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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
十四 親である責任
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空港に父を迎えに

 十二月二十六日。


 大安でありながらそこかしこで最悪の出来事が重なった月曜日。


 仕事だからと屋敷に戻ろうとする祥子を若様である俺が勝手に首にして、田辺に我が家の女中として雇わせた。

 更紗が戻ってきたら田辺がこの家を出て行くのだから丁度よい。

 千代子の完全な転校手続きを取るように田辺に言いつけると、この年末でとぼやかれた。


 祥子によりお役御免となった誠司は、本来の仕事でも戦うことなく惨敗を喫してお役御免になってしまった。

 彼は相良総合商社の会社を守りきれず、損害を相良に与えてしまったのだ。

 その咎によりその日の内に緊急の株主総会が行われ、彼はその場で相良総合商社の取締役の任をその日の内に解かれた。


 代表取締社長であり筆頭株主の耀子は彼を庇わなかった。


 彼女はただ、引責辞任を口にして相良総合商社の証を返納する誠司に、一言だけ語りかけただそうである。


「これでいいの?」


 誠司が負ける原因となった男は、責めようにも既に相良警備会社の社長職を辞職していた。

 あの木下が誠司の行う敵対的買収行為への対応策を敵に流していたのだ。

 木下が敵へ流した情報により、敵側が誠司の無事を取引所が開く日曜日の午後にテレビにラジオと大々的に放送させ、相良総合商社の株価は下がらないどころが株価が跳ね上がり、誠司は相良の株も相手の会社の株も奪い返すことが出来なかったのだ。


 そして最悪な俺は、弟の離婚劇で傷ついている実母を更に傷つけて、自分の欲しい情報を手に入れた。

 当時の俺でさえ不思議でたまらなかった、美佐子との急な婚約の経緯である。


 俺は父の親友で後援会長の藤枝條之助の娘、小枝子さえこと結婚するものだと幼少時代から思い込んでいたから尚更だ。

 藤枝は俺を取り込もうと、俺が父と模型機関車を買う買わないで喧嘩をすれば喜んで買い与えた男だ。

 勿論、俺もそれを知っており、知っているからこそ彼の家に居座ったのだ。

 俺は幼少時から甘やかされていたろくでなしである。


「美佐子は、お父さんがこの子を息子の嫁にするって。間島さんに薦められたからと、彼の遠縁の娘さんだからいいだろうって。」


 思い出しながら母は美佐子の行状を思い出し、そして不安に慄いたのだ。


「母さん、父さんが浮気相手を僕に譲ることはありえませんよ。浮気自体、父さんがするわけないでしょう。」


 それは確かだ。


「それならどうして。あなたは小枝子さんと婚約する予定だったでしょう。」


「彼女は昔から医者になると勉強していた意志の強い女性でしたから、藤枝さんから断ってきたのかもしれませんね。」


 俺は母を宥めながら考えた。

 自分の選挙活動にうら若き女性の売春が利用されたのだと知ったら、それを行った者の言いなりになるのではないか?

 事実、俺は美佐子と婚約させられた。


「おお、恭一郎。わざわざ私を迎えに来てくれたのか?良かったよ、もう遅いのにこれからタクシーは大変だからね。」


 俺よりも弟の外見に近く弟よりも恰幅がよく老けた男は、俺の姿を見て嬉しそうに破顔した。

 空港の父は一人で、外遊の雰囲気ではない。

 秘書も何もつけていないのは不思議だと、俺は父の出で立ちを見て嫌な想像が自分をつつき始めたことを知った。


「荷物を持ちますよ。欧州は如何でしたか?」


 冬の欧州帰りと思えない陽に焼けた肌の男はニヤっと微笑んで、俺に鞄を手渡した。


「少ないですね。他の荷物は?」


「盗まれた。一切合財ね。お忍び旅行なんてするものではないね。私に付いてきた間島の倅なんて、パスポートまで盗まれていたよ。どうするのだろうね。私は彼の身元を確認する前に急いで飛行機に乗ってしまったからね、後は知らないのだよ。彼は帰って来れるかな?さぁ、早く車に乗ろうか。」


 俺は目を瞑って数秒数えると、父を空港に停めた自分の車まで案内した。

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