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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
七 間違えている女性解放論者
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反吐が出るよ?

 赤ん坊の温かくて小さな頭に手を添えると、手の平に温かみが移るようにして愛おしさのようなものが生まれても来るようだった。

 俺の生まれてくる子供もこんな感じなのだろうか。

 他人の子でこんな風では、俺は自分の子供を甘やかせるだけ甘やかしてしまうだろうな。


「大丈夫。この子はすぐに養子縁組が決まる。子供が欲しいけれど出来ない事が発覚した金持ちの夫婦は沢山いるからね。不思議だよね、孤児は沢山いるけど身元の怪しい人間の私生児は嫌だってね。皆川夫妻の子供ならば健康で血筋も問題ない。それどころか、将来的に禍根となる血族が死に絶えている柵のなさだ。」


「神野裕子が行方不明なのは逃げているからか?人を殺して、相手の子供まで奪っておいて。」


「彼女は警察に緊急逮捕されて警察病院の方だよ。」


「いつの間に。」


「君の家の電話でね。それに遺体安置所からもね。熊笹刑事の報告では、錯乱が酷いからあの篠崎友枝の旦那、隆平が隣町の精神病院に運んでいたそうだ。子供が違うと裕子を問い詰めたら暴れだして手が付けられなくなったからってね。警察から裕子の梅毒の説明を受けたから、あの家はこれから家族争議で大変だね。小さな子供が三人いるなら、あの奥さんが追い出されることはないかな。」


「君は全部知っていたんだね。この嘘吐き。」


「知らなかったよ。本当に全部知っていたら、この子が孤児になっているわけないじゃない。俺は金持ちに子供を売るために犯罪を見逃すほど落ちぶれてもいないよ。」


 赤ん坊の手を持って万歳をさせたりして遊んでいる男は、本気でしょぼくれていた。

 俺はその姿に溜息をつくしかない。

 俺は彼を非難する事など出来ないだろう。

 俺自身人を見る目さえもない、先を見通せない無能でろくでもない男だ。


「それで、教えて欲しいのだけどね。全貌。」


「聞いたら反吐を吐きたくなるよ。」


「俺も反吐を吐きたくなることをしてしまったから丁度いいよ。」


「あれは、やっぱり?」


「美佐子の素行を調べようと興信所にね。まさか情報を俺に渡す前に週刊誌に売るとは思わなかったよ。前金で取っておいてだよ。家族にバレたらどうしたらいい?」


 ハハハと嬉しそうに笑う男を余所に、ウインカーを出して車の速度を落とし端に寄せた。


「停めないで。この寒い中赤ん坊を車中にいつまでも乗せていたくない。進んで。」


 俺は逆のウインカーを出し、長谷の言うとおりに再び車を道に戻した。


「慣れているんだね。」


 しかし、褒めた俺の言葉に長谷はケッと嫌そうな声を立て、さらに肩こりを解すような動きをしてから、矢野の馬鹿がね、と言い出した。


「矢野に付き合って孤児院何度か訪問したからね。あいつさぁ、マメなの。引き取れない弟分たちが心配だって、時々孤児院に訪問していたからね。俺が保護者として奴に付き合ってやってさぁ、もう迷惑。あいつと一緒に仲良く孤児院でオムツの交換よ。」


「更紗も一緒に?」


「するわけないでしょ。あの子は焼餅焼いちゃうね。千代子も更紗に焼餅焼いて暴れたのだってね。で、煽ったのが更紗でしょう。子供相手に誠ちゃんは私のもの!ぐらい言ったね。多分どころか確実に。」


 子供の手を持って遊びながら楽しそうに笑う男の言葉に、俺は更紗が俺に会いたいだけではなく誠司への気持ちもあったのだと初めて気づいた。

 そして気付いてがっかりだ。


「まぁ、誠司はいいから、話してくれ。」


「焼餅焼き。」

「うるさいよ。」


「女学生時代に神野裕子を中心に売春グループを作っていたんだよ。」

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