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黒猫は金魚鉢をひたすら覗く  作者: 蔵前
三 千代子様
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千代子の身の上

 田辺から千代子が誠司がいなくても食事をして居間で遊んでいたと聞いたからか、誠司は残業して九時過ぎに帰って来た。


 近くの玩具屋に連れていったらセルロイド人形があり、その人形と人形用の服を幾つか買ってやったら、なんと帰りは俺と田辺と手を繋ぐぐらいには千代子が俺達に慣れたのである。

 行きは猫を摘むように、俺が千代子の首根っこを掴んで歩かせたが。


「あんたは、それで父親になるつもりか?」


 行きは後ろを歩く田辺の非難のセリフが胸に痛かった、と思い出す。


 とにかく千代子は帰宅するとひたすらずっと人形に着せ替えたり、お茶を飲ませたりして遊んでいたのだ。

 ちなみに豪華ママゴトセットは田辺が買い与えた。

 そうして、それらを片付けるためのおもちゃ箱も可愛らしいのを買ってやり、男所帯の我が家の居間の隅に自己主張を持って鎮座している。


「いいねぇ。お利口さんだったんだ。偉い偉い。」


 子供用パジャマにピンクのガウンを羽織って誠司を出迎えた千代子は、誠司に誉めそやされてかなりの上機嫌で階上に戻って行き、今は深い眠りについている。


「千代子の世話をありがとうねぇ。」


「いいよ。君には世話になっているからね。」


 誠司は田辺の煮物に舌鼓を打ちながら、あははと楽しそうな笑い声をあげた。


「それは駄目だよ。竹ちゃんは傍若無人でなければ。ねぇ、タベちゃん。」


 田辺は誠司の言葉に鼻でフッと笑った。


「なんだよ、それは。」


 誠司は俺にひとしきり笑うと、真面目な顔になった。


「それで、その変な事件を竹ちゃんは本気で解決するの?」


「解決はできないでしょ。町内の人間にもう大丈夫って安心させられればいいかなって。俺は警察じゃないからね、解決するのは警察の仕事でしょ。」


「その警察に俺は酷い目に遭わせられているのだけどね。」


 鼻に皺を寄せて嫌そうに話す誠司に、田辺が嬉しそうに噴出した。


「長谷ちゃんから矢野ちゃんが戦災孤児を集めて守っていた頭領だったって聞いたよ。」


 俺と田辺の戦友でもある長谷貴洋はせたかひろは、現在警視庁で刑事をしている。

 少尉だった彼は降格されて俺の隊に流されたという経歴の、元情報将校様でもある。

 人の秘密を暴くのが好きなだけの彼には天職なのかも知れないが、彼は金に転ぶ悪徳警官でもある。


「俺も戦災孤児だからね。親のいない子供はかっぱらいして生き延びるか、酷ければ体を売ったりもね。まともに雇ってもらってもさ、給金ピンハネされるのよ。だからさ、俺達は徒党を組んで怖いお兄さんになって守りあっていただけよ。」


 誠司が千代子を連れて我が家で居候をはじめた二日目の深夜に、長谷がフラっと現れた時の事を思い出した。


 長谷は挨拶もなく、野良猫のように勝手に家に入る。

 その時も俺の書斎に勝手に入って来たのだ。

 そして、ウィスキーボトルとグラスを勝手にサイドボードから取り出して、書斎机の前の応接セットのソファに座って悠々と飲み出しただけでなく、勝手に誠司に子供を預けた理由とやらを語りだしたのだ。


 長谷の話では、誠司達の年長組が外で働き、幼い子達を守って共同生活をしていたのだそうだ。

 怖い白狼団の団員の給料をピンハネすることはおろか、使い捨てすることなど怖くて出来ないだろう。

 彼らはその悪名のために、ヤクザに喧嘩を売り暴れていたのだ。

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