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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
七 間違えている女性解放論者
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篠崎家でのやりとり?

 長谷の勝手な上がり込みに家人である篠崎友枝は脅えた様にして固まり、そこで俺は彼女が動きだせるように言葉をかけた。


「すいません。僕もあがらせてもらいますよ。妹さんのことで彼は話があるそうで、ご心配ならば篠崎さんにも来て頂きましょうか?」


 赤ん坊を抱いた友枝は手が緩み子供を落しそうになるが、再びギュッと抱きしめ、そして俺達を嫌々ながら応接間に案内したのだ。

 ソファに俺達は並んで座り、長谷は寛いだ雰囲気を出しながら、威圧感を前面に出して「妹」を呼ぶように友枝に強く求めた。


「妹はただいま外出中でありまして。」


「帰ってくるの?」


「いえ、私にはわかりかねます。」


「赤ちゃんを残して?それでも、ご心配にならない?」


 友枝は青白かった顔を紅潮させたが長谷には答えずに、ただ顔を伏せた。

 それで彼女の腕に力が篭ったか、腕の中の赤ん坊がかすかに声をあげた。


「そのお子さんは妹さんの子だよね。生後半月の。最近大怪我したそうだけど元気そうだね。その子を僕にいただけますか?この家ではまた大怪我するかもしれませんから、よろしければ僕が預かります。妹さんの離婚した旦那さんに僕からお渡ししてもいいですよ。妹さんの旦那さんは静岡ですよね。遠いですけど何とかなります。大丈夫ですよ、任せてください。」


 友枝は長谷の言葉に一層赤ん坊を強く抱きしめたが、そろそろと赤ん坊を彼に差し出し、長谷は彼女から手馴れた手つきで赤ん坊を抱き取り胸に抱いた。


「長谷君、それで話は終わったのかい?」


 赤ん坊を抱いた彼は、嘘くさい笑顔で「忘れていた。」と嗤う。


「ご主人が戻られましたら僕が訪ねた事をお伝えくださいね。あとは、そう、妹さんには僕が子供を預かっているとね。連絡がつきましたらですけど。」


 彼は座卓に滑らすようにして自分の名刺を一枚置くと、赤ん坊を抱いたまますっとソファから立ち上がった。


「帰ろうか。」


 彼は俺の返事も待たずにさっさと応接間を出て行った。

 俺は再び彼の後を追い、そして再び彼と車中の人となったのだ。


 人数が増えたが。


「意味がわからないよ。」


「当たり前でしょ。君は起きている事を知らないのだから。僕はこれでも刑事さんだからね。ねぇ、ばぁ。」


 赤ん坊は長谷の顔に手を伸ばし、彼の鼻をつまんで喜びの声を上げた。


「その子をどうする気だ?」


 自分のコートで包むようにして赤ん坊を抱く長谷がカンガルーの様だと思いながら、まるで本当の親子そのものだと思いながら彼に尋ねたのだが、彼の答えはそっけないどころか冷たかった。


「親のいない子は施設でしょ。」


「旦那がいたのではないのか?」


「別れた女房にうつされた梅毒の治療中なのに、お前の元女房が殺した他人の子を育てろと渡すの?竹ちゃん、ちょっと意地悪だよ。」


 長谷は赤ん坊の両手を持ち、バッテンという風に交差させた。


「え、梅毒?それで、皆川知徳の遺体に家のものを触るなって熊笹刑事とやらが直ぐに命じたのは、神野が知徳の愛人だったからか。奥山の方もあまり捜査されていないと聞いたけど、あっちもか?この町は梅毒が蔓延しているのか?」


 俺の怖気を振るった様子に長谷は楽しそうに笑い出し、違うと答えた。


「奥山は違う。腹上死って言ったでしょ。売春婦でなくてね、お姉さんと行為中に人に見られての心臓発作。有名だったでしょ、仲が良過ぎる姉弟って。」


「うそ。」


「ほんとう。竹ちゃんは知らなかったのかな。それでお姉さんが消えたし、皆それで口をつぐんで奥山の死は事件性無しで処理でしょ。」


 長谷は赤ん坊の首筋に顔を押し付けてクスクスと笑い、赤ん坊はくすぐったいのかきゃあきゃあと長谷の髪を引っ張って喜んでいた。


「それでも、神野の梅毒は本当か?」


「神野裕子は素行の悪さが返ってきた、自業自得。腹に子供がいる彼女が離婚されたのはそれが原因。妊娠して血液検査で発覚だろうね。この町に来て治療もしていたようだけど、アレは治療をしないで放っておくと脳を冒すからね。錯乱して我が子を殺して、子供を交換するためだけに愛人の皆川知徳を唆して一家惨殺かなぁ。安置所の皆川さん一家ね、皆さん全員刺し殺されていたよ。三歳の子供までも容赦なく。」


「この子は可哀相だね。」


 そっと左手で子供の頭に触れた。

 温かくしっとりした小さな頭。

 彼は俺が触ると、クプクプと不思議な変な音を出した。

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