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そして…俺は役割を終えた。

 扉の両脇に立つ兵士にリアが「いいかしら?」と確認しノックすると、内側から扉が開く。


 うわ、緊張するなぁ…王様はいい人っぽい感じだったと思うけど…。




 恐る恐る肩を窄めて部屋の中を見渡すと、円形のテーブル…これが噂に名高い円卓というやつだろう。

丸いテーブルなんてちゃぶ台くらいしか見たことが無い。


 そのテーブルを囲んで、こういう場合でも上座とか言うのか?


 一番奥の席に王様、向かってその右に第二王子のディルノート、位の高そうな騎士っぽい人や魔道士っぽい人達が囲むテーブルの上…空中に(まいったなぁ…)という言葉が書いてあるような空気が充満していた…。


 王様の正面にギリアさんと並んで座りべそをかいているらしいエイナが振り向き、俺の顔を確認すると椅子を跳ね倒して立ち上がり…泣き出しそうな顔をして俺に飛びついて来た。


 エイナはゴシゴシと俺の腹に顔を擦り付けた後、俺の顔を見上げて助けを求めるように言う。


エイナ「助けてアサヒ!

    皆ヒドイんだよ!

    ボクをあの…あ……の……。」


 ウッと吐きそうな素振りで後ずさり…口を押さえてへたり込み、涙で床を濡らしながら声を絞り出す…。


エイナ「あの…洞…窟…に…連れて行こうとするんだ…。

    嫌だ…あんな所に行きたくないよぅ……!」


 エイナはユックリと顔を上げて俺の腕を掴み、引き下ろすようにして訴えかけてくる。


 …零也からあの話を聞いた限りだと、とても大切な人を奪い取った場所らしい。

そんな場所になんて近づきたくもないだろう。しかもまだこんなに華奢で幼い子供だ。


 グズるエイナをなんとか立たせて椅子を起こし、席に着かせると…


 エイナの後ろに立って椅子の背もたれに手を置いたままの俺は、少し勇気を振り絞って周囲を見渡してから王様の顔に目を向けて何とか口を開いた。


俺「…どういう状況…なんですか?」


 すると王様は一度キッとこちらの顔を見つめた後、ハァッとため息を漏らし…


王様「…実はな…、復旧工事も進み、後少しの所で魔力探知で調べたところ…

   魔物が住み着いた事がわかって今回の話になったことまでは知っとるの?」


 俺は王様のくだけた表情に少しホッとして「はい…。」と頷く。


王様「ギー…ギリア殿もこの街に着き、ちょうど明日いよいよ…となったので改めて…

   ホレ、そちらに座っとる者たちに確認してもらったところ…

   想定以上の魔物が住み着いておる事がわかっての…。」


 王様なんだし、旧知の仲なのはわかるからギーちゃんって呼べよ…面倒くさい…。

 ううむ…と王様が腕組みしてチラッとエイナに目をやると、ギリアさんが話を引き継ぎ説明をはじめる。




ギリア「実はね、調べてくれた魔道士達に聞いたんだが、恐らくは…竜クラスである

    事は間違いないようなんだ…。


    上級冒険者と呼んでもらってる私でも、こちらの兵士さん達と力を合わせ

    ても大きな犠牲が出るのは必至なんだよ…。

    そこで…ねぇ…。」


 スッと隣のエイナを見やって言う。


ギリア「こちらに座ってる、とてもとても可愛らしい…

    愛くるしい姿をした彼ぐっ!!」


 ズドン!とエイナがギリアさんの足を踏みつけて睨みあげる。


エイナ「”彼”は余計だよ!

    この無駄肉マッチョマン!」


ギリア「むだに…く…って…。」


 エイナはぷいっとそっぽを向いた後、テーブルに突っ伏す。

 歯を食いしばって痛みを堪えた後、ギリアさんは話に戻る。


ギリア「この子はね…こう見えて私に匹敵する…いや、場合によっては私以上の

    戦闘能力を持ってるんだ。


    大抵のことならこの子がいれば何とかなるので、

    私に依頼が来るなんて可怪しいとは想ってたんだがね…。

    今回は事情を聞いて納得もし、話を受けたんだが…ここまでの相手と

    なると…。」


よくある、王族特有の何か特殊で強力な魔法でも使えるのだろうか?


ギリア「しかも竜クラスが何もせずに洞窟内に居座るって事は、

    巣を作って繁殖の準備をしている可能性が高い。

    もしそうなると、竜は産まれた子供達の餌を求めてこの周辺の街や村を襲

    い壊滅させてしまう恐れもある…。」


 そんな一大事なんか!?


 余りの事態の恐ろしさに硬直していると、ずっと聞いていたエイナがスゥッと顔を上げ、ウルウルとした瞳で頭上にある俺の顔を見上げて言う。


エイナ「…アサヒも…ボクに行けっていうの?」


 あぁ…何?この可愛い生き物!


