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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
十六 敗残者
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愛しているよ!竹ちゃん!

 誠司は助手席の窓枠に寄りかかり、車窓から外を眺めはじめた。

 止まってしまった景色。

 俺は再びエンジンをかけて車を、世界を動かした。


 景色は再び動き出し、車はあの皆川家を通り過ぎ、大通りへと進み、そして助手席側の窓に寄りかかって座っている誠司は幼い少年の様である。

 少年時代が奪われた可哀相な青年。

 せっかく秘密基地を作っても、遊びに来る筈の友達が消えていたと知ってしまった孤独な子供。


「……竹ちゃん。白狼団って、唯の孤児仲間で護り合うためだけの集まりだったんだよ、最初はね。皆で名前を決めたの。俺が作った団じゃないのよ。それがいつの間にか俺が頭領で仲間が全員手下だよ。誠司さん、誠司さん、だぜ。辛いよ。」


 俺は溜息を出して進路を決めた。

 ろくでなしの俺は人を慰める方法を知らないので、俺は誠司に玩具箱の一つの中身を見せる事に決めたのだ。

 田辺が管理する玩具箱には何百もの銃弾と、ライフル三丁にポンプ式散弾銃一丁に試作段階の壊れた自動小銃一丁が詰まっている。

 闇で手に入れた九九式小銃の一丁以外は全て俺の手製だ。


 更紗に再会するまで、俺は新しい武器情報を知っては研究していたのだ。


 まぁ、憲兵を眠らせてその隙に解体組み立てをして情報を得たこともあるが。

 あの組み立ては急いだから銃が暴発していないといいな、と今更思う。

 田辺は眉根を顰めながら馬鹿だ阿呆だと言いながら目を輝かせて俺の作った銃の手入れをし、武器庫の横に作った防音の射撃場で試し撃ちを楽しんでいる。


 田辺はシュミット・ルビンM1889を俺が模造改造したもの、シュミット改が事の他お気に入りであり、かなりの名手となっている。

 俺はスプリングフィールドが改良の余地がありそうで気に入っており、撃つよりも改造を楽しんでいる。

 自動小銃の方は、暴発してから田辺に触らせても貰えない。


「これがあの頃手にあったら、本隊全員俺一人で逃がせられましたね。」


「ストレートプル方式でも結局は手動のボルトアクションでしょ。間が開くからやっぱり無理だよ。土や埃の舞うところでは精度がわからないし、弾切れ弾詰まりしたらお終いでしょ。」


「防衛線に爆弾を設置してそれを撃つのならなんとかなりません。」


「誰が設置するの。爆弾も誰が作るの。俺は地雷は嫌いだよ。」


「隊長が作って設置してくださいよ。」


 そして俺が今日誠司を連れて行くのは、銃は置いていないが戦車が眠っている田辺も知らない俺の秘密基地だ。

 装甲戦車のエンジンは、最近解体した車の物を乗せてある。

 車の総重量に対しパワー不足が否めず、更なる向上への模索が必要であるが、それを考えることこそ楽しい遊びだ。


 誠司も機械遊びは好きそうだ。

 仲間で友達には案内していいはずだ。


 だが誠司は、「銃が良かった。」とぼやくだけのお子様であった。


「戦車あるなら絶対武器庫が有る筈だ。俺はそっちがいいよ!竹ちゃん酷いよ!連れて行ってよ!俺を元気付けたいなら武器庫にしてよ!」


「お前は車好きだからとこっちにしたのに。」


「勝手に決めるなよ。俺が運転ヘタって言ったくせに!はいそうです。俺は運転が下手だし組み立ては嫌いなの。僕は自分の車を整備した事などありません。括弧社長の僕ちゃんですから、お車は整備工場に頼んでいます。」


「それは大変誠に持って残念ですね。銃は解体と組み立てが理解出来ない方には危険ですから扱わせられません。今回はご縁が無かったものとご了承下さい、括弧社長殿。」


 誠司は悔しがるどころかフンっと鼻を鳴らした。


「私は先日手に入れた拳銃とやらをあなた様に献上いたしたく思っておりましたが、お受けいただけないとは誠に残念至極でございます。」


「それを今すぐ俺に渡せ。」

「いや。」


 俺はその日、元気にはなったがブーブーと文句ばかりになった誠司を、結局武器庫の方へ連れて行った。

 煩くて仕方が無かったのだ。

 静で良い弟の幸次郎が雌鶏と結婚したいと言い出しても、俺は絶対に許そうと思った。


「ほら、そんなに面白いものじゃないだろ。」


 スイッチを押して蛍光灯を点けると、真っ暗だった地下設備にテンテンと音を立てながら灯りが点灯していき、その施設の全貌を明らかにしていった。

 誠司はその場に棒立ちになり、俺から背を向けたまま無言のまま頭だけ動かしてぐるぐると武器や射撃場を見回している。


「大したものじゃない。これも期待はずれだろ。」


 機械人形のようだった彼は、ゆっくりと俺に振り向いた。


「お前が完全に元気になって良かったよ。その気味の悪い笑顔はやめろ。」


「お兄様って竹ちゃんを呼んでキスしていい?メチャクチャ最高だよ、あんた。」

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