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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
十二 嘘吐き男によるパーティ
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華々しく喧噪すべし

 高級クラブに突撃した数分後には、黒服が誠司の所にやってきた。


「申し訳ありません。警察がお話を伺いたいと。」


「いいですよ。」


 誠司は仲間達に軽く手を上げてクラブを出ると、そこには制服警官二名が立っていた。


「この先のビルで騒乱がありましてね。事情をお伺いしたく。まず、お名前をよろしいですか?」


「あぁ、それなら僕の車に免許証がありますから。そこで。」


 誠司は素直に警官二人を地下駐車場へのエレベーターに乗せた。

 エレベーターの扉が開くと、薄暗い駐車場でガチャガチャと音がする。


「あ、僕の車に誰かが!」

「え、どうしました?」


 警官達が誠司が指差した方向を見ると、誠司の青い車のドアを開けて、そこから荷物を引き出した男の姿があった。


「何をしている!」


 警官が車の方へと走っていくと、男は慌てて側にあった黒い車に乗り込んだ。

 車は急発進のエンジン音を轟かせて地下駐車場内を駆け抜け、車止めのバーを折り、そのままタイヤの音を響かせて走り去った。


「待て!」


 警官達は車を追って誠司の前から走り去った。

 その数秒後に爆発音が轟く。


「やることが凄いっすね。あの大将は。それで、俺達は?」


 いつの間にか隣に立つ木下に、誠司は振り返りもしなかった。


「俺達は飲みなおしましょう。」


「説明になってないぞ。」


「竹ちゃん、察しが悪い。ああすれば俺達が暴れて残した証拠も、車上狙いで盗まれたものと一緒くたにできるでしょ。ビル破壊のヤツと計画性はないって。ビル破壊は完全に犯罪で刑罰が重いからね、俺達を確実に逃がすためだよ。」


「良い子で高級クラブで騒いでいる俺達が、ビル破壊に関係していないという白狼団のアリバイ成立って奴です。高級クラブの窓から見える現場が楽しかったですよ。ガソリン満タンの車一台であそこまでできるなんてね。勉強になります。」


 誠司の後を継いで説明する木下は、好奇心を満たした子供のように目を輝かせていた。


「木下君。学ばなくていいから。」


 年下の青年に焦っている田辺と反対に涼しい顔をしてテレビを見て喜んでいる誠司は、玄関脇のみかん箱から取って来たらしいミカンをジャンパーのポケットから出して剥き始めた。

 俺も勝手に誠司が剥いたばかりの一房を奪うと、彼は変な顔で見返した。


「一房くらい頂戴よ。それで、白狼団のアリバイが成立しても君は行方不明でしょ。テレビで君の捜索中ってニュースが先程流れたよ。」


 そこで誠司は口が耳まで裂けたのかと思うほどの笑顔になった。

 つまり、凄く悪そうなニンマリだ。


「どうした?」


「今ね、ウチの会社の俺の任されている一つが敵対的買収を仕掛けられているの。俺の行方不明でウチの会社の株が下がるでしょう。下がっても俺がいないならと俺を追い落とそうとした奴が買い続ける理由もないでしょ。そしてそいつに手を貸して大量に株を買った会社は株価の下がりで、そいつらの投資の大赤字だ。慌てて放出した安い株を俺が取り返す。月曜日が愉しみだね。」


「君が買うのは相手の下がった会社の株か。お前が敵対的買収でそいつらの会社の経営権を奪うつもりなのか。」


 財界の女王と名高い相良に見出されただけある青年は、ハハハと勝利の笑いを高らかに立てた。


「俺は売られた喧嘩は全部買うんだよ。」

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