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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
十五 相良の若いツバメ
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本当の造反者

 草加が食事会に乱入しただけでなく、彼は私達を制圧しに来たとしか見えない強面を六人も引き連れていた。

 私はその中にいる木下の姿に悲しい気持ちが湧き上がった。


 いつも誠司の隣にいて、いつも誠司と笑っていた誠司の親友。


 私の側には既に恭一郎が立ち上がり背に隠すように立っており、田辺は祥子と千代子を庇うように立ち上がっている。

 私の父は好物のローストビーフに舌鼓を打つだけで、この場の状況を一顧だにしていなかった。

 大物なのか間抜け過ぎるのか。


 そしてわが父同様に義父は笑顔で座っており、脅えも一切ない状態で成り行きを喜んでいた。

 しかし、重吾郎に手を握られて立てない義母は青ざめて脅えており、そして大人しく真面目なだけの次男が、え?、いない。


 彼は既に私の目の前、それも恭一郎よりも扉の前近くにまで出ていたのだ。


 いつの間に。


 恭一郎は自分の椅子の背に立てかけていた杖を取り上げると、自分の斜め前に立つ幸次郎にひょいっと投げた。


「幸次郎、お前にこれを貸す。ここの盾になれ。」


「うわ。」


 投げられた杖を受け取った幸次郎は、驚きという表情で顔を歪ませた。

 普通の杖だと思っていたのにただの鉄の棒で、受け取ってその杖の想定外の重さを知って驚いたのだろう。


 しかし彼は嬉しそうに杖を握ると、私達から離れてどんどんと扉の方に向かって行き、たった一人で暴漢の六人と対時するという意思を見せた。


 杖を構え直したのだ。


 でも、ゴルフのドライバーでボールを確かめているような立ち方という、それもちょっとやる気がないように見える変な構えで大丈夫かな、と頼りがいになると考えるよりも心配してしまったが。


「ねえ、恭一郎。あなたが棒を持っていた方がいいでしょ。」


「幸次郎は剣道の達人だから大丈夫だよ。あいつは棒を持つと人格が変わるから、俺達は見守るだけで楽しめる。」


 にこやかに微笑んだ酷い兄でもある夫は、なぜかコートを着なおして、私の椅子の背にかけてあるストールを私に巻きつけた。


「ありがとう。扉が開いて寒くなってきたものね。」


「私を追い出すとは尋常ではないわね。あなたは何を言いたいのかしら。」


 あ、忘れていたと、六人の暴漢よりも小物そうな男を見返した。

 耀子の言葉に顔を真っ赤にして茹っている男は、耀子を守るように立つ目の前の大きな男を指差した。


「我が社に敵対的買収を仕掛けて、我が社の持ち会社と大量の株を奪って損失を与えたのがこの男だったのですよ!」


 草加の発言に食事室の全員が誠司を見つめた。

 全員に注目された誠司は、うふっと嬉しそうに顔を綻ばせた。

 そして食堂では拍手がなり始めた。

 約二名によってパチリパチリと。


「凄いな、お前は本当の悪だな。」

「さすが。その思い切った行動力は見習いたいものですよ。」


 唖然として誠司を見守る田辺と違い、竹ノ塚兄弟は両方共がろくでなしであったらしい。

 幸次郎は先程の変な構えを解いて、棒を左脇の下に挟んでまで律義に拍手を送っているのだ。

 テーブルに突っ伏して笑いに耐えている義父を見るに家系か。


「どういうこと?誠司?説明なさい。」


 氷のような冷たい声を耀子がだし、誠司は凍るどころか褒めてと強請り出しそうなとろけるような笑顔になった。


「俺は一から会社を興したくてね。ちょうど俺を追い落とそうとする動きがありましたから利用させてもらいました。俺は今、矢木興産の社長です。子会社も株も退職金代わりに頂きますよ。いいでしょう、耀子ママ。僕は社長さんになりたいの。」


 プ、クスクスと耀子は笑いの発作に襲われ、元々座っていた椅子に戻って座りなおした。


「大会社の取締役よりも小さな会社の社長がいいの?あなたは可愛いわね。」


「笑い事ではないですよ。こいつは社外に出ても五パーセントの我が社の株を手に入れている。いくらでも経営に口を出せるって事です。」


 草加が耀子に食い下がるが、耀子はどこ吹く風だ。


「いいじゃない。この子は私の子供でしょう。後継者よ。それに、最初に敵対的買収を仕掛けたのは貴方でしょう。例え、知らずに誠司に乗せられただけなのだとしても。」


 歯軋りをした男は、指を鳴らし、それを合図に六人の兵隊がゆっくりと動き出した。


「私が今日から相良総合商社を継ぎます。あなたはツバメに遺産相続のためにここで殺されるのです。皆様も巻き添えで可哀相に。誰から殺しますか?」

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