、運命について、この街に着てからのこと、今までの理想、そして僕らの未来のこと、これからのことを考えていた。僕は今回の機会により、穴を埋める作業ができた。そしてその作業を終えると後から募る、切なさと悲しさ、最後にこの上ない幸福も感じられた。僕はこんなことを考えていられることが嬉しかった。家族を思うことがこの上ない開放感を、そして僕の正しい位置が導き出された。

 僕はいつの間にか寝ていた。僕の部屋、シーツがないベッドの上で横になっていた。

 次の日の朝、いつの間にか母と片倉はいなかった。父と母は夜に話し合い、とりあえず今の段階としてはしばしの休戦を考えていた。

 だがうまくはいかなかった。結局、引っ越すことになってしまった。人間なんてそんなものなのはもう十二分に理解している。

 その引越しの日までは学校に行った。片倉ももちろんいる。僕らは話すことはできなかった。互いにくだらない意地で背中合わせのままだった。

 それなのに僕はたった一言だけを言いたかった。悪かった、と。

 しかしそういう時に限って皮肉にも事は潤滑に進んでしまうものだ。その日になってしまって、またここに来た時と同じ業者に同じように家具類を積まれる。

 僕は父と行くことにした。もともと母のことを知らなければこうやって父についていくことだし、それにこれも何かの運命だと思った。もしもここから逃げたらこの人生、台無しになるような気がした。もう自分のために生きる人生を求めることにした。

 僕は父と車に乗り込んで、この町を惜しんで外を見回した。いや、惜しんでいるより、何かを期待していた。もしも期待通りになれば、僕はしたいことをする。心に決めて昨日は寝た。しかしそれもできないのか。

 引越し業者の仕事は終わって、ついに車は発車された。

 こうなるのだったら自分で家に行けばよかった。だがそんな勇気はなかったから今まで、ここまで胸に抱いたままだった。だけど、もしかしたら今から父に言えば、つれていってくれるかもしれない。切り出してみよう。

 しかしどうしても声が出なかった。口は開くのだが、その後の大事なことができない。

 僕は座りなおして、町を名残惜しくも心にしまうことにした。ああ、そろそろこの町を出るんだな。ここに戻ってくることはできるだろうか。ここにまた来る機会があるだろうか。もしかして、永遠にこの土地を踏まないかもしれない。

 すると心臓がヒモで絞まられた。胸が痛かった。この車に乗って次の土地に行くまで、この状態のままでいるのだろうか。これでいいのだろうか。これで。

 開いた窓から風が吹き込んでくる。その時だった。ここでの思い出が脳裏によぎる、決定的なものが耳にすっと入ってきた。耳を澄ましてみる。

「…じー」

 それが遠くに聞こえた。はるか遠く。そしてさらに遠く。山びこのように頭の中でこだまする。

 赤信号で車が止まった。

「秀二――」

 その声ははっきり聞こえた。僕は窓から身を乗り出した。

 父は驚き、どうした、早く戻りなさいと言った。

「秀二――」

 それは確かに片倉、いや兄の創一を目にした。創一は走っていた。この赤信号で追いつこうとしていた。

「僕、言いたいことが…」

「元気でなー」

 創一は自分のことでいっぱいだったらしい。顎は上がって、声はカラカラ、汗は髪の毛を濡らしていた。

 僕は車に戻った。もしものために前に書いた手紙。これを渡そうと努力だけで実りはしなかったから足元の自分のバッグにある。それを取り出して僕は再び身を乗り出した。

「これー。読んでー」

「あ…?何だってー?」

 僕は兄の都合をよそにその手紙を高くかざし、それを道に捨てた。そして一言、思い切り叫んだ。

「かた…兄さーん。またねー」

「あー?何だってー?」

 周りは車で溢れていた。互いにエンジンをふかし、その声は届いたか分からない。

 僕は車に戻った。

「いいのか…?」

 父の言葉に僕はうなずいた。

「…行って。もう一回会うと…もうダメな気がするから…」

 青信号に変わった。

 父は苦い顔でアクセルを踏むのを恐れていた。しかし僕の行っての一言でついに車は発進された。

 僕はバックミラーでしか見なかった。

 兄は後方にいるも、すぐそこにいたのだ。そしてその縮まった距離もむなしく、どんどん突き放される。どんどん遠くに。そしてまた遠くに。小さくなって、やがてカーブでその姿は認められなくなった。

 バックミラーは必要がなくなった。

 僕は座りなおして、ここに来た時と同様の道を通っていたので、過ぎ行く森林を眺めていた。きれいだな。そんな単純な心境でここに来ていた時のことを思い出した。あの頃は確か、ここに来た時はすべてがまぶしくて、それらが宝物だったが、今ではそれも箱にしまわなければならなくなった。またいつかあける機会が訪れることだけを祈るばかりだった。

 そして僕はふと、トンネルに入る前にもう一度バックミラーを見た。

 ふっと揺らいで見える一つの影の口がまた会おうぜと言っていた。




「これはいくらかな…百五十ではどうかな?」

「ん…そうですね…そういえば最近、美術雑誌にも取り上げられて、ますます注目を浴びて人気も出ているようです。ですがこの頃に描いた絵は限りなく希少でありますし…」

「では百八十ではどうかな?」

「二百五十」

「…二百五十?」

「…そうそう。これに二百二十万を付けてくれる人が昨日お越しになられましたが…少し考えましたが、やはり今日のためにとっといておいたのです。それでもし…」

「二百三十」

「二百四十五」

「…二百三十五。これ以上は出せんな」

「現金払いなら少しは安くして…二百四十…いえ二百三十八なら」

「…いいだろう。用意させよう」

 絵を見ていた二人の会談は終わった。その後、黒服が持ってきたアタッシュケースに入った現金を確認して、握手を交わしその場を後にした。

「おいおい。またやったな。今回はどうだったよ」

「まあ、まずまずでしょう。だけどまた株を上げたな、お前。一年前まではあれはせいぜい三万がいいところだったのにな」

「ははは…お前がいるからだよ。こうやって絵にだけに熱中できる。俺は画家、お前は商人。いい職業があるもんだ…」

「まったくだ…ま、今後も宜しくな」

「ああ…これからもな」


これからの参考にしたいと思いますので、良かったら感想をお願いします。よりよい作品作りにご協力ください。

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