 ん~…と考え込みながら辺りに目をやると、王様を含めた周囲の目が何かの期待を込めて俺に集中している。


 …そう言えば今回の依頼は元から何か可怪しい。

 ギリアさんは卒業試験と言っていたが、今回俺に出来ることなんて何もない。

王国からの依頼なんて大きすぎるし、どう考えても普通は他の強力なパーティを誘うだろう。


 ウチで戦力になるのは、ただひたすら物を飛ばして混乱を生むだけのリアと、

アンデッドを浄化するしか出来ないシュミカだけだ。


 それにここに居る面子は確実に高レベルの騎士や魔法使いにしか見えないし、


 先程の零也などは複数の武術の達人のようなことも言っていた。


 なぜ?


 他のパーティにはいない。

この場に居る人達でも代わりになれない…。

ああ、答えは簡単だ。

必要だったのは異世界から来た俺。


 亡くなって、エイナのトラウマとなっている件の方はあちらの人らしかった。


 あ、でも零也がいるじゃないか…。

でも身近になりすぎてダメなのかも…。


 ふと目をやると、ニヤニヤしているシュミカと後ろに立つ零也がウンウン…と頷いている。

二人揃って心を読むな。

と、なれば俺の役割はアレだ。

出来るだろうか?


 まぁ、やるしかない。


 さっと頭の中で手順をシミュレートして、覚悟を決めてチラッと王様を見ると…神妙な顔つきで…「あとよろしく!」…と、告げていた。


 ちくしょう!


 仕方がない…一か八かやってみよう…。


 俺はエイナが座る椅子を傾け、くるっと回してこちらを向かせ…そっと跪き手を握り、エイナを見上げる高さから目を見つめてユックリと語りかける。


俺「エイナちゃ…いや、エイナ。

  色々と話は聞いたから、辛い気持ちもわかるよ…。悲しかったね…。

  行きたくないよね…?

  でも…大切な人を暗い洞窟の魔物の巣なんかに置き去りにしたままだなんて…

  可愛そうじゃないかな?」


 すると、エイナの瞳にキラッと光りが走る。


俺「迎えに…行ってあげないかな?

  その人も、君の事を待っていると思うよ?」


 すると、どんどんエイナの顔が紅潮して来ているのがわかる。


 行けそうだ、あと一歩…。


俺「悲しくて苦しいだろうけど、俺が付いていてあげるから…。

  迎えに行って…ちゃんとお墓を作って、安心して眠らせてあげようよ。」


 エイナがスクっと立ち上がる!


 どうだ?


俺「これは…君にしか出来ない!」


 ユックリと俺も立ち上がり、エイナの肩に手をやると、あ゛あ゛あ゛~~~!と泣き叫びながら俺に抱きついてきた。


 頭を撫でてやりながら、暫くはこのまま泣かせてやろうと思う。



 …元バンド仲間が演劇にも手を出してて良かった!


 演出にも勤勉で、こういう状況でのキャラクターの心情について熱く語られたものだ…。


 少し見渡すと…周囲のホッとしてこちらを見て称える目に気恥ずかしさを覚える。


 要は…エイナを立ち直らせる為に皆で芝居を打ったのだ。

あの時、謁見の間でエイナが飛び込んでこなければ説明も聞けたのだろう。

舞台が整って呼び戻された直後に主演男優が倒れてしまい、どうにもならなくなっていたのだ。


 この部屋に来るまでに説明してほしかった…と、リアに目をやると…

何が起こったか解らずキョトンとして周囲を見渡していた。


 …お前ギリギリまで遊んでやがったな!?


 少しするとエイナはグズグズと言いながらも、俺を見上げてこう言った。


エイナ「…ボグ…行く!

    お兄ちゃん…迎えに行くよ!」


 ふと見ると、「流石です!」と言う表情で、暇すぎて心ここにあらずなシュミカの席の後ろに立つ零也が音を出さないように拍手していた。


 リアも把握はしていないものの、状況が打開された事に「まぁ…やるじゃない。」と、労いの言葉をかけてくれる。


リア「こういうのアレでしょ?向こうの言葉で…そう、スケコマシ!」


俺「違います!」


 とは言え、大切な流通経路である洞窟に巣食った魔物が強大であることは事実との事で、討伐に向けてのミーティングが開始された。


 はっきりとした正体までは魔法では探知出来ないらしく、様々なパターンでのフォーメーションについてだとか、無事に倒し終えた後の…崩落に巻き込まれた人達の遺体探索について等の説明を受ける。


 …もちろん…万が一討伐不可能となった場合の処置なども。


 本当に最悪の場合はその場の魔道士全員での自爆魔法で洞窟を埋め、外に待機している神官たちで封印する…との事だ…。


 そんな重たい話なのにそれ程暗い空気は漂っていない。


 キッとした表情で会議に参加するエイナに対する信頼なのだ…と、ボソッと耳元で零也が教えてくれた。


 そんなに凄いのか?

