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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
九 悪党と悪徳警官
32/60

お礼参りという後始末

 俺達の現場に駆けつけたのは三人だった。


「どうして誠司がいるの?帰っていいよ。」


 仕事帰りか、誠司は上等なピンストライプの黒に近い濃い灰色の背広姿であり、とても格好が良いことこの上なかったが、体に乗っている顔はその服装とは反対の間抜け面を俺に晒した。


「酷いな、竹ちゃんは。俺はあの変な書置き見つけて本庁に電話したら、長谷ちゃんが竹ちゃんに連れられて杉並だって言うから車を走らせたのにさ。暴れる事も無く、運転手だけ?それで、ありがとう、の言葉も無く帰れって?」


「あ、そういえば矢野ちゃんは今日は早帰りって言っていたね。忘れていた。早帰りでしょ、いいよ、帰って楽にして。」


「タベちゃんまで酷いよ。」


 松本サキ、本名田辺祥子と長谷は、誠司の車が竹ノ塚家前に止まるや否や無理矢理乗り込み、此処まで運転させたのだそうだ。

 長谷は騒々しい俺達の傍らで、一人無言で俺の潰した藤建設の若社長である藤田泰時と以下三名を藤田の車に乗せ上げている。


「救急車呼んだ方が早いでしょ。」


「犯罪にしたくないって言っているでしょ。俺はこの人達とお話し合いが有るからね、竹ちゃんも元義妹と話し合いしたいでしょ。後ろの車の方に乗って付いて来て。竹ちゃんの車は田辺ちゃんに任せればいいでしょ。」


「俺も一緒に行きたい。パーティでしょ。」


 誠司は千代子の無事を確認してもそれまでの怒りが収まらないのか、軽い雰囲気を纏わせながらも殺気を帯びていた。

 車に乗り込んでいた長谷は、ウィンドーを下げると運転席から顔を出した。


「まだパーティじゃないよ。大人の詰まらない話し合い。パーティの時はお前も呼ぶからさ、竹ちゃんの家に行ってあげて。千代子はお前がいた方がいいだろ。」


「父親のあんたこそが側にいるべきだろ。」


 長谷は祥子母子をチラッと見ると、祥子に聞かせるようにか、大きめの、野太い低い声を出した。


「俺の子じゃねえよ。」


 長谷はウィンドーを上げて閉めると、車のエンジンをかけた。

 誠司が通り抜ける長谷の運転する車へとすっ飛ぶや、その側面をガンっと蹴りつけたのである。


「ふざけんな!言っていい事と悪いことがあるだろうが!」


 祥子は娘をギュッと抱いて顔を伏せ、田辺が妹の肩を抱く。

 女子供には何もできないと主張するが、男には何でも出来た田辺の昔を思い出しながら、俺は田辺の出す殺気に怯えてしまっていた。


 長谷は長生き出来ないな、と。


「誠司、悪いね。俺も後を追いかけないとね、あの馬鹿の。」


 俺は彼ら三人を残して藤建設の車に乗り込むと、車を出して長谷の運転する車の後ろに付いた。

 俺が後ろに付いたことを知った彼の車は加速し、暫しのドライブの後、俺を藤建設の事務所の一つに導いた。

 事務所の駐車場に適当に止めてから長谷の車の方へと走ると、長谷は若社長だけを引き出して車から出てきていた。


「話し合いができればいいけど。竹ちゃんはやり過ぎだよ。」


「四対一じゃあ力が篭っちゃって。ほら、俺は小心者だからね。」


 ブフっと長谷が体を折って笑い出した。


「どうした?」


「いや、思い出してね。俺を連れ出そうとしたら、竹ちゃんは少佐殿に捕まっちゃったじゃない?許可無く懲罰対象を営倉から出すのは軍規違反だって。そうしたら、ねえ。」


 俺は自分の肩を掴む男、少佐の勲章をつけただけの奴の脚を、思いっきり蹴り飛ばして転がせたのだ。

 そいつは俺に言い寄ってきたことがあり、断ったら俺は部隊ごと前線に送られた。

 それも、戦略的には全く要所でもない戦闘区域なだけの前線だ。


 兵学校出たての経験も無い俺を死地に送ったがために、俺は隊員を三人も失ってしまったのだ。

 そいつの顔を見た途端に、死んだ彼らを思い出して、勝手に体が動いていたのである。


 俺に転がされた男は、顔を真っ赤に染めて俺を睨んだが、死地で寝起きしている俺には既にそんなものは通じない。


「申し訳ありません、少佐。光るものが視界に入ったもので。私は小心者ですから思わず避難行動を取ってしまいました。」

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