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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
八 備えあれば憂いなし
30/60

誘拐犯との会合

 十二月の海風に煽られた港湾の倉庫街は、夜の八時ぐらいでは未だに働く人たちの姿が見える活気のある場所であった。

 真っ暗な海を背に船から積荷を降ろし、次々と倉庫に運ぶ労働者にその車、だ。


 静かな場所よりも、この様に雑然とした場所の方が見咎め辛く犯罪に適しているのだ。

 けれど、やはり最悪な密会には第三者を見咎めやすい人気のない場所が最適であろう。


 先へと車を進める度に少しずつ灯りが減って行き、辿り着いたそこは俺の車のライト以外には灯りが無く、俺が車を止めたことで再び真っ暗になった。


 しかし、俺が車を降りた途端に、パッと車のライトが灯り代わりに点いた。


 車の前に立つ四人の男は身体の中心から下しか照らさない灯りを背にしているため、俺には彼らの顔が暗く見えない。

 反対に光を前にすることになった俺の顔は、彼らには事細かく見えるだろう。

 額と頬に皮のはがれた痣のある、みすぼらしい男だ。

 ぎこちない歩き方をして、指の足りない手で杖までついているのだ。


 俺は足を止め両手で杖に寄りかかるように立つと、隊長時代の声音を使った。

 それは年老いて擦れた低音の声。

 本隊の下士官達は、俺のその声を聞くや怯えて竦んだものである。


「まずは俺の部下とガキを出してもらおうか。」


「持って来たのか?」


 俺は鼻で笑い、スッと右手で懐から引き出して書類束の先だけを見せ、それから再び懐に戻した。

 すると、四人の中で一番恰幅のいい男が指で指図をした。

 ライトを照らしている車の後方には、もう一台の車が止められていたらしく、そこから田辺と千代子が引き出されたのである。


 上半身と足首を縛られている田辺は上半身にかけられた縄の部分を持たれて引きずられており、荷物のように運ばれる彼は物のようにして指図した男の足元に落とされた。

 縛られてもいない千代子は、逃げるどころか転がされた田辺に縋りついた。


 彼女に暴行を受けた痕が無かった事に、俺は顔には出さないように苦労するほどにかなり安堵をしていた。


「千代子、こちらに来なさい。子供はもういいですよね。口の利けないこの子を無駄に殺す必要はないでしょう。ほら、早くおいで!」


 結局普段の声音と口調になってしまった。

 俺にハードボイルドは無理だ。

 敵共がそんな俺を嘲笑する声が聞こえる中、頭領らしき男が部下に首を軽く振った。

 それを確認した部下が千代子を引っ張り上げ、そして、彼女を俺の方へ押した。


「行け。」


 あんなに田辺を怖がっていたにもかかわらず、千代子は離れがたい顔で田辺の所に戻ろうとして、再び俺の方へ転がされた。

 俺は溜息をついて右手で千代子の服の背をつかみ持ち上げて、俺の後ろに、出来る限り遠くへと投げ飛ばした。

 地面にズサっと転がる音と少女の悲鳴が聞こえたが仕方が無い。


「邪魔。」


 そして、その返し手でコートのポケットからデリンジャーを取り出して、俺の足手まといな田辺を撃った。

 田辺は胴体にばっと血華を咲かし、そのままがくっと身体から力を抜いた。


「きゃああああああ。」


 子供の甲高い悲壮な叫びが辺りを劈く。


「おい、お前何を!」

「仲間だろう!」


 俺の代わりに敵の部下達が田辺の心配をしてくれたようだ。

 一瞬だがね。


 何しろ俺が持ち替えた鉄の棒で、間髪いれずに彼ら四人をしたたかに叩き潰したからである。


 まず、手前の男の脚を払い胴を打ち、銃を振りかざしかけた男の腕を跳ね上げ肩に打ち込む。

 俺の動きに脳みそが付いて来れずに立ち尽くす間抜け顔には軽く鼻に棒を打ちつけ、痛みにしゃがんだ所を台にして、やつの後ろの男に飛び掛り振りかざす。

 俺の足台に成った男の鎖骨が折れた気がするがどうでも良い。

 それよりも、最後の男は振り切った俺の棒で、かなり大きく跳ね上がるようにして転がせることができた事に俺が悦に入っていた。


「アルミじゃこうはいかないから、やっぱり鉄のままでいいかぁ。重いけど。」

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