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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
十四 親である責任
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爆弾を投げないでくださいよ、お父さん

「恭一郎は凄いね。動かない車を動かしたのだからね。」


「俺に集中する難題を与えて、俺が死なないようにとの計画でしょう。母さんの絵の説明をしたり。ですが、弟に美佐子と結婚させたのは酷いですよ。父さんは美佐子の事をご存知だったのでしょう。どんな女だったのかも。」


 俺は弟を思うと怒りが湧き、少々乱暴に車を発進させた。

 隣の父はガクンと動いた車という俺の乱暴な運転に目を丸くしたが、すぐに楽しそうに笑い声を上げた。


「笑っていないで答えて下さいよ。俺は少々どころか、かなり頭にきているのですからね。あんな女を俺に押し付けようとしていたなんてね。」


「君と婚約しても君は嫌なら結婚などしないでしょう。美佐子から婚約解消を言わせたか、あるいは美佐子を更正させるかもしれないと、僕は思っていたよ。君ならねって。」


「判りませんよ。俺は妻の姉との婚約の時は、妻が手助けしてくれなければ婚約から逃げられませんでしたからね。十一歳の少女に無能と罵られた男です。」


 ワッハッハと大声で嬉しそうに父は笑い声を上げた。


「なんと情けない。」


「期待外れで申し訳ありません。」


「美佐子やあの子達はね、まだやり直せる気がしてね。私達で縁談やら進学やらを斡旋したのだよ。あの子達は町の子供達だからね。それに幸次郎は我が家に縋ってきた美佐子にあれやこれや面倒を見て仄かな恋心も抱いてね。自分から結婚すると言い出したから、いいかなって。浮気もね、最近だよ、彼女は。最初の子の流産の時に性病が見つかってね。ほら、幸次郎は潔癖でしょ。何年も夫婦生活が持てなければ、ねぇ。母さんへの嫌がらせにしても最初は理由があったんだよ。年末の忙しい時に美佐子に全部押しつけて観劇に行っちゃえば、そりゃあ歳暮の品を隠されたりするでしょ、仕方がない。」


 俺は母の傀儡だったはずの父親に内心驚いていた。


「あ、恭一郎、前見ている癖に道を外れないの。運転下手?私が運転しようか?」


「結構です。」


 ふふふと嬉しそうに父は笑った。

 そこで思い出した。

 父が幼い俺に言い放った言葉。


「どうしても模型機関車が欲しいなら他所の子になりなさい。」


「俺は今でも父さんの手のひらの中のような気がしてきましたよ。脅迫状も嘘ですね。」


 ふふふがワッハッハの大きな笑いになって返って来た。


「私の車を壊してくれてありがとう。不安だったのは本当だよ。最近彼らは私を殺そうと狙っていたからね。まずは私、その次は君、それから母さんで、最後が幸次郎だ。違うな、君が最初だな。それでもやることが極端だよね。九州から帰ったって挨拶に来た君に、私が脅迫状って口にしたすぐその後に私の車を解体しちゃうのだもの。」


「運転のお好きなあなたが車ごと爆破される気がしましたからね。気になったら問題を排除するのが先でしょう。」


「エンジン丸ごと抜くとは思わなかったけれどね。で、爆弾はあったの?」


「ありましたよ。ガソリンタンク下にありましたね。紐をタイヤに結び付けて動き出したらタイヤに巻かれた紐によって雷管が作動してドカンです。あんなに判り易い素人臭い爆弾。あなたはそこにあることを知っていた上で面倒だから俺に放りましたね。爆弾にリボンをつけてお返ししましょうか。」


「それでガレージに壊れた車を置きっぱなしにすれば仕返しにも、敵への威嚇にもなるって?お前達が爆弾を仕掛けたことは知っているよって。違うね、君は解体がしたかっただけしょう。あれはドイツ車だものね。私は君が解体するから模型機関車を買ってあげたくなかったのだよ。与えた傍から玩具を次々と解体する子供って、親として悲しいよ。」


「すいませんね。それで、命を狙っているのが美佐子だとどうしておわかりで?」


「あの子そんなに頭が良くないでしょう。丸わかりだよ。階段に油を塗ったり、ピアノ線を張ったり、行動が嫁いびりの鬼姑みたいだよね。あぁ、枕にマチ針もあったよ。母さんが姑に苛められる新妻みたいにビクビクしていて可愛くてね。」


 ハハハと嬉しそうに思い出し笑いをする父親に、俺は母をもう少し大事にしてやろうと考えた。

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