まぁ…いくらこれまでの事がお芝居だったとしても、ガチの戦闘になればギリアさんも居るのだ。


 それに弱く、事後処理担当の俺達は後方待機なので、すぐに逃げ出せば命の危険までは無いだろう。

その後、取り敢えず話が纏まった…という事で、この場は解散となった。




 「心配しないでアサヒ!君はボクが守るから!」…と明らかな、この街に出回っているであろう文献に影響を受けたセリフ(そしてやっぱり少し古い!)を放ちながら俺に抱きついてきて離れないエイナの頭を撫でながら周囲を見ていると、こちらを見てニヤァっと笑みを浮かべたシュミカが俺を見て…


シュミカ「ん…カミングスーン…♪」


 と言い残し、零也にコソッと耳打ちをして一緒に部屋を出ていくのが見えた…。


 怖い怖い怖い!

だんだん血の気が失せてきた。


 そうだ…この場の雰囲気に気が引き締まって忘れていたが、体調が悪いことは解決していないのだ。

緊張が解けたのもあり、その場にへたり込んだ俺はまた…そのまま気を失った。



 どれくらい時間が経ったのだろうか…また先程と同じ部屋で俺は目を覚ました。


 色々と思い出しながらとても恥ずかしい最新の思い出が頭を駆け巡る!

俺があんな場所であんな事出来るなんて酒か体調不良のテンションでもなければ無理だ!


 …あの後、どうなったのだろう?


 目線を傍らにやると…椅子に座り、ベッドに横たわる俺の腕を枕に眠りこけているこの愛くるしい生物。…心配してくれたんだろうな…。


 あんな直後にまた心に負荷を与えてしまった事に反省しながら、空いた方の手でそっと頭を撫でてやる。


 …と、視線を感じてスッと扉の方を見ると、零也がニヤニヤしながらこちらを見ていた。


零也「やっと目を覚ましましたね。

   ダメですよ、我々の可愛いお姫様に手を出してはw」


 王子様だろうが!


 フフっと笑うと、零也は突然スッと姿勢を正しながら、エイナが起きてしまわない様に気を使ったトーンで言う。


零也「先程はお見事でした!

   大した説明もなくエイナをその気にさせるなんて…w」


 言い回しに気をつけろよ!?


零也「王も、とてもあなたを評価しておいででしたよ。」


 てか、あんたも説明してくれる機会はあっただろう!?

 …まぁ、いい。


俺「いや、やめてくださいよ…。それに年上の方から敬語とか少し慣れなくて…。」


 すると零也は納得するような表情を浮かべ、


零也「そうですね、ここは同郷者という事でお互いに対等にお話しましょうか♪

   では…改めてよろしく、アサヒ。」


 スッと伸ばされた手を取り俺も応える。


俺「よろしくお願いします…、零也。」


 その声に反応したのだろうか、エイナがンン…と起き上がり、起きている俺を見て抱きついてきた!


エイナ「ああ!起きた!

    心配したんだよ!」


 スッと零也に目を向けると、口の前で人差し指を立てて「取り敢えず私はこれで…」とジェスチャーして扉に向かう。


 そのタイミングでまたもやバンっと扉が開きシュミカが乱入してきた。


シュミカ「ん…ビーフ……ユア、チキン!」


 唐突に牛さんを臆病者呼ばわりするな。


俺「食事か?

  エイナちゃんもおながっ!」


 口元に頭突きを喰らう…。


エイナ「さっきみたいにエイナって呼んでよ!ボク、それがいいよ♪」


 眩しい笑顔!

…子供はこうやって明るく笑って居るべきなのだ。


 口の中の鉄の味を堪能してから身を起こし…


俺「お腹減ったよね、行こうかエイナ。」


 …と物凄く慣れない演技を頑張る。

まぁ…そのうち慣れるだろう。


 シュミカは扉を開け放ったまま姿を消している。

…アレのどこに神の御業が宿るのか!実はアレも精霊とやらが面白半分で作った魔物じゃないのか?


 自分でも驚くほど納得する仮説を提唱しながら服装を整え、扉の前でくるくる回っているエイナに尋ねる。


俺「…食堂って、どこ?」


エイナ「そう言えばまだアサヒは城内を案内されてなかったんだよね、

    ご飯食べたら案内してあげるよ♪

    ここにはね、街の人達にも開放してる大っっっきなお風呂があるんだ!

    あとで一緒に入ろうよ♪」


 …それは出来れば…変な趣味に目覚めたくないので、遠慮させていただきたいと切実に願う訳だが…。

食後にまた都合よく気を失わないかな…とか考えながら食卓に向かう。


 その後俺は王様に感謝の言葉をいただき、明るい雰囲気で食事を終えた頃に本当に具合が悪くなり、結局城内の探索は後日として床についた…。


 何なのだろうか、この倦怠感と肩に重たく何かがもたれ掛かっているような感覚…。


 まぁ今日一日は色々ありすぎた。

まだこちらの空気にもなれていないのだろう…。


 夜が明けると…それぞれ洞窟の入り口に集まり、いよいよ戦いの時は迫っていた!


 …そして俺は後方待機で!



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