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ノブナガ・ザ・ゲームマスター  作者: 解田明
第五章 天魔デーモンロード編
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第46話 織田信長、秀吉大返し

 渋谷は大パニックだったが、なんとかセッション砦まで帰ることに成功した。サツキくんは途中で自宅に帰したから、いるのは信長、顕如、コウ太の三人である。

 ゆっくり寝ることはできなかったが、それでも信長が備えていた人数分の寝袋シュラフにくるまって朝まで寝た。

 コウ太が起きると、スマホにはサツキくんからは午後顔を出すとのショートメッセージが届いていた。リビングと寝室に信長がいないので、見当をつけて四畳半の茶室に向かう。やはり、信長が茶を点てていた。

 あの南蛮胴にマントと刀は、すでに解除されており、部屋着として使っているジャージ姿である。


「目覚めたか。まあ、まずはぐっといけ。薄茶じゃ」

 コウ太は差し出された茶碗を受け取り、進められたとおりぐっと飲み干した。ようやくひと心地つけた気がする。

 この一杯を戦国武将が欲したのも、今ならよくわかる。

「ふう……。あっ、渋谷の方は!」

 さっそくスマホで検索する。“渋谷ドラゴンパニック!”とすぐに検索ワードがトレンドに上がっている。

「信長さん、大事になってますよ!」

「であるか。まあ、普通はそうなるであろうな」

「シナリオ仙人、何考えてるんだ……」

「おのれの力を見せつけたのであろう。これだけの力があるのだから、逆らっても無駄だと。わしもようやったわ」

「でも、止めないと! そうしないと――」

 器だという信長に魔王の魂が注入されてしまう。

 そうなったら、壊滅的な歴史改変が行われるのだ。

「わかっておる、止める手立てを思案しておるところじゃ。そろそろ、顕如坊主も目を覚ますであろう」

 言うと、すぐにフローリングをぺたぺたと歩いてくる足音が聞こえ、「失礼します」とミツアキさんが茶室に顔を出す。

「ふたりとも、結構なところに暮らしているね」

「信長さん、歩く文化財なもんで」

 一筆取ればたちまち重文クラスのが生まれるのだ。

 乱発しなければ、暮らすのに問題はない。


「顕如よ、“芸夢転生”の術……どう思う?」

「エヴェレット多世界解釈というやつですね。語られた物語は、その世界の可能性として無数に平行世界が分岐したパラレルワールドがある、そういうということです」

「エ、エヴェレット……なんです?」

「量子論だよ。観測してしまった時点で、物事に影響を与えてしまい、可能性が分岐して平行に発生する。意識があるうちは、我々は因果から逃れられないんだ」

「えっと、今話してるの顕如さんだと思うんですが……」

御仏みほとけの教えと量子論、素粒子学は同じなんだよ。自我が消失しない限り因果から逃れられない。我々は素粒子から成り立ち、いつしか素粒子に還元されるが無になるわけじゃない。何かの物質に輪廻転生してしまうのだよ」

「は、はぁ……」

 なんだかよくわからない。森宗意軒がデジタル情報となってシナリオ仙人に転生したというのと似ているような気はする。


「わしが思うに、シナリオ仙人こと森宗意軒が器のわしとは別に用意したという魔王の魂とやらを打ち砕けば、企みは阻止できるのではないか?」

「問題は、それがどこにあるか、ですが……」

「因果を引き寄せるのは、ダイスとほざいたはず。そのダイスの転がっておる場所ではないか」

「サツキくんの桔梗紋ダイスみたいに?」

「あれとは、ちと違う気はするな。あれ、ふたつで日向惟任なのじゃろ?」

「みたいですね。そっか、ダイスかぁ……」

 コウ太は、スマホでなんとなくダイスを検索した。

 ダイスを振ってくれるツールは、ネット上に無数にある。

 実際に振ったのも、本当になんとなくだ。


 ころり、ころころ、ころころ、ころり――。


「……あっ! ああっ、あああああっ!」

 そこで、ふと気づいた。

 シナリオ『悪魔の卵』には、そういえばダイスBOTが付属していた、と。


「の、信長さん! ダイスの場所、わかりましたよ!! ダイスBOTです、それが魔王の魂を引き寄せたんです」

「……ダイスBOTじゃと? コウ太、くわしく話せ!」

 信長も顕如も、身を乗り出してきた。

 コウ太は、ふたりに説明するためにタブレットPCを持ってくる。

 シナリオ仙人のサイトにアクセスし、シナリオ『悪魔の卵』のダウンロードの項目を見せる。そこには、オンセ用にシナリオセットとして、ダイスBOTに連動したチャートが付属していることが記述されている。


「そうか、そのダイスBOTが魔王の魂を引き寄せたんだ!」

 顕如ミツアキさんがぽんと手を打つ。

 もはやふたりの精神は一体化したと見ていい。

「おおっ、そうか。なるほどな、実ダイスであったらもう辿れないが……」

「ええ、そうです。ダイスBOTですから、履歴を辿れます!」

「合わせて、元のシナリオがあれば、“悪魔の卵”から魔王の魂が孵るランダムチャートのダイス目を辿れる――!!」

 シナリオ『悪魔の卵』は、ランダムチャートの組わせによってさまざまがものが“悪魔の卵”より孵るというギミックである。

 ということは、「魔王の魂が生まれる」という結果からどういうダイス目が出たかを逆算できる!

 そして、そのダイス目が出たダイスBOTは、データとして履歴が残る!


「よくぞ思い至ったな、コウ太!」

「……でも、履歴を辿るってあのシナリオ一〇〇万PVだし、ダウンロード数も膨大だし、それに履歴まで探すってハッキング行為だから、スーパーハッカーでもない限り探せないですし。せっかく思いついたんですけど」

「安心いたせ、サルめに事情を話せばすぐに入り用なものを用立てるであろう。あやつは、墨俣すのまた一夜城の男ぞ」

 墨俣一夜城伝説は、あくまでも伝説の域だったのではなかったのか?

 この際、それはいいだろう。すばやく行動できるということのほうが重要だ。

 信長は、すぐさま京都の秀吉にスマホで連絡を取る。

 二~三のやり取りですぐに通じたようだ。

「コウ太、事情はメールでまとめてサルに送れ。必要なものを揃えて夕のこくまでにはこちらに来るそうじゃ」

「ええっ!? 今、一〇:〇〇過ぎっすよ? 大丈夫なんですか?」

 さすがは中国大返しの伝説を持つ秀吉である。京都東京間もあっという間だ。

 ともかく、さっそくメールで事情を説明した。

「全部こちらに任せておいて♡」というメールが秒で返ってくる。

 しかし、末尾にハートをつけるのはやはりキモい。

 そして秀吉が来たのは、そろそろ夕食でもろうかといういう頃であった。

 トラックも一緒に来ている。京都からだろうか?

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