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ノブナガ・ザ・ゲームマスター  作者: 解田明
第三章 群雄エンカウント編
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第28話 織田信長、幸せですか市民

 ライブRPGイベント『第六天魔王を倒せ』は、大盛況で終わった。

 覗きに行ったコウ太も、「あの織田信長、まるで本物みたい」という参加者の声が次々と上がっていたのを聞いている。なにしろ本人なのだから信長としての説得力が違う。そのおかげか、二日目の部では第六天魔王側の闇の勢力に参加するプレイヤーが多かったという。

 信長は、運営と相談してアドリブでシナリオを変更、闇の勢力に参加したPCたちの命すらをもおのれの捧げ物として飲み込み、超☆第六天魔王ならんと企らんでいたのだと宣言する。これに対し光と闇の勢力は急遽共闘し、力を結集してその野望を打ち砕くという熱い展開となった。

 もちろん、超☆第六天魔王のカリスマ性に心酔し、みずからの命を捧げたPCたちもおり、夜からの雷雨も相俟って最終決戦は大いに盛り上がったのである。

「まさに戦のような気合を感じたわ」とは信長の談だ。命を狙うような殺気も感じたとも述べていたが、これは大袈裟であろう。


 そのライブRPGが始まるまでは、コウ太、いっちー、秀吉をプレイヤーに、信長がGMを務める『パラノイア』をプレイすることになった。このゲームは、核戦争後の徹底管理されたディストピア社会を描いたTRPGである。

 TRPGでは珍しくPCが残機制である。PVPが発生すると「ZAP! ZAP!」と光線銃で相手を処刑する。この擬音と「幸せですか市民?」のセリフで有名である。

 秀吉は、過去の禍根に臆せず他のPCを見事に追い落としていった。下手に出てすり寄ってくるかと思いきや、きっちり相手の齟齬や瑕をあげつらっていく手腕はさすがといえる。薄ら笑いを浮かべた秀吉に、コウ太は三回もZAPされた。


 さて、そんな二日目から開けて三日目の朝。

 楽しかったTRPGカーニバル・ウェストも今日が最終日である。

 いっちーさんには、瑠韻さんとマハルさんの女性ゲーマーを紹介した。彼女たちは意気投合してこれから『学園薔薇ダイス』というTRPGを遊ぶらしい。コウ太はこのゲームのことはよく知らないのだが、男子禁制なので誘われなかった。なんとなくだが、それでよかったんじゃないかなと感じている。


「やあ、コウ太くん。これからゲームかな?」

 秀夫さんこと秀吉だった。まだいっちーさんからは若干避けられているので、会場内での話し相手と言ったら、信長とコウ太くらいであろう。

 深夜のトークショーを見物した信長は、部屋でまだ眠っているはずだ。

「ええ、フリー卓に入ろうと思いまして。秀吉さんはどうするんですか?」

「私は、記憶の手がかりを探しに来たんだ。昨日は殿とセッションしたから、今は一休みだよ。もう歳だしね、ゆっくり遊ばないと」

「そうですか」

「しかし、殿は若いなあ。何より、楽しそうだ。私にとっちゃ、恐ろしくも頼れるお方だったが」

「やっぱり、魔王みたいだったんですかね?」

「必要とあらば魔王にもなれるといったところかな。私も、ずいぶんなことをやったつもりだが、殿のようにはいかなかった」

 豊臣秀吉と言ったら、一般的には明るいキャラとしてのイメージを持たれているが、キリシタン弾圧や後継者であったはずの豊臣秀次とよとみ ひでつぐとその一族を連座して処刑するなど、わりと残酷な仕打ちも多い。

「殿は、天魔だ魔王だと恐れられる自分を見事に演じたわけだ。演じるといっても役割演技ロールプレイの方だね。戦国の世じゃ、恐れられたほうがいいこともある」

「役割演技、TRPG的ですね」

「そうだね。時や人が望めは、その望みを叶える存在として振る舞える、むしろみずから望んでその存在となることができる。だから、天下人になれたんだ」

「ああ、だからGMうまいんだ、信長さん……」

 時代と人から望まれているものを汲み取り、望みに叶うように役割を果たす。TRPGでも大事なことだといえるだろう。

「それを無意識でやってしまうところが、織田信長という武将なんだよ。だから私も惚れたんだね。いやあ、寝首を掻きたくなるのもわかるってもんだろう?」

「えっと、それはちょっとわかんないです……」

 秀吉は、またにいっとキモい笑みを浮かべている。

 この辺のメンタリティは戦国武将そのまんまだが、コウ太には理解できない。

 やっぱり、こんな家臣を従えていたのだから信長はすごい。


「ああ、コウ太くん。いっちーさんには言伝ことづてをお願いできるかな? 記憶を取り戻せたから、もう付きまとわないって」

「はい、それはいいですけど。いいんですか?」

「本当はよくないよ。未練たらたらさ。藤吉郎って名のときから高値の花で憧れだったんだ。しかし、茶々との思い出もあるから諦めるよ。そのかわり、オンセするときがあったら呼んでほしいな。私も、若いゲーマーと遊びたいから」

「わかりました。あの、聞いていいですか?」

「なんだい?」

「秀吉さん、どうやって生活してるんですか? 無一文で転移したみたいですけど」

「かすかに残っていた記憶を辿って、埋蔵した天正大判を掘り出したんだよ。それを元手にFXと投機でなんとかしたよ」

 信長もそうだが秀吉も天下人である。現在社会でもチート能力を発揮したようだ。

 こと財を蓄えることに関しては、信長を上回るかもしれない。

 大抵のゲームで、秀吉の政治力は信長より高いし。

「じゃあ、楽しんでおいでよ」

「あっ、はい」

 一礼して、コウ太は秀吉の元を離れてフリープレイルームに向かう。


 フリープレイルームには、最後の最後まで遊び倒そうとするゲーマーたちが卓を立てていた。閉会式まで、セッション一回する時間は十分に残っている。

 どれに入ろうかと、コウ太はホワイトボードに張り出された募集用紙に目を移す。

 興味深い卓がいくつかあり、ちょっと悩むところだ。


「そこの君、まだ入る卓は決まってないのかい?」

 かかった声に振り向くと、温和そうな雰囲気の男性がいた。年齢は三〇前くらいだろうか。ふわっとした印象のあるお兄さんである。

「えっと、僕ですか?」

「うん、そうだよ。プレイヤーの枠に余裕があるし、カーニバルのラストセッションになるから、いろんなゲーマーと卓を遊んでみたくてさ」

 空調が効いているとはいえ、夏の京都で黒のサマーセーターを着るのは暑苦しさを感じさせるはずなのに。このお兄さんは汗をかくこととは無縁そうだ。それどころか、涼しげにさえ見える。それくらい、落ち着いた表情をしていた。

 初対面なのに、この人ならきっと大丈夫だろういう安心感がある。

「じゃ、いいですか? 連れ合いがまだ部屋で休んで時間空いてますから」

「なら、ちょうどよかった。じゃあ、おいでよ。向こうの卓だから。『ローズ・トゥ・ロード』ってゲーム、遊んだことあるかな?」